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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
42/51

第39話 紫雲東方帝国9



紫雲宮廷の地下水道を抜け、帝都郊外の古い蔵敷にたどり着いた一行。


盧玄清が事前に用意していた隠れ家は、

埃っぽいが暖炉の火が灯り、

簡素ながらも水と食料が整っていた。


スカイはようやく緊張から解放され、

ホッと深いため息をつく。



汗と埃にまみれた顔を拭き、エリアスの方へ向き直る。


スカイは感謝の笑みを浮かべ、


「いやー、エリアス。本当に助かったぜ。

お前が来てくれなかったら、マジでオレはこの国で一生蓮姫に飼い殺しのままで終わってた…

マジでありがとな!」




だが、エリアスはジト目でスカイの顔を

ジーッと見つめ――無言。


金髪の隙間から覗く瞳が、何かを見つめるように鋭い。


スカイはオロオロしだして、


「エ、エリアス? どうした? 

オレの顔に何か付いてるか?

…おい、エリアス?」



エリアスはゆっくりと懐から真っ白なハンカチを

取り出す。スカイの顔に近づき――


突然、スカイの唇をグイグイ擦り始めた。


「うわっ!? 何!? 何すんだよ急に!?」


エリアスは無表情でゴシゴシと擦り続ける。


「…」


ハンカチの摩擦音だけが響く中、

エリアスの手つきが徐々に強くなる。

やがてスカイは痛がり始める。


「いてっ! 痛いって! 

ちょっと待て、エリアス!

このままじゃ唇裂けるって!!!」




ようやくエリアスが手を止め、

不満げながらもボソッと呟く。


「…こんなとこか。

まだ納得できてないけどね。」


そして次の瞬間――

スカイの唇にエリアスが

熱いキスを押し付ける。


「んむっ!?!?」


スカイは目を丸くして固まる。

柔らかく熱い感触。隠れ家の暖炉の火が、

二人のシルエットを赤く染める。



その光景を、ちょうど水差しを持って

戻ってきた蓮姫がガン見。



「あーーーーーーーっ!!!」



口をあんぐり開け、悲劇のヒロインさながらに両手を振り上げる。


「妾のファァァーストキスがーーー!!!

スカイの唇が…

妾のキスから上書きされてしもたぁぁぁ!!!」



水差しが床でコロコロ転がり、

蓮姫はコミカルな絶望のあまり床に崩れ落ちる。



エリアスはキスを終え、ゆっくり振り返る。

唇を指で拭い、フフンと勝ち誇った微笑。

ドヤ顔全開で、



「何がファーストキスよ。

スカイの初めてのキスも私がしたし、

私のファーストキスもスカイに捧げたのよ♡


ゼストールを倒した後、

お互いの愛の告白と、プロポーズを受けて…

二人きりで交わした、あの熱い約束のキス♡

あれが本当のファーストキスよ!」



蓮姫、床をバンバン叩いて悔し泣き。


「う、うそじゃ!!!

こんなあっさりと妾との結婚の約束のキスを台無しにしよって!!

妾の初めてをスカイに捧げたのじゃぞ!?

こんなの納得できん!!!」

 


エリアスは鼻で笑う。


「納得しようがしまいが関係ないわ!!

あなたのはただスカイに押し付けただけじゃない。

本当の愛の差の次元が違うわ!」



蓮姫立ち上がって食ってかかる。


「愛の差がなんじゃっ!!

あのままスカイを諦めれば良かったものを……、

やはり最初から叩き出すべきじゃった!!!」


二人の間に、再び火花が散る。

スカイは巻き込まれないよう後ずさり。


「…やれやれ、また始まった…

でもさっきのキスは…マジで熱かったな…」


とスカイは照れながら、自分の唇を触る。


暖炉の火がパチパチと音を立て、三人の運命の夜が始まろうとしていた――



エリアスと蓮姫のファーストキス論争が

ヒートアップする中、


二人の言い争いをよそに、

暖炉の影で静かに盧玄清ロ・ゲンセイが動いた。

スカイの方へゆっくり歩み寄り、

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。



変装の銀髪貴族から、

かつて宰相を務めた男の本物の眼光が覗く。


「改めて名乗らせてもらおう、スカイ殿。

紫雲東方帝国元宰相相談役、盧玄清ロ・ゲンセイだ。」



盧玄清ロ・ゲンセイの不敵な笑みに、

全てを理解したようにスカイもニヤリ。



盧玄清ロ・ゲンセイは今回の関係を説明する。


「今回の件は、我等の革命と、エリアス殿の

利害が一致した故の協力関係だ。


スカイ殿にもこの革命に加わっていただければ…

まさに千軍に値する心強い味方となる。」


とスカイに右手を差し出す。




スカイ、迷いなく盧玄清ロ・ゲンセイの手を

ガッチリと握り返す。


「こちらこそ、スカイ・エニーフィートだ。

おかげであの状況から命からがら脱出できた。

心から感謝するぜ。


この国、あの女尊男卑社会を見てて思ったよ。

『不満が無い方がおかしい』ってな。

やはり反体制派はいたんだな。

あの紫蘭華(シランカのやり方は、正直俺も我慢ならねえ。


助けられた借りは返す。力を貸すぜ、盧玄清ロ・ゲンセイ)殿!」



パン!と握手が響く。

隠れ家の粗末な木床が、二人の決意に震えるようだった。



握手を解き、盧玄清ロ・ゲンセイ)は満足げに頷く。

しかしその瞳には、深い洞察の光が宿っていた。


「いや、それにしても…嬉しい誤算だった。

紫蘭華シランカ)は自分に酔いつぶれてどうにもならんが、

あの自由奔放な蓮姫から、

まさか『国を良くしたい』という言葉を聞けるとはな。


夜宴での最初の挨拶で我の意図を

即座に察してくれたことといい、

そして蓮姫との信頼関係…全て見てれば分かる。

やはりスカイ殿が蓮姫に働きかけたのだな。」




スカイはドヤ顔で肩を竦める。


「ああ、その通りだ。

オレも味方を作るために、蓮姫の影響力を

利用させてもらった。


花嫁講座で現実の数字を見せつけ、

『お前が皇帝になったらどうなるか』を

考えさせたんだよ。


この国で皇帝の座に近いのは、

今の紫蘭華シランカ)を除けば蓮姫だ。

紫蘭華シランカ)の統治で生まれる歪みは、

いずれ跡を継いだ蓮姫に襲いかかる。

それを蓮姫自身に見せつけて、

目を覚まさせたってわけさ。」



盧玄清ロ・ゲンセイ)は、自分が何年かけてもできなかったことを、軽々とやってのけた男に、

悔しさと賞賛が交錯した苦笑を浮かべる。


「…苦笑するしかないな。

我が紫霞武館で蓮姫に何年も教えても届かなかった心に、お前は数日で楔を打ち込んだ。

見事だ、スカイ殿。」



だが、スカイの表情がふと深刻に変わる。

遠くで言い争いを続ける蓮姫をチラリと見て、呟く。



「しかしよ…仕方なかったとはいえ、

蓮姫まで攫っちまったのはな…」



暖炉の火が一瞬強く揺れる。



「愛娘を失った紫蘭華シランカ)が、

何をしてくるか考えるだけで怖えよ…


幸福数値に絶対の自信持ってる女帝が、

初めて本当の恐怖を味わった時の行動が読めねえ。


民を巻き込んだ大規模捜索か、

蓮姫の命を盾にした交渉か…

どっちにしろ、尋常じゃねえことになりそうだ」



盧玄清ロ・ゲンセイ)も、同じ不安を共有するように頷く。


「その通りだ。紫蘭華シランカ)は数値の女帝。

感情で動くとは思えん。だが娘を失った時、

数値の外にある何かに触れたはずだ。

そこが綻びになるか…それとも最悪の逆転劇を生むか。

いずれにせよ、我々の次の手が試されるだろう。」



二人の視線が、暖炉の炎を見つめる。

遠くで続く蓮姫とエリアスの喧騒が、

まるで嵐の前の静けさのように響く――




紫雲宮廷・華宴の間


脱出直後割れんばかりの悲鳴と怒号が響き渡る中、


招待客たちが出口へ殺到する混乱の中心で、

紫蘭華(シランカ)は玉座から立ち上がり、初めて見せる動揺を隠しきれずにいた。



完璧な女帝の仮面が、僅かにひび割れる。



紫蘭華シランカは声を震わせ、


「…蓮姫が…攫われた…?

私の愛娘が…盧玄清(ロ・ゲンセイ)、反逆者に…!?」


隣に控えていた女官長――盧婉蓉(ロ・エンニョ)が、

青ざめた顔で進み出る。



女官長・盧婉蓉(ロ・エンニョ)は震える声で、


紫蘭華(シランカ)様…! 

私が…私が帝都全域の女官と女兵士を総動員し、

ただちに姫様を捜索に…!」



紫蘭華(シランカ)はその言葉を聞くや否や、鬼気迫る眼光で玄芳を射抜く。


優雅な扇を握り潰し、歯を食いしばる。

そして怒りに震え、


「総動員? 今すぐだ!

帝都の全ての女官、全ての女兵士を動員しろ!

門を封鎖し、民家を掻き分け、下水道のネズミの穴までひっくり返しても良い!

私の蓮姫を連れ戻せ!!!」


女官長・盧婉蓉(ロ・エンニョ)紫蘭華(シランカ)の殺気に気圧されながらも一礼。


「…承知いたしました。ただちに出動を命じます」



だがその瞬間――紫蘭華(シランカ)の視線が、


盧婉蓉(ロ・エンニョ)の顔に留まる。

かつての忠実な女官長、盧玄清(ロ・ゲンセイ)の娘。

その存在が、今は爆弾と化した。




紫蘭華(シランカ)は冷たく、氷のような声で



「待て、婉蓉(エンニョ)。お前の父がこの反乱を企てた。

お前を人質として使うのは明白だ。

帝都へは行かせん。お前達、婉蓉(エンニョ)を即刻監禁しろ。これは命令だ」




盧婉蓉(ロ・エンニョ)の顔から血の気が引く。周囲の女官たちが息を呑む。



「…紫蘭華(シランカ)様…? 私が…監禁…?」



紫蘭華(シランカ)は容赦なく、


「動揺するな。忠誠を証明する時だ。

お前の父の罪を、お前が償うのだ。

引きずって地下牢へ!」



女兵士たちが即座に動き、

婉蓉(エンニョ)の手首に冷たい鉄の枷をはめる。

抵抗する間もなく、床を引きずられる盧婉蓉(ロ・エンニョ)

その目には涙が流れていた。




紫蘭華(シランカ)様…! 私は…ずっとお仕えして…!」



しかし紫蘭華(シランカ)は冷酷に背を向ける。


「黙れ、私を否定する者は捨てる。

関係者もそれは同じ。それが私の統治だ」




盧婉蓉(ロ・エンニョ)を引きずる女兵士たちを見送りながら、

周囲にいた女官たちの間に動揺が広がる。


女官の1人は震える手で扇を握り


「女官長が…監禁…?」



他の女官も小声、恐怖に顔を歪めて、


「あの婉蓉(エンニョ)様を…あっさり切り捨てて…

私たちも…いつ人質にされるか…」




他の女官に囁く声も、


紫蘭華(シランカ)様…ここまでするなんて…

幸福数値トップの女帝が、こんな…冷たい統治を…?」


女官たちの視線が、

初めて紫蘭華(シランカ)の背中に疑念の色を帯びる。

完璧な忠誠を誇っていたはずの女帝の側近たちが、

僅かな隙間を見せ始める。



紫蘭華(シランカ)は背後で女官の囁きを聞き、


「…何を囁いている?」





誰も答えられず、沈黙が広がる中――女官長代理(強がって)


「ただちに帝都へ捜索に出ます、紫蘭華(シランカ)様!」



紫蘭華(シランカ)は苛立ちを扇で叩きつけながら。


「遅い!! 私の蓮姫を今すぐ連れ戻せ!!!」


女官・女兵士たちが慌てて宮廷を飛び出し――

帝都全域を覆う、大捜索の夜が始まった――



紫雲宮廷から殺到した女兵士部隊200名が、

松明と剣を手に広場を封鎖。


「姫捜索令」を受け、民衆を押し退けながら怒号を上げる。


女兵士隊長・紅蓮は拡声魔法で、


「全市民に告ぐ!

我らが蓮姫様が盧玄清(ロ・ゲンセイ)の反逆者に攫われた!

不審者を発見次第即拘束!抵抗者も即拘束、

最悪、殺しても構わん!

帝都全域を封鎖、侵入班の脱走者を必ず生け捕りにせよ!」



民衆が悲鳴を上げて逃げ惑う中――

ちょうど広場で「男の権利回復」抗議デモ中だった陽動班(趙昇明チャオ・ショウメイ率いる約200名)と鉢合わせ!




趙昇明チャオ・ショウメイは、


「おお!来たな! 盧玄清ロ・ゲンセイ殿の侵入班を追ってやがる!


同志たちよ、ここで時間を稼ぐぞ!

侵入班の脱出を援護する!」



陽動班一同は雄叫びを上げた。


「幸福数値は嘘だー!!!」


「男にも自由の権利をー!!!」


紫蘭華シランカの女尊男卑をぶっ潰すー!!!」


「俺達の妻や娘を返せー!!!」



抗議のプラカードを振り上げ、女兵士部隊へ突進!



女兵士たちが抗議デモ隊を見て、即座に剣を抜く。



盧玄清ロ・ゲンセイ)の差し金かっ! 

蓮姫様をどこに隠した!?」




陽動班の1人は困惑した。


「は!? 何!? 姫を隠した!?」



別の女兵士は棍棒構え、


「言い逃れは無用だ! 姫様を返せ!

お前らが盧玄清ロ・ゲンセイと共謀して宮廷を荒らした反逆者だろ!?」



趙昇明チャオ・ショウメイは雷鳴のような声で、


「ふざけるなー!!!

オレたちが蓮姫を攫っただと!?

あらぬ罪を着せる気か!!!

紫蘭華シランカはそこまで堕ちたのか!!!」



陽動班の怒りが爆発!

プラカードを盾代わりに構え、女兵士に突進。



陽動班一同の怒号がこだまする。



「女だけで国は回らねえ!!!」


「幸福数値は偽装だー!!!」


「男に飯屋の仕事すら奪うなー!!!」





女兵士隊長・紅蓮は剣を振り上げ


「黙れ反逆者ども!姫様を返せ!! 

抵抗するなら容赦はせん!!!」



ガキン! ズシャア!



棍棒と剣が激突し、火花が散る。

広場の石畳に血が飛び散り始める。




現場が乱闘状態になる中、


趙昇明チャオ・ショウメイは状況を瞬時に理解。


「侵入班が追われている。

つまり、このまま時間を稼げば勝ちだ!」


と確信し、拡声魔法を全開にして女兵士をさらに煽り立てる。


「見ろ同志たち! 

こいつら女兵士が認めちまったぞ!

紫蘭華シランカの治世で男は飯屋の雑用等の奴隷、

女は優遇されてきた現実を!

『姫捜索』とか言いつつ、本音は俺たちを潰したいだけだ!


紫蘭華シランカの偽りの幸福数値を守るために、

俺たちを皆殺しにする気だぞ!!!」



女兵士は趙昇明チャオ・ショウメイの言いがかりに激怒。


「何だと!? 反逆者が!」




その時、通信石から撹乱班リーダー林秋水リン・シュウスイが、


「情報だ! 紫蘭華(シランカ)が女官長、

盧玄清ロ・ゲンセイ殿の娘を監禁したぞ!

忠臣すら切り捨てる暴君だ! 

俺たちが正義だ!!!」



女兵士たちは動揺と激怒の駆られた。



盧婉蓉ロ・エンニョ様を!?」


「そんなはずない!」


「嘘でしょう!?」



女兵士たちの間に僅かな動揺が走るが、


隊長の怒号で即座に掻き消される。


「動揺するな!こいつらが姫様を攫った反逆者だ!

拘束しろ!!いや、最悪皆殺しにしろー!!!」


棍棒と剣がぶつかり合う音、

民衆の悲鳴、抗議の怒号、女兵士の殺到――

中央広場は完全な戦場と化す。


市場の露店が倒れ、果物が飛び交い、

松明が転がり火が広がり、

逃げ惑う民衆が女兵士と陽動班の双方を罵倒し始める。


「どっちもどっちだー!!」



「街を壊すなー!!」



紫蘭華シランカのやり方はおかしいぞー!!」




趙昇明チャオ・ショウメイは乱闘の中心で高らかに笑う。

まるで勝利を確信したように、


「完璧だ!!!

この混乱で紫蘭華シランカの手は完全に止まった!

盧玄清ロ・ゲンセイ殿、侵入班諸君! 俺たちが時間を稼ぐぜ!!!」



広場の石畳に血が広がり、帝都全体を覆う大混乱は朝まで続いた――。





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