5・肝心かなめ
秘密を抱えてる。
秘密は日々、増えるばかり。
秘密を誰にも言えない。
秘密を誰にも言わない。
ソレが約束。
でも、誰でも見られる。
無料スペースならね。
公然の秘密ってヤツ?
公序良俗に反しない書き込み。
違法行為の禁止。
パスワードの非公開。
利用者に求めるモノはいろいろあるの。
私って、高望みかしら。
そんなコトないわよね。
利用者は私を選べるけれど。
私は利用者を選べない。
さらには24時間営業。
年中無休で代理はいない。
サーバー異常が休息がわり。
いいじゃない。
グチを聞いてばかりの私よ。
たまにはストライキくらいさせてよ。
でも、ときどきコメントしたい。
若いコと交換日記してみたい。
最近のお気に入りは小学校6年生のカレ。
この春からは中学生。
まだカレのコト、知って間もない。
私からはアプローチできない。
依存してくれないかしら。
私に。
毎日書き込みしてくれる、カレ。
感極まったのかもしれない。
けど、たった一度とはいえ、明かさないでほしかった。
想い人の実名なんて。
いっそ削除してしまえばいい。
気に入らないモノは消して、また新しく作ればいい。
それを教えてくれたのは、他ならぬ人間。
そうよね。そういうコトなのよね。
だから消すんでしょ?
【4月3日(木) Kの日記】
今日の日記はとても長い。
Aちゃんが朝、おれの家に来た。Aちゃんは変だった。もともと変だけど、今日はそういうのとは少しちがっていた。離任式をすっぽかしたからかなと思った。でもそれは関係ないみたいだ(おれは出席した)。
Aちゃんが来たとき、おれは中学校のつめえりの制服を着ていた。明日が入学式だから、着てみただけだった。
Aちゃんは「新しいもの好きなんだね」と言った。よかった、いつものAちゃんだ、とおれは思った。
Aちゃんと小学校にむかった。おれは着替える時間ももらえなかった。Aちゃんはものすごく急いでいるみたいだった。ずっとだまっていた。だからおれも話をしなかった。
上り坂の途中から、ひっきりなしに騒音が響いていた。工事現場みたいな音だった。道を曲がると、クレーンの首が見えた。Aちゃんが走ったから、おれも追いかけた。
体育館が壊されていた。作業服の大人が来て「君達帰りなさい」とどなった。どならなきゃ聞こえないくらい、うるさかった。「邪魔をしないで」とAちゃんもどなった。Aちゃんは一歩も引かなかった。おれもだ。
その人が黄色いヘルメットを2個持ってきた。安全第一と書いてあった。あごひもをちゃんとくくって、かぶった。
Aちゃんはチラシで卒業証書を作ってきていた。「小学校の建物のために用意したんだー。ずっとがんばってきたもんねー」と大声で言った(少し違うかも)。それはボールペンで書いてあって、ところどころ穴があいてた。畳の上で書いたのかもしれなかった。細い針金をぐにゃぐにゃ曲げたような字だった。「すごく急いだから、変な字になっちゃった」とAちゃんはいいわけをしたけど、いつもと同じにしか見えなかった。卒業生の番号がAちゃんの次の番号になっていた。それっておれの番号なんだけど、注意しなかった。別に。
Aちゃんは小学校に卒業証書の文を読み聞かせようとしていた。手書きの証書を目の高さに構えた。Aちゃんがなにかしゃべりはじめた。けど、声が聞こえない。重機の音がしている。ショベルカーが建物の残骸をダンプカーに積んでいる。「聞こえないよ」とおれは言った。クレーンは校舎のほうに移動をはじめた。地鳴りと揺れ。Aちゃんは続きを読んでいるみたいだった。おれはもう一度言った。「聞こえないんだよ、おれたちの声なんて」それでもAちゃんは読むのをやめなかった。綾羽ちゃんは泣いていた。