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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第13話 マリナス共和国8



新聞号外

『首都議会、レオナルド案に賛成多数! 

大型船お披露目式“決行”!!』



行き交う人々がその号外を手に取り、ざわめく。

商人、漁師、学生、それぞれの表情は驚きと期待と不安で入り混じっていた。


「大型船が完成していたのか!?」


「今度こそ海賊退治だってよ!」


「また争いになるんじゃ……」


――マリナス中を、号外は嵐のように駆け巡った。




発熱した議会を終え、ガドリンが重い足取りで官邸に戻る。

議場での熱気はすでに消え、外の街の喧騒が彼の疲弊を照らしていた。オレガノが静かにその背に寄り添う。


「あなた……そんな顔をして帰ってくるの、久しぶりですわね。」



ガドリンは力無く、


「民は“希望を信じたい”のだ。

 だが……その希望が、牙を剥かぬ保証はない。」


オレガノはそっと彼の腕を取る。


「……それでも、あなたの背を見ている限り、民はきっと信じる。

 あなたが倒れそうになった時は、私が隣に立ちます。」



ガドリンは小さく笑って、


「ありがとう。だが……嵐はこれからだ。」



窓の外、港の方で号外を掲げる子供の声が響く。


議場を出れば風が冷たい。



石段の上方の扉から、レオナルド議員が人々の歓声に囲まれながら出てくる。


胸の勲章と議員章が陽光を反射して光った。


先ほど議会で採決された「お披露目決行」の結果の余韻が、まだ空気に残っている。





そこへ石段下から、息を荒らしたレニールが現れる。

その後ろにはスカイ、エリアス、ララの姿。


「親父ッ!!」


その怒声に、取巻きの記者や議員たちがざわつく。

レオナルドが振り返り、眉をひそめた。


「……お前か、レニール。」



レニールは駆け寄って


「どういうつもりだっ!? 本気で“お披露目日”を強行する気なのか!?

 市民を危険に晒してまで正義を語るつもりかよ!?」



レオナルドは腕を組んで冷たく、


「民を守るために、時に危険に飛び込む覚悟が要るのだ。

今まで海賊共にやられっぱなしで良い方に事が運んだか?

 いつまでも遠ざけていては何も守れない――

 攻めなければ、守りも出来ん!」



レニールは憤り、


「違うっ!守るってのは命を守ることだろ!?

 ……こんな決行で死人が出たら、誰が責任取るんだよ!」


スカイとエリアスが一歩離れて、静かに成り行きを見守る。


レオナルドは腕を組み、


「責任なら、私が取る。

 だがな、マリナスが怯えて背を向ける未来の方が、よほど地獄だ。」



冷たい風が二人の間を抜ける。



レニールは震えながら、


「……じゃあアンタのその“覚悟”で、

何故お袋を救えなかった……!?」


レオナルドの目がわずかに動く。その時の影が過去を呼び覚ます。


「お袋のこと、あの時……見捨てたんだろ!!」


レオナルドは小さく歯ぎしりした。


「……その話はするな。」


「アンタがそのマリナスに向ける覚悟を、

何故お袋に向けてやれなかったっ!!?


お袋はずっと、病気になっても親父を笑って待っていたんだぞ!!それを親父は・・・っ!!」


エリアスとララが同時に息を呑む。



ララが口を開く。


「違うのレニール!!、それは……違うの……

あの時エミリアさんは――」


しかし、レオナルドの声が雷のように割り込む。


「ラネーゼ嬢ッ!! 言うなッ!!」


その圧が、議会前広場の風を一瞬止めた。

石段の下で、ララはその場に立ちすくむ。



ララは俯いて

「……ごめんなさい。」


彼女の瞳からこぼれた涙が石畳に落ちる。



レニールはその様子を見て、


「おい、ララ、どういう事だ?

お袋について何を知ってるんだ!?

親父っ!!アンタも何か知っているのか!?」



レオナルドは苦く、しかし答えない。


「……あの時のことは、私の中で終わった話だ。

 今は前を見る。それが政治という戦場の掟だ。」


レニールは歯を食いしばって、


「……そんなの、正義でも何でもねぇよ。」


そして、


「行こう、ララ。……悪ぃけど、もう親父の顔は見たくねぇ。」


スカイとエリアスが無言で後を追う。

一人残されたレオナルドはただレニール達の背中を見続けていた。 



マリナス王国大使館 夜

港の灯りが窓から揺れている。

会議室にはスカイ、エリアス、ララ、そしてレニールが向かい合っていた。



テーブルには報告書と事件メモ、海賊と数値教関係者の資料が広げられている。



レニールはため息まじりに


「……親父は本気だ。

“攻めなければ守れない”なんて、

どこまで頑固なんだよ。」




ララは沈んだ声で


「……ごめんなさい、私、何も言えなくて。」



エリアスは首を振りながら、


「ララさんのせいじゃないわ。彼はあの時、戦った人間の重みを引きずってる。

 でも、私たちは感情で動くわけにはいかない。」



スカイは静かに二人の間に言葉を置く。


「――エミリアさんのことは、今は置いておこう。」



レニールが顔を上げる。

その眼差しに怒りと寂しさが混ざっていた。




「今必要なのは、“あの二人の首謀者”の動きを掴むことだ。復讐でも許しでもない。

マリナスを守るために動く、それがあんたのお袋さんの望みでもあるはずだ。」




エリアスも頷く。


「クライムの言う通り。

 私たちは大使館のネットワークを使って追跡をかけるわ。

布教活動の首謀者――“言葉を武器に人を動かす方”を私たちが見る。」




スカイが地図に指を置く。


「レニール、お前とララはもう一人、

“海賊の実働指揮官”――粛清官の方を頼む。

現場を知ってるお前たちの方が動きやすい。」



レニールは少し黙り、そして右手を差し出した。


「望むところだ。……今度こそ、全部終わらせてやる。」



スカイが力強くその手を握る。




翌日、マリナス議会 公開委員会


「大型船・処女航海」護衛任務の調整会議。


自警船団が名乗りを上げ、正式に“護衛役”として参加が決定した。


議場の熱気は収まらず、処女公開の日取りが読み上げられる。


議長は、


「本日以降、準備期間を経て――明後日正午、“大型船リュミナス”処女航海を実施!」



ざわつく報道陣。

その観光的意味合いを織り交ぜながら、


実質的には囮作戦であることを知る者は少ない。


ガドリン首相とレオナルド議員は、

護衛責任者として船に乗艦することを公表された。



議会終了後の議会廊下、レニールが深呼吸して首相のもとへ進み出る。



ララが心配そうにその後ろにつく。



「ガドリン首相、お願いがあります。

俺とララも当日、乗船させてください。」



ガドリンが驚いた表情を見せ、隣のオレガノと目を合わせる。



「……危険を承知の上で、かね?」





レニールは真っ直ぐな眼差しで、


「はい。俺は海で生きてきた人間です。

海賊共の狙いがこの船にあるなら、ここが決戦の場です。逃げるわけにはいきません。」



ララが小さく頷き、手を組み合わせた。


「私も同行します。

……レニールの判断を信じます。」



ガドリンの顔に苦悩の影が浮かぶが、やがて重く頷く。



「……わかった。私が責任をもって許可しよう。

だが、命を無駄にするな。」



レニールが静かに一礼した。






同時刻、大使館取調班


スカイとエリアスは、

大量の資料とにらめっこしていた。


大きいテーブルの上には、

港湾記録・クエスト報告書・出入国履歴が出されている。


「見て、港湾労働組合の契約書。

 中に不可解な“無記名報酬”の入金があるわ。」


「こっちは懸賞掲示板とクエスト報告を照合中だ。

 最近、布教活動絡みと思われる“巡礼輸送依頼”が増えてる。

 活動範囲を海岸線から街中に移してるな。」




エリアスが顔を上げる。


「……あの“語り部”が動いてる。」



スカイは短く頷き、治安維持部への連絡を入れる。



港湾地帯—日中


自警船団と治安維持組織が連携し、スカイ達も同行した。


各地で海賊協力者や資金ルートの摘発が続く。


何人も逮捕され、倉庫からは数値教の紋章が刻まれた小型銃や旗が押収される。


だが、スカイは捕まった人を見つめながら眉をひそめる。


「……首謀者本人の影がない。まるで初めから“囮”だったみたいだ。」



レニールの海運会社・工場跡



レニールが仲間たちを前に立って説明していた。

背後には修理中の船と、潮風の音。




「お披露目当日は、俺たちも大型船に同乗

する。だが会場を監視する必要がある。本命は

必ず“陸”からも動く。お前らには会場を頼む。」



中間の一人が力強く、


「任せとけ!海賊野郎どもには借りがある!」





別の仲間も、


「レニールさんのためなら、命張ってでも守る!」



レニールが嬉しそうに笑う。



「……ありがとな。絶対、後悔させねぇ。」



ララもその隣で微笑み、小さく頷いた。





その夜—スカイの夢tube空間。

星空のようなデジタルの海。


スカイは仮想の椅子に腰掛け、スクリーンを浮かせる。



「……マリナスを救う鍵は、必ずどこかにある。

奴らは信念と狂気を同居させる。

なら、俺は“夢”の中で戦う。」



指が触れると、幾千の光のデータが波紋のように広がる。



「やはり、この方法しかないか。」



目を細めながら、それは、嵐の前夜の静けさ――


マリナスを巡る最後の戦いが、音もなく動き出していた。









そして迎えたお披露目当日の未明。


マリナス沿岸・岬の灯台 



海霧が辺りを覆い、遠くで波が岩を叩く。


灯台の明かりが霧の中にぼんやりと滲み、

二つの人影がその下で向かい合っていた。




ひとりは黒い外套の男。

灯台の壁に背を預け、腕を組んだまま海を眺めている。




粛清官――沈黙を纏う、刀のような眼差し。





もうひとりは白の外套に帽子を被った男。


口元にいやらしい笑みを浮かべ、霧の中に煙草の煙を漂わせている。





布教担当――笑うほどに凶暴な声で口を開いた。



「いやぁ~、朝も早ようからご苦労なこって、粛清官のダンナ。ウチゃ上々でさぁ。


ま、昨日はウチが苦労して集めた同士共がゴッソリ捕まりやしたが……


まさか、捕り物をした連中の中に“天敵”がおられるとはねぇ。嬉しい誤算ってもんで。

……我らが神も粋な計らいをするもんですなぁ。」




粛清官は低い声で


「くだらん戯言はよせ。

こちらも手筈は整えた。自警船団の動きも把握済みだ。

 ……“天敵”がこちらへ来る可能性が低いのは残念だが、もし機会があれば――喜んで始末する。」



布教担当は唇を歪めて笑う


「やれやれ、“天敵”を意識しすぎて本来の目的をお忘れなく、ダンナ。ドックは確実に破壊。大型船は……最低一隻は頂きやしょう。

 無理ならきっちり沈める、それでいいでしょう。

 何せ、これは我らの“苦い置き土産”でさぁ。」




粛清官は歯ぎしりを立てながら顔を歪める。


「……あれは、我らにとって最大の痛恨事だ。

 “神の問い”などという言葉で、一瞬の隙を突かれた。

 役立たず共を斬り殺してさえいなければ――

 最後のドックも完全に破壊できたものを。

 我らはまだ“問い”に答えられていない。」



「フフッ、そいつはウチも同じですぜぇ。

 ま、牢屋で語った通り、“生きてる間の神の試練”ってやつにしときましょうや。

 ……今はこのやり残しを片づけることです。

 ウチの役目が済んだら、あとは高見の見物としゃれこませていただきやす。」




粛清官がふと顔を上げ、意外そうな口調を漏らす。


「……お前にしては殊勝な心がけだな。

終わったらさっさと逃げればいいものを。

前のテロのときも、その“見届け”が原因で捕まったはずだが?」



布教担当は下品に笑いながら


「いやぁ、ぐうの音も出ねぇっすな。

 でもねぇ、やっぱりこういう

“刺激の見せ物”には、

 血が騒いじまうってもんでさぁ。

 人間、最後まで性根は変わらねぇんですよ。」



粛清官は鼻で笑う。


「……勝手にしろ。

 どのみち今日でケリをつける。

 我らが受けた屈辱と怨み――晴らさでおくものか。」




布教担当は愉快そうに


「ええ、では派手な花火を打ち上げましょう。

 せいぜい後悔のないように。

 じゃあダンナ――“神のしるべの赴くままに”。」




粛清官は静かに頷く


「ああ。“神のしるべの赴くままに”。」





朝霧が深まる。

潮の香りとともに、二つの影がゆっくりと霧の中へ消えていった。

灯台の光だけが、彼らの残した決意を照らすように瞬いていた――。



誰もまだ知らない。

霧の向こうで、悪夢が再び形を取り戻していることを──。





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