裏・投獄された悪役令嬢は、ブチ切れながら監査する
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王城の一室。
窓の外には王都が広がっている。
アメリア・フォン・ローゼンベルクは優雅に紅茶を口へ運んだ。
つい先日まで牢獄にいたとは思えないほど穏やかな時間だった。
扉が叩かれる。
「入ってくださいまし」
現れたのは若い男。
王族の証である金髪。
しかし彼の存在を知る者は少ない。
第二王子レオナルド。
公には存在しない王子だった。
男は静かに頭を下げる。
「謝罪に参りました」
アメリアはティーカップを置いた。
「謝罪?」
「兄上の件です」
言葉を選びながら第二王子は続ける。
「私は知っていました」
「卒業パーティーで婚約破棄が行われることも」
「貴女が投獄されることも」
「そして兄上が失脚することも」
部屋が静かになる。
第二王子はさらに頭を下げた。
「止めることはできました」
「しかし止めませんでした」
「王国は腐敗していました」
「財務省も」
「騎士団も」
「貴族達も」
「兄上も」
「だから私は利用したのです」
静寂。
アメリアはただ男を見つめる。
第二王子は苦笑した。
「貴女なら必ず全て暴くと思った」
「王国を救うために貴女を利用した」
「どうか罰を」
そこで初めてアメリアが口を開いた。
「そうですの」
ティーカップを置く。
小さな音が響く。
そして。
「存じ上げておりました」
第二王子が固まった。
「……は?」
「存じ上げておりました」
アメリアは微笑む。
「卒業パーティーの三日前には」
「え……?」
「貴方の存在も」
「計画も」
「兄君の愚かさも」
「財務省の横領も」
「騎士団の架空発注も」
「教会の不正会計も」
「全部」
第二王子の顔色が変わった。
「全部……?」
「ええ」
当たり前のように言う。
「ですから」
アメリアは優雅に足を組み替えた。
「付き合って差し上げたのですよ」
第二王子は言葉を失う。
アメリアは続けた。
「婚約破棄」
「投獄」
「監査」
「全部必要でした」
「膿を出すには傷口を開かなければなりませんもの」
微笑みながらそう言った。
第二王子はようやく理解する。
自分は盤面を見ていたつもりだった。
だが違った。
自分が駒だと思っていた女は。
最初から盤面の外にいた。
「……恐ろしい方だ」
思わず漏れた言葉に。
アメリアは小さく首を傾げた。
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
そして一枚の紙を差し出す。
「ところで第二王子殿下」
「はい」
「謝罪は結構です」
第二王子は安堵した。
しかし。
次の瞬間。
「こちら今後十年の王国再建計画書になります」
安堵は消えた。
「……はい?」
「王太子がいなくなりましたので」
「次は貴方のお仕事ですわ」
紙の束が机に置かれる。
ドン。
第二王子は震えた。
分厚い。
異常に分厚い。
「え……」
「逃がしませんわよ?」
アメリアは美しく微笑んだ。
その日。
第二王子は初めて理解した。
兄が失脚した理由を。
王国を救ったのは悪役令嬢ではない。
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『帳簿で殴ってくる化け物だった。』
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