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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
37/51

第34話 紫雲東方帝国4



スカイが蓮姫達に「花嫁講座」を提案している頃、


エリアスは、地下にいた。




紫霞武館・地下通路


冷たい水音が反響する地下水道。

苔むした石壁には帝国の刻印が薄く残り、

松明の炎がゆらめく影がエリアスの金髪を不気味に染める。


盧玄清ロ・ゲンセイが松明を掲げ、先を歩く。背中は痩せているが、歩みは確かだ。


「この水道は、紫雲建国200年時のものだ。

迷路のように入り組んでいるが、


我々の密輸路、連絡網、武器庫……

全てここを通っている。」





盧玄清ロ・ゲンセイの背中を追うエリアスの胸は、鉛のように重い。



(蓮姫のあの言葉……耳障りなほど正確だった)


エリアスは黙って後ろを歩くが、

心の中は嵐だった。




エリアスは蓮姫の、




「あなた、スカイがいなければ何もできない顔ね♡」




と言う言葉が頭から離れなかった。


エリアスは思い返していた。



3年前の数値教テロの炎の中では、


「スカイがいなければ、私では止められなかった……。」


ゼストール戦でも、


「あなた無しじゃ戦えない」と泣き崩れた自分。



エリアス心の声が響く。


(確かにあの時、プロポーズに私は言ったわ。

 『スカイがいなければ何もできない』

って……。


でも、だったら今の私は?

砂漠国もマリナスもグランゼウムも、

結局スカイ主導で……。)




自嘲の笑みが漏れる。新婚旅行の計画すら、

「スカイがメイン、私が助手」と自分が提案

した事実が胸を抉る。



エリアスは呟く。


「ずっと……、

ただスカイのお荷物だっただけ?」



その時、盧玄清ロ・ゲンセイの声が暗闇を切り裂く。


「どうした、エリアス殿。顔が青いぞ。

流石に女王陛下には、この汚い地下など我慢ならんか?」



侮辱に近い口調に、エリアスの金髪が逆立つ。



エリアス鋭い目で睨んだ。


「心配無用よ、盧玄清ロ・ゲンセイ殿。

スカイを助けるためなら

下水だろうが地獄だろうが平気。

それより聞きたいことがあるわ。


あなたたちがクーデターを起こして

自由を取り戻したいのは分かる。

でもその先は?」


盧玄清ロ・ゲンセイは足を止め松明を掲げる。


炎が二人の顔を照らす。


エリアスは畳み掛ける。


「計画では男女の力関係を均等にするつもりでしょう?

でも、男女均等?笑わせるわ。


この国の女性たちはもう優遇された自由の味を知ってしまったの。


前政権の亭主関白に戻して、

果たして彼女たちが本当に我慢できると

本気で思ってるの?反乱が起きるわよ!」



盧玄清ロ・ゲンセイは僅かに目を細め困ったように笑う。


「…くっくっく、

耳の痛いところを突いてくれる。

さすが世界サミットで調停者と呼ばれただけのことはある。


藪の中で蛇を見つけた気分だな」



ふっと表情を改め、前を見据える。


「確かに厳しい立場だ。クーデターを望む同志は多い。


 だが…紫蘭華シランカの治世で、

私はある恐ろしい真実に気づかされた。」



エリアスは警戒する。


「真実…?」



松明を石壁に立てかけ、盧玄清ロ・ゲンセイが苦い思い出を思い出す様にゆっくり語り出す。


私もかつて宰相の身だった。

それ故に紙の数字に囚われていたよ。


 だが実は、兄ワンの時代から…

女たちの恐るべき才能を見てきた」



エリアスは眉を寄せる。


「才能…?」




盧玄清ロ・ゲンセイは感慨深げに


「あぁ、帝都視察で、

私と同じ解決策を即座に口にする女。

 

兄の夜宴で、

一流遊女が歌・琴はもとより政治談議で渡り合い、囲碁で私を引き分けた者までいた。

あの紫蘭華シランカも、正妻に甘えず学を求めていた」



エリアスは息を呑む。


「それが…」


「実権を握った瞬間、紫蘭華シランカ)は全てを奪った。


遊女を含め、有能な女たちを自分の手元に集めた。


紫雲宮廷の男共は、私も含め追い出され地位を奪われた。


スカイ殿が攫われた時、飯屋で感じただろう?

あの違和感、あれは店主を除いた元の女性

従業員の男女を、その家族に無理矢理

入れ替えさせられた結果なのだ。


そして、女は紫蘭華シランカの庇護に入り、

そうして男たちだけを無理やり接客業に就くハメになった。」


水滴の音が響く中、最も衝撃的な事実。


盧玄清ロ・ゲンセイを鬼気迫る声で、


「だが…それ以上に最も恐ろしいことは、

紫蘭華シランカの『幸福数値』が、前皇帝・王を

この3年で超えつつあるのだ!」



エリアスは絶句した。


「幸福…数値…!?」



「お前も知っているはずだ。

この世界の呪い…15歳になると現れる数値。


世界にとって有益なら上がり、

逆に有害なら下がる、あの忌々しい数字だ」



エリアスの声が震える。


「満月の夜、王族・貴族そして特権階級だけが見える……数値教の元凶……、

私とスカイが憎んでいる数値差別の……源!!!」



盧玄清ロ・ゲンセイは吐き捨てる。


「満月の鏡に映る自分、または他人の頭上の数字。

紫蘭華シランカはそれを根拠に、

『私が世界最も幸福な支配者』と豪語している。

 

女たちの支持率、生活向上率、出生率…

全てがそれによって彼女の幸福数値の

過去最高を記録しているのだ」



石壁に拳を打ちつけ、水滴が跳ねる


盧玄清ロ・ゲンセイは悔しげに


「皮肉だ。紫蘭華(シランカ)の復讐によって男たちが

初めて知った『女性の有用性』……。


料理、掃除、接客を男家族でやらされて、

『妻や娘たちの苦労』を痛感させられた。

イスに座る女客は、側に立つ男性の

家族たちなのだよ!」



エリアスは呆然と立ち尽くした。


「そんな…まさか…」


盧玄清ロ・ゲンセイは鋭い目で前を向く。


「だが、そんな紫蘭華シランカの治世にも綻びが出始めた。

あの女は自分の数字と今の地位に囚われ、

不満分子を隠蔽し、幸福数値だけを水増ししている。


ならば我々は、その偽りの数字を暴くまでだ!」


盧玄清ロ・ゲンセイは松明を手に、再び歩き出す。


「集合地点は近い。各担当者と作戦を練る。

ともに来い、エリアス殿。スカイ殿奪還と

この革命を成し、この呪いの数字を正す鍵となれ。」



エリアスは複雑な思いを抱えて後に続く。


「幸福数値…本当に紫蘭華シランカが正しいなら、

クーデターは間違い?


 でも、それじゃあスカイを奪還できない…!!

そして、そしてこの数字の真偽を確かめなきゃ…!」


暗い地下水道を、二人の足音だけが響き続ける。



地下水道を抜けると、ひんやりした空気がふっと変わった。



行き止まりかと思えた石壁の一部が、

盧玄清ロ・ゲンセイの合図で静かに横へとスライドする。


その先には、広めの地下空間――

粗末な木机とランタンが並べられた、

即席の会議場があった。


「……遅いぞ、玄清ゲンセイ。」


最初に声を上げたのは、

頬に刀傷のある壮年の男だった。


背は高く、鍛え抜かれた体つき。腕には古い武官の紋章が巻かれている。その男だけではない。

簡素な鎧をつけた元兵士らしき男、商人風の中年、地図を広げた書記官ふうの青年――


十数人の男たちが、


入口に立つエリアスを一斉に見た。


空気が揺れる。


「女……?」


「まさか敵か!?」


玄清ゲンセイ殿、一体どういうおつもりか!」


ざわめきが一気に広がる。

警戒、戸惑い、苛立ち――


そのすべてがエリアスの肌に刺さった。


(……歓迎されてはいない、わね。)


エリアスが息を吸いかけた時、盧玄清ロ・ゲンセイが一歩前に出る。


「落ち着け」


声は静かだが、よく通った。


「この方は異国の客人にして、我らの協力者だ。

噂くらい耳にしているだろう? 

“世界サミットの調停者”にして、


“王国の英雄”スカイの伴侶

――エリアス殿だ。」


「「「……!」」」


男たちの表情に、驚きが走る。


「数値教テロ止め、“幸福数値狂信”に楔を

打ち込んだ女だ。


今宵の計画で、最も危険な役目を担う者でもある。」



盧玄清ロ・ゲンセイの言葉に、ざわめきが鎮まっていく。


刀傷の男が、じっとエリアスを見据えた。


「……あなたが、あの時の“調停者”か。

 ならば、多少は信じてやってもいい」


エリアスは一歩進み、頭を下げる。



「エリアスよ。

私の目的はスカイを取り戻すのが第一。

だけど、それだけじゃ終わらせないつもり。

 

――この国の歪みも、一緒に正す手伝いをさせて」


短い言葉だったが、その瞳には迷いがなかった。


刀傷の男は、口の端を少しだけ上げた。


「元近衛隊長、姜烈峰ジャン・リエンフォンだ。

 正直、女に頼るなんて真っ平ごめんだが……

 紫蘭華シランカの世になってから、それを言ってられないのもよく分かってる」


烈峰リエンフォン、挨拶はそのぐらいにしろ」


盧玄清ロ・ゲンセイが手を打ち鳴らす。


「これより、夜宴に合わせた

行動計画を最終確認する。

 各担当、前へ。」


木机に広げられた簡易地図


――紫雲宮廷と華劇場、その周囲の配置。


盧玄清ロ・ゲンセイがランタンを近づける。


「まず、夜宴の舞台だが――」



盧玄清ロ・ゲンセイは、地図の一点を指さした。


紫蘭華シランカが夜宴を開く“華宴の間”と、その隣接区域“華劇場”。


蓮姫はおそらくスカイ殿を華劇場側に連れ出す。

我々の作戦は、その動線を利用する。」



木机の向こう側から、商人風の男が手を挙げた。


「では、各担当――確認を」


盧玄清ロ・ゲンセイは指を一本ずつ折りながら言う。


1. 侵入班


「まずは侵入班。

 華宴の間と華劇場に直接入り込み、

標的――スカイ殿と蓮姫の居場所を押さえ、

必要であれば迅速に奪還に移る役目だ。」



姜烈峰ジャン・リエンフォンが胸を叩く。


「侵入班頭は俺、姜烈峰ジャン・リエンフォン

 元近衛として、宮廷内の裏通路は熟知している。


 ……そして、ここにいる“異国の王女殿下”が同行する。」



「異国の王女はやめなさい」


エリアスは眉をひそめるが、すぐに頷く。


「侵入班、了解。

スカイの位置を確認して、最短で接触するわ」


盧玄清ロ・ゲンセイが補足する。


「エリアス殿には、“外交使節の代表”の名目を与える。

 

世界サミットの調停者として、

夜宴に『招かれた』ことにする。


堂々と正面から入り、裏で烈峰リエンフォンが合流する手筈だ」


エリアスは胸の内で呟いた。


(スカイ。今度こそ、私が迎えに行くから)



2. 陽動班


「次に、陽動班」


若い武人が一歩前に出る。


まだ若いが、目には決意の炎が宿っていた。


「陽動班頭、趙昇明チャオ・ショウメイ

 俺たちは、華宴の間の外庭で“男達の抗議集会”を起こす。

 

紫蘭華シランカの警備を外へ引きずり出す役だ。」


エリアスが目を細める。


「危険ね。鎮圧される可能性も高い。」


「望むところさ。」昇明ショウメイは笑う。


「どうせ、黙ってても人生は搾り取られるだけだ。

だったら、怒鳴って殴られて牢屋に

放り込まれた方が、よっぽど気分がいい。」



盧玄清ロ・ゲンセイが口を挟む。


「暴徒ではない。“不満の可視化”だ。

幸福数値を誇る紫蘭華シランカに、実際の

不満を見せつける。」





3.撹乱班


「三つ目、撹乱班」


地図の隅で黙っていた書記官ふうの青年が、すっと手を挙げた。


「撹乱班、林秋水リン・シュウスイ

我々は宮廷内の連絡路と魔導通信を混線させる。

誤報を流し、警備兵たちを別方向へ

誘導するのが役目だ」


「魔導通信を?」


エリアスが興味を示す。




秋水シュウスイは、照れくさそうに笑う。  


紫蘭華(シランカ)の治世で、

女官たちに魔導通信の術式を教えていたのは俺だ。

教えた側は、抜け道も知っている」


盧玄清ロ・ゲンセイが満足げに頷く。


「撹乱班の仕事が成功すれば、

侵入班と陽動班の生存率は飛躍的に上がる。

秋水シュウスイ、頼んだぞ」




4.援護・待機班


「最後に、援護――待機班」


商人風の男が、胸に手を当てた。


「援護班代表、馬雲徳マー・ウンデ

我々は帝都各地に逃走経路を用意し、

失敗した場合の避難路と食糧・金の手配を

担当する」


「逃げ道ね」 


エリアスが小さく笑う。



「クーデターって、

綺麗に成功する前提の作戦ばかり見るけど……

 失敗した後のこと、ちゃんと考えてるのは好感が持てるわ」


馬雲徳マー・ウンデが肩を竦める。


「商人は常に最悪を想定するものさ。

……勝っても負けても、生き残らないと

“次の手”は打てないからね」


盧玄清ロ・ゲンセイがまとめるように手を組んだ。


「以上が、四つの役割だ。

侵入・陽動・撹乱・援護――

この四枚の札を夜宴当日、一気に切る。」



盧玄清ロ・ゲンセイが、改めてエリアスを見る。


「エリアス殿。

あなたは“侵入班”として、スカイ殿の奪還と、

紫蘭華(シランカ)と蓮姫の“本心”を見極める役目を担う。」


「本心?」


「幸福数値に酔っているのか、

それとも自分の手を血で汚している自覚があるのか。

 

――見極めてほしい。調停者として、


女でも男でもなく“第三の目”として」


エリアスは、静かに息を吸った。


(スカイに言われた。“お前が一番大切だ”って。

あの言葉に甘えっぱなしだったのは、私の方かもしれない)


握った拳に、力が込もる。


「分かったわ。侵入班、エリアス。

 スカイを連れ戻して――

この国の“嘘の幸福”も暴いてくる」


姜烈峰ジャン・リエンフォンが、不敵に笑った。


「頼もしいじゃないか。

当日は派手にやろうぜ、調停者殿。」




会議が終わり、各班が散っていく。

松明の灯りがひとつ、またひとつと遠ざかる。



盧玄清ロ・ゲンセイとエリアスだけが、その場に残った。


「エリアス殿」


盧玄清ロ・ゲンセイがぽつりと呟く。


「さっき問うたな。クーデターのあとを、どうするつもりかと」


エリアスは頷く。


「ええ。紫蘭華(シランカ)を倒して男の時代に

戻すだけなら、ここに来た意味はないわ」


盧玄清ロ・ゲンセイは、ふっと小さく笑った。


「安心せよ。私は“男の時代”を取り戻したいわけではない。

 私は――“数値に縛られない時代”を見てみたいだけだ」


「数値に、縛られない……?」 


「世界が勝手に決めた幸福の数字に、

誰かの人生が評価されるなど、本来は馬鹿げた話だ。

だが、その馬鹿げた数字を信じてしまったのは、我々人間の方だ」



盧玄清ロ・ゲンセイは、遠くを見る目をした。


「だからこそ、紫蘭華シランカに“現実”を見せねばならん。

 

数字では見えぬ

不満と悲鳴と……そして、希望もな」



エリアスは、その言葉を胸に刻んだ。



(スカイ。あなたがいつか、

“幸福数値そのものを壊す”日が来るのなら――

 私は、その前座くらいにはなってみせる)



盧玄清ロ・ゲンセイがマントを翻す。


「行こう、エリアス殿。

紫雲東方帝国の歴史に、

ひとつの大きな傷を刻みに行く。」



エリアスは静かに頷き、

闇の中を歩き出した。

向かう先は、豪奢な宮廷――



そこに囚われたスカイと、

幸福数値に縛られた女帝と姫が待つ場所だった。





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