第9話 海溝の向こう側へ行きます
さて、おばあちゃんのお店で一休みした私たちは、ふたたび車に乗り込みました。
「それで…海溝を超えるのにどれだけかかるの?」
「…まぁ1時間と言ったところか…この海溝…私たちは、神界海溝と呼んでいるわけだが、深さ、幅共に、日本の小笠原海溝と同等かそれ以上の規模の海溝だと言われている…。」
なるほど…なんだかピンときませんが、どうやらみかんは、この海溝が相当深いものだと言いたいようです。
「まぁ落ちたりすることはないから安心しろ…。」
そう言えば、スティーリアの言うことが正しければ、船が進めなくなる地点と言うのは、この直上と言うことになります。
しかし、ここから見る限り、そのような現象を起こしそうなものは見当たりません…
「どうしたんだ? さっきから上ばかり見て…。」
「ちょっと、上が気になったものだから…。」
私は、座席に座り直しました。
「それにしても、私は南部に行くの初めてだな…。」
「そうだろうな…東地区や西地区ならともかく、南地区に行く人間はめったにいないからな…。」
「そうなの?」
私が聞くと、みかんは首を縦に動かしてからこう続けました。
「前にも説明した通り、この都市の機能は、すべて北地区に集中していて、人口も北地区が断トツで多い…この年の全人口の中の各地区の比率で言えば、北地区が97%、西地区が2%、東地区が1%で、南地区の人口は0%だ…ただ、この数値は政府が把握している定住している住民の話で、南地区に人がいないっていうわけじゃないから、誰にも会わないなんてことはないぞ…。」
なんだか納得できる気がします…北地区から離れるにつれて、人が少なくなっていくのは、ここまで来た自分がよく知っています。
「だから、いろいろとやりやすいのも事実なんだけどね…。」
「やりやすいって?」
「あぁ…こっちの話だから気にしないで…それよりも、もうすぐ向こう岸に着くよ。」
みかんにそう言われて、前の方を見ると、海溝の向こう側とみられる平らな平原が見えてきました。
「ほんとに何もないみたいね…。」
「まぁここから見る限りな…奥の方まで行けば建造物がある…そこが目的地よ…。」
「そうなの?」
「そうよ…。」
この奥の方って…ここまで相当時間がかかりましたが、さらに何時間か、かかると言うことでしょうか?
そうなると、今日中に北地区に戻るのは、無理そうです…(もっと早く気づくべきだったのでしょうが…)
私たちを乗せた車は、南地区に入って行きました。
南地区に入ると、道路が南に向かってひたすらまっすぐ伸びているのみで、それ以外は何も見えません…
「本当に、この先に建造物なんかあるのかな?」
「みかんの事だから、よっぽどか嘘はつかないと思うけど…実際どうなんだろう?」
私は、まっすぐと伸びる道を見ながらそう言いました。
「建造物があるのは事実よ…ただ、奥の方にあるって言うだけで、そこまでの道のりには基本的には何もないわ…。」
みかんは、つまらなそうに外を見ながらそう言いました。
「まぁいいや…みかんが人をだますようなことはしないと思うし…。」
「そっそうか…信じてくれてうれしい…。」
当然ながら、みかんとは、日本にいたときから関わりがありますが、私の知る限り彼女は、私に嘘をついたことがありません…しかし、その時のみかんの顔が、なんだか暗いように感じたのは、気のせいでしょうか?
「…みかんさん、車の調子が悪いようなので一旦とめますが、よろしいですか?」
「えぇ…別にいいわよ…。」
みかんがそう答えると、運転士は車を左わきに寄せて止めてから、車体の下を覗き込み始めました。
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