『透明な放課後』
――なぜ君がいなくなったのか、僕はまだ知らない
水沢灯里がいなくなったのは、四月の終わりだった。
その日の放課後、教室には誰もいなかった。
窓を揺らす風の音と机に響く蝉の音だけが、やけに大きく聞こえた。
僕は彼女の席の横に立ち、机に触れた。
冷たかった。
まるで、最初から誰も座っていなかったみたいに。
「長谷川くん、ちょっといい?」
担任に呼ばれて職員室へ行くと、彼は机の上に一冊のノートを置いた。
青い表紙。少しだけ角が擦り切れていた。
「これ、水沢さんのロッカーに入ってた。
君宛てに見えるから、預かってほしい」
僕はノートを開いた。
最初のページに、灯里の字でこう書かれていた。
『長谷川くんへ。
私は最近、世界が自分を透かして見ている気がするの。
誰も、私の“本当”を見ていない気がするの。』
ページをめくるたび、文字が少しずつ乱れていく。
明るい灯里の声とは結びつかない、弱々しい言葉が並んでいた。
『みんなに好かれる私を続けるほど、
本当の私は薄くなっていく気がして。
透明になったら、もう苦しまなくて済むのかな。』
そこで、文字は途切れている。
次のページは破り取られていた。
破った跡が、赤い傷みたいに残っていた。
(灯里……君は何を書いたんだ?)
ページを指でなぞると、不思議と胸が痛んだ。
透明になりたいなんて、
あの子が言うはずのない言葉なのに。
僕はノートを閉じて、席に戻る。
夕日の差し込む教室は、どこまでも静かで、
どこまでも広くて、
灯里だけが抜け落ちた世界みたいだった。
――彼女は、本当は何を抱えていたんだろう。
僕はまだ、何も知らない。
ただ、知りたいと思った。
彼女が残した“透明な放課後”の続きを。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
本作は、
「失踪した少女の“本当”を追う青春ミステリー」
として書いています。
なろう文芸は派手さよりも、
“静かな謎”“人物描写”“読みやすさ”が評価されやすいので、
最初の数話で徐々に深まる不安と違和感、
そして灯里の真相への道筋を濃く描く構成にしています。
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