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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
24/39

第21話 マリナス共和国16



医務室の中、徐々に朝の光が静かに差し込み、

空気がぴんと張り詰めていた。




スカイは、今度はレオナルドをまっすぐに見据えた。



「レオナルドさん。

……私は、もうひとつ感じたことがあります。


 ――マリナスは、“国際社会へ目を向ける”べきです。」



今度はレオナルドが驚愕に目を見張る。

その提案は、まさしくガドリン首相が選挙で掲げた主張と同じだった。


ガドリンがハッと顔を上げる。




スカイは続けて


「今回の事件の被害は、いずれ必ず世界に伝わります。

たとえ情報を制限しても――世界の目はもう

止められない。 もしこの状況で“守り”に徹したら、

 

再建を進める他国に追い抜かれ、 マリナスは、国際社会の中で孤立することになります。」


エリアスは静かに目を閉じ、

ララが不安げにスカイの横顔を見つめた。




レオナルドは思わず息を飲む。


「……そんな……。もしそれが現実になれば……。」


頭の中に、


"孤立し、誰も港に来なくなったマリナス"


が一瞬にして浮かび上がる。

額から汗が伝った。



ガドリンも沈痛な面持ちで頷く。


「そうだ……。

今回の事件は世界の注目を集めた。

解決したとはいえ、マリナスが


“再び数値教の犠牲を出した国”


という烙印を押されれば、世界はこう見るだろう。 ――


『マリナスは何も学んでいない』と。」




その現実を思い浮かべ、

ララとレニールの顔が不安に曇った。



レオナルドは焦り気味に、


「だ、だが……! スカイ殿の提案した

マリナス海上保安庁を立ち上げれば、

防衛力の強化をアピールできるはずだ!」



その希望に、しかしガドリンは首を横に振った。


「それだけでは、足りない。 防衛力を強化

しても、世界に“交易の魅力”を提示できなければ、

 

マリナスと取引する理由を失う国が増える。 


“海の警察”という仕組みを内向きに見れば、


 世界はむしろこう思うだろう――

 

『マリナスは監視を強め、商売のしにくい国

になった』と。」




レオナルドは絶句し、

頭を抱えるように目を伏せた。



スカイは静かに頷き、

真剣な表情で全員を見渡す。



「そうなんです。

今のマリナスに必要なのは、守る力だけじゃない。

 

“新しい価値”を世界に示すことです。 


観光や交易ではもう足りない。


世界が、“マリナスという国の未来”に希望を感じるような――

 


新たな“可能性”を見せなければ。」





スカイの言葉に、部屋の空気が変わった。

レニールは唇を噛みしめ、拳を握る。


「……じゃあ、どうすればいいってんだよ……。」



その問いに、スカイはゆっくりと顔を上げ、

ガドリンに目を向けた。



「ガドリン首相。

――マリナスの“信頼回復”について、ご提案

があります。」



全員の視線がスカイに集中する。

空気すら動かないほどの静寂の中で、



首相が思わず問い返した。


「い、一体それは……?」


スカイは一呼吸おいて、わずかに唇を吊り上げた。


「――もうひとつ、

大型船の“新たな可能性”を。

それを、世界に示すんです。」



大型船の新たな可能性――


スカイに言われ、ガドリン首相は眉をひそめた。


「……大型船の新たな可能性?

私は選挙で“大量輸送船”として使うと公約したが……。

それ以外の使い道など、今は思いつかん。」



スカイは静かに首を振り、微笑を浮かべた。



「実は、その“可能性”のヒントをくれたのは、ララなんです。」



ララは驚いたように目を瞬かせる。

「……わ、私?」


「うん。

君は、レニールとの文通を通して航海術を学び、

今こうしてレオナルド議員を自らの手で

救っている。

――それで、気づいたんです。」






スカイはガドリンに向き直り、確信に満ちた声で言った。


「大型船を――“病院船”として使うのはどうでしょうか。」



「……病院船……。」



ガドリンは思わず目を見張り、息を飲む。





スカイは頷き、説明を続けた。


「はい。医療は、どの国でも求められるもっとも普遍的な力です。

 

“海の警察”よりも、国際社会に受け入れられやすいでしょう。 


首相が討論会で話した、

“マリナスも世界に手を差し伸べるべきだ”――

その理想を、病院船で形にできると思います。」



ガドリンは興味深そうに腕を組み、


「……病院船、か」とつぶやいた。




スカイは続ける。スカイ

「いま世界は“海を支える手”を求めています。

人を助け、船を守る手。

それが、このマリナスにはまだ足りない。


新造大型船を一隻、病院船に転用してください。

航路上どこで事故や襲撃が起きても、救助に駆けつけられるように。 


海上で避難者が行き場を失ったとき、

――病院船は“生きる希望”そのものになります。」



ガドリンの表情が変わる。

かつて一国の舵を取る者として見た

“戦略の光”ではなく、

人のための“未来の光”が、その目に宿っていた。



スカイは続ける。


「さらに、病院船には医療物資を積み、

平時には巡回診療と交易を行うことで外貨を得られます。 


そして、船内にマリナス海上保安庁の職員を配置すれば、

法の下、安全な医療と監視体制の両立が可能

です。 


――“守る”と“支える”をひとつにする船。

 


それこそが、マリナスが世界に誇る新しい力です。」



スカイの声には静かな熱が宿っていた。


その言葉が響くたび、室内を包む空気が

少しずつ温かく変わっていく。ガドリンは、しばらく黙したまま考え、

ふと笑みをこぼした。


「……交易の航路を守る力であり、

国の信頼を高める象徴でもあるか。 なるほど――

あの鉄の塊が、“戦うための船”から

“絆を繋ぐ船”へと変わるわけだ。」



「はい。

交易路を守ることは、海を守ること。

海を守ることは、人を守ることです。

マリナスの未来は、その循環の上に成り立つ

はずです。」



沈黙。

そして、ガドリンとレオナルドが視線を

交わし、ゆっくりと頷き合う。


「……いい提案だ、スカイ殿。

君は現場と未来、両方の視点を持っている。」


 


レオナルドは苦笑しながら、


「ふん。政治家としては、

痛いところを突かれたが……まいったな。

反対のしようがない。」




スカイは微笑み、少し間を置いてから静かに言った。


「それと――どちらが選挙に勝っても、

この二つの提案は“共に”実現すべきです。 

この国は、前に進まねばなりません。 

ですから……

 

もしガドリン首相が敗れたときは、

外務大臣として、この国を世界と繋ぐ舵を。

 


そしてレオナルド議員が敗れたときは、

防衛大臣として、この海を守る舵を取ってください。」



二人の政治家が互いを見つめる。

その表情には、もはや敵対の色はなかった。



レオナルドは口元をゆるめながら、


「……若いのに、ずいぶん上手い舵取りをするじゃないか。」



ガドリンは頷きながら、


「まったくだ。

選挙の勝ち負けより大事なのは、海の未来だ。」



スカイは穏やかに笑い、言葉を添えた。



「はい。勝敗じゃありません。

――目的を同じにすれば、この海は、

もう二度と血で染まりません。」




そしてスカイは、思い出した様に、


「……あぁ、最後にもう一つ。

“病院船”の名前を、決めておきたいんです。」



ララが目を瞬かせ、レニールがわずかに首を傾げた。


レオナルドは怪訝な顔で、


「病院船の名前、だと?」



スカイは穏やかに頷き、レオナルドへと目を向ける。


「レオナルドさん。

――もしよければ、病院船の船名に

《エミリア》を贈らせてください。」




その言葉が医務室に響いた瞬間、空気が

一変した。



レオナルドの呼吸が止まる。

目を大きく見開いたまま、声にならない。



「……今……なんと……。」



「この国を愛し、限りある命の中で、家族とマリナスを想い続けた女性の名です。

 

――マリナスを“傷ついた誰かを救う国”


に変えていく、その象徴にしたい。」



しばらく返事はなかった。

だが次の瞬間――レオナルドは肩を震わせ、

静かに、そして激しく涙をこぼした。



「エミリア……っ……。

お前の想いが……この海に……

生き続けるのか……!」



嗚咽がこぼれ、堰を切ったように胸を

震わせながら、レオナルドは顔を覆った。


医務室の中に、誰も言葉を挟む者はいなかった。

ララは涙を溜めながら父を見つめ、

ガドリンも黙ってその背を見守っていた。



レニールがゆっくりと歩み寄り、

スカイの目の前で静かに立ち止まる。

その瞳には、涙の光が宿っていた。



彼は無言のままスカイを見つめ、

やがて低く、震える声で言った。


「……ありがとう、スカイ。

オレも……親父も、きっと死ぬまで忘れねぇよ。」



スカイは照れたように笑い返す。


「礼なんていらないさ。

この海に、エミリアさんの名を刻むことで――

人を救う灯が絶えないようにしたかっただけだ。」



ララが静かにスカイの手を握る。

その瞳に映るのは、涙と微笑が混ざった光。外の空は夜の闇から夜明けへと移り変わろうとしていた。




病院船エミリア号の名が決まり、

医務室を包んでいた緊張がようやく柔らいだ。



その場には、静かで温かな空気が流れていた。


スカイは深く息を吐き、小さな笑みを浮かべる。


そして、少しだけ真顔に戻りながら言った。



「さて――最後に、一つだけ個人的な提案をしてもいいですか?」



ガドリンとレオナルドが同時に首を傾げ、

ララとレニールは顔を見合わせた。



「個人的な提案?」



スカイは頷き、ララとレニールを交互に見つめる。


「この戦いの中で、彼らはただ生き延びたんじゃありません。

互いを信じ、支え合いながらここまで辿り着いた。

 

――今、この場所で、

“ふたりの気持ち”をちゃんと伝えておくべきだと、オレは思うんです。」



ララとレニールは一瞬ぽかんとしたが、

すぐに視線を交わし、互いに頷いた。



ララの頬が少し赤くなり、

レニールの目には真剣な光が宿る。



レニールとララは二人並んで立ち、

ガドリンとレオナルドのほうを真っ直ぐに見据えた。



「お父様……。そしてレオナルドさん。

私たち、これからもマリナスのために2人で支え合って生きていきたいと思っています。」



「……オレも同じだ。

今回の件で、何を守るか、どう生きるかを

痛いほど学んだ。

オレの傍には、いつもララがいた……。

だから――」



レニールは一歩踏み出し、はっきりと頭を下げた。



「どうか、俺とララの婚約を認めてください!」



ガドリンは娘を見つめ、

ふっと柔らかい笑みを浮かべた。



「……ララの気持ちは、もう聞くまでもないな。

そして迷わず命を懸けて守り抜いた青年が、

ちゃんと帰ってきたのは何よりだ。」



だが――問題はただ一人。


ベッドの上のレオナルドが、腕を組んで渋い顔をしている。



「ふむ……。

レニール、お前は今の状況でララ嬢に胸を張れる男だと本気で思っているのか?」



スカイとエリアスが息を呑む。


ガドリンは眉をひそめて、


「レオナルド、お前はこんな時まで頑固なのか……。」




レニールは少し間を置いて、静かに目を閉じた。


やがて顔を上げ、真っ直ぐに父を見た。


「……あぁ。

今のオレはまだ未熟だ。でも、この事件を通して見えたんだ。“守る”って言葉の重みを。


そして――ララを想う気持ちの強さも。」



「レニール……。」 



彼女の声が震える。

レニールは拳を握りしめ、決意を言葉に変えた。


「この先、オレはもっと成長する。

近い未来、大型船を手に入れて、

自分の海運業をマリナス中に認めさせてみせる。

その時こそ――オレがララにふさわしい男になったと感じたら、

オレたちの結婚を、改めて認めてくれ!」



頭を深く下げるレニール。

静寂の中、ガドリンとレオナルドがその覚悟を見つめていた。



ガドリンは満足そうにうなずき、

ララの目には感激の涙が浮かんでいた。



「……レニール……ありがとう……。」



レオナルドはしばらく沈黙していたが、

やがてため息をつく。



そして苦笑いを浮かべ、口元を緩めた。


「……まったく。

こんな立派なことを言うようになったとはな。

ララ嬢にはもったいない息子だ。」




その言葉にララが頬を赤く染め、

レニールは照れくさそうに後頭部をかいた。



レオナルドはニヤリと笑う。


「だが――いいだろう。

認めよう。親としてな。」



ガドリンも笑いながら頷いた。



「やれやれ……妙なところで気が合うな、我々は。」



ララは息を詰め、ゆっくりとレニールを見上げた。

そして、二人の目が合った瞬間――

彼女は駆け寄り、レニールの胸に飛び込む。



「ありがとう……! レニール!」


「ララ……!」



二人は互いを強く抱きしめ、涙と笑顔を交わした。

そして、そっと唇が重なる。



部屋中が、あたたかい静寂に包まれる。

スカイとエリアスは微笑み合い、

その光景を穏やかな眼差しで見守っていた。




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