第5話 この都市は何かと便利なようです
さて、お弁当を食べて満腹になった私たちは、みかんに会うために北6地区に行くことになりました。
「ご利用ありがとうございます。この列車は、希望松行きです。次の停車駅は、北希望松。北希望松です。お出口は、左側です。ドアから手を放してお待ちください。」
「ねぇ…なんだか、さっきから日本で聞きそうな地名が多いね…。」
「そりゃそうよ…北3区ぐらいまでは、現地人が開発した場所なんだけど、それ以外は、今から数十年前に日本人の指示で開発したそうよ…だから、地名もその人が付けたって言う訳!」
そう言う経緯があるわけですか…
亮と言い、その日本人と言い、この世界には、日本人がかなり介入しているようです…
「さてと…希望松駅まで行けば、みかんに会えるはずだから、あと1駅ね…。」
陽菜が車窓を見ながらそうつぶやきました。
魔法が発達世界の中にある科学都市…
先ほど、陽菜が、この町の開発に日本人が介入していると言っていましたが、どのような経緯でこの町が形成されていったのでしょうか?
「お客様にお願いいたします。列車車内及び駅構内での魔法の使用は危険ですので終日禁止とさせていただいております。ご理解とご協力をお願いいたします。」
このような放送が入るたびにここが、異世界なのだと思い出さされるわけなのですが、この町を歩いていると、私が元々住んでいた世界と何も変わりません…
「はぁ…この町にいると、異世界にいるって言うことを忘れそう…。」
「そうだな…だが、電気自動車が走っているものの、モノレール等の性能は、大体亮さんが、日本にいたころの性能だな…。」
竜也が車窓を見ながらそう言いました。
そう言えば、この世界に来てから、竜也とまともな会話をできるようになってきた気がします。
竜也が変わったのか、私が変わったのかわかりませんが、確かに竜也の「なんだっけ」や「忘れた」を聞く回数が減った気がします。
「竜也も変わったね…こっちに来てから…。」
「そう? 僕としては、一番変わったのは牡丹だと思うけど?」
「えーどうかな?」
一番変わったのは私ですか…果たして本当にそうなのかと言うのも少々聞きづらいので、その言葉を素直に受け取っておくことにします。
北希望松駅を出た列車は、ぐんぐんと加速して、終点の希望松へ向けて走っています。
周りの車窓を見ると、だんだんと大型のショッピングモールや商業ビルが目立つようになってきました。
「ご利用ありがとうございました…まもなく終点の希望松。希望松です。本日も都市モノレールをご利用いただきありがとうございました。お出口は、左側です。ドアから手を放してお待ちください。中環状線は、お乗換えです。お忘れ物等ございませんようご注意ください。まもなく終点の希望松です。」
北希望松駅と希望松駅の駅間は短いらしく、先ほどまで加速を続けていた列車はすぐに減速を始めた。
車内は、放送を聞いた乗客たちが下りる準備を始めたり、そんなことにも気づかずに居眠りを続けていたりと言った状況です…
やがて、列車は希望松駅のホームに滑り込み、乗客が次々に扉付近に集まり始めました。
「牡丹! 何やってるの降りるわよ!」
私は、陽菜に声をかけられてから、カバンを荷物棚から降ろして降りる準備を始めました。
「ドアが開きます。ご注意ください。」
車両に3つ設置された扉がホームに設置されているホームドアと共に開き、乗客が次々と降りて行きました。
私たちも一緒に列車から降りました。
「ご利用ありがとうございました。希望松。終点です。2番線の列車は、折り返して各駅停車のルーメン行きとなります。中環状線をご利用のお客様は、階段を下りていただいた先にあるホームでお待ちください。」
そんな放送を聞きながら、私たちは、中環状線のホームに下りる階段を通り過ぎて改札口へと向かいます。
「大きい駅ね…。」
「えぇ…希望松周辺は、都市内随一の商業地区だから、昼間でも人が多いのよ…。」
陽菜は、懐からパスカードを取り出すと、鉄道ICと同じように、自動改札機の光っているところにかざして改札を通り抜けました。
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