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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
32/39

第29話 グランゼウム部族連合王国7



鉱神祭の熱が冷めぬまま、一夜が明けた。


王の座を奪取したのはセレナイト族。



だがその朝、グランゼウム部族連合王国中に

新たな緊張が走っていた。 


――王誕生の儀。



王に忠誠を誓い、各部族が“誇りの鉱石”を

献上する大行事の日である。 



火の大広間に整列する四部族の代表。

 

ラドーンの鍛冶師、ヴァルネラの銅工、

グリオニスの石工、アークメリアの染職たち


が、一斉に膝をついた。



「王よ、我らの鉱をお受け取りください。」

 


だが――


新王となったエドラムの口から出たのは、

予想外の言葉だった。


「いや、今回は違う。我が望むのは、

鉱石そのものではない。」 



長机の上に広げられたのは、見慣れぬ巻物。


「各々の部族に、この設計図を授ける。」


「設計図……?」


「これを最高の形で完成させ、我らに捧げよ。」


「我らの誇りを、か……」


 図面には奇妙な器、棒、鍋、台――

どう見ても武具や祭具ではないものが描かれていた。



「ヴァルネラ殿、読めるか?」


グリオニス族の長が問う。


「ふむ……調理道具、だと? 

煮込み鍋、包丁、焼き網……?」


「なぜ料理器具を!?」


「理由は問うな。誇りを見せてみよ。」



エドラムの声音は揺るぎない。 


その気迫に押され、四部族は互いに頷きあった。

鍛冶師も彫刻師も、仕事は仕事だ。

誇りを賭けると決めたからには、

誰も手を抜かない。 


それから三日――。

火花と汗が飛び、ハンマーの金属音が山々に響き渡った。

 

ラドーン族は純鉄の厚鍋を、


ヴァルネラ族は芸術品のような硝子皿を、


グリオニス族は石を磨いて調理台を、


アークメリア族は炎の反射で色が変わる布の前掛けを作り上げた。

 


どれもが誇りと技を尽くした最高級品だった。


「これで納得するか……いや、王の命ならば!」

 


四部族の代表が作品を山のように積み、


火の大広間へと運ぶ。 


全ての献上品を受け取ると、エドラムは深く頷いた。



「諸君の誇り、確かに受け取った。

いずれ、その報いを約束しよう。」



意味深な言葉に、誰もが首を傾げる。

だが、質問は許されない。 



それから二日後――。


王都全体がざわめきに包まれていた。 

今度は全ての部族が再び火の大広間へ集められたからだ。


「まさか、もう“王の祭”を?」

 

ざわめく群集の中で、スカイとエリアス、

リンクの三人は密かに姿を現した。


ローブの下に“ステップランド特使”

としての証を隠し持ちながら。 



壇上に立つエドラム。その姿は、

王冠を戴いてなお威厳に満ちていた。



「われ、新王エドラムが告げる。」

 


一瞬の静寂。



「――本日をもって、

ステップランドとの交流を再開する!」


重たい轟音のようなざわめきが広間を揺らした。


「何だと!? 王はあの外の国を――!」

「三年前の屈辱をお忘れか!」

「裏切り者に頭を下げる気か!」


四方向から非難の声が雪崩のように押し寄せる。


まさに大混乱。

王の決定に反対する叫びが飛び交った。 



だが――エドラムは不敵に笑った。



「ほう。反対とは感心だ。

……では、祝いの品を無下にするつもりか?」



「祝いの品?」



「そうだ。ステップランドより、

我らに“贈り物”が届いておる。」



 四部族は互いに顔を見合わせる。



「何の話だ?」


「見ての通りだ。」


 エドラムが手を上げると、扉が開いた。 



入ってきたのは――


スカイ、エリアス、リンク。


そしてステップランドを代表する料理人たち。



彼らは大きなリヤカーを押していた。



「お、おい、あれは……?」


「食材の山!?」



 果物の香り、スパイス、そして酒の芳香。


見たことのない色彩が目に飛び込んだ。



「初めまして。」


スカイが進み出る。


「ステップランド“解決屋”のクライムと申します。

諸君、まずは鉱神祭、そして王の誕生を

心から祝福いたします。」




 静寂の中、スカイの声が広間を包み込んだ。


「今後も皆様と共に、

火と食の恩恵を分かち合うため、

ステップランドよりささやかな“親交の証”を

お持ちしました。」



「親交の証――?」



「さあ、皆さん!」



 ステップランドの料理人たちが一斉に動き出す。

 


リヤカーからは鉄と銀の塊が次々と取り出され、


火皿のような炉に組み立てられていく――


それはスカイが前世で見た自衛隊の

“野外炊事具”をこの世界で再現したものだった。 


広間に新しい火が灯る。


そこに注がれるのは、果実酒、水、燃料。


そして、香ばしい油の匂い。


「……これは料理をする道具だな。」


「え!? まさか――」


「そうだ。」


エドラムが高らかに告げる。


「そなたらが誇りを込めて作り上げた

鍋、包丁、網……すべて、この日のための

“火の器”だ!」 



ラドーン族の代表が息を呑む。


「この鉄鍋……我が部族の“炎鍛鋼”か!」


「硝子皿は……うちの技でしか作れぬ栄光の器!」



ヴァルネラ族の女工が叫ぶ。


「石台と布前掛けも……!」



彼らの誇りの産物が、次々と料理人の手で

火を噴き、湯気を上げる。



まるで工芸の舞台が調理場に変わったかのようだった。



「焼け! 煮ろ! 香りを広げろ!」


スカイの号令で、一斉に火が走る。



肉の焼ける音、野菜のはぜる音が

大広間に響き、甘辛い香りが空間を覆った。

 


各部族の代表たちは、もはや息を吞むしかない。


「な、なんて……贅沢な匂いだ……!」



「腹が……鳴る……!」



数時間後――。




鉄鍋と硝子皿の上に並べられた無数の料理が完成した。

 

香草のステーキ、海塩の煮込み、

青銅皿に盛られた果実タルト。



宴のように色鮮やかな料理たち。 




エドラムが高らかに笑った。



「聞け! これがステップランドからの

“祝いの品”だ!! だが、ただの贈り物ではない!」




「お前たち四部族が誇りとして作った献上品――それは、そなたら自身を象徴する“火”。

私はそれを他国の火と交わらせた。


食を通じ、火を通じ、我らは一つとなるのだ!」



「……食わせていただけるのか?」


ラドーン族のひとりが、おそるおそる問う。




「もちろんだ!」



エドラムの拳が高く掲げられる。



「皆のもの! 王と国の新たな誕生を祝って、

今宵は大いに食え! 飲め! 語れ! 

これこそ新しい火の形だ!!」 




歓声が爆発した。




「おおおおおっ!!」



人々は我先にと料理へ向かい、

匂いと笑い声が大広間を満たしてゆく。 

スカイはその光景を見て、静かに息を吐いた。



「火は争うためでなく、

同じ鍋を囲むためにある。――な?」

 


隣でエリアスが微笑む。


「ええ。美味しい匂いは、平和の香りだもの。」


 リンクも腕を組んで笑った。



「これ、正真正銘“食の外交”ってやつです!」



かつて憎しみを交わした部族が、

同じ火の前で杯を掲げる。



グランゼウム建国以来、

誰も見たことのない光景だった。 



歓喜の炎は夜明けまで続き、

こうして“火と食”によって結ばれた

史上初の大宴会が――


新時代の幕開けを告げたのだった。




火の大広間は、熱と笑いと香りで満ちていた。


グランゼウム五部族の誰もが、

ステップランドから届けられた「祝いの品」

を心から楽しんでいる。



炉の赤い光が揺れ、

歓声がそのたびに天井へ吸い込まれていく。


「う、うまいっ! なんだこの柔らかさ!」


「初めての味だ……香辛料が踊ってる……!」

 

ラドーン族の鍛冶師が

鉄鍋のシチューをすすり、


ヴァルネラ族の女工たちは

色彩豊かな果実のタルトに舌鼓を打つ。


グリオニス族はその場で重たい杯を掲げ、


アークメリア族の染職たちは

香草の香りにため息をついた。



「まるで祭りの夜明けみたいだな……」



 誰かの言葉に、皆が頷いた。 


ステップランドの料理人たちもその光景を

笑みで眺めていた。



「みんな、食べてるよ!」



「よし、この匂いなら負けない!」



彼らの顔は汗と満足で輝いている。


広間の片隅では、各部族の子供たちが皿を囲んでいた。


火が壁を照らし、笑顔が映える。


「お〜いし〜いっ!!」


頬をいっぱいに膨らませて叫ぶ少女は、

エドラム王の末娘・エチェリカだ。


「過去の鉱神祭でも、

ここまでのご馳走は出なかったわ!」



「本当だな……!」


チルトが隣で大口を開けて笑う。


「う、美味すぎる……! 

やっぱりステップランドの料理、最高だ!」



 二人の笑顔に、周囲の子供たちが声を上げる。


「そういえばさ、鉱神祭が始まる前に、

セレナイトの山からいい匂いしてたよね?」


「エチェリカ様、あれって……?」



「……ん〜〜? ナイショ♪」



 口笛でごまかすエチェリカに、

チルトが苦笑した。



その後ろで、リンクは他部族の少女たちに

囲まれて料理談義に引っ張り回されていた。



「え、いや、えっと……

その、揚げる時は油の温度が――」


「キャー! 話し方がかわいい!」


「ちょ、ちょっと待って!」


顔を真っ赤にするリンクを見て、

エチェリカがクスクス笑いをこらえる。 

そんな光景を、遠く高座から眺める者がいた。



新王エドラムとその王妃、

そしてスカイとエリアス。



 エドラムは腕を組み、ふと遠い目をした。


「……いつ以来かな。全ての部族が、

同じ火を囲って笑っているのを見るのは。」



「火は人を選びませんから。」


スカイが穏やかに言う。



「ふっ……だが、こうなるとは思わなんだ。」


エドラムがスカイを見て笑う。



「鉱神祭の直前、

クライム殿からこの提案をされた時は

耳を疑ったぞ。まさか、

あの時から狙っていたのか?」



「ええ、まあ。」


スカイは苦笑した。


「皆さんの心にはわだかまりが

残っていましたからね。誇りを傷つけず、

むしろ互いに得をする形でその壁を溶かしたかった。


……それに、火だけじゃなく“食”にも皆、

飢えていた。」

 


エドラムは腹の底から笑った。


「知恵者というより策士だな、クライム殿。味方にすれば心強いが、敵には回したくない。」



「誉め言葉と受け取ります。」


スカイが軽く頭を下げる。 



エリアスが笑いながら杯を傾けた。


「あなたたち男同士って、

どうしてこう口が回ると火まで踊るの?」


その言葉に、エドラムの王妃もくすっと笑う。


「さて。」


スカイが表情を引き締めた。


「エドラム様、それでは……例の件を。」

 


その眼差しに、エドラムは力強く頷く。


「無論だ。エチェリカにも言った。

『受けた恩には、礼を尽くせ』――

王の約束は破らん。」 



やがて、全ての料理が配られ、

宴が最高潮を迎えた。



エドラムは立ち上がり、

拳で大広間の拍子木を鳴らす。



金の髭が光を反射し、

全員の視線が王に注がれた。


「皆の者!」


その一声が、場を一瞬で静める。


「ステップランドの祝いの品、

堪能したであろう。

……では、その火を胸に刻んだ上で、

話を戻そう。」



 王の眼差しは炎のように鋭い。



「我らグランゼウム部族連合王国は

――ステップランドとの交流を再開する!」 



再びざわめきが起きる。



「だが、王よ!」

「三年前の恨みを忘れたのか!」

「侵略者を受け入れるとは、王権の乱用だ!」

 否定の声が重なる。 



だがエドラムは贄のように口端を上げた。


「……良いのか?」


「……?」


「せっかくステップランドからの“祝い”を

楽しんだ体で、その口から拒絶の言葉を吐く

とは。……どう響くと思う?」




一同が息をのむ。

「確かに三年前、我らは外の侵入者に聖地を

侵された。

だが、この料理たちは我らを傷つけたか? 

この味が誰かを不幸にしたか?」

 


広間が静まる。



「見よ。苦しみより深い傷など、

火と食でいつでも癒せる。

私はそれをこの目で見た。」 



エドラムは片手を掲げ、四部族に向けた。


「そなたらの献上品――

誇りを込めて鍛えた鉄や石がおかげで、

この宴を成し、民の笑顔を生んだ。


ならば私は、

この“恩”に報いねばならぬ。

ステップランドの友好の火は、

再び我らの焔と共にある!」 



長い沈黙のあと、エドラムは堂々と続けた。


「これでもまだ、

交流再開に反対する者はいるか? 

いるならば、この王の前に出て意見を申せ! 火の前で恥じることはない!」 



一瞬の沈黙。

四部族の長たちは互いに顔を見合わせ――


そして、笑った。


「異議無し!」

「異議無し!」

「異議無し!」

「異議無し!!」




声の輪が広がり、

最後には大広間すべてが叫んだ。


「――異議無し!!!」 



その声に、スカイはゆっくりと目を閉じ、

つぶやいた。


「……これが、火の意味だ。」



 エリアスが微笑む。


「誰か一人が燃やし、皆で暖を取る。

“火の国”らしい結末ね。」 


ステップランドとの交流再開の決議は、

こうして正式に成立した。



 それからしばらくして、

グランゼウムからステップランドへ、

一通の手紙が届いた。


火の大広間に国印が押された厚い封筒――

それは「祝勝展覧会」への招待状だった。 


内容は、今回の鉱神祭の優勝作《光環連珠》と、過去の歴代作品の美術展覧会。



「我らの誇りを外の者に見せる、好機だ!」



 エドラムが笑い、全員が歓声を上げた。 

展覧会当日、火の大広間には国外から多くの客が訪れた。


ステップランドの商人、学者、観光客――

そして、かつてグランゼウムに足を踏み入れたことのない人々も。



「うわぁ、光ってる……!」


「まるで生きてるみたい!」



 《光環連珠》を中心に、

各部族の工芸品が人々を魅了した。



スカイが王国側から呼んだ地質学者たちも

驚嘆の声を漏らす。


「この鉱石の結晶構造……未知の組成だ!」


「協力すれば、新しい鉱脈を見つけられるかもしれん!」



エドラムはその提案を受け入れ、

各部族の職人と学者たちは共同で鉱山を探索する。


そして本当に、新しい鉱脈が発見されたのだ。


人々は再び山の恵みを取り戻し、

希望と活気が戻ってきた。 



そんな折、今度は

ステップランドから一通の手紙が届く。

 

封には金色の稲穂の紋章。

 

開封したチルトの目が輝いた。


「父様! 

ステップランドの収穫祭への招待状です!!」 


エドラムは力強く頷く。


「良いだろう。

今度は我らが、外の火を学びに行く番だ。」 


グランゼウムの人々は再び立ち上がった。

 

火と食が繋いだ友情の炎は、まだ静かに燃え続けていた。




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