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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第23話 グランゼウム部族連合王国1




高原を渡る風が心地よかった。

広々とした牧草地がどこまでも続き、その中央を

旅人ふたりを乗せた馬車がゆっくりと進んでいく。


「ここがステップランドか。

マリナスの喧騒が嘘みたいだな」


「空気も味も全部違うわね。

ほら、馬も嬉しそう。」


エリアス――旅の偽名“エイラ”は笑いながら馬のたてがみを撫でた。



スカイ――今は“クライム”と名乗る青年は、眩しい陽光を受けて目を細める。



マリナス共和国を救った直後の休息で、

2人はここの料理を楽しみにしていた。



山々を背にしたこの国は、

農業と酪農で栄え、ワインやチーズが特産。



昼に寄った食堂では、自家製パンと

ハーブ牛のステーキが出され、

ふたりは旅の疲れも忘れて舌鼓を打った。


「ああ、しあわせだな」


「ええ、これだけで今回の旅の価値あるわ」



そんなひとときに、近くに座って

食事をしていた大使館職員が声をかけてきた。


「あの、もしかしてスカイ様とエリアス陛下ですよね!?」


若い大使館職員がお店に置いてあった

新聞を握りしめて駆け寄ってきた。


紙にはマリナス議会で勲章を授与される

ふたりの記事。見出しには、


《港湾都市再建! 王国国王夫妻、

マリナス全ドック再開を全面支援》


とある。



「落ち着け。オレたちは今、ただの旅人だ。クライムとエイラな」



「は、はいっ! し、失礼しました……! よければ大使館まで!」



二人は半ば押されるように

ステップランドの大使館へ向かった。



木と石造りの庁舎の中は素朴ながら温かみがある。



職員は湯気の立つハーブティーを

出しながら、丁寧に語り始めた。



「お二人の噂はもう国中に広まっています! 本来、お手伝いをお願いしたいことは

特にないのですが……」



「“ですが”?」



「北のグランゼウム山――鉱山部族連合王国のことでして」




職員は地図を広げ、険しい山脈を指さした。


「落盤事故が相次いで、鉱山が封鎖状態

なんです。あの国には大使館もなく、

交流も絶えてしまいました。


外から来た“数値教”の過激派が原因だという噂もあって……」



「数値教、またか」


スカイが眉をひそめる。


 

大使館職員はため息をつく。


「外と交流を絶ったままでは、

ステップランドの宝飾職人たちにも影響が

出ます。けれど、連絡の糸口がないのです。」




「ふむ……」




スカイは少し考え、エリアスと目を合わせた。



「行ってみるだけ行ってみるさ」



翌朝、ふたりはグランゼウム山へ向かった。




風は冷たく、登るにつれて岩混じりの空気が肌を刺す。



道の先には灰色の岩肌に刻まれた洞窟の門――

連合王国の入り口が見えてきた。



門の前には隊商や使者たちが列をなし、

門番が通せんぼをしている。



「お願いです、鉱石の取引を!」


「外の者は入れぬ、命令だ」



冷たい声が響く。

スカイは近くの商人に声をかけた。


「何があった?」


「旅人か。やめとけ、今のグランゼウムは

外の人間を蛇でも見るように嫌う。

落盤だかテロだかで部族同士が揉めてる

らしい。誰一人通してもらえん」




そう言われては仕方がない。

スカイ達は引き返すことにした。



「短気を起こすと余計こじれる」


「ええ、一度戻って情報を整理しましょう」



麓のステップランドの町に戻る頃には日が

傾き始め、青空にオレンジの光が差し込む。

二人は国境沿いのレストランで遅めの昼食を取りながら次の手を考えていた。



「どう入るか……

門が駄目なら裏道だが、案内人がいない。」


「それに、国境近くの山道は

立ち入り制限中みたいね」


「ふむ」



ちょうどその時、厨房の扉が開いて

若いコックが姿を見せた。



白いコックコートを着た少年が紙袋を抱え、店主に一礼して外へ出ていく。


袋の隙間から焼きたてのパンが覗いていた。


「昼休みか?」


「この時間に出かけるなんて珍しいわね」




二人は軽く視線を交わし、

代金を置いて後を追った。



少年は街道を抜け、国境の小丘へ向かって歩く。


夏の陽光がまぶしく、彼の背中が金色に照らされている。



やがて丘の上で、彼は誰かと待ち合わせていた。


「おい、チルト! 今日のパンだ」


「わっ……ありがとう! 

やっぱりステップランドのパンはいい香りだ!」




相手は年の近い少年だった。


煤けた作業服にツルハシの柄。


灰色の髪と煤けた頬――鉱山の子だ。



コックの少年は笑って言った。


「ゆっくり食えよ、チルト。冷めないうちにな」


「毎回悪いな、リンク。

ホントはステップランドに住んでみたいよ。

こっちの飯は味気無くて量も少ないし、

このパンの匂いだけで腹が鳴るんだ。」



「俺だって、お前の話聞いてから

グランゼウムの中を見てみたくなったさ。

宝石の宮殿みたいなんだろ?」



「まあね。でも今は鉱山が閉じちまって、

みんなピリピリしてるんだ。」



二人はパンを分け合いながら、

同時にため息をついた。


「お互い、となりの国が羨ましいな。」


「ほんとだよ。まあ、せめて腹いっぱい

食べられる間は幸せだ。」



そんなやりとりを遠くから見ていた

スカイとエリアスは、


丘の影からそっと姿を現した。


「いい昼飯の時間だな」


「ひっ!?」


驚く二人。チルトは立ち上がり、

思わず逃げ出そうとしたが、


スカイが片手を上げて制した。


「待て待て、怪しい者じゃない。

俺たちは“解決屋”だ。国の揉め事を調べてる」



チルトは警戒した表情を残しつつも、

リンクが肩に手を置いた。


「チルト、この人たち本物だよ。

今朝、店の新聞に載ってたんだ。

ステップランドでも話題になってる。

マリナスを救った英雄だ」


「……英雄?」


スカイは照れくさそうに肩をすくめた。


「まあ、何とかしただけさ。それより、

どうやらお前たち、国境を挟んで仲良くしてるらしいな」



二人は顔を見合わせ――

観念したように笑った。



チルトは手の中のパン屑を払いながら、

小さく語り始めた。



「俺たちはどっちも見習いなんだ。


俺は鉱夫と技師、リンクはコック。

最初はステップランドの匂いに釣られて、

この丘で空腹を我慢してた。

そしたら、リンクに見つかって……」


「昼休みの余りを分けたら、

友達になってたってわけさ。」



以来、昼ごとにここで会っては、

互いの国の話に花を咲かせていた。

宝石の話、料理の話、昔の王城の美しさ――。

ご飯を貰うたび、チルトはお礼に

手作りの宝石細工をリンクに渡していた。 



「あの小物、女の子に人気でさ。

気づいたらモテた。」


「へぇ、それは良かったじゃないか」


スカイが笑い、場の空気がやわらぐ。


「……チルト、一つ聞きたい。

お前の国の中で、何が起きてる?」



少年は一瞬迷ったが、やがて首を横に振った。


「俺の口じゃ詳しく言えない。

でも、教えられる人に会わせたい。


興味があるなら、明日の朝、

またここに来てくれ。裏道から案内する。」



スカイは短く頷いた。


「助かる」


エリアスが穏やかに笑い、

二人の少年にパンの欠片を一つずつ渡す。



「ありがとう。きっとこの出会いが、

何かを変えるきっかけになるわ」



その言葉にチルトは目を伏せ、

誇らしげに頷いた。


夕陽が丘を染め、風が二国の境を越えて吹き抜ける。


――新婚旅行は、またひとつ新しい物語へと進もうとしていた。




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