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遭遇・出会い

息抜きかつ昔書いた話のリメイク感覚で書き始めました。

「この遺跡、罠多すぎだろ」

 落とし穴、次いで赤外線センサーによるレーザー照射。

 その二つを順次避けながら、茶色の外套を羽織った黒髪の青年は一人愚痴る。

『イクサ、そっちの様子はどう? いい物ありそう?』

「今のところはよくあるジャンクパーツばかりだ。それよりトラップが多すぎて面倒くせぇ」

 耳に付けた無線から聞こえてくる声に、走りながら彼、イクサは応える。

 本来は金属の色銀か白色であったであろう壁は、長年の風化と砂の汚れによって黄土色に変色している。

 そんな状態でも内部の防衛機能、罠が生きているのは流石というべきか、ロストテクノロジー。

 細い通路を小走りで通りながら、周囲に金目のモノになりそうなジャンクが無いか目を光らせる。

 その時、ミシリと壁面が軋む音を立てる。

「?」

 立ち止まり様子を伺う。

 後ろに下がり、音のしだした壁面から距離を取ると、突然内側の壁を突き破って巨大な硬質な鱗に覆われたミミズが現れる。

「げっ、酸のワーム!?」

『え? ちょっとイクサ、あなた何してるの?』

 太さ一メートルはあろうかという太さの体をくねらせ、その正面がイクサの方を見る。

 先端は三角の牙が円状に、だらしなく開かれた口内までびっしりと生えており、そこからは粘度の高い唾液が流れ出し地面に滴る。

 その唾液が滴った場所、恐らくは金属かそれに類する、兎に角硬い素材で出来た床が溶けて煙を上げる。その強力な酸性の唾液から酸のワームと呼ばれているのだ。

 牙の周囲にいくつも生えた複眼と、目があった気がした。

「冗談じゃねぇっての」

 イクサは踵を返すと今来た道を逆行するように逃げ出す。

『ちょっと、大丈夫なの!?』

 無線から慌てた様子の声が聞こえてくる。

「大丈夫になるように祈っててくれ」

 イクサはそう言って耳元、無線の電源を切ると、イヤホンを外し周囲の音を認識しやすくする。

 背後からはのたうちまわりながらだろうか、壁にぶつかる音や時折破壊音を響かせながら、ワームがこちらを追いかけてくる派手な音が聞こえてくる。

 ……ジリ貧だな。

 向こうの方が移動速度が早い、普通に逃げているだけではその内追いつかれる。どこかでどうにか打開策を講じなければ。

 一際派手な破砕音、壁でもぶち抜いたのだろうか、音と共に一瞬の静寂が訪れる。

 ……あ、これ、ヤバイやつ――

 イクサは反射的に、思考より早く腰にマウントしていた折りたたみ式のセラミックブレードを取り出す。

 それと同時に、イクサの横の壁が破壊され、そこからワームの大きく開かれた口が襲いかかってくる。

「――ほらな!」

 それを何とかギリギリで手のセラミックブレードで受け止める。

 しかし受け止めただけで勢いは止まらず、そのまま反対の壁に叩きつけられる。

「ぐ、はっ、いってぇ」

 壁面に突起等がなにも無かったのはまさに不幸中の幸いと言えた。

 が、基本的な力が違いすぎるのか、壁に押し付けられていたイクサはそのまま地面に沈められるように更に抑え込まれる。

 ……あー、クソ、ここでこんなミミズに食われて終わるのか?

 そんな諦めにも似た思考が脳裏をかすめた時、ワームの唾液が外套を濡らし、焼き溶かす。

 それを見て気づく、自分の周囲、地面にも壁面にも、何箇所か腐食の痕がある事を。

 イクサ自身は外套が代わりに溶けてくれているおかげでまだ無事だ。

「……ダメ元だな」

 ヤケ気味になった笑みを浮かべると、イクサは手の中のブレードを持つ手に力を込め、全力でワームを押し返す。

「おら! もっとヨダレ流しやがれクソミミズ野郎が!」

 鳴き声だろうか、それともブレードとワームの牙が擦れ合った音だろうか、甲高い音と共にワームからの力が強くなり、滴る液体が増える。

 ワームに知性があるかは知らないが、何となく挑発が効いた様な気がする。

 同時に、足元や背面からバキバキと音が聞こえてくる。

 イクサの思惑通り、ワームの唾液で腐食した壁や床が抜けつつあるのだ。

 後は向こうが広い空間である事を祈るばかり、運任せだ。

 一際大きな破砕音と共に、押される力と壁の圧迫感からフッとイクサは開放される。

 壁を抜けたそこは、何もない吹き抜け、上にも下にも暗い闇が続く穴だった。

「おい、マジか」

 その穴の中央付近まで、ワームの力によってイクサは吹き飛ばされる。

 よく見れば穴の壁付近には螺旋階段のように階段が備え付けてあったが、今彼がいる場所からでは手を伸ばしたとしてもとても届かない。

 ……ここにきて運が足りなかったか。

 一緒に落ちたハズだが、闇に溶けてワームの姿は掴めない。

「ミミズと一緒とか、しまらねぇなぁ……」

 自嘲気味に笑うと、イクサは深い闇に落ちていった。













 頬にあたる冷たい感覚でイクサは目を覚ます。

 半開きのまぶたでも分かる、視界が驚く程明るい事が。

「生きて……たのか……?」

 どうやら倒れているらしく、背中からは硬い感触が伝わってくる。

 そのまま天井を見上げると、木の枝葉が視界を遮っていることに気づく。

 しかもそれは滅茶苦茶に折れ、へし曲がっている。

 ……樹……? こんな大きなものが、いやしかしその程度で受け止められるものか?

 頬に当たっていたのは枝から滴り落ちてくる水滴だったのだ。

 身体を起こそうとして、そこで違和感と共に脇腹に強烈な痛みと熱を感じる。

 見れば曲がった鉄の棒が脇腹を貫通して生えており、そこからは赤い血が今もジクジクと流れている。

「まぁ、無傷ってのはないよな……」

 むしろこうして意識がある状態と言うのはある意味奇跡と言える。

 首だけを動かし周囲を観察すると、更に幸運な事に、セラミックブレードはすぐ手の位置に落ちていた。

 恐らくは最後まで手から離さなかったのだろう、自身の生存本能を褒め称えたくなるが、それは生きて帰ってからだとイクサはブレードを手に取る。

 ブレードを横腹の背中に沿って這わせ、突き刺さっている鉄棒の生え際に当てると、切り離す。

 無理に抜き取れば傷口が広がって出血が増える、止血するアテが無い以上今はこの状態を維持している方が得策だ。だから抜かずに刺さったまま動けるように切り取ったのだ。

「っつっても、やっぱ、いてぇな」

 できるだけ息を荒げないよう、呼吸を整えながらイクサは愚痴る。

 改めて周囲を観察すると、そこは大きなフロア――だったのだろうという事が伺える。

 過去形なのは、どう見ても今は瓦礫の廃墟だからだ。

 広く明るい光に照らされ、所々には植物さえ生え、湧水か何かが流れている。

 いくつも旧文明の遺跡を潜ってきたイクサだが、こんな光景は初めてだった。

「なんなんだ? ここは……」

 立ち上がろうとして、左足に激痛を感じよろける。

 どうやらやはり無事ではなかったらしい、折れてはいないがヒビくらいは入っているのだろう、血濡れの手で何とか倒れそうになるのを支える。

「くっそ、満身創痍かよ……」

 耳に付けた無線の電源を入れてみるが、反応は無い。壊れたのか、それともここは電波が通じないのか。

 と、そこに地面に手をつき身体を支えていたその手元から、ピっと機械音が鳴る。

 手元を見ると、彼の手が触れたところが血の線で赤くなっている。

 そして一箇所、赤く小さく明滅する光があり、光はやがて彼が倒れ、大木の生えていた鉄の塊に幾つもの筋を刻む。

「なん、だ?」

 慌てて、痛みに顔をしかめつつも彼はその小さく盛り上がっていた場所から降りる。

 同時に、高圧の空気が抜ける、弾けるような音と共に、コンクリートの塊が赤いラインに沿って割れる。

 丁度、彼が触れ、機械音がした部分をまるで柩の様な形にして。

「なんだ、これは?」

 恐る恐る手を伸ばすが、手が触れるより先に、白いコンクリートの塊、その表面がまるでガラスの様な透明で光沢のあるものに変わり、中央から二つに割れ開く。

 蒸気を上げながら中から現れたのは、一糸まとわぬ少女だった。

 わけがわからず固まっているイクサの背後で、今度は轟音が響く。

 振り返ると、数メートル先に首をもたげたあの酸のワームがいた。

 鱗は所々ひしゃげ、牙も欠けたような状態で尚、その目はこちらを狙っているように見えた。

「いや、しつけぇよ……」

 流石にうんざりした口調でイクサがつぶやいたとき、柩の中の少女が動いた。

 ガクリと上半身を起こし、俯きながら何かつぶやいている。

「……認証……エラー……該当無し、起動……エラー……エラー、エラー……」

 青みがかった長い銀髪を無造作に伸ばした少女、だが、明らかに人とは違う。

 少女の背中には太いチューブが三本、そして本来右腕がある場所にそれは無く、背中と同じようにチューブが繋がれていた。

 その少女の視線がイクサを捕らえる。

「あなたが私のマスターですか?」

「は?」

 背後ではワームが瓦礫を付き崩しながら近づいてくる音が響いている。

「あなたが私のマスターですか?」

 少女は無表情に、壊れた機械の様に同じセリフを同じ調子でイクサに問いかける。

「マスター? そんな事より、ここにジッとしてたらお前まであいつに食われるぞ!?」

 少女に近づき、その肩を掴む。血で汚れるだろうがそんな事は言っていられない、ここから逃げ出さねば。

 しかし肩の華奢さとは反して、少女はびくともしない。

「あなたが私のマスターですか?」

 そして繰り返す。

 見つめてくる金色の瞳に感情の色は無い、まるで機械だとイクサは錯覚すると同時に苛立ちを覚える。

「マスターでもなんでもいいから、さっさとここから離れ――ガッ、ゴホッ」

 興奮したせいか、それとも限界が来たのか、咳と共に口から少量の血を吐き出しながらその場に膝をつく。

「――認証しました」

「――え?」

「敵性反応が来ます、マスターはそのままの状態で動かれないで下さい」

 少女の声と同時に、最後の瓦礫を超えて酸のワームがその巨体をもたげる。

 振り向いて、そして終わったとイクサが思った瞬間、ワームは跡形も無く弾け飛んだ。

「――失敗しました、修正します」

 弾け、肉片と血が飛び散ったと思った瞬間、それはしかし逆に何かに吸い込まれるように、一箇所に集められ、ただの黒い塊になる。

「なん、だ……? 何が?」

「単純な殲滅を行った際、血肉にも驚異が確認されましたので、圧縮崩壊の方法へ変更しました」

 確かに、少女の言う通り酸のワームはその血液自体が強力な酸性を持つ、そのせいで対処しづらいモンスターとして知られている。あのまま飛び散らしていたら周囲や降り注いだ自分たちに被害が出たかもしれない。

 ……しかし、一瞬で倒して、圧縮崩壊? なんだ、それ?

 状況の把握に脳が追いつかない。

「マスター、重大な怪我が確認されます、治療いたしますのでそのまま動かないで下さい」

「あ?」

 イクサが反応するより早く、少女の左手がイクサの横腹に刺さった鉄棒を無遠慮に引き抜く。

「――――!?」

 激痛に言葉にならない悲鳴を上げるイクサ。

 血の溢れ出すその穴を塞ぐように少女は左手を当てると、幾層かの光の幾何学模様が浮かび上がる。

「ぇ、ぉ――?」

 それと同時に、痛みが消える。

「治った、のか……?」

「内蔵含む全ての箇所を修復致しました」

 わけがわからない。

 致命傷になりかねない傷を一瞬で治す術等イクサは知らない。一般に知られていないだけだとしてもオーバーテクノロジーだ。

 まるで――。

 先ほどから急に応答をはじめた少女の顔を見る。

 イクサが咳をした時に付着したのだろうか、顔が僅かに血で汚れている。

 その背後と、右腕から生えたチューブ。

 ……この少女自身が、ロストテクノロジーの産物だとでも……?

「マスター、そちらの足の治療――」

 そう言って少女が柩の中から出ようとし、背中のチューブ、そして右腕のそれが外れる。

「を、しな……け――」

 外れたチューブは煙を上げた後静かになり、少女は足を踏み出した瞬間膝から崩れ落ちそうになる。

「お、おい!?」

 その体をすんでて支える。

「おい、大丈夫……か?」

 自身も左足をかばうようにゆっくりと座ると、少女の顔を覗き込む。

 目を瞑っている。

 口元に手をやると、僅かに呼吸しているようで、死んだりしているわけではないようだ。

「どうなってんだ、クソ……」

 その場に寝かすのは流石に忍びないので、該当を巻いて横にする。

 先程のワームの酸のせいで穴だらけだが勘弁してくれ、と心の中で謝りつつ。

 その時、耳に付けた無線から声が聞こえてくる。

『――っと、聞こえて――返事して頂戴イクサ!? 応答して! イクサぁ!』

 前半は怒ったように、そして後半は懇願するような、どこか頼りない声が。

「あー……聞こえてるよラナ、やっと繋がったか」

『あぁ! 生きてたよかったぁ……心配したのよ。ってそれより、状況はどうなってるの!?』

 無線越しの声に日常感を感じイクサ自身も安堵の溜息を漏らす。

「あー……ワームは何とかなって非常事態は落ち着いたかな……しかし、状況っていうとな……」

 イクサは傍らに横たわる少女に目をやる。

「俺が説明してもらいたいくらいだ」

『何、どういう事? どうしたの?』

 無線越しの声に、さてどうするか、とイクサは頭を悩ませるのだった。

もう一個書いてるのがあるので不定期連載予定です。


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