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ほんとうの勝利

 にちようびがやってきました。

 なかよし公園は保育園のすぐ隣にあります。ゆうたとしんぺいの勝負を見ようとして、休日保育のこどもたちが、先生の制止の声も聞かないで保育園の金網から公園の方を食い入るように見ています。

「にちようびでも、こんなに保育園に来ているなんておどろきだな」

 まことは、金網から見ている子供たちを見て言いました。

 しんぺいのとりまきや近所のこどもたちが、なかよし公園でまこととゆうたを待っていました。

「この公園を二周して先にあの木にタッチした方が勝ちな」

 しんぺいが言います。

「しんぺいはおれの背中をタッチなんてできない。一回だけだったけど、あのときのゆうたならしんぺいなんて目じゃないぜ」

 まことが、ゆうたに耳打ちします。

 いつも、かけっこをするとはるか前を走っていたまことの背中にタッチすることができた。

 その自信はゆうたの戦う気力を燃え立たせました。もう一度、ゆうたは、保育園に入る前、お兄さんに追いついた時のことを思い出そうとしていました。あのときも、ゆうたに火をつけたのはおもちゃへの思いでした。

 ルーベンカイザーはだれにも渡さない。おもちゃ広場のおもちゃたちも、もう壊したりさせない。

「スタート!」

 叫んだのはしんぺいのとりまきのうちの一人でした。

 踏みしめた土を後ろに巻き上げて、ゆうたは走りました。

 しんぺいはゆうたより一回り大きく、足も長い。ひと蹴りですすむ距離も長いけど、その分体重が重くて一歩を踏み出すのに時間がかかります。

 ゆうたは、身が軽くその分一歩を踏み出す時間が短くてすみます。しんぺいの一歩の間に、二歩でも三歩でも多く足を先に出し続ける。ゆうたの勝利はそこにかかっていました。

 一周したとき、しんぺいの方が先にゴールの木の横を通り抜けました。

 二周め、しんぺいの一歩を踏み出すスピードが遅くなる一方、ゆうたの足を出し続けるスピードは変わっていません。まことと走り続けたこの何日かの間に、ゆうたの身体の中に、スピードを落とさせないスタミナが蓄積されていたのです。

 ゆうたはみるみるしんぺいに追いつきました。

 そして、ゴールの木に向かってしんぺいを追い越そうとしたその時、しんぺいがゆうたを突き飛ばしたのです。

 ゆうたは、ゴールを目前にして転倒してしまいました。

 先にゴールの木にタッチしたのはゆうたではなくしんぺいでした。

「突き飛ばすなんてきたないぞ!」

 まことが叫びます。

「二周して先にゴールをタッチした方が勝ちだ。突き飛ばしちゃダメなんて言ってないだろ」

 ゆうたがゆっくりと立ち上がります。両ひざをすりむいて血がにじんでいます。

「ぼくは、そんなこと聞いてない。あとから自分のつごうのいいこというなんて卑怯だ」

「もう一度かけっこだ。今度はおれが走る」

 まことが息まいています。

「おれは二周走ったんだぜ。まことが勝つに決まってんじゃん。そんなのだめだよ」

「ぼくが走る」

 とゆうた。

「何言ってんだよ。ゆうたはケガしてんだぜ。勝てるわけないじゃん」

 とまこと。

「まことでもゆうたでも、どっちでもやだね。もう勝負はついたんだ。おもちゃはもらうぜ」

「だめだ!」

 しんぺいの声をさえぎるように、しんぺいの隣にいた年小の子が叫びました。

「お兄ちゃん、その人の言うことを聞いてよ。その人はぼくが壊しちゃったおもちゃをなおしてくれたんだ。ぼくの大好きだったおもちゃをまた遊べるようにしてくれた」

 ゆうたはその声に聞きおぼえがありました。

「おもちゃがかわいそう」

 ゆうたが言えなかったその言葉を言ったのは、しんぺいの幼い弟だったのです。そのうえ、ゆうたがおもちゃをなおしている姿も見ていたのでした。

「だから、その人のためにもう一度走ってあげてよ。お兄ちゃん」

「そうだよ!もう一度走れ!」

 金網のところで見ていた子供たちからも声が上がりました。

「は、し、れ!。は、し、れ!」

 子供たちが手拍子と一緒に叫びます。

 走れの大合唱に気おされて、しんぺいはしぶしぶ走ることをしょうちしました。

「そのかわり、もう疲れているから一周な。これで勝負つけるからな」

 まことがゆうたを心配そうに見ています。しかし、ゆうたの視線ははるか先のゴールを見据えていました。

「スタート!」

 その声を聞いた時、ゆうたの膝から痛みが消し飛びました。

 ゆうたに行動を起こすきっかけを作ったその声の主が、もう一度勝負するためのチャンスをくれたのです。保育園のみんなの声がゆうたをあと押ししてくれたのです。

 疲れて一歩を踏み出すスピードがさらに遅くなったしんぺいと、みんなの気持ちを一身に受けて力強く土をはね上げていくゆうたでは勝負の結果は明らかです。

 しんぺいがゴール前でふたたびゆうたを突き飛ばすことはできませんでした。

 ゴールの木を先にタッチしたのはゆうたでした。

 まことだけでなく金網に張り付いていた子供たちからも歓声が上がります。

 しんぺいはゴールの木の所で、パタリと腰をおろしてしまいました。

「・・・もう、おもちゃ広場で遊ばない。それでいいんだろ」

 しんぺいはふてくされたように言いました。

「そんなこと約束してない。ぼくは、おもちゃを壊されたくないだけだ。弟からあんなこと言われて、まだおもちゃを壊していいなんて思ってないよね」

 しんぺいは、ゆうたのことを見上げました。

「しんぺいがおもちゃを壊さないように大事にしてくれれば、みんながきっとそのあとに続くよ」

「おれも、先生から怒られないようにおもちゃを大事にするよ」

 まことがおどけて言いました。ゆうたはくすっと笑いました。

「しんぺいとおれは似ているから気をつけようぜ」

 まことにそう言われて、しんぺいも苦笑い。

「分かった。約束するよ」


           ◆


 それから、ゆうたとまことが、無二の親友になったことは言わなくても分かるよね。

 じゃあ、しんぺいとゆうたたちは友達になったかって?

 ぜんぜんそんなことはなかった。しんぺいは相変わらずとりまきたちと保育園で悪さばかりしていた。

 でも、「みんなのおもちゃ広場」で遊ぶときは、前みたいにおもちゃを乱暴に扱わなくなった。年小や年中の子がおもちゃを乱暴に扱っているとこう言って注意したんだ。

  「おもちゃがかわいそうだろ」

  しんぺいも、けっこういいお兄ちゃんだったんだね。

最後までお読みいただきありがとうございました。


「おもちゃ戦争」で、自分の弱い心と対決し、自分の言葉でおもちゃたちを救ったゆうた。

「おもちゃ戦争」のもうひとつのテーマは「家族」でしたが、「おもちゃ同盟」では「友達」がテーマになっています。

何があってもいつも黙ってなにもしなかったたゆうたは、「おもちゃがかわいそう」と言った男の子の言葉で、初めて行動を起こします。それがきっかけになり、ゆうたは友達を獲得することになるのですが、同時におもちゃを取られてしまうかもしれない事態に自分を追い込んでしまいます。


出る杭は打たれる。

でも、それが間違ったことなら誰かが正さなければならないんです。

その時に、信頼できる仲間がそばにいてくれたら勇気100倍。

皆さんにも、そんな友達が一人でも多くできるよう願っています。

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