プロローグ ~土のなかから~
たんぽぽの綿毛をつんで、ありったけの息でふき飛ばす。
春うまれの綾羽ちゃんは、たんじょうびのたびに、そうやってお祝いをしてきたんだ。
わたぼうしをつみとるのは歳のかずだけ。
ろうそくの火にみたてて、いっせーのーせっ!
はじめてやったのは、7歳のとき。
1回では飛ばしきれなくて、肩で息をするまでがんばっていたね。
そのつぎの年は花がさくのがはやくて、要くんが丘じゅうをかけまわって、さがしてくれた。
綾羽ちゃんはどんどんおおきく成長して、息がつづくようになった。
10本も12本もたいしてちがわないよと、わらった。
やくそくしているわけでもないのに、要くんも毎年つきあってくれた。
たんぽぽの丘は、桐山北小学校をでてすぐのところにあるよ。
季節になると、まず、残雪の下からふきのとうが顔をのぞかせるんだ。
それからつくしにすぎなにたちつぼすみれ。
林のおくでは、かたくりもさく。
だれかにたのまれてもいないのに、順番に春をむかえていくんだ。
そういうところは、人間とおなじだね。
だったら――つたわるかもしれない。
とどくかもしれない。
『しんあいなる小林綾羽ちゃん。小学校卒業おめでとう』
根雪の下――土のなかからおくる言葉。
旅立ちの日には、会えそうにないから。