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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第48話 商会連邦ゴールドリーフ5



翌朝。



スカイがまとめた調査資料を手に、

エリアスとレオンはギャレンの工房を訪れていた。

 

薄曇りの空を透かして、魔導灯が淡い光を落としている。


「……これがゴールドリーフ大使館の集計結果です。」



 エリアスが差し出した分厚い紙束には、

びっしりと事故報告の数字が並んでいた。



「うへぇ……こんなにかよ。」



レオンが肩をすくめる。



「しかも内容が酷い。爆発、漏電、暴走……

全部“制御炉の調整ユニット”絡みね。」 




スカイは指先で資料をめくり、

あるページを開いてテーブルに置いた。



「問題の部品、

“製造委託工場”の一覧を照会した。

ここの名前、覚えがあるか?」



 ギャレンの目が止まる。

 

そこに記されていたのは――

《バロック製造所》の文字。



ギャレンは短く息を呑み、苦い顔をした。


「……やっぱり、奴らか」

 

声がかすれる。レオンが首をかしげた。


「知ってんのか?」



「ああ。昔、俺が自分の工場やってた頃の取引先だ。


いや、正確には……俺を潰した側だな。」



その言葉に、スカイとエリアスの視線が重なる。



「事情を、聞かせてくれませんか?」



エリアスの柔らかな声に、ギャレンは煙管を置いた。

煙も吸っていないのに、どこか遠くを見るような目で言った。



「あれはもう十年以上前になるか。


俺は当時、《アンダー工房》って職人工房を

経営してた。

技術だけは誇りだった。

部下が十人、どいつも腕が良かった。

毎日、魔力器の音と火花に囲まれてよ……、

誰もが笑ってた。」



ギャレンの口から零れた声は、

金属の擦れるような懐かしさを帯びていた。


「その中に若い管理担当がいた。

冷静で、仕事もできて、よく気の利く奴だった。

 

名前は――カイゼル・ブレイトン。


あの時は、俺の右腕だと信じて疑わなかった。」




名前が出た瞬間、スカイとエイラ、レオンの

表情が引き締まる。



 ギャレンは続けた。



「最初は順調だった。受注も増え、

工場も拡張して、やっと生活も楽になった。

でもな、欲が出たんだろう。俺は金を掴めば

何でもできると思っちまった。

遊興、賭博、葉巻、酒……

仕事そっちのけで無茶やってさ。」



 ギャレンは苦く笑った。


「それでも工場は回ってた。

カイゼルが裏で取り仕切ってくれてたからな。

だが、いつからだろうな……、

金が減っていくのが妙に早くなった。

仕入れも支払いも、帳簿が合わなくなって。 ある日、俺が気づいた時には、口座も金庫も

空っぽだった」



「まさか……」



「あぁ。全部、あいつが持ち逃げしたんだ。

下請け契約書まで偽造して、バロック製造所の名で勝手に取引を回してた。」 


ギャレンの拳がゆっくりと机を叩く。



「取引先も信用も、一晩で吹っ飛んだ。

俺は借金まみれ。工場を閉めて、部下も離れ……

気づいたら、このスラムで修理屋だよ。」


沈黙が落ちる。

レオンが何か言いかけたが、エリアスが静かに首を振った。


「……そのバロックが、今の欠陥部品の製造元ですね。」


「そういうこった。

てめぇで壊した腕を、今度は他人ごとみたい

に動かしてやがる。最低だ」




ギャレンの声には怒りと悔しさが混じっていた。


スカイが資料を軽く叩く。



「重役の中にその男が関係してる可能性は?」


「高ぇだろうな。あいつ、抜け目ねぇから。

裏で会社乗っ取りに絡んでてもおかしくねぇ」



「なら、もう一度確認してみましょう。」




エリアスがカバンから色付きの紙を取り出した。



一枚の大判ポスター――

《新世代大型飛行船アークグロリア披露式》と印字された広告だ。



「これ、今日掲示されたばかりのポスターです。

参加企業の欄にね……。」



 スカイがすぐにその名前を見つけた。


そして、横に立つギャレンの手が止まる。


「……カイゼル・ブレイトン。

アストラ・マギテック開発部 統括主任……」


その場の空気が変わった。



ギャレンの表情に浮かんだのは、

驚きでも怒りでもなく、ただ深い絶望の影。



「とっくに腐りきってやがる……!」

 


拳が机を打ち鳴らし、鈍い音が響く。 


レオンが堪えきれず声を上げた。


「そいつが全部の元凶ってわけか……!?」


「まぁ、少なくとも関係してるのは間違いねぇ。

だが証拠がねぇ。」


スカイが冷静に告げた。



「奴を表に引きずり出すには、“行動”が必要だ」


「行動、ね……」


ギャレンは息を整える。


「まさか……お披露目式に乗り込む気か?」



「いや、あくまで立ち入り調査だ。

俺たちは“安全監査”として潜り込む。

事故が起きる前に、確証を得る」



「……爆弾を抱えたまま飛ぶ気かよ、連中は」



「だからこそ止めるんだよ。」



 スカイは軽く笑い、風を切るように外套を翻した。


「俺たちの役目は、歪んだ歯車を直すことだろ?」 


その言葉に、ギャレンは一瞬だけ頬を緩めた。



「職人の言葉を取られた気分だぜ。

だがオレ達は無理だ。

1回本社に乗り込んじまったからな。

警戒されているだろう。それに招待されているのは他国の王族・貴族、そして金持ち連中だ。

オレ達スラム者は一生逆立ちしたって乗り込むのは無理だ。」




「マジかよ……」


レオンが歯ぎしりしながら俯いた。



外では夕陽が工房の窓を照らし、

金属の影が長く伸びる。

 

その光の中で、ギャレンが小さく呟いた。


「……あいつの名を、もう一度聞くことになるとはな」 



誰も、その先を言わなかった。

だが全員が、心のどこかで同じ予感を抱いていた。

 ――次に動く歯車は、きっと燃える。





スカイ達がギャレンの話を聞いていた頃、

《アーク・グロリア》の前に立つ男がいた。



──かつて、誰よりも現実的で、

誰よりも夢を語った男がいた。




名を、カイゼル・ブレイトンという。 



彼が初めてギャレン・アンダーと

出会ったのは、十七の頃だった。




当時、首都の機械学校を優秀な成績で卒業したばかりの彼は、

地方の工房に研修生として派遣された。


無骨な中年の職人が、口数も少なく、

自分の手だけを信じて歯車を磨く姿を見て――


カイゼルは心底、惚れ込んだ。


「この人みたいになりたい。」


若かった自分は本気でそう思っていたのだ。

当時からギャレンは腕が立ち、客からの信頼も厚かった。

貧しい街の出身ながら、努力と技術で仲間を食わせていた。



だが――それだけだった。

 やがて工場が拡張し、金が入る。

 


酒、博打、女、快楽。


目標を失った男が堕ちていく様を、

カイゼルは無言で見つめた。



「技術だけあっても、何も変わらないんだな。」


その瞬間、彼の心で“別の歯車”が回り出した。


ギャレンの誇りを「愚かさ」だと決め、

立身出世こそが“正しさ”だと信じるようになった。 


それからのカイゼルは、手段を選ばなかった。



帳簿を操作し、名義を偽造し、他人の成果を

自分の物に変えた。


利用価値のある者は褒めて使い捨て、

邪魔者は失脚させた。 


すべては、「堕落する前に勝つ」ため。 



そして、その背中を押したのは──

この世界の“幸福数値”と呼ばれる制度だった。 

この世界で十五歳になると、誰もが幸福の値を数字として刻まれる。


高い数値の者は善人と呼ばれ、優遇される。

低い者は劣者の烙印を押され、門前払いされる。


貴族や上級職には、満月の夜に相手の幸福数値を見抜く「碧眼の血」が流れていた。 

カイゼルは少年の頃から、その数値に怯えながら育った。

 

彼の幸福数値は成人してないから見えるわけがない。


だが、どんなに努力しても、

首都の貴族子弟には勝てない。



そんな現実が、彼を歪めた。 



だからこそ彼は、幸福数値を“生まれ”で決まる運命とし、


自力で上に行くための代わりとして金と権力を握ろうと決めたのだ。

 工場の金を奪ってから時が流れ、彼はアストラ・マギテック社に正式採用された。

商会連邦でも屈指の巨大企業。

 


大量の魔導技術を支える仕組みの影で、

彼は誰にも気づかれぬよう裏取引を重ねた。 手を汚せば汚すほど、出世も早まる。

 

善人ぶった連中が立ち止まる間に、

自分は前へ進むだけ。幸福数値なんて偽りだ。



「俺は“有能”であることだけを信じる。」



それが彼の信条になった。 やがて、数年前。

世界を震撼させた数値教テロ。


カイゼルはその惨劇を見て、恐ろしくも確信した。 

――高い幸福数値を誇るはずの“正義”が、

一夜で何千人もの人生を殺したのだ。 



人はただの“幸せ”では救われない。




なら俺は、汚くてもいい。結果を残す。成功を掴む。それこそが、真の生存者だ。


その信念が、もう彼を完全に人間から遠ざけていた。


「準備は整いました、主任。」



部下の報告に、カイゼルは頷く。

新世代大型飛行船 《アークグロリア》。


各国貴族と王室関係者を招き、空を巡る一大プロジェクト。 

自分が開発責任者として成功させれば、今度こそ中枢に上がれる。

会社の重役、ひいてはゴールドリーフの政商の座も手にできる。



もはや誰も――“あのスラムの工場主の弟子”だなんて思わない。


「これで終わりだ、ギャレン。

俺は、お前みたいな“誇りだけの人間”にはならない。」 



カイゼルは窓から、テスト飛行中の飛行船を見た。

白銀の車体が太陽光を返し、空気を切り裂くように進んでいく。 

彼の肩越しに映るその光景は、まるで神の祝福のようだった。

 


だがその下で、うっすらと魔力炉のエネルギー警告灯が点滅していることに気づく者はいなかった。



 ――それが破滅の火種とも知らずに。









ギャレンの工房では、重たい沈黙が流れていた。


「……乗り込む方法は、無いな」


レオンも目を瞑って上を向く。


「だよなぁ。あんな式典、庶民じゃ入れねぇ。」


ため息をつくギャレンとレオンに、

スカイが顎に手を当てて言った。



「いや、方法が一つある。かなりの“裏技”だが」


「裏技?」



スカイが悪戯めいた笑みを浮かべた。 




そして、数日後―― 

アーク・グロリアお披露目式当日。


黄金の街ゴールドリーフの中央広場に、

世界各国の記者と来賓が集う。



その中に、堂々と姿を現す二人がいた。 



王国宰相、スカイ・エニーフィート。


その妻であり、王国女王、

エリアス・フォン・エニーフィート。



華やかな拍手と歓声の中。

 


その後方を、落ち着かない様子で歩く二人がいた。

 

胸元の記章には「王国技術研修大使」の文字。

 


ギャレン・アンダーと、レオン・グリムウェル。


2人のネームプレートは偽名だった。


「……マジで乗り込むことになるとはな。」


「おい、背筋伸ばせ。王国女王夫婦の後ろだぞ。」


「言われなくても緊張してんだよ……!」 



遠く、天空にはアーク・グロリアが堂々と浮かぶ。


その内部で、光と影、誇りと野心がぶつかり合う運命を、



誰もまだ知らなかった――。




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