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犬猫シリーズ

忠犬な狂犬くんの獲物な私

作者: 璃桜

『狂犬な忠犬くんの飼い主さん』の続編です。

そちらを先に読まれるとわかりやすいかと思います。

前作よりも少し糖度が増してます。




東 薫(あずま かおる)は不良である。金髪碧眼にピアス、鋭い目つきに着崩した制服。頻繁にできる傷。他クラス他学年には狂犬と恐れられる彼を、クラスメイト達は忠犬と呼ぶ。

それは何故か?答えは簡単だ。


「いおちゃん、あのねー

俺、いおちゃんが迎えに来てくれるから毎日幸せだよ」

「そうか、それはよかったな」

「うん!」


その狂犬の本性は、根っからの忠犬なのだ。あぁ、見える。私には、はち切れんばかりに振っている尻尾が見えるぞ。


東 薫こと、かおちゃんは、日本人離れをした外見だ。しかしまぁ、成長するにつれて美少女みが薄れ、男らしくなってきたと思う。


人間不信になりかけていたかおちゃんは、なんやかんやとあった結果、私にだけ懐くようになってしまった。これはちょっと、私がかおちゃんを甘やかしすぎたのかなぁ、と反省している。





「いおちゃん!!」

「はいはい、ほら。お弁当だ。忘れると思っていたから多く持ってきていて良かったよ」

「ありがとう、いおちゃん!」


私は、狂犬又は忠犬こと東 薫、かおちゃんの幼馴染で保護者で飼い主な北里 伊織(きたざと いおり)だ。


何故かおちゃんが不良で狂犬と呼ばれるようになったのかを説明しよう。


全てはかおちゃんの過度な人見知りが原因である。私以外の他人に話しかけることも、話しかけられることも苦手なかおちゃんが、なんとか学校生活を送れるようにと考えた結果、話しかけられない状態を作りゃいい、とそれらしい風貌にさせたのだ。


まぁ、ただかおちゃんが倒れるたびに回収しに行くのが面倒になった私の悪知恵なのだが。


かおちゃんの人見知りの対策として行った「ヤンキー(風)かおちゃん」は、始めは上手くいったが、かおちゃんに限界が来て一部断念。クラス内では、忠犬なかおちゃんで平和に過ごせていた。クラスメイト達に見守られ、のほほんと。


その平和をぶち壊してくれた転校生姫路 可憐(ひめじ かれん)と言う名の電波ストーカーが我がクラスからいなくなった(転校していった)のも記憶に新しい。


まぁ、その件をきっかけにかおちゃんが私以外の人、クラスメイトと会話を試みる様になったのは僥倖だ。ありがとう、姫路さん。その点だけは。


「あ、高木君。お弁当はどうしたんだい?」

「ん?あー…今日は家に忘れたんだよ。購買は出遅れたから買えそうにないし、寝て空腹を紛らわすしかなさそうだ」


そう言って困った様に笑ったのは、クラスメイトでかおちゃんの友人第一号の高木 駿(たかぎ しゅん)君だ。ふわふわとした茶髪の猫っ毛で、黒縁メガネの男子。気遣いの達人で、他人のフォローも上手な人である。かおちゃんの友人になってくれて、とてもありがたい。


もの静かなタイプだから、かおちゃんに無理に話しかけたり接触したりしない為、かおちゃんが慣れるのも早かった。珍しく。


「では、私のを食べるかい?少々作りすぎてしまって」

「…でもいいのか?北里の分がなくなるだろ」


チラ、とかおちゃんの様子を見た後私を気にする高木君。私の分、か。その点は安心して欲しい。


「いおちゃん、一緒に食べよ」

「かおちゃんと食べるから大丈夫だ」

「あー」


ニコニコとしているかおちゃんは、いつになくご機嫌だ。私と自分の友人が仲良くしているから、だろうか。


自然と私とかおちゃん、高木君でお昼を食べることになった。天気もいいので中庭に出てのんびりとしよう。あ、あの雲犬っぽいな…


「いおちゃん、はい。これどうぞ」


かおちゃんがせっせと私の分を取り分けているのを眺める。かおちゃんが、アスパラのベーコン巻きを取る。あれは二つしか入れていなかったな、なんてことを思いながら見ているともう一つまで私に寄越そうとしていた。おっと、かおちゃん。私は誤魔化せないぞ。


「かおちゃん、駄目だ。これは君が嫌いなものだろう。好き嫌いはするなよ、せっかく作ったんだから」

「…………………わかった」

「東、アスパラが嫌いなのか?それともベーコンが駄目なのか?」

「……アスパラとベーコンの組み合わせが嫌い」

「単体だと食べられるんだがなぁ…」


かおちゃんは、友人に、私に対してと同じように接することはない。どこか返事は淡白だ。

それは私の家族にも言えることで、私と私以外では少々異なる。見事な忠犬っぷりだ。


このまま行くとかおちゃんに恋人が出来たとしても私にべったりなままな気がする。そして、私に恋人が出来ることはなさそうだ。


のんびりと昼食を済ませ、いつものように授業を受け、かおちゃんと帰路に着く。代わり映えのない毎日。私はこの日常が好きだ。平和万歳。平凡な毎日万歳。


だから、イベントとかはご遠慮したい。切実に。


「……さて、どうしたものか」

「……ラブレター…?」


靴箱の中に手紙が入っていた。宛名はもちろんかおちゃんだろう。


「『北里 伊織様へ』だって、いおちゃん」

「……え」


珍しいパターンだ、私か。しかし、それなら簡単にラブレターと思うのは、やや早計すぎる。かおちゃんの歴代のストーカーやらに脅迫された経験もある。

まぁ、その時は、住所と名前を特定し証拠を集め、警察に通報して事無きを得たが。ちなみに、それは全て兄の(ゆう)がやった。流石です、お兄様。


警戒しつつ封を切り、内容を改める。柄にもなく動揺した。


ガチな奴だ、これ。私にどうしろと。


何度も書き直したような跡が見えるこの手紙は、読んでいるだけで恥ずかしくなる。さて……どうしたものか。


「……いおちゃん」

「ん?どうし––––」

「いおちゃん、そいつと付き合うの?俺、やだ。面と向かって告白出来ない様な男は駄目だよ」


いつの間にか右手をかおちゃんの両手で握られていた。力強く握られていて、少々痛みを感じる。


「え、いや、かおちゃん、これはだな……」

「……ねぇ、いおちゃん。俺は、いおちゃんとずっと一緒にいたい。けど、いおちゃんが迷惑なら、言って。俺、もっと頑張るから。いおちゃんに迷惑かけない様に頑張るから」


かおちゃんがちっとも話を聞かない。涙目で暴走気味だ。初めてのことだが、そういうこともあるのか、と他人事の様に考えてしまった。

誤解を早々に解いてしまいたいが、かおちゃんが言いたいことを黙って聞いた。

…ただ単に、脳内が軽くパニックに陥っていただけなのだが。


「俺は、すっごく嫌だけど……いおちゃんが、選んだ人なら……おれ、……。


……。


…ごめん…どう考えても嫌だ……いおちゃんが選んだ人だとしてもやだ……だから、ええと、何が言いたいかっていうと、その」


目を泳がせて耳まで真っ赤なかおちゃん。無意識のうちに私の手に指を絡める。これは昔からある緊張した時の癖だ。

かおちゃん相変わらず体温高いなぁ、などと呑気なことを考えていた私の視界にふと、彼が映った。


「あ、高木君」

「げ……」

「……」


そこにいたのは気まずそうに靴箱の陰に隠れていた高木君だった。わかる、私もそっちの立場なら隠れる。この状況、気まずいもんな。痛い位にわかるぞ。私も気まずい。


「あー…その、すまん。東……」

「……」

「えと、あ、それ…ラブレターか何かか?」


なんと高木君が誤解を解くチャンスをくれた。ありがたい。さすが気遣いの達人。この空気を頑張ってぶち壊そうとしてくれている。ナイスだ高木君!


「これか?どうやら後輩の女の子がくれたみたいでね。私とかおちゃんのセットが好きらしくて、あのよくわからない会に入ってもいいか、とのことだよ」

「あぁ、忠犬ワンコと飼い主を見守る会か」

「その名前、なんとかならないのか…?」


ちなみに、具体的な好きな所、とやらの説明は端折った。なんせ、2枚にわたって綴られているのだ。恥ずかしすぎる。周囲にはそんな風に見えているのかと悶えたくなった。

あと、会については私は知らん。入会申請は然るべき人へどうぞ。……学級委員長あたりに。


「……そっか、うん。そっかぁ」

「かおちゃん?」

「何でもない!いおちゃん、帰ろっ」


一気にご機嫌なかおちゃん。さっきの事をなかったことにしようとしているな、かおちゃん。

流石にアレで気がつかないような鈍感ではないのだが。かおちゃんがそうしたいなら、私も何もなかったことにしよう、うん。


「……お前ら、まだ付き合ってなかったのか」


だから、高木君のそんな呟きも聞かなかったことにした。私は何も聞いてない。聞いてませんよ。





しかし、私は翌日知ることになる。東 薫には、北里 伊織という恋人がいる、という事実無根な噂を。




「……どういう状況だ、これは」

「おはよう、北里。要するにアレだ、昨日のを中途半端な距離から見られていたってことだろ。声が聞こえない距離あたりからな」

「……あー」


確かに、かおちゃんに手を握られて、指を絡められていたな。確かにぱっと見イチャついてるカップル。

……ソレか。ソレなのか。というか、クラスメイトがいつもよりもニコニコとこっちを見ているのはこの噂のせいか。凄く生暖かい視線なんだが。


「いおちゃん……また不良に絡まれたよ…って、どうしたの?」

「あー、かおちゃん。噂は聞いたか?」

「うん」

「ちゃんと否定したか?」

「なんで?」


……ん?


「いや、だから、私と君が恋人だという噂を聞いたんだよな?」

「うん」

「否定したか?」

「ううん。なんで?」


逆に聞きたい。何故否定しない。

いや、わかってる。答えは明確すぎる。今日やたらと機嫌いいなとは思ったが、かおちゃん、君もか。君もこの噂が原因か。


「ねぇ、いおちゃん。いおちゃんは、嫌?」

「え」

「俺は嫌?嫌い?」


その聞き方はズルいと思うんだ。嫌だったら、嫌いだったらそもそも、こんなにかおちゃんの世話を焼かない。早々に縁を切っている。かおちゃん、わかってて言ってるな。


「嫌い、では…ない、が」

「うん、知ってる。じゃあ、いいよね?」

「えぇと」

「いおちゃん。ずっと、一緒にいてくれるって約束したもんね?」

「あー…」


私は、すでに言質を取られていたらしい。

今まで気づかなかった私、どんだけなんだ。アレはそういう意味か、そういう意味だったのか。かおちゃん、私がわかっていないのを気づいてるのに言わせたな。かおちゃん、結構いい性格してるな、ちくしょう。


そういえば、昨日弟の彰久(あきひさ)に「あのヘタレ彼氏、なんとかしろよ」とか言われたな。彼氏なんざいないが、何言ってんだコイツ。と思っていたが、もしや彰久は、かおちゃんの事を言っていたのか…?いや、それしか考えられない。それを聞いていたかおちゃんはニコニコしてたな。母さんもニコニコしてた。父さんは涙目だった。


……待てよ?これ、まさか既に親公認とかになってないよな。まさかな。


「これでやっと、堂々と俺はいおちゃんのものですって言えるね」

「…う、嬉しそうだな……」


普通男子が言うなら逆じゃないのか、それ。というか、それを堂々と言えて嬉しいか?そう言われたら、私が反応に困るんだが。


「うん!だって、ちょっと後ろめたかったんだ。おばさん達や母さん父さんも、いおちゃんは俺と付き合ってるんだって思われてたし、俺もそれを否定してなかったから…」


そう言ってしょんぼりとするかおちゃん。尻尾や耳があったら床に垂れているだろう。

可愛いけど、待て。聞きづてならんぞ。今なんて言った。


「俺も追々そうなるつもりだったし、味方は多いほうが、いおちゃんは流されてくれるし。美味しい状況だなって」


照れながらの笑顔でそう告げるかおちゃん。いやぁ、照れ顔相変わらず可愛いな。言ってること可愛くないけど。割とえげつないけど。

流石、幼馴染。私の性格をよくわかってらっしゃる。そうだな、多分流されるな。というか、絶賛流され中だな。


「悠兄にも、まずは周囲を固めた方がいいぞって言われてたし」

「ちょい待ち、何言ってんだ悠兄」

「これからは恋人としてよろしくね、いおちゃん」


どうやら回避は不可能らしい。かおちゃんの満面の笑みを見て、私は抵抗することを諦めた。まぁ、かおちゃんが嬉しいならいいか。



そうして私はかおちゃんの恋人となった。恋人と言っても特に今までと変わり映えしないが。なんか変わったか?これ。と思うのも仕方がないと思うんだ。




後日、聞いた話だが。かおちゃんは、せっせと私の両親に根回しし、とっくの昔に親公認の男女交際です、という状況を作り上げていたらしい。実際に付き合っていないと知っていたのは、悠兄だけだとか。


かおちゃん曰く、悠兄はラスボスだったそうだ。人見知りをマシにすることを条件に付けられ、それが出来るまで、私に告白することを禁止されていたと。それを律儀に守るかおちゃん。かおちゃんでも悠兄には敵わないか。そりゃそうだ。だって悠兄だもの。


かおちゃんは、私に少しでも好意を持った?らしき男子の前でわざと私にくっついたりして、色々と牽制していた、というのは高木君からの情報だ。どうやら、どう頑張っても回避できない案件だったようだ。かおちゃんと付き合う、というのは。



そして、ふと思う。





狂犬、というのも、あながち間違いではないのでは?と。





「いおちゃん」

「…ん?なんだ?」




これからも私は、かおちゃんに振り回され続けるな、想像できる。

仕方ない。私は、それを嫌だとは感じていないし。





「大好き」





知らず知らずのうちに、狂犬くんに捕まった獲物(わたし)は、ずっと忠犬くんの飼い主のままだろう。



「……私もだよ、かおちゃん」





それを幸せだと感じているのだから、私も大概、忠犬(いぬ)かもしれない。





いおちゃん、かおちゃんの二人が主体のお話はこれで終わりです。


気が向いたら、この作品に出てきた人の別の物語を書くかもしれません。


ここまで読んで下さりありがとうございました!!

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