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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
36/39

第33話 紫雲東方帝国3


エリアスが大使館職員から改革案の巻物を

受け取った直後、外交官が慎重に次の提案を

する。


「ただ……我々の力だけでは足りません。

信頼できる“実力者”が必要です。

その人物を、今からご紹介しましょう」


巻物に挟まれた小さな紙片には、

住所と合言葉が記されていた。


「『紫霞残照、誰が為に燃ゆ』」


――詩的な暗号。




「帝都の外れ、小さな武術道場です。

表向きは貧乏道場ですが……地下では違います」





場帝都外れ、霧深い路地裏

煤けた木造の道場は、周囲の豪奢な建物とは対照的に寂れている。



門には「紫霞武館」と墨で書かれた扁額。

そこには門番がおり、エリアスに尋ねた。


「……用件は?」



「『紫霞残照、誰が為に燃ゆ』」





合言葉に門番の目が鋭く光り、

無言で奥へ案内する。



道場内では、数人の若い男たちが声を

上げながら黙々と拳を交互に突き出し続け、

汗をかいていた。



汗臭く、質素――しかし、どこか気高さがある。


道場主が、エリアスに対応する。


「客人か。誰に用だ?」


「大使館の外交官殿からの紹介で、

盧玄清ロ・ゲンセイ殿をお呼び願いたい」



道場主の表情がわずかに変わり、後ろの控え室へ消える。


しばらくして、出てきたのは――

五十代後半、痩せ型で背筋がピンと伸びた文士然とした男性。


灰色の長袍を纏い、片手に巻物、

もう片手に数珠を持ち、学者というより

僧侶のような静けさ。この人物こそ、


盧玄清ロ・ゲンセイ


――クーデターの知恵袋であり、

前皇帝ワンの叔父、


前宰相であり、蓮姫の元教育係。


「大使館からの客人か。……座りたまえ」



穏やかだが、底知れぬ深みのある声。


エリアスは勧められた座蒲団に腰を下ろす。



「さて、紹介状によると、

まさか貴方様が王国のエリアス陛下とは

思わなんだ。


まず、私の立場を説明しよう。


私は前皇帝ワンの叔父であり、

政権時代は宰相相談役を務めた。

 

同時に、あの蓮姫の教育係でもあったのです」


エリアスは目を見開き、


「……! あなたが、ワンの一族で、蓮姫の師匠?」



盧玄清は顔を横に振る。


「師匠とは言い難い。

あの子は、生まれた時から“特別扱い”されて育った。

私が教えたのは礼儀作法と経書解釈程度で、本質は変わらなんだよ」 


静かに茶を啜り、続ける。


 「政権交代後、私は表舞台から姿を消した。

知り合いの武術道場を隠れ蓑に、同志を集めている。

女帝紫蘭華シランカの治世を、正すためにね」



盧玄清が核心に触れる。


「さて、エリアス陛下よ。率直に聞こう。

あなたは、スカイ殿を救うためだけに来たのか? 

それとも、この国そのものを変えに来たのか?」


エリアスは真剣な目で答えた。


「……両方よ。スカイは私の伴侶。

この国の歪みは、私の正義感が許さない」



盧玄清は目を閉じて軽く笑った。


「立派な答えだ。だが、知るべきだ。

紫蘭華は、私の兄ワンの妻だった。

だが、恐ろしい女だよ」


盧玄清は兄=ワン皇帝の過去を語る。


「兄は確かに暴君だった。だが、あの女は違う。

 兄の死後、全権力を握った瞬間、復讐の鬼と化した。

“女の時代”を掲げながら、実態は己の恐怖心を隠すための独裁だ」


「恐怖心?」


「再び男に支配される恐怖だ。

だから男たちを徹底的に排除し、

娘の蓮姫に“絶対的な自由”を与えた。

結果、あの子は国の癌となった。」





盧玄清はエリアスに尋ねた。


「スカイ殿は強い男だ。だが、あなたはどうだ?

男社会の復権? 女社会の継続? それとも別の道か?

お前の“正義”とは何だ、エリアス殿」



長い沈黙の後、エリアスが口を開く。


「……男女のどちらかが支配する国なんて、間違ってるわ。

スカイと私が旅で学んだのは、

“互いを必要とする関係”よ。

支配でも従属でもなく、パートナーシップ。

それが、私の正義」



盧玄清はニヤリと笑う。


「ほう……面白い答えだ。

ならば、我々の同志となれ。

紫蘭華打倒を果たそう。」



エリアスは顔を横に振る。


「打倒ではなく、改革よ。

紫蘭華も蓮姫も、最後には理解させたい。」




「理想主義者か。だが嫌いではない。

 ならば、試練を与えよう。


三日後の夜宴が、最初の機会だ。

そこで紫蘭華の側近、重臣たちが集まる。

お前は潜入し、スカイ殿を奪還する。

その混乱に乗じて、改革の第一歩を踏み出すのだ」



「潜入……スカイの救出と、改革を同時に?」



盧玄清はエリアスを睨む。


「できるか、エリアス殿。

スカイ殿の伴侶たる者として、

覚悟を見せてみたまえ」



「……分かったわ。見てなさい」



外では、紫の霧がさらに濃くなっていた。

エリアスは道場を後にし、帝都の夜の闇へと消えていった。






紫雲宮廷・華劇場。



紫水晶のシャンデリアがきらめく円形劇場。


客席には女官・貴族女性たちが華やかな衣装で並ぶ。


中央の特別席に、スカイとワガママ姫・蓮姫が並んで座る。


舞台では、

宝塚風の華やかな女性キャストたちが


「ベルサイユのバラ」モドキを熱演中。


オスカルのような凛々しい衣装の女優が、

男装で剣を振り回し、


マリー・アントワネット役の女優が扇を優雅に広げる。



スカイは小声で呟く。


「……なんで俺、こんなとこに連れてこられてんだ……」


しかし蓮姫は真剣だった。


「しーっ! 今、オスカル様が

アントワネット様に愛を告白する名場面なのよ!

見てなさい、スカイ。

あんなふうに、私を愛しなさいね♡」




ウインクとともにスカイの肩に手を置く蓮姫。


スカイは背筋に冷たいものが走る。


引きつり気味の笑顔で、


「いやいやいや、俺はマリーよりエリアスの方が――」


「しーっ!」


舞台では、オスカル役が熱演。


「我が愛は永遠なり! たとえ薔薇の棘が血を流さんとも!」



女性客席から黄色い歓声が沸き起こる。

スカイは額に手を当て、深いため息。


「……完全に女しかいない空間で、

女だけで恋愛劇やってるって、

どんだけ男排除してんだよ、この国……」


劇が幕を閉じると、客席から盛大な拍手。


蓮姫は満足げに手を叩き、

スカイの手を引いて楽屋裏の応接室へ。



豪華な菓子と茶が並ぶ中、

遠巻きに数人の女官たちが

隠れてこちらを覗いている。


「……なんか、視線感じるんだけど」


「あなたたち! 

隠れて見てるなんてはしたないわよ!

堂々とこちらへおいでなさい!」



恥ずかしそうにもじもじしながら、

4人の若い女官が近づいてくる。

華やかな衣装だが、どこか初々しい雰囲気。



「失礼しました、姫様……スカイ様に、つい……」


蓮姫は自慢げな顔になる。


「ふふ、いいわよ。あなたたちもスカイに興味があるんでしょう?」


女官たちが頬を赤らめ、コクコクと頷く。


「あの、スカイ様……!

あなたと、エリアス様の馴れ初めの話を聞かせていただけませんか?」


蓮姫はしれっとしながらも、


「エリアスのことはいけ好かないけど……

私も興味あるわ♡」



スカイは仕方なく、


「はあ……まあ、いいか。長い話になるけどな」



スカイは菓子をつまみながら、ゆっくり語り始める。


「最初はな、俺が辺境の都市で市長の手伝いをしてたんだ。。

 

そこにある日変装して依頼してきた令嬢が、

エリアスだった。

 

俺の解決屋に興味があるって言ってたよ。

冗談混じりで、私の夫になる?とかからかってさ。」


女官たちは盛り上がった。


「きゃー! 王族令嬢と平民の身分差ロマンス!」



スカイはそのまま話し続けた。


次期王位継承選を協力して、エリアスを勝たせたこと。


エリアスの外交がうまくいかない時、

自分が今の大使館を立ち上げて、各国に

興味を持ってもらい、エリアスと一緒に

世界サミットを成功させたこと。


自分がゼストールに撃たれて眠ってたとき、

エリアスは1人で戦ってたこと。


自分が目覚めて、エリアスを助けたくて、

危険を承知で、向かって行ったこと。


「エリアスはさ、

オレを自分の身と引き換えに逃がそうとしたんだよ。

その時、エリアスが

『今スカイに会ったら私、投げ出してしまう』って

本当はオレに会いたかったはずなのに、

必死に我慢して、――そして言ったんだ。


『だって私、スカイを世界で一番

愛してるもの……』って」


女官たちがハンカチを握りしめる。


スカイは思い出すように、


「そこでオレは初めてエリアスの気持ちを知った。


エリアスのピンチになんとか間に合って、

死力を尽くしてゼストールを倒した後、

オレもエリアスに言ったんだ。


『オレだってエリアスの側にいたいんだ! 

どんな状況でも、支えたい!

例えオレに力が無くても、一緒に夢を叶えたい! 

オレの隣で、エリアスに笑ってほしいんだ!


オレはエリアスを……、

世界で一番、愛してる!

オレの人生で一番大切な人なんだ! 

絶対に幸せにしたいんだ!』



って言ったら、エリアスも、


『私、……スカイが、好き。大好きなの。

大切で……あなたじゃなきゃ駄目なの。


優秀だからじゃない。……初めて、

私が一生を添い遂げたいと心から思ったのは、

スカイだけなのっ!!

私…、スカイを世界で一番愛してる。』って


言ってくれて……、

もう、嬉しくて堪らなくなってさ。


『結婚してくれ』って、その場でプロポーズした。」



女官一同はプロポーズの言葉に、


「きゃあああああ!!!」



蓮姫は頬を赤くして


「……そ、そんな直接的な……」



スカイとエリアスの馴れ初めに興奮が止まらない女官の1人が、


「スカイ様、他にもありませんか!?」


とリクエストしたので、


「じゃあ、マリナスのレニールとララの話でもするか。

あれは数値教テロの再来で大変だったんだ……」


スカイはマリナスでの障害

(家同士の確執、数値教の襲撃)、


父親たちの反対を乗り越え、互いを守り抜いた末に婚約許可を得た話をした。


スカイは、最後はレニールと二人で

数値教の幹部と対決して倒した後の話をして、



「レニールはな、


『俺が大型船を手に入れて、

マリナス中にオレの海運業を認めてもらって、

ララに相応しい男になれたらその時は

ララとの結婚を認めてくれ!!』


って父親に頭を下げてさ。

 


ララも、


『私たち、これからもマリナスのために

レニールと、一緒に支え合って生きて

いきたいと思っています。』


って覚悟を語ってようやく父親たちも認めたってわけ。」




女官たちは感動の涙を流して、


「美しい……!」


「愛とは、かくも尊い……!」 


蓮姫は、うっとり顔で


「二人で障害を乗り越える恋人たち……

素敵……」


馴れ初め暴露の余韻に浸る女官たちに、

スカイが核心を突く。


「……で、なんでそんなに恋バナが好きなんだ?

ワガママ姫に至っては、

さっきの劇で恋愛想像してるし。」



沈黙が流れる。

女官の一人が、恐る恐る口を開く。


「スカイ様……実は、この国では……


紫蘭華(シランカ)様の治世になる前は、

女はみな『亭主関白』の夫に縛られていました。

 

恋愛なんて、結婚前の形式的なお見合いだけ……」




もうひとりの女官も頷いた。


「本当の意味で『愛し合う』って経験、

したことないんです。



ワン皇帝時代は、


『女は黙って夫に従うもの』と……」



蓮姫も少し気まずそうに、


「だから、私、劇とか物語でしか恋愛知らないの。

あんな風に、誰かに命がけで愛されたいって、ずっと思ってて……」



スカイは、状況を理解し、ニヤリと笑う。


「なるほどね。恋愛経験ゼロの女だらけか。

そりゃ、しかたないわな。」



「私たちも、理想の恋愛を経験して……

 幸せな結婚生活を送りたいんです!」



スカイはそこで疑問に思った。


「理想の恋愛と幸せな結婚生活?

この女尊男卑社会で、どう実現すんだよ?」 



全員がハッとして、互いの顔を見合わせる。



蓮姫も口がワナワナ震えて、


「そ、そう言えば……どうするんだろ?」


女官達も俯く。


「男の人たち、みんな怖がってて……

話しかけても逃げちゃうし……」



沈黙の中、スカイがニヤリと笑う。


「よし、こうしようぜ。

ここにいる未婚女性、全員集めて語り合おう。

お前たちが経験したい

『理想の恋愛』と『結婚生活』について」



蓮姫は目を輝かせて、


「なんじゃそれは!?めっちゃ楽しそう!!♡」


「私も!」「参加します!」




女性達の食いつきぶりを見て

スカイは心の中で確信した。



「よし、決まりだ。

明日の朝、どこかで集まろう。俺も協力するぜ。

題して――『花嫁講座』だ!!」



一同、大盛り上がり。

華劇場の外では、紫の霧が静かに流れていた。



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