第19話 大海原にて友を想う
頭上をうみねこが鳴きながら飛んでいました。
見渡す限り、東西南北度の方向を真っ青な海と水平線しか見えません。
海底都市を脱出してはや3日経ちました。
ひたすら南へ進んでいるのですが、それでも島影が見えることはありません。
「今日も変わらない風景か…」
「そうね…ひたすら北へ北へと進む日々…これはこれで退屈ね」
私は、深くて青い海底にいる友人を思い出していました。
今頃、彼女たちはどうしているのでしょうか?
そして、あの時はどさくさに紛れて聞けなかったのですが、いかなる理由から彼女たちは、海底都市から出ることができかなったのでしょうか…
「私ってまだまだね…」
「そうか?」
ヴァーテルが、こちらを見ていました。
この言葉は、そんなに意外だったのでしょうか?
「そうだ。出会ったときに比べれば、なんだか雰囲気が変わったよ。それが良かろうと、悪かろうとお前が成長したことには変わりがないんじゃないか?」
「そう…ありがとう」
「まぁいいさ…あのみかんというやつにもいつか会えるだろう…それに、この海の向こうに何があるか見てみたいんだろ?」
ヴァーテルは、手すりにもたれかかってこちらを見ています。
私の髪を海風がなでて、大陸のほうに吹き込んでいきました。
「もちろん。私は、この海の向こうの世界を見てみたい。海と見えない壁に阻まれて見れない、この世界のすべてを見てみたい」
「そうだな。俺もだ」
ヴァーテルが、私のほうにゆっくりと歩み寄って抱きしめました。
「もうすぐ、旧王国領にも春が来る。何年ぶりかの春だ。お前の名は知られなくても、あの出来事は歴史に刻まれることだろう」
それから、少し間をおいて、彼はこう続けました。
「そう、再び冬が訪れようとも、どれだけその冬が長くても、必ず春が来ることをお前は証明した。だから、あの海底の町は、今、まさに厳しい冬が来ているのと同じなのかもしれない。だが、お前が旧王国領に春を呼び込んだように、きっとお前の友人が、あの町に再び春の光を届けるはずだ」
最後にヴァーテルは、私の耳元でこう付け足しました。
「お前が、それを信じないでどうする? お前が信じてくれるだけでも、あいつらにとっては、かなりの救いなんじゃないか?」
「ヴァーテル…そう…だよね。私が信じなかったら、何にも変わらないもんね…」
この時の私は、この世界に来てから一番の笑顔だったかもしれない。
あの海底都市が復興してもしなくても、また、あそこに行こう。
だって、あそこには、町の人のために働いている友人がいるのだから…
真っ暗なこの部屋に置いては、この場所の広さを推し量ろうなどと考えるのは無駄なんだろうな…
みかんは、この部屋の中で一人、そんなことを考えていた。
「どうして、北上牡丹を逃がした?」
「02」が質問をする。
語気からして、なぜ、自分たちの命令に背いたのかというニュアンスが込められているように感じた。
「あの場合、やむを得ないという判断からです。あれ以上北上牡丹を都市にとどめておくのはほぼ不可能です」
みかんは、淡々とした口調でそう答えた。
それ以上の理由もそれ以下の理由もなかった。すべては、友人の身を案じての行動だ。
「ふーん…やむを得ない判断ね…」
これまで、滅多に口を開くことのなかった議長が口をきいた。
しゃべらないというのは、自分たちがいるときだけの話かもしれない。なぜなら、みかんはこの議長の正体についてなんとなく察しがついていた。だが、自分のどこかがその可能性を否定しているのだ。
そんなことがあってはならないと。
「もう少しまともな判断力があると思ったのに、がっかりだわ。やっぱり、確実に仕留めないとダメね」
「申し訳ありません…しかし、北上あかねに加え、北上牡丹も行方をロストしている状況には変わりありません。おそらく、北上牡丹がこちらに戻ってことはないので、ある意味成功かと…」
これで満足してくれ…
みかんは、必死にそう願っていた。目の前の人物の正体が自分の推測通りなら、これで満足するはずだ。
「ある意味成功? ふざけないで」
帰ってきた返事は、いたって冷たかった。
やっぱり、あの人じゃない。そう安心するとともに大きな絶望が彼女を襲っていた。
「連れて行きなさい。まっ海の藻屑にでもしときなさい」
議長がそういったとたん部屋が明るくなり、みかんは元の場所に戻っていた。
そして、周りを見れば、自分は屈強な男どもに囲まれていた。
「連れて行くなら連れて行きなさい。今頃、抵抗する気もないわ」
みかんは、男たちに連れられて、その部屋から出て行った。
この話で、「ひだまりの国 海底都市の謎」は完結となります。
ですが、続編の「ひだまりの国 神々の島」を投稿しました。
この話は、神々の島とその周辺を舞台とした話です。
最後まで読んで下さった方、お気に入り登録してくださった方、本当にありがとうございました。