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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
18/41

第15話 マリナス共和国10



スカイが携えた小型砲を下げて、静かに息を吐く。


「……よし、これで動いてる奴はいないな。」


治安維持部の隊長が近づき、驚きと敬意の入り混じった声を上げる。


「まさか非殺傷でここまで殲滅できるとは……

お見事です、クライム殿!」



スカイが軽く笑い返そうとしたその時――



パチ…パチ…パチ……

乾いた拍手の音が響いた。


全員が一斉に振り返る。



ドックの高み、照明塔の上に一つの黒い影が立っている。

光の逆行の中でも目立つほど白い外套。


その影は爪先でバランスを取りながら、

まるで劇場の大道芸人のようにわざとらしい仕草で手を叩いていた。



スカイは鋭く目を細め、低い声で


「……お前。――布教担当、か。」


布教担当は満面の笑みを浮かべ、誇張したお辞儀をする


「いや〜、ご明察っ!!

やはり油断なりませんなぁ、“天敵”殿――

そして……“敗北の姫君”までご一緒とは!」



スカイの眼光が殺意の色を帯びる。

一歩前に出て、エリアスの前に立つ。



「オレの愛嫁を“敗北の姫君”とは……

よほど地獄に行きたいようだな。」





エリアスが袖を掴んで首を振るが、

スカイの全身からは怒気が滲んでいる。



布教担当は両手を誇張した仕草で上げてみせた。


「おっとっと、怖い怖い。

確かゼストールの旦那にも同じ顔してましたっけ。

あなたを怒らせてヤラれたとか。

ウチゃそんな二の舞は御免こうむりたいんでね。」



彼はポケットから細長い金属笛を取り出す。


「だから、こうさせてもらいやす。」


甲高い笛の音がドックに響く


ピィィィィイイイ――!!!



その音に呼応するように、

布教担当の足元には色つきの煙

――赤と紫の混合発煙がもくもくと膨らんだ。



スカイが怒鳴る。


「貴様っ! 何をしたッ!?」





布教担当は満面の笑みで


「まさか昨日捕まえた同士達が“全部”だと思ってたわけじゃありませんよねぇ?

ウチの虎の子は、あれで終わりじゃございやせん。

“天敵”殿が投げた“神の問い”から、

それでも生き延びて“答え”を探し続けてる──

そんなしぶとい連中がまだまだいるのですよ。」






スカイの眉がわずかに動く。

彼の駒達、かつてスカイ達が滅ぼした“数値教残党”を思い出す。



「なにせウチも、

この界隈じゃそれなりに顔が効きやすんで。

頼まれりゃ、手足ぐらいにはなりますよ。」



背後で赤い煙が立ち上り、ドックの空を染めていく。

突然、複数の足音――こちらへ向かって駆け寄る集団の気配。



エリアスは汗を滲ませて、


「……来る!」



「伏兵か……!」




布教担当はその瞬間に、くるりと背を向けて高笑いを上げた。



スカイ小型砲を構え


「待てっ! お前を逃がすと思うか!?」



布教担当は振り返りもせず、片手をひらひらと振る。


「いやいや、“粛清官”の旦那がねぇ、

“天敵殿”と是非お会いしたいと仰ってまして。

今頃あの大型船を乗っ取ってる頃合いでしょうし、

ちょいと気を利かせてお膳立てを――。

では運がよけりゃまたお会いしましょう。

“神のしるべ”の赴くままに。」




笑い声と共に、赤い煙の中へ姿が溶ける。


スカイは地団駄を踏み、怒りを抑えきれず、


「くそっ……!!」





そこに哨戒兵が、


「クライム様! ドック方向へ向かう敵集団、

五十人を確認!尋常じゃない速度で接近中です!」




エリアスと治安隊員たちが顔を見合わせる。

額には汗がにじむ。


「色煙……あれが合図だったのね。」



スカイが唇を噛み、銃剣を構え直す。


「全員、配置につけ! ――次は本隊だ。」



遠くで鳴り響く怒涛の足音。


数値教の戦歌が、血の匂いとともにドックを包み始める。






リュミナス号・上甲板。



波を切る音の中、砲煙が風を裂き、白い帆布を焦がしていた。


デッキの中央――そこには、海賊に囲まれた四人の姿があった。


ララを護るように中央に立つ四人。


ガドリン首相、レオナルド議員、そしてレニール。



互いの背を預け合いながら、海賊たちの輪の中に立っていた。


ララ震え声で、


「……こんなにたくさん……。」



レニールは戦棍を構え、笑って


「数なんざ関係ねぇさ。来るもんなら相手してやる。」



ガドリンとレオナルドもそれぞれの杖を手にし、

静かな火花のような殺気が立ち込める。


その殺気を割るように、後方から低く響く声。


「――直接顔を合わせるのは初めてだな、ガドリン首相。

そして……久しいな、レオナルド議員。」



囲んでいた海賊たちが二手に分かれ、道を開ける。

そこを音もなく歩いてきたのは、


漆黒の軍装と紅を仕込んだ短外套を纏う男。その左頬には古傷――数値教の“粛清官”。



粛清官は薄笑いを浮かべながら


「我を捕らえ、マリナスの“数値教制圧作戦”を指揮した者よ。

あの時以来――三年ぶりだな。」



レニールは驚愕の目で、


「お前が……“粛清官”かっ!!」


戦棍を構え、身体を前に出す。



その背に隠れるように、ララが小さく震えた。


「レニール……。」



粛清官は興味深そうな口調で、


「ほう……よく調べたものだ。“天敵”の知恵あってのことか?」



その言葉に反応したのは、

レニールの父――レオナルド。

怒気を滲ませ、



「一度ならず再びマリナスを狙うとは、この下衆が!

やはりあの時、司法の壁など気にせず、

貴様をこの手で葬っておくべきだった!!」



粛清官は鼻で笑う。


「何を言うか。あの時お前たちは我らを“殲滅”しようとしたが、結局は完全に潰せなかった。

“天敵”の小賢しい策がなければ、

このマリナスなどとっくに灰だった。

全く、惜しいことをしたな。」



その挑発にレオナルドの歯がきしむ。

だが、粛清官は退屈そうに首を傾げた。


「あの時のやり残しだ。


今回はその片付けに来ただけ。


――誰が死のうと知ったことではない。」




ガドリン首相が前へ出て叫ぶ。


「貴様らの目的は、ドックと大型船の破壊のはずだ!

 我々をどうするつもりだ!」




粛清官は冷淡に、


「無論、人質だ。首相と議員………

これ以上無い交渉材料になる。

だが、それにしては元気が良すぎる。

少し静かにしてもらおう。」



粛清官が片手を上げる。


「――やれ。」



掛け声と同時に、海賊たちが一斉に襲いかかってきた。




レニールは棍を一閃。

うなりを上げる一撃で前方の二人を同時に叩き伏せる。



「どけぇぇっ!!」



ガドリンとレオナルドも


杖から剣を抜いた。


その瞬間、杖の先が分離し、細身の刀身が閃く。


ガドリンの剣撃は――宮廷式剣術、


レオナルドの剣撃は――突き主体のフェンシング。




二人の剣が交差し、海賊たちの血を散らす。ガドリンが息を荒げながら、


「ララを下がらせろ、レニール!」


「了解!」


ララを背後に庇い、再び棍を構える。




一方、レオナルドが剣を構たまま、

粛清官へ向かって踏み出す。彼の動きは無駄がなく、鋭い。



レオナルドは剣を突きつけて、


「我々を舐めるな、数値教の残党め!!

この海と国を守るために、我らは剣を取った。

命を賭して、貴様らを再び沈めてやる!!」




粛清官がその姿を見て、口角を僅かに吊り上げた。


「……面白い。“天敵”の前に、少し遊べそうだ。」


その手の中で、二振りの短刀が銀光を放つ。

指先で軽やかに回転させ、両裏持ちに構えた。



刹那、デッキ全体の空気が凍り付いた。

粛清官の体から殺気が波打つ。



レニールは額に汗をにじませ、


「……あれが……。」



ガドリンがレニールに撃を飛ばす。


「臆するな、レニール!ララを頼んだ!」



レニールは食いしばりながら


「ああ…任せろっ……!」




ガドリンが数人の海賊を切り払う間に、

レオナルドは一歩、静かに前へ。



粛清官が薄く笑いながら、


「――では、お相手願おうか。レオナルド議員。」



レオナルドは真っすぐ粛清官を睨む。


「望むところだ。」




二つの影が、静かな間合いの中で交差した。


瞬間、二人の距離が消えた。



ガン、ギィィンッ――!


擦れ合う金属音。

レオナルドの細剣が粛清官の双刃を受け止め、火花が舞う。


互いに一歩も引かない。


レオナルドの剣筋は直線。

踏み込み、突き、抜き、また突く――

最短距離を極めた刺突。



対して粛清官は、

斜め、回転、翻る、絡める――

螺旋のような軌跡で受け流す。




粛清官は笑いながら、


「まるで教本の剣だな。正確すぎて面白みがない。」



レオナルドは冷静に、


「ならば貴様の動きは、獣の群れの乱舞だな。理がなく下品だ。」



互いに吐いた言葉と同時にまた一合。

甲板が軋み、風を裂く刃の音が重なる。




粛清官は一歩下がると、

滑るような動きで周囲を回り込む。

双剣が独特のリズムを刻む――


トントン、カッ、トン。






レオナルドは足の向きを変えず、体重を左右

に移動させて牽制。両者の影が光を交差し、

まるで波と波が擦れ合うような間合い。


二人とも手数は多い。

正確な突きと、予測不能な斬撃が交錯する。


粛清官の短剣が低く走り、

レオナルドの剣がそれをかろうじて弾く。




ガ、ギィンッ!

金属片が飛び散り、観戦していた海賊が顔を覆う。



両者の動きはもはやよそ見できないほど。




粛清官が不意に跳び上がった。

その動きは常識外れ――上段を蹴るように宙

で一回転。

レオナルドが反射的に頭を低く下げる。




直後、粛清官は旋回しながら後ろに回り込み、

両短剣をクロスさせたまま斬りつける。


ヒュッ……シュッ!

制服の裾が裂かれ、布が宙を舞う。



レオナルドは舌打ちしながら距離を取る。


「……小賢しい真似を。」



粛清官は愉快そうに、


「これが邪道と思うなら勝手にしろ。

勝てば官軍、負ければ修行不足だろう?」



再び間合いに入る。

レオナルドが正面に踏み込み、突きを放つ。



だが粛清官は身体を逸らしながら逆手の短刀で切り上げた。



ギィィンッ!



金属音と同時に、レオナルドの右脇腹に赤い線が走る。



レオナルドの表情が歪んだ。


「ぐっ……!!」



鮮血が滴り、膝が自然に折れる。

レオナルドが息を荒げて剣を立て直す。


腹を押さえながらも、視線を逸らさない。



粛清官が鼻で笑う。


「王道も悪くはないが……

 あまりに一直線すぎるな、芸がない。」




レオナルドは苦しみながらも苦笑して返す。


「貴様こそ、敵を斬るたびに己の神を失っている。

それが哀れだと言っているんだ。」



粛清官は目を細め、

「……口だけは達者か。だが、その減らず口もやがて鳴かなくなる。

“天敵”が来るまで、ここでおとなしくしてもらおう。」


粛清官が流れるように前へ出る。

両手の短剣が交差し、

左右から攻める鋭い連続斬撃――

まるで人間の動きではない。


レオナルドは懸命に後退、剣で弾き、受けるが……

打撃の一つひとつが重く、両腕に痺れが走る。

最後の一撃を防ぎきれず、剣が甲板に弾かれた。




カラン――。




レオナルドが片膝をつく。粛清官は嗤いを漏らし



「どうした? 口数が減ったな。

 まさかこんなところで力尽きるとは。」



レオナルドは歯を食いしばり血を垂らしながらも


「……勝負は……まだついていない。」


彼の瞳にはまだ灯火がある。



空気が一瞬にして張り詰めた。




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