00:婚約解消と婚約
その日、男は浮かれていた。
なぜなら、長年自分を悩ませていた婚約が解消になり、望む相手との婚約が叶うからだ。
普通は最低一ヶ月、常識として三ヶ月は開けなければいけない次の婚約も、婚約解消当日に出来るのだから当然だった。
なぜなのか。
婚約相手が妹から姉へすげ替えられるだけだからだ。
婚約とは、基本的に家同士の契約である。
今回は同じ家の中で相手が変わるだけなので、慰謝料や契約解除などの面倒な手続きは無い。解消の責任がどちらにあるか等の普通なら揉める事も、特に話し合われる事も無く、手続きが行われた。
男の脳裏に、元婚約者が浮かぶ。
赤毛でソバカスだらけの顔。
貧相な体で、行動は大雑把で粗忽。
優雅さとは掛け離れた存在だ。
幼い頃から全然変わらない、一つ下の元婚約者。
姉は金髪に白磁のような肌で、女性らしい体型の、たおやかな淑女なのに。
姉の方は、男より一つ年上だった。
姉妹しか生まれなかったので、おそらく姉が婿を取り家を継ぐのだろう、と男は悔しく思っていた。
自分が嫡男でなければ、婿に行けたのに、と。
しかし、今回は両家の親が話し合い、婚約者のすげ替えが行われる事に決まったのだ。
男と元婚約者があまりにも仲が悪かったので、さすがにこれでは後継者が出来ないのでは? と、話し合いが行われたのだ。
相手方に婿に入る予定の男の家も、了承済との事だった。
要は、婚約者の入れ替えになるのだろう。
女としての魅力が皆無な妹相手でも、爵位というオマケが付いてくれば良いのか、と男は鼻で笑った。
婚約者の入れ替え手続きが全て終わり、男は浮かれていた。
今日は新しい婚約者が、屋敷に挨拶をしに来るからだ。
「侯爵令嬢がいらっしゃいました」
執事が来客を告げる。
応接室には、流行りのお菓子と高い茶葉が用意してある。
男は自室から転がる勢いでエントランスへと向かう。
「 」
男の名を嬉しそうに呼ぶ声に、男の眉間に皺が寄った。
「何でお前が来る?」
男を笑顔で迎えた女は、赤毛でソバカスだらけの妹の方だった。




