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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第16話 マリナス共和国11


金属のきしむ音。海賊たちの靴音。



そして、滴る血の音が甲板に混ざる。


膝をついたレオナルドの肩が小刻みに揺れる。



腹を押さえながらも、彼の目はまだ粛清官を見据えていた。


「親父っ!!」

「レオナルド!!」

「レオナルド議員!?」




ララを庇うようにレオナルドの方へ近づき、

四方から迫る海賊たちがじりじりと円を狭めていく。


空気が鉄臭く、息苦しい。


レニールが戦闘棍を握る手に力を込める。



その時――。遠くから声がした。



「おんやぁ〜? こりゃあ珍しい! 

ダンナがまだ仕事を終えてないとはねぇ!!」




甲高く、芝居がかった声。

一瞬、誰もが動きを止める。海賊たちが、



「この声……!」「まさか……!」



上空――。操舵室の外壁、帆柱の陰から、

片足で屋根に立つ男のシルエットが現れた。


白の外套、くねるような立ち姿。

布教担当――“語り部”が、

口元に笑みを浮かべていた。



海賊たちは歓声を上げる。


「おおっ、“語り部”様だ!!」



粛清官は視線だけで僅かに反応し、

興味なさげに言葉を返した。



「早かったな。もうドックは終わったのか?」


その一言に、レニールたち四人は一斉に顔を上げ、息をのむ。



ララはかすれた声で、

「……ドック?……まさかっ!」





布教担当は愉快そうに


「それがですねぇ、ちょいと厄介なのが現れまして。

ウチの鼻薬を嗅がせた同士たちを、

“天敵”殿が殺さずに無力化してしまったんで。

仕方なく、優先順位を変えたんでさぁ。」



天敵という言葉を聞いたレオナルドの眉が動いた。



「いやはや――困ったもんです。

やはり厄介ですねぇ、我らが“天敵”、

スカイ・エニーフィートは。」




その名を聞いた瞬間、ララが息を呑み、

震える声で叫んだ。


「クライムさん……! やった……!」


表情には、一瞬の希望――。

ララの声を聞いたレニールの顔が、驚愕に変わる。




「クライムだって……!?

まさか……あいつが、あの“王国”の

スカイ・エニーフィート!?

じゃあ、あの“エイラ”ってのは……ッ!?」



ガドリンが安堵した。


「クライム殿……、感謝する。」




その言葉に、レオナルドが苦笑いを浮かべながら傷口を押さえる。


「……なるほど。“天敵”ね……察したよ。」





布教担当は手を振り笑いながら、


「まぁ、このままドックを抑えられるのも癪でしたんでね。

ウチの虎の子の同士五十人は“天敵”殿に丸投げしました。

もし“天敵”がくたばってくれりゃ御の字。


ドックと船くらいは綺麗に吹き飛ばしてくれるでしょう。

……それに、こちらにも残りの二十五人呼んでおきました。

あっははは、これでウチはもう手駒ゼロでさぁ!!」



周囲に乾いた笑いが広がるが、

レニールたちの顔色は一瞬で青ざめた。



ガドリンは、


「ここへ二十五人もだと……!?」



レニールは苛立ちと焦りで、


「クライム……くそっ!」



拳を握り締め、スカイの無事を祈るしかなかった。



そんな中で、粛清官がわずかにため息をついた。


「つまり……確実に潰すべき目標を人任せにして、

ここで“見せ物”を楽しみに来た、というわけか。」



布教担当はくすくす笑いながら手を振り、


「まぁまぁ、そう言わないでくださいよ、

粛清官のダンナ。

ウチだけ“天敵”殿と遊ぶなんて美味しい真似を独り占めできませんし。

せめて、“敗北の姫君”をおまけにして、

“天敵”殿もそっちに引きずって差し上げようと思いましてね。」



その一言に、粛清官の頬がわずかに吊り上がる。


「……余計な気遣いを……と言いたいが、

確かにそれは朗報だな。

どうせここも間もなく増援が来る。

よかろう、語り部――この船に爆弾を仕掛けろ。“保険”だ。」




「爆弾」――その一語に、

レニールとガドリンの顔色が同時に変わった。


ガドリンは戦慄した。


「なっ……貴様ら、本気で――!?」



レニールは冷や汗をかき、


「イカれてる!!

この船には民間人も乗ってるんだぞっ!!」





布教担当は肩をすくめて笑う。



「えぇ〜、ウチにですかぁ? 

ウチぁどちらかっていうと“喋り専門”でしてねぇ。

あんまり重いもん運ぶと腰にくるんですよ。」




粛清官は鼻で笑い、その眼に冷たい炎を宿した。


「安心しろ。お前が腰を痛める暇など与えん。

 ――時間は、私が稼ぐ。」



剣を収納し、前方に疾駆。その動きは風。

レニールとガドリンが同時に攻撃を繰り出すも、まるで掠りもしない。

粛清官の影がすり抜けた次の瞬間――



ララは、「きゃあ――!!」



金属の音。

誰も反応できぬ速さで、粛清官はララの背後に立っていた。

腕で拘束し、喉元に短剣を突きつける。



ガドリンが焦る。


「ララっ!!」



レニールは悲鳴に近い声で、


「くそっ、ララを離せぇぇっ!!」




粛清官は愉快そうに笑いながら、



「これでおとなしくなったな。

さて――保険の“価値”を高めてもらおうか。」



ララの瞳が恐怖と涙で潤む。



海風に混じる鉄と煙の匂い。

船の下ではまだ海賊たちの怒号と、崩れた船団の悲鳴が響き渡っていた。




レニールは怒鳴りながら、


「ララから離れろッ!!」戦棍を振り抜こうと一歩踏み出すが――




粛清官の短剣がララの喉元をかすめ、

鋭い光が脅しの形に走る。


「あと一歩踏み込めば、こいつの最期となるぞ。」



ララの体が強ばる。

冷たい刃先の感触に震えながらも、必死に瞳だけでレニールを見た。ララは震え声で、


「レニール……お願い、助けて……。」




ガドリンは怒りを押し殺し、


「卑怯な……貴様!」




レニールは唇を噛み、


「くそっ……ッ!」



粛清官は人質を取ったまま、ゆっくりと腕を上げた。

その合図に合わせて、甲板周囲の海賊たちが一斉に動き出す。




「――全員に通達だ。

 この船を制圧次第、要所に爆弾を設置しろ。

 船体中央、下層推進機構、それと……この区画の船倉にもだ。」



海賊たち口々に、


「了解!」「すぐに!」


半数はリュミナス号の操舵室と機関室を制圧しに向かい、半数は火薬樽や金属ケースを運ぶ音が連なる。


その数は五つ、いや十を超えていた。

その時だった――甲板の向こう、二艘の小舟が接近する。

片方に掲げられたのは、布教担当が使う紋章旗。見張りの声は沸き立つ声で、


「来たぞ! “語り部”一味だ!」



「おお〜! 間に合いましたぜ旦那ァ!!」



甲板の手すりを飛び越えて現れたのは、

白の外套を翻す語り部こと布教担当。


船の下からは、ぞろぞろと25人の新たな

信者兵が上がってくる。



粛清官は軽く笑って、


「……これでやり残しを完遂できるな。」






海賊たちが粗野な笑いを上げる。

すでに自警船団の艦隊は沈没、残る数隻も煙を上げて遠ざかっていく。



海は敵のものとなった。




リュミナス号の甲板に、生き残った者たちが集められていた。



リュミナス号の船員、負傷した政府付きのSP、中には傷だらけの自警団員、ガドリン、レオナルド、レニール。



彼らの手は縄で縛られ、無惨に膝をつかされている。


甲板の床には血の線がいくつも走り、

傾いたマストが悲鳴を上げていた。


ガドリンが、力なく


「……これが……結末か。」



レオナルドは傷口を苦しみながら、


「敵の力量を……計り違えたな、私たちは……。」




二人の重い言葉を聞きながら、レニールは顔を上げる。

その目だけはまだ消えていない。


「……まだ、終わっちゃいない。」



彼の視線は、荒れた海の先、遠くの小さな光――

ドックの方向を見つめていた。レニールの心の中で、



すまねぇクライム……。だがもうあんたしかいねぇ。

――あんたの、あの知恵でどうにかしてくれ。




拳を握る音が、綱の擦れる音に紛れた。


リュミナス号操舵室 内部。


ララは、粛清官の命令で強化錠のついた鉄扉の中に押し込まれていた。



扉が閉まると同時に、船内が静寂に包まれる。


いまやこの巨大な船は、完全に敵のもの。


操舵室外――粛清官が布教担当へ声をかける。

「爆弾の設置は済んだか。」



布教担当あくび混じりに、


「えぇ、ばっちりですぜ。

あとは後方の推進機関が治ったら、そのまま港へいきましょう。」



粛清官は無言で少し考え、


「いや。予定変更だ。

これよりリュミナス号は進路をドックへ引き返す。お前の虎の子がしくじった可能性もあるからな。」



布教担当はわざとらしく自分の額をペシペシ叩き、


「ありゃりゃ、ウチも信用無いんすねぇ。

まぁ確かに、“天敵”殿は気になります。注意するに越したことはございやせん。」




その背を不安そうに見つめながら、ララは小さく呟いた。


「……クライムさん……、レニール……お願い……。」


ララの声は波音にかき消されたが、

その願いは確かにどこかへ届くように、風が甲板を駆け抜けていった。




レニールの仲間の一人アドル――


彼もまた、怪我から退院して、

警備目的で周囲を見張っていた男だ。

遠目に見えるリュミナス号の異常な動き。

船上に白旗ではなく、黒い紋章旗が掲げられるのを目にして、彼は息を呑んだ。



「……なんてこった……海賊どもに、リュミナス号が……。」



双眼鏡を下ろした彼の額に汗が光る。

銃火の閃光が遠くに瞬き、甲板で海賊が群がるのが見えた。



「これは……やべぇ、完全に占拠されてる……!」



アドルは躊躇なく振り返り、通信石で仲間へ叫ぶ。


「おいっ!クライムさんたちに知らせろ!

リュミナス号だけじゃない、レニールさん達も危ねぇ!!」



緊急信号弾が打ち上がり、

港の上空に赤い火球が浮かぶ。



アドルは、

「クライムさん!エイラさん!もうあんたらしかいねぇ!!頼む、間に合ってくれ……!」



嵐の前に吹く潮風の中、

アドルは自らも駆け出し、

大使館に向かって走った。




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