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夢tube断章、スカイ・エリアス編  作者: grow
断章 世直し新婚旅行編
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第12話 マリナス共和国7



夜。窓の外は群青の海。穏やかに灯るランプの光が、報告書の山を照らしていた。



共和国首相官邸執務室。


執務机の前には、

ガドリン首相、ララ、エリアス、そしてオレガノ。



そこへ扉が開き、スカイとレニールが戻ってくる。



「……クライム!」


エリアスはスカイの姿を見つけ、安堵の笑みで立ち上がる。


同時に、ララがレニールを見るやいなや、勢いよく駆け出した。


「レニールっ!」


そのままレニールに抱きつく。


「お、おいっ!? ララ!?」


ララの突然の抱擁にレニールは顔を真っ赤にし、腕の置き場を失う。


ララはその胸に顔を埋め、涙交じりの声でかすれた。


「よかった……っ!! レニールが無事で……。

 心配したのよ、勝手に一人で行っちゃって……!」


嗚咽混じりに言葉を詰まらせる。

そのララの姿にガドリンは驚きのあまり目を丸くした。


「ララ……お前、もしかして……。」


その隣で、オレガノが呆れまじりの笑みを浮かべて小突く。


「全く、貴方の鈍さには呆れますわね。

私も、あなたに気づいてもらえるまで苦労しましたのよ?」


照れ隠しにガドリンは咳払いでごまかす。



エリアスがスカイのもとへ歩み寄り、穏やかに問いかける。


「おかえりなさい、二人共。――海賊の手がかりは掴めたの?」


レニールが胸を張って答える。


「ああ、いい報告を持ってきたぜ!

 あいつらと“やりあって”、大物の正体を掴んできた!」



レニールの言葉に、ララとエリアスが同時に反応する。



エリアスは笑顔のまま目が笑っていない。


「……クライム? “やりあった”ってどういうこと?

 まさか危険な真似をしたわけじゃないでしょうね?」



スカイが苦笑して言い訳しようとしたその瞬間――。



レニールが得意げに割って入る。


「おう! 奴ら壊れたドックで6人で襲ってきやがってよ、

 俺がその辺の金属棒で5人のして、残りの一人がクライムに突っ込んできたんだ。

そしたらコイツ、ナイフを避けて敵を地面に

叩きつけやがってな! ――見事なもんだったぜ!」


レニールの余計な言葉にスカイ、固まる。


ララとエリアスは同時に“ピキッ”と目のハイライトが消える。


ララは涙目の上目遣いで、

「レニール……危ないことしたのね……?」


エリアスは静かに微笑みながら目の奥がギラリ、

「クライム。……私、何て言ったかしら?」



スカイが冷や汗を流しながら笑う。


「え、えっと……あの……その……」


エリアスはスカイを抱き寄せながら


「何やってるのよ、クライム……!!

たとえ敵が一人でも、あなたにもしものこと

があったらどうするの……!?

危ないことがあったら逃げてって言ったでしょ!?

そんなことになるくらいなら――私を一人にしないでよ……!」


スカイは抱きしめられたまま、言葉を失う。


彼女の腕は震えていた。

スカイは思い出していた。エリアスはプロポーズの直後、彼が倒れた記憶がまだ彼女の中でトラウマに残っている。



その感動(?)的な光景に、

オレガノがぱん、ぱん、と手を叩く。


「はいはい、無事に戻ったんだし――

そろそろ情報交換をいたしましょう?

 ……それと初めまして、“クライム”殿。

ララの母、オレガノです。

 あなたのことは、ララと“エイラ”さんから聞いておりますわ。」


スカイは慌てて体勢を整え、右手を胸に当てて一礼。


「はっ、初めまして。クライムと申します。

 首相ご夫妻には、いろいろとお世話になっております。」


オレガノは優雅にカーテシーを返し、にこやかに微笑む。



ここでガドリンが軽く咳払いをして場を締めた。


「――そちらも、いろいろあったようだね。

 実は、こちらでも三人が重要な情報を掴んでくれた。」



机の上に、新しくまとめられた資料束が置かれる。


「今度こそ本格的に話をしよう。

マリナスを狙う敵の正体――その輪郭が、

ようやく見えてきたようだ。」



全員が頷く。


スカイとレニールは来客用のソファに腰を下ろし、

エリアス、ララ、オレガノがそれぞれ資料を手にする。


空気が一瞬にして張りつめた。ララの手の震えが止まる。


レニールの視線が真剣に切り替わる。


スカイの瞳は、静かに燃えるような光を宿す。



執務室の中央には、大きな会議テーブル。


ガドリン・オレガノ・ララが片側に。


向かい側にはスカイ、エリアス、レニール。


机上には仕分けられた海賊関連資料がずらりと並べられている。



スカイが静かに口を開く。


「――まず、ガドリン首相。確認したいことがあります。


 あなたは、マリナスで半壊したドックを

復活させ、“大型船を三隻”完成させたこと

を極秘にしていましたね?」


ガドリンとオレガノが同時に目を見開く。


「ク、クライム殿……それを、どうしてっ!?」



そこにララがおずおずと手を上げ


「申し訳ありません……お父さま。

 私が、クライムさんとエイラさんに話してしまいました。」



室内に小さな沈黙。オレガノが目を大きく

見開き、ガドリンの方に詰め寄る。


「あなたっ!? 造船ドックは全滅したはずではなかったの!?

いつの間に大型船を三隻も完成させていたなんて……!」


どうやら彼女も知らなかったようだった。

新造大型船の存在は、国家でも限られた者しか知らない極秘事項だった。



ガドリンはまるで懺悔するように深く頭を下げる。


「あぁ……今回の選挙戦の切り札として、極秘で進めていた。

議会では最低限の承認だけ得て、

全壊したドックから使える機材をかき集め、

テロ掃討戦後に半壊で残ったドックを修理して復活させたんだ。


 ――市民に“希望の象徴”を見せたかった。


それだけなんだ。」


オレガノは頭に手を当て、疲れたようにため息をもらす。


スカイは話を続ける。


「しかし、その機材の持ち出しを“海賊”に掴まれていました。


――港での騒動や盗難は、それを誤魔化すための偽装。


 実際には、運搬経路を探っていたんです。


つまり、彼らは“復活したドック”と“三隻の大型船”を狙っていた――」




ガドリンの顔がこわばる。


「まさか……海賊たちの目的は、そのドックと船だというのか!?」



スカイは頷く。


「ええ。私たちを襲った六人は数値教の直接の構成員ではありませんでしたが、


 “誰かに唆されて加わった”と語りました。


 ――彼らを率いる“ボス”は名前さえ名乗らず、


 信仰を匂わせる口調だった。


 気配からして、数値教の残党です。」



ガドリンは頭を抱え、その場に座り込む。


「なんということだ……。」




その時――エリアスが小さくつぶやいた。エリアス


「……クライム。もしかしたら、その“ボス”の正体がわかったかもしれない。」


スカイとレニールが同時に反応する。



レニールは焦り、


「誰なんだ!? そいつは!!」



エリアスが静かに卓上のファイルを開き、ララから渡された資料を示す。


「これを見て。マリナスで数値教テロを主導した首謀者二人の報告書。


 どちらも仮釈放扱い……その後、行方不明。」



そのうちの一人――“粛清官”と呼ばれた暗殺部隊の男。


彼こそが、“ボス”と呼ばれている人物の可能性が高い。


そしてもう一人。布教活動を担い、マリナス内で信者を増やしていた人物。



エリアスはもう一枚の資料――商業別の収支報告書を取り出した


「これは各商業区画の収支報告。


 ――あちこちに使途不明金がある。


 同時に、大使館から提出された

“行方不明者リスト”の中にも、


 布教活動に関わった者の名があるの。


 つまり、もう一人の首謀者は潜伏し、


 “信者”を装って人脈を再構築していたのよ。」




静まり返る室内。


全員が、繋がった点を直感で感じた。


スカイがまとめに入る。


「つまり――今回の事件の真の首謀者はこの二人。


収監中に首謀者の一人が看守を唆して、仮釈放を装って脱出。


 片方がマリナスで布教の根を張り、支援者と活動資金をを作り出し、


 もう片方が海賊団を指揮して統率した。


 そして、あなたのドック復旧計画を嗅ぎつけ、復活したドックと大型船の存在を知った彼らは、


 それを最終目標に定めた。


 ――“未完のテロ”を、今度こそ完遂するために。」



レニールが立ち上がる。


「ふざけやがって!

オレたちの仲間や誇りを傷つけるだけでは飽き足らず、

今度はマリナスの希望まで奪おうってか!? 

冗談じゃねぇ!!」


怒りの声に、ガドリンは拳を握りしめ、震える声で答える。


「ああ……絶対に許されん。」



スカイは姿勢を戻し、首相を真っすぐに見据えた。


「ガドリン首相。大型船のお披露目は中止してください。


 海賊の目的がそこにあるなら――決行はお披露目の日です。


 市民への被害は計り知れません。」重苦しい沈黙。


ガドリンは深く息を吸い込み、険しい表情でうなずく


「……やむを得ん。」



執務室に重い沈黙が流れた。



マリナス共和国・議会本会議 翌日午前


円形の議場には各会派議員が揃い、ざわめきが絶えない。


その中央、演壇にはガドリン首相が立っていた。


壁際には報道員、代表報告を控えるレオナルド議員の姿。


ガドリン首相は、ゆっくりと壇上を見渡し、低く、しかし明瞭に言葉を放つ



「――諸君。

昨日、我々が捕らえた海賊の一味から得た情報、


 そして各方面による調査の結果、


 今このマリナスを揺るがす出来事の“核心”が判明した。」


ざわ、と議場が揺れる。


「海賊の正体は……3年前の“数値教テロ”の首謀者、


 ――その二人が生き延びていた可能性が高い。」



どよめきと怒号。誰かが立ち上がり、


「馬鹿な!あの掃討作戦で全滅したはずだ!」


と叫ぶ。それでもガドリンは続ける。


「彼らは仮釈放として行方をくらまし、


 潜伏しながら信者を再び増やしていた。


 そして――奴らの目的は“復活した造船ドック”と


 新造された“大型船三隻”だ!」




一瞬、空気が張りつめる。


議場中の視線が一斉に首相に注がれる。


「もしこれを奪われ、利用されれば、


 過去の惨禍が再び我々の海を血に染めるだろう。


 今度こそマリナスの悪夢が蘇る!


 ――よって私は、


 お披露目式を即時中止し、市民の安全を第一に動くべきだと提案する!」



議員席から喧々囂々の声。


「選挙前にそれは愚策だ!」「臆病者めっ!」


賛否の渦のなか、レオナルド議員がゆっくりと立ち上がる。



レオナルドは声を張り上げ、演壇前まで歩み出る。


「諸君ッ! ――冷静になれ!」



鷹のような鋭い眼光で周囲を見渡し、


手にした紙束を高く掲げて叩きつける。


「これを見よ!!海賊どもが残していった“犯行予告文”だ!


 “この恨みを我らは忘れない。神のしるべのもと、マリナスに今一度トドメを刺さん”――


と書かれている!」



バンッ、と掲示台に叩きつけられた赤い紋章入りの紙に、


議員たちが息を呑む。レオナルド


「もはや海賊どもがこのマリナスを狙っているのは一目瞭然だ!!


 例えお披露目を中止しても、奴らは止まらんッ!」


レオナルドは拳を高く突き上げて


「だったら――このお披露目を“餌”にしてでも、

今度こそ数値教テロの悪夢に終止符を打つべきではないか!?


我々が愛するこのマリナスに再び手を出した

らどうなるか、逆に思い知らせてやるのだ!!」



議場が一斉にどよめく。


「おおっ」「やってやれ!」


という声が連鎖し始める。



レオナルドはさらに畳みかける。


「我々は海に生きる民だ!


 嵐にも、飢えにも、戦火にも屈しなかった!


 我々の誇りを――海からやってきた連中にバカにされてたまるかっ!!


 むしろこちらが“海賊を狩る側”だということを見せつけてやろうではないか!」


 拳を叩きつける音が鳴り響くような熱気。


議場は一転して燃え上がった。


各派代表までもが次々に立ち上がり、


「賛成!」「我らの海を取り戻せ!」

「レオナルド議員に続け!」


拍手が巻き起こる。



ガドリン首相は議場の喧騒の中で言葉を失う。


「……レオナルド議員、それでは――市民が危険だ!大変なことになるぞ!!。」



レオナルド議員はガドリン首相に人差し指を突きつける。


「首相、あなたは国民を信じていないのか?


 我々は逃げずに戦う!


 それがこの海の国、マリナスの生き方だ!!」


会場席が総立ちとなり、拍手と歓声が爆発した。議長が槌を打つ。


「……多数の賛成をもって――


 大型船お披露目式“決行案”を採択する!」


ダンダンっ!


木槌が鳴り響く瞬間、


ガドリンの胸には冷たい汗が流れた。


こうして、止めるはずだった式典は、


民衆の熱と誇り、そして政治の波に呑まれて“決行”へと傾いた。


舞台は整った。――敵は、その日を狙っている。





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