レンズ越しの訃音
雨樹・・・お前の恋人はスケッチブックと鉛筆だったろう。
浮気者め。
少しはあたしを見ろ。
ちょっとだけ物に嫉妬する。
心の狭いあたし・・・。
そんな思いをすぐに読み取る雨樹。
『時雨もこっち来なよ』
普段ボケてるくせに変なトコだけ勘がいいよな。
優しく笑うなよ。
胸が痛くなるじゃないか。
病院は檻の中だ。
抜け出せない監獄。
それでも、あたしはあんたに会ったんだ。
二人して、名前に『雨』が入ってる。時の雨・・・・・雨の樹。
雨樹の絵は好き。
嘘の無い絵だから。
仏頂面のあたしの似顔絵。
あんたと話すたびに笑い顔に変わった。
あんたは綺麗だった。
あたしは汚かった。
『時雨は綺麗だよ』
手首の傷を見ても、雨樹は微笑んでた。
そういえばさ、
風景しか書かないあんたが、最近になって人物画ばかりに熱中しだしたの、あたし知ってる。
自惚れ・・・?
何とでも言え。
『ねぇ、雨樹。
自画像書いてよ』
あんたが自画像書いたら、あたしは写真を残してやるよ。
人物なんて撮ったこともない、このあたしがだよ?
なぁ、二人で残そう。
一瞬を刻み込んだ芸術を・・・。
絵も写真も時間を止める力があるんだ。
だから、残そう。
次の夏が来たらお別れだ。
聞こえるんだ。
小さな鈴の音が。
レンズ越しに訃音が・・・