第3話 アル・ハラド砂漠王国1
~しなびた果実と砂嵐~
灼熱の太陽が照りつけるアル・ハラド砂漠王国。
北の果てに広がる黄金の砂海は、ラクダの商隊が行き交う交易路として知られるが、
数値教テロの傷跡は深く残っていた。
スカイとエリアスは、王家専用馬車ではなく、あえて質素な商隊に紛れて入国。
スカイは「クライム」、
エリアスは「エイラ」。
という偽名で通す――。
職業は
「王国から派遣された解決屋の応援要員と
その秘書の夫婦」。
新婚旅行の裏で、世界を救う冒険の第一幕だ。
アル・ハラド大使館は、オアシスを囲む石造りの堅牢な建物。
ラクダの鳴き声とスパイスの香りが漂う中、二人は盛大な歓待を受けた。
大使の老紳士が、絨毯の上に座布団を並べ、金色の果実と香辛料茶を振る舞う。
「スカイ様、エリアス陛下! 遠路はるばる、ご苦労様です。
最初にここを訪れると聞き、胸を撫で下ろしましたよ」
スカイは質素なローブ姿で頭を下げ、
「いや、大したもんじゃねぇよ。
ただの解決屋さ。で、ここの問題ってのは?」
大使の顔が曇る。
「数値教のテロで、オアシスの数が激減しました。
残ってる泉の水も濁り、飲めば病が流行る始末。
灌漑設備も破壊され、作物は枯れ果てる一方です。
バザールは人が離れてゆき、民の不満が爆発寸前ですよ」
エリアスがメモを取りつつ、穏やかに尋ねる。
「現地調査は? オアシスの場所、具体的に」
「ええ、すぐご案内できますが……砂嵐の季節です。危険ですよ」
スカイが眉を潜める。
「砂嵐?なら急いだ方がいいな。エイラ、準備しろ。まずはバザールで現地調査だ。」
バザールは、巨大なテント都市。
屋根のように布やメッシュを張り、日差しを遮る工夫が施されている。
スパイスの匂い、絨毯の山、宝石の輝き――交易の華やかさの裏で、人々の顔は疲弊していた。
水汲みの行列は長く、売れ残りの果実が地面に転がる。
隅の露店で、スカイの目が止まる。
10歳ほどの少女が、しなびた果物を並べていた。
日に焼けた肌、ボロボロのローブ、大きな目が哀しげに伏せられている。
「お嬢ちゃん、それ自慢の果物か?」
少女が顔を上げ、驚いたように答える。
「は、はい……。
家で取れたデーツです。でも、水がなくて……しなびちゃって」
名前はレイネ。
スカイとエリアスが優しく聞くと、
壮絶な日常が明らかになる。
「バザールから離れた家に、住んでます。
私と二人の弟だけで……
お母さんは亡くなって、お父さんが一人で働いてるの。
この果物、家で取れたんですけど、
オアシスが減っちゃって、水汲みに朝早く
起きて遠くまで行かないと、みんな危ないんです……」
レイネの小さな手が、果物を撫でる。
スカイは言葉を失い、エリアスも胸を押さえる。
「レイネちゃん……そんなに小さな体で、大変ね」
「ううん、弟たち、ご飯食べないと……
お父さんも疲れてるから、
私が売って、少しでも稼がないと」
二人は言葉が出ない。スラムの頃を思い出すスカイ。
「君みたいな子供が、そんな生活を送るしかないなんて……くそっ、数値教の野郎ども!」
そこへ、強烈な風が吹き荒れる。
空が黄土色に染まる、砂嵐だ。
バザールがパニックに陥る。
「嵐だ! 逃げろ!」「布が飛ぶぞ!」
スカイが即座に動く。
「エイラ、レイネ! 俺が庇う!大使館へ走れ!!」
スカイのローブを広げ、二人をかばいながら全力疾走。
砂が肌を刺し、視界ゼロ。レイネが泣きながらしがみつく。
「こ、怖いよぉ……クライムお兄ちゃん!」
「大丈夫だ!このまま息整えて走れ!エイラ、手を!」
大使館に滑り込む。守衛が扉を閉め、館内は避難民で溢れる。
スカイたちは息を切らし、レイネを抱えて休む。
「はぁ、はぁ……無事か?」
エリアスがレイネの背中をさする。
「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ」
嵐が収まるのを待つ大使館。
レイネが窓辺で果物の残骸を悲しげに見つめている。
やがて砂嵐が収まる頃、扉が乱暴に開く。
現れたのは、砂まみれの男――
レイネの父親だ。40代、疲れ切った顔に怒りの色。
「レイネ!! お前、ここにいたのか!!」
レイネの顔が輝く。
「お父さああん!! 見て、クライムお兄ちゃんとエイラお姉ちゃんが助けてくれたよ!」
駆け寄るレイネを、父親は乱暴に引き離す。怒鳴り声が響く。
「このバカ娘が!!
砂嵐で売り物の果物が全部飛ばされたんだぞ!!
お前、何やってんだ!!せっかくの苦労を、無駄にしやがって!!」
レイネが縮こまる。
「ご、ごめんなさい……でも、嵐が急に来て……」
「言い訳すんな!
少しでも売らないと生活に困るのは自分たちなんだぞ!
弟たちの面倒も見れねぇのかよ!!」
スカイとエリアスの顔が強張る。
父親の怒りは、貧困と絶望の爆発。
だが、娘への言葉は酷すぎる。
スカイが立ち上がり、
「おい、ちょっと待てよ。娘に八つ当たりすんな」
と一歩踏み出す。
エリアスがスカイの手を握り、静かに制す。
「クライム、落ち着いて。ここは現地の事情……でも、レイネちゃんが可哀想ね」
レイネは涙を堪え、父親に頭を下げる。
「お父さん、ごめんね……明日からもっと頑張るから」
父親はため息をつき、レイネの手を引いて去る。
「もういい。帰るぞ……。」
扉が閉まる音が、重く響く。大使館の避難民たちも、
黙って見送る。スカイは拳を握りしめ、
「くそっ……あの父親、悪い奴じゃねぇんだろうけどよ。オアシスが減ったせいで、家族がバラバラだ」
エリアスが頷く。
「これがアル・ハラドの現実。水不足が、人を壊すのね。
クライム、私たちで解決しましょう。
レイネちゃんみたいな子を、救うために」
スカイの目が燃える。
「ああ。まずは情報収集だ。なんとか解決策を見つけよう。」
砂漠の夜が訪れる中、二人はレイネの小さな背中を思い浮かべる。
新婚旅行の第一夜――甘い時間より、解決の炎が胸に灯っていた。




