プロローグ 1
烏が鳴く曇り空。目の前には大きく物々しい家?館?
んー、雰囲気凄いな。
新しい新居がこんなにも邪悪な空気を排出するもんなんかな。
ある日いきなり母さんがここに住みなさいって言われた事がきっかけでこの状況。
まぁ、家の前で立ち往生しているのもご近所にあれだから、中に入るか。
「お邪魔しまーs」
スコーンっ!!
…………トラップ?
玄関のドア開けた途端に奥からナイフが飛んできて、俺の顔を掠めてドアにぶっ刺さる。
「………部外しゃ」
奥の扉の隙間からギラリと何かが光る。どうやら刃物だ。
となると、このナイフの持ち主。………逃げるが勝ちってやつだね。
俺は玄関のドアをスゥッと静かに閉めた。
「さて、元のマイホームに戻ろうk」
スドンッ
………え?
帰ろうと、立派な門を抜けて帰ろうと!したのに………振り向きざまに拳が俺の顔を掠めて、ドアの玄関に風穴を開けた。
「……どこ……行くんですか?」
バキバキとドアの折れた木材のいい音を鳴らしながら、拳を抜く目の前の女性。………怪力ですねぇ。
と、そんなことを思っている場合ではない。
「い、いやぁ……どうやらお伺いするお宅を間違えてしまったみたいで、ですので俺は直ちに帰らせていただきますっ!!」
そう目の前の女性に告げて、俺は横を通り過ぎ走る。
俺、まだ死にたくないっ!だから俺は走るっ!走るっ!走るぅぅッ!!
門まで後もうちょいっ!!
行っけぇぇぇぇぇっっっっ!!!
「もう、逃げる必要なんてないじゃないですかぁ。でもバタバタして可愛いですっ♪」
「……………へ?」
俺氏、状況確認。
俺走る→女性を横切る→門まで後少し→捕まる→女性満面の笑みで俺の首根っこを片手で掴む。
四番目で最早プランが崩れている。
いや、もうこのお宅に来た時点で俺の考えようとするもの全て無意味だったのかもしれない。
「しきくん大丈夫ですか?お姉ちゃんが居ないと何時もこうなんですから」
「しきくん?誰すか?それは」
確かに俺の名前は四季臣だけど、しきくん何て呼ばれたこと一度もない。
それにお姉ちゃん?いや、そんな筈はない。なぜなら俺は一人っ子だからだ。
だからお姉ちゃんとか言う憧れの存在など居ない。
「?……しきくん?」
小首を傾げて俺を見る。
「あー………人違いじゃないっすか?ほら、弟さんとすごく似てるからぁまちがえちゃったぁとか」
あやふやに答えてるようで実はガッツリ答えている。こういう間違えにはこれが一番のような気がする。俺の中ではの話だが。
すると女性は空いている左手で、自身の金髪の頭をポリッと掻く。
「そんなわけ……ないんですけどねぇ?ぇえっと……私の大好きなしきくんを忘れるわけないんですが………あれ?あれ?あれ?あれ?」
ブツブツと何かを呟きながら、どんどん彼女の頭を掻く勢いがだんだん早くなる。
「はれ?………しきくんは?私のしきくんは何処に?今日、やっと会える筈なのに……私の勘違い?いや、嘘……貴方は嘘ついてます」
「あでっ」
俺を掴んでいた彼女の手は、俺の首根っこを離れて自身の頭へと持っていく。
「いや、いやです………嫌です嫌です嫌です嫌ですっ!し、しきくんとやっと会える筈なのにっ!あえるはずなのにっ!!」
ガシガシと両手で自身の金髪を掻きむしり、綺麗な金髪は無残にもボサボサと化す。
い、いや………これは、い、異常だっ!精神に何かしらの何かをきたしているぞっ!?
それにもしかしたら今が逃げるチャンスかもしれないっ!
俺はそぉっと、狂乱化した彼女の後ろを通り抜けて門の所まで辿り着く。
後は出るだけ、ただそれだけ……
………パサリ
ん?……………んぉあ!?
何か落ちたと思ったら、学生書!?
大丈夫だっ!相手は狂乱して我を見失っている!そぉっと拾えばなんとかっ!
「………なん、ですか?それ」
ふとこの声の方を見ると、先程まで狂乱して見るに堪えない状態だった彼女が、虚ろな目でこちらを凝視していた。
ヒェェェェェェエ!!!見つかったぁぁぁぁぁッ!!!
「学生………書?……っ!見してくださいっ!!」
ツカツカと早歩きで俺のもとまで近づき、学生書を拾い上げて即座に凝視する。
「……│桜木……│四季臣……年齢、6月20日……17歳」
一通り読み上げると彼女は怯えて震えている俺を見て涙ぐむ。
そのままそっと俺を俺を抱き寄せて、こう呟く。
「グスッ………嘘、ついちゃ嫌です。しきくん………」
「あ、あわわっ………あわわわっ!」
しかし、俺はそれどころではなかった。