プロローグ〜略奪と秘密と〜
レースシーンは余りなさそうですw
プロローグ 略奪と秘密と
――闇がある。
ただ、深い闇が、そこには横たわっている。
”X-GrandPrix”開催予定地として建設されたドーム、後に<エンポリウム・スタジアム>と名を変えるドームには、今はまだ名はなかった。
入り口前に掲げられた看板には黒と白のチェック柄―ゴールフラッグを模したものを背景に「X-GrandPrix」の文字が躍っていた。
下には小さく「Lito Industry」とロゴがあるのも見て取れる。
ここは約三週間後に控えたX-グランプリの開催地。機械の街<エンポリウム>のほぼ中心に位置している。
そこには、ただ闇だけが支配していた。
と。
ブゥゥ....ン
機械が起動する音が静寂を突き破る。
そして、闇夜の一点に煌々と照らされ、ドームの一角が浮かび上がった。
そこには一台の高速巡行車輌がアイドリング状態で停車していた。
――否、それは展示されていた。
X-0X<エックス>の名を持つ、L/Iの粋を集めて作られた最新鋭のXマシン。
どこからか、女性の声が闇にこだまする。
「――メイン・システム起動.システム,オールクリーン.サブ・システム,レディ――」
それは、どうやらエックスから発せられているようだ。
ヘッドライトが灯され、動力機関が唸りを上げて回転速度を上げていく。
かといって、誰かが乗っているという訳でもなさそうである。では一体だれが――?
「――X-0X<エックス>,コンディション,オール・グリーン.全システムをアイドリングへ移行――」
徐々に起動音が落ち着いていく。
最後には、ピピッ、という電子的な音を残して、ドームはまた静寂の闇へと包まれた。
ザッ――、と。
誰かが地を踏む足音。その足音を隠そうともせず、闇夜を移動する何か。
「―――――」
X-0X<エックス>に搭載された機械知性体<Lio>は、システムをアイドリングのまま待機させ、表層意識だけを浮かべて外の様子を探った。
(センサに熱反応を確認.身長・体重により男性と判断します)
複合センサが捉えたのは一つの影。長身のホッソリした男だった。
男は足音を隠すこともせず、物影に隠れることもなく、堂々と、正面から歩いて接近しているようだ。
<――止まりなさい.人を呼びますよ.>
Lioの声に、男は何の素振りも見せず、黙々と接近してくる。
<これは警告です.止まりなさい.>
男は止まらない。ついにエックスの前までくると、男はようやく立ち止まった。
<あなたは何者です?リトの関係者には見えませんが?>
「――それに答える義務はない」
厳粛な男の声。ヘッドライトに照らされた顔は、上半分を覆うフードによって誰とは判別できなかった。
開発関係者リストとの一致もない。まさに真っ赤な他人であった。
男はそれだけを言うと、ドライバーシートに近づき、扉に手を掛ける。
<何が目的です.私の奪取ですか?それとも,この質問にも答えは得られないのでしょうか?>
今のLioに、この男に逆らう術はなかった。
ドライビング・システムはリトが掌握しているため、Lioの意思でエックスは動かない。
男はどんな魔法か、ロックされていたはずの扉を開け、エックスに乗り込んだ。
「その質問には答えよう、せめてもの労いだ。――答えはYESだ。君を、ある人物の元へ送り届ける」
男はエックスのシステム系統をチェックしながら答えた。
Lioによってアイドリング状態にされていたシステムが再び起動する。
男は唇に笑みらしきものを浮かべると、一度エックスを降り、土台とのジョイント部分を外した。
<ある人物とは何者ですか?>
再び男が乗り込んだとき、Lioは男に尋ねた。
こうなっては、もう男の成すがままとなるしかなかった。エックスのシステムはLioよりもドライバーを優先するよう出来ている。
Lioには――Lioだけでは、エックスは動かせない。
「それは会ってからのお楽しみだ」
そう言って男は口元に確かな笑みを浮かべ、Lioの主電源を落とした。
そのとき、何故かLioは、不思議なほどの安心感を得ていた。それはこの男に対するものだったのか、今となってはもう分からない。
派手に物語の裏側を出してみましたが、どうでしょうかw