第18話 人工都市は停電や災害に加えて、造られたときに想定されていなかった事態が原因の事故に非常に弱いそうです(海底都市脱出編)
「話って何?」
応接室に入るなり、私はみかんに問いかけました。
「……あぁ、おそらく、このまま都市機能が完全に回復することはないと思う…そうなると、北地区のゲートも動かない。だから、お前たちはここから出られなくなる」
「どうして?」
「単純だ。北地区のシステムをすべて破棄するからだ。それでな。お前たちの乗っていた船なんだが、先ほど、南地区に届いた。南ゲートを開けるから、そっちから脱出してくれ」
みかんは、そういって立ち上がりました。
「どういう……」
「そもそも、この都市の直上にある壁を調べに来たんだろ? だったら、南から壁の向こうに抜けてその先を見た方が何十倍も速い。それだけだ」
みかんは、扉の近くに立ち、こちらを見ずにそう告げた。
「みかんは…陽菜はどうするの?」
「私たちは、所詮この町の住民だ。この町の外では生きられない。でも、牡丹たちは違う。あなたたちは、町の外…大陸でも生きられる。ここより北の海でも…」
みかんの言葉は、南から出れば、北の海に出られるが、南に位置する大陸には戻れないと暗示している気がしました。
この年に出入りする入口はらせん状になっているため、北から出れば南へ南から出れば北へ行きます。
ですが、今から北地区へ戻ったところで1時間以内につくことはないのでしょう。
「わかった…船は?」
私は、決断を下すことにしました。
おそらく、みかんがこの町にこだわっている理由は何かしらあるのだと思いますが、それを押し切ってまで連れて行くことはできないと思いました。
「あぁ用意させる。それとだな…トップ6って呼ばれている奴らのこと知ってるか?」
「トップ6?」
聞きなれない名前でした。
そのトップ6というのは、どんな組織なのでしょうか?
「そうか…ならいい」
「どういうこと?」
「知らない方が身のためだ」
みかんは、扉を開けて部屋から出ていきました。
トップ6……いったい何者なのでしょうか?
あれから10分ほどたち、船が出港できる位置まで来たというので、私たちは南地区のゲート付近までやってきました。
「もうすぐ、南ゲートが開く。とりあえず海上に出たらひたすら南へ針路をとれ。そうすれば、島にたどり着くはずだ」
「島?」
「そうだ。この都市の北には、南の大陸の人間が“神々の島”って呼んでいる島がある。そこまで行けば、何とかなるだろう。時間がない。早く船に乗れ」
みかんは、私たちの背中を押すような形で、船に乗せました。
「みかん、陽菜。本当に残るの?」
「行ったはずだ。私も陽菜も所詮は、この都市の人間だ。この都市の外では生きられない。まぁ本来、上の連中が北上牡丹を外に出すなと仰せなんだけど、こうなったら話は別だ」
「上の連中?」
私は、その時いぶかしげにみかんをにらんでいたと思います。
まぁ外に出すなという命令が下っていたなんて話を聞いたら誰でもそうなるはずです。
「トップ6だ。お前が何をやらかしたのか知らないけど、奴らはお前を敵視している」
「敵視? 俺たちをか?」
「いや、北上牡丹個人を特に敵視してみるみたいだ。気を付けろよ。下手すりゃあかねさんの二の舞になりかねない」
お姉ちゃんの二の舞になるってどういうことなのでしょうか?
みかんは、思慮深そうに考え込んでいるようです。
「理由は分からない。あかねさんみたいに明確な理由が見つからない。とりあえず、あかねさんは知りすぎてしまったんだ。あの組織を…トップ6という存在を…」
「そうするに、知りすぎるなってこと?」
「そういうことだ」
みかんは、きっぱりと言い切りました。
お姉ちゃんが、そのトップ6なる組織について、どの程度知っていたのかはよくわかりませんが、恐ろしい組織なのだという見当ぐらいは付きました。
「わかった。気を付ける」
「あぁ元気でな」
私たちは、短い別れの言葉を交わして船を出発させました。
船は、そこから海上に向けて勢いよく進んでいきました。
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