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羊水に銃弾  作者: 狗山黒
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 結局「神の子」が何かは分からずじまいだった。

 帰ってきた三人は、紫の髪の少年を連れてきた。年は三人と同じくらいだ。

 話によると周囲を水槽に囲まれた牢の中に、大量の本の共に閉じ込められていたらしい。これが「神の子」なのか、その手掛かりなのかはさっぱりだが、アザレアの提案で連れてきたそうだ。実験の内容は違えど、被験体らしきこいつに同情したんだろうか。

 少年はアンの腕に乱暴に抱えられ、ぐったりしていた。言葉が通じなかったから、気絶させてきたらしい。ひどい話だ。

 どうでもいいがカルヴァドスのボスは、その水槽の中に浮いていたらしい。四肢はなく、死んでるに違いないと悪刀が力説していた。多分断面を見て太刀筋でも想像していたんだろう。

 来た道をそのまま辿って帰るわけには行かないから、見かけの最上階から飛び降りることになった。

「五十七階から落ちても生きていたって記録があるくらいだから平気でしょ」

 とはアザレアの言葉である。

 俺は死ぬ可能性があったから、壁に鋏をたてて減速させて落ちた。落ちたことには変わりない。

 アンの抱え方ではひきずることになり可哀相だから、俺が背負うことになった。アザレアほどじゃないが痩せているし、男一人で背負っても歩くくらいは楽勝だ。

 実家に連れて帰って母親に合わせてもいいが、その前にトカゲのところに連れて行くことにした。誰が気絶させたのかは知らないが、どうも肋骨が折れてるようだ。

「気絶させるにも方法があるだろ」

 トカゲに見せたらそう言われた。三人ともあさっての方向を向いたから、一人一回は殴ったんだろう。こいつらリンチしたのか。

 母親に報告すると、三人は一つずつ拳骨をもらっていた。母は強いなあ、と感心していると監督不行きだと俺も殴られた。理不尽だ。

 トカゲのところに置いてきた翌日、母親を連れて行った。

「あいつ、ラベンダの息子だ。顔の造りと目の色が一緒だ」

 トカゲが耳打ちする。確かにラベンダの顔と似ているような気がする。目の色は銀で、俺や母とも同じだ。銀の目はあまり多くないが、別にいないわけでもないし偶然だろう。

「あとな、神語しか知らないってのは本当らしいな」

「言葉が通じないんだろ」

「ああ、さっぱりだ。混乱してるのは見て分かるんだが」

 トカゲの言う通り、少年は大変混乱しているようだ。生まれて以来一度も外に出たことがないなら、パニックにもなるだろう。アザレアも外には出たことがなかったようだが、それでも外の話は聞いてただろうし、自分から出てきたから困っても混乱はしなかっただろう。

「神語しか分からないのね」

 どこから話を聞いていたのか、母はそう言って少年に謎の言葉をかけた。神語のようだ。神語は発音も文法もとんでもなく難しい言語で、一般人が使いこなそうと思ったら来世を待つしかないとまで言われてると聞く。母は言語マニアだから、とかそういう次元を超えている。

「母さん、神語まで」

「自己紹介程度しかできないよ」

 それだけできたら「私は神だ」と言えるのだから十分じゃないか。

「名前はヘイズ・メシア・ポム=マルムだって」

 また大層な名前がつけられたもんだ。

「あとは誘拐されたってことしか伝えてないけど」

「誘拐って」

「本当のことでしょ」

「そうだけどさ」

「大体なんだって連れてきたんだい」

「連れてこうって言ったのはアザレアだから俺のせいじゃない」

「部下の責任は上司の責任だろ。そのまま放置することだってできたのに」

「アザレアが連れてこうって言って気絶させたやつを放置して帰るのはさすがに気が引けるけど」

「変なところで律儀な子だね」

 俺の子供時代の服とっておくような母親に変とか言われたくないが、反論しても俺がダメージを受けるだけだから止めておく。

「で、この子は「神の子」なの?」

「さあ、探し回ったけど手掛かりも何もなかった。トカゲがもしかしたらそうかも、とは言ってたけど」

 そう言うと、母はまた謎の言葉を話し始めた。きっと「君は「神の子」なの?」って聞いているのだろうが、自分が「神の子」かどうかなんて普通知らないだろ。

 当然、少年もといヘイズは知らなかったようだ。

「とりあえずそこの爬虫類みたいなおっさんの言うようにしてたら大丈夫、とは言っておいたから」

「はあ、ありがとうございます」

 爬虫類知ってんのか。

 診療所をあとにし、家に向かう。

「あいつ、母さんの言うこと頭から信じたのか」

「そうみたいね」

「もっと警戒するべきだろ」

「誘拐犯が何を言うか。あの子にしてみたら誘拐された先で優しくしてくれるおばさんなんだから、信じたっていいでしょ」

「だからって、あの年にしちゃ純粋すぎるでしょ」

「生まれて以来幽閉されて本漬けだったのが本当なら、人間を疑うことなんて知らないでしょう。彼が接した人間はおそらく本を与えた人だけだろうし、人の言うことを本当か嘘かを判断することなんてしたことないはず。それに鼻から疑ってかかるのは、虚実を判断できない証拠でしょ、その点彼は賢い」

 そりゃ聖の遺伝子が入ってるんだろうから、賢いだろうよ。

 母親はヘイズをいたく気に入ったようで、何をどうしたのか養子に迎えたらしい。戸籍とかどうしたんだ。

 父親も息子が増えるのが嬉しいらしい。俺はこんな家族で大丈夫なのか不安になってきた。

 俺としてはもう弟というより親戚の小僧くらいの気持ちでいるんだが、そうは問屋がおろさなかった。

 ヘイズが完治し、実家に引き取られてから、俺も呼ばれた。

 聖の遺伝子の力は本物で、すでに人の名前と挨拶くさいは共通語で話せるようになっていた。発音も完璧だ。母が足しげく診療所に通った成果だ。

「人並みに話して、一般的な常識を教え込むまではうちで面倒みるわ」

「それは、つまり」

「その後はあんたが面倒みなさいってこと」

「そんなあ」

「当たり前でしょ、連れてきたのはあんたなんだから責任とりなさい。戸籍上もあんたの弟なんだから」

「奥さんさらってきた先代じゃないんだからさあ」

「違うのは性別くらいでしょ」

 目的も違うよ。

 俺の小さな反抗虚しく、最終的に俺が面倒を見ることが決定した。確かにアザレアと違って野放しにできない感じはあるけども。

 子供の頃に拾った血のつながらない双子。ほぼ自立しているやはり血のつながらないアザレア。そして戸籍上も俺の家族になった、またしても血のつながらないヘイズ。こうして俺の弟は四人になったのであった。もう、弟はいらないよ。

 カルヴァドスファミリーの小さなお家編でした。嘘です、狗山です。

 このシリーズのコンセプトはアイフの弟増殖です。まだ増える。だから男ばかり出てきますが、作中きってのイケメンはヴェロニカとアイフ母です。まだホモはいません。

 アイフが面倒くさがりなのは、遺伝とかでなく環境がそうさせました。でもアイフが双子やアザレアを手伝わないのは面倒だからじゃなくて、保身と分業です。面倒なのもあるけど、それは二三割です。「保身、最低だな」って思われてもあんなのと一緒にいたら死んじゃうよ、それなら一人で煙草吸って待ってるよ。アイフはそういう人間です。あとは、作者がアイフは主人公というよりか語り部として考えているのも要因の一つです。やってることで言えばアンや悪刀の方が主人公っぽい。行き当りばったりなのもこいつらが原因です。主人公補正。

 アイフって書きすぎて本名忘れそう。ア●フォンア●フォン。

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