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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第27話 グランゼウム部族連合王国5



 「これが……我らの作品……?」 



広げられた大判の設計図を見た瞬間、

工房中が静まり返った。



曼荼羅のごとく複雑に絡む線、

無数の宝石小物が嵌め込まれる図面。



その繊細さに、職人の誰もが息を呑む。


「……とんでもねぇモンだな」


「こんなのほんとに作れるのか……?」


ざわめく声の中で、セレナイト族長エドラム

がゆっくりと前へ出た。



「確かに、簡単な道ではない。だが――」

 

エドラムは振り返り、皆の顔を順に見渡した。


「これを仕上げれば、王座への道は約束される! 

我らの誇りをこの光に込めるのだ!!」



その叫びに、火皿の炎が

大きく跳ね上がったように見えた。


「おおおっ!」


一斉に上がる歓声。



職人たちの眼に再び炎が戻る。 ――こうして、


セレナイト族の総力を挙げた制作が始まった。




谷にある主鉱山では、

朝から男たちがツルハシを振るっていた。



「掘れ! 一粒残らず見逃すな!」



エドラムの号令のもと、

年配も若者も一心不乱に岩を砕く。



採れるのは爪ほどの大きさの宝石片ばかりだが、


誰一人文句を言わなかった。 


一方、工房では女たちの手が忙しく動いていた。


「次、青の欠片三十。角度をそろえて!」 


炉の光が反射し、無数の宝石の破片が星のようにきらめく。



「粉になったやつはラメに使えるわ!」


あまりに小さい欠片はすり潰し、

金属粉と混ぜて細工用の塗料に。



老職人たちは手元の灯に顔を近づけ、

黙々と磨き続けた。


「……こんな感覚、久しぶりだな」

「あぁ。火に向かっていると、昔の血が騒ぐ」


チルトのじっちゃんも、

震える手でピンセットを握りながら笑った。


その背をチルトが支える。


「無理しないで、じっちゃん」


「なに、若ぇもんに負けるか。

これくらい、朝飯前よ!」


そう言って笑う顔は、

まるで少年のように生き生きとしていた。





日が経つごとに、

描かれた曼荼羅は少しずつ形を帯びていった。


小さな小物がピースとなり、職人たちがそれを嵌めてゆく。


「この角度じゃ光が死ぬぞ!」


「了解っ!」



叱咤する声が飛ぶたび、火花が上がる。

他の部族からは嘲笑の声も届いた。



「セレナイトは負け犬の悪あがきだ」


「拾い石で祭りに出るつもりか?」



それでも誰も反論しなかった。

「笑っていろ。出来上がりを見れば黙るさ」

 


チルトが拳を握ると、皆が頷いた。 


その傍ら、スカイとエリアス、リンクは

裏門を通って工房を訪れていた。


スカイたちはエドラム達には

“オブザーバー”として迎えられている。


それでも警備の目を掻い潜り、

ほとんど毎日彼らの作業を見守っていた。


「順調ね。」


エリアスが優しく微笑む。


「ああ。だが、火は最後まで維持するのが難しい。」



スカイは腕を組む。



「……人の情熱も然り、ね。」



二人の視線の先、

職人たちの額から汗が滴り、

息が荒くなっていく。


そして十日後。

仕上がりは七割を超え、作品は壮大な姿を見せつつあった。

 

しかし、火の国の工房に以前の勢いはなかった。


「……速度が落ちています。」



 チルトが苦い表情で報告書を持ってくる。



「無理もないわね。」


エリアスが言う。


「これだけの細工、気力が持つはずがない。」



ついに、石を磨く音がまばらになった。


「あと少しなのに……!」

 

若い職人が工具を置いてうなだれる。


「もう飽きた、だと!?」

 

監督役が叱りつける声も、どこか弱かった。 


昼を過ぎても手が止まり、火皿の炎が小さくなる。

 

エドラムは額に手を当てた。


「七割までは行った。だがここからが……」



彼は深いため息をつき、

横にいたチルトの肩を叩いた。


「あとは根気だ。

だが気合だけでは火は燃えん。」



「……父様。」


チルトが目を伏せる。


「分かっている。私が何とかする。」 


夜、エドラムはスカイを呼び寄せた。

 


真剣な表情で問う。



「クライム殿。このままでは士気が持たん。王座を目前にして失速など、笑い話にもならん。」



スカイは黙って聞いていたが、

急に口の端を上げた。



「なるほど、問題は火が弱ったってことですね。」


「火?」


「はい。火を絶やす時は、

燃料か酸素が足りない時です。

つまり――刺激が要る。」



「刺激?」



 スカイは隣にいたリンクを振り返った。



「リンク。」


「えっ、僕!?」


「君の出番だ。胃袋を燃やす“火”を、

用意してもらおう。」




 リンクの瞳がぱっと輝く。


「――なるほど!」




「あの子が作る料理で、

もう一度あいつらの心を温めてやる。」 



スカイの言葉に、エドラムも思わず噴き出した。


「なるほど、

確かに火を灯すには燃料が要る。腹の火か。

……面白い。クライム殿、任せたぞ!」



「ええ。ここが勝負どころですから。」 


静まり返った谷に、新しい火の種が撒かれた。


次なる小さな炎が、誰の心を再び燃やすのか―― 


セレナイトの夜は、ひっそりと熱を取り戻していった。



連日の作業に疲れ切った夜だった。


チルトたちは手にした工具を置き、無言で食堂へ向かっていた。



灯りの数もどこか寂しげで、誰も口を開かない。


「……これで間に合うのかな」


「七割まで来たけど、指先の感覚がもう戻らないよ……」



吐き出すような溜息ばかりが聞こえる。 

その時だった。



「……なんだ、この匂い?」



甘い香料と肉の焼ける香りが、

夜気の中を漂ってきた。



「嗅いだことのない匂いだぞ……!」



食堂の扉を開いた瞬間、彼らは目を見開いた。

華やかな照明の下、机の上に整然と並ぶ

百種類を超える料理。


手掴みでも食べられるフィンガーフード、

鮮やかな前菜、小さな串焼き、ふわふわのパン。


香りは、どれも“幸福”そのものだった。


「うそだろ……夢でも見てるのか?」


「こ、これは……!」 


目を疑う光景の中、カウンターの向こうで

エプロン姿のリンクが笑った。



「おかえり! 腹、空いてるでしょ!」


「リ、リンク!? 何してるんだお前!」 


チルトが驚きに声を裏返すと、

リンクの隣に数人のコック達が姿を見せる。



「ステップランドから来た援軍だよ!」


「援軍!?」 



実は、

リンクが山に入るたびに気づいていた店長が、


“山の中で何をしているのか”


を問い詰めたのだ。



「最近やけに消える時間が長いな。

お前……何か隠してるだろう?」



焦ったリンクが白旗を上げるより早く、

スカイ達が飛び込んできて事情を説明した。


「私たちは王国の宰相と女王陛下です。

今は解決屋としてここを訪れています。」


「は、はいっ!?」


店長は腰を抜かしたが、



さらに話を聞いて名前を聞いた瞬間、目を見開いた。


「……エドラム!? あのエドラム殿と……

まだ生きておられたのか!!」 


三年前の数値教テロの前、店長とエドラムは食材取引を通じて交流があった。


「あの山との交流が途絶えて、

てっきり死んだとばかり……

また会えるとは!」

 


感動の再会。がっしりと握り合う両者の手。


「もう、火を絶やさない約束だな、エドラム殿!」


「ああ、約束だ。」 


店長はすぐに決意した。


「だったら、俺たちも力を貸す!」


秘密主義の料理人仲間を数人呼び、

夜を徹して準備を始めた。



その交渉の裏で、スカイとエリアスも動いていた。


「食材を輸送したいんです。

だがここは公式には“禁輸地域”だ。」



「興味深い。ならば非公式に通せばいい。」



ステップランド政府は、

グランゼウムとの交流再開を切望していた。

 

そして、スカイたちは“食を通じた民間支援”

という形で調印を取り付けた。 

こうして、秘密の食材支援と店長たちの

奉仕による特別メニュー――

 

“火の宴”が実現したのだ。


「遠慮するな! どんどん食ってくれ!」


リンクが嬉しそうに山盛りの皿を伸ばす。



「こ、こんな料理……初めて見た……!」


「見ただけで涎が出る……!」

 

職人たちは我慢できず、次々と皿を手に取った。


最初の一口――。


「う、うまいっっっ!!!」


「なんだこれ……舌が溶ける……」

 

塞ぎ込んでいた彼らの表情が一瞬で変わる。

笑顔、歓声、涙。


「おい、あの串もう一本!」


「パンもおかわり!」


「お父様! これすっごい!」


エチェリカが頬をパンパンに膨らませながら叫ぶ。


「おいおい、よく噛め!」


エドラムが思わず笑った。




「これ……もしや……」


老職人が手を止めて呟く。


「あの時の“ステップランドの味”か……

懐かしい……」



「そうです!」


リンクが嬉しそうに胸を張る。



「僕らの国には、

食で人の心を温める“火”があるんです!」 



熱気が再び谷を満たした。


「うぉぉぉっ! 明日からまた掘るぞ!」


「磨く手が止まらん!」


セレナイトの男たちは一斉に立ち上がり、

拳を打ち鳴らした。



女たちは涙混じりに笑いながら鍋を囲む。


「やっぱり、お腹が満たされると心も満たされるのね。」


「そうだよ! 

食べるって、生きるって事なんだから!」



エチェリカが両手を広げて笑う。 



スカイはその光景を見て小さく頷いた。



「火は、腹からも灯る。

……人の根源の火、だ。」



 エリアスも微笑む。 


「あなたの読み通りね。」


「……俺より、あいつらがよく分かってる。」



食堂が笑いに包まれて一晩。



翌朝から工房は、

まるで別の場所のようになっていた。



疲労で沈んでいた空気は跡形もなく消え、

一人一人の目が再び“火”を帯びている。   


「昨日はよく食べて寝たか! 行くぞ!」


「おう!」


 若者たちがハンマーを手に再スタート。

 

「よくできた者にはデザートを進呈だ!」


店長が笑いながら叫ぶと、工房中に歓声が上がる。


「俺、絶対一番に仕上げる!」


「ズルい! チョコレート全部取る気!?」


 競うように笑う声。

 


その光景を見て、

エドラムが満足げに腕を組んだ。


「これぞセレナイトの底力だ。」



 スカイも微笑んだ。


「火が広がった証ですね。」 




作業は加速した。


昼夜を問わず灯がともり、

谷一面が複数の火皿の光で黄金色に燃える。



人の声、金属の音、笑い声が渦巻き、

かつての“黄金期”が戻ったかのようだった。



そして――鉱神祭を二日後に控えた夜。


「……できた!」


チルトが最後のピースをはめ込み、

胸の前で手を合わせた。


次の瞬間、火皿が灯され、

作品全体が光を放った。


宝石の欠片が反射し、

天井いっぱいに虹色の光輪が広がる。


「うわぁぁぁ……!」


「これが……我らの光……!」


歓声と涙。

職人たちは互いに肩を抱き合い、

感極まって嗚咽を漏らした。 



リンクは口を開けたまま動けなかった。


「……本物の火みたいだ。 

いや、火よりもあたたかい……」



「君たちの努力の結晶よ。」


エリアスが囁く。 


エドラムは作品を前に立ち、ゆっくりと頷いた。


「これなら……勝てる。」

 

その声には迷いがなかった。


「セレナイトの名を、この光で取り戻すぞ!」

「おぉおおおおっっっ!!!」

 


谷に響く雄叫び。


その音は夜空まで届き、

遠く別の部族たちの焚き火をも揺らした。 


こうして、ついに灼熱の戦い――


「鉱神祭」の幕が開こうとしていた。





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