卒業パーティーを守るのだ
ちょっと庶民的な、学生が運営する卒業パーティーです。
生徒会役員は卒業パーティーの準備をしながら、頭を抱えていた。
今年の卒業生には王族もいないし、公爵もいない。
侯爵令息が生徒会長をしていたが、自分がトップだという状況に浮かれて、権力を振りかざしていた。
現在の生徒会長はそれを反面教師に、皆と仲良く、いい雰囲気を作ろうとしてきた。
卒業パーティーの準備も着々と進んでいるのだが、問題は……。
近年、婚約破棄をする場にされて、めちゃくちゃになる事態が起きている。
今年の要注意カップルを一覧にしてみたら、容疑者が八組もいる。
その中に、前生徒会長もいた。
生徒会役員室を連れ込み宿と勘違いして、業務妨害をしてくれたヤツが。
副会長がため息交じりに提案した。
「いっそのこと、スケジュールに組み込んでしまったらどうです? 『婚約破棄の時間』って」
庶務が「いいっすね」と賛成する。
「吹奏楽部にも、その時間は盛り上がる曲や情緒的な曲を自由に奏でてもらって。
料理研究サークルには、その時間はビュッフェ形式じゃなくなることの了承を得て。
執事課には、トレーで飲み物やフィンガーフードを配る練習をしてもらえばいい」
会計も乗ってきた。
「破棄される被害者を擁護する人も募りましょう。被害者を拘束しようとする脳筋を逆に取り押える人員を配備した方がいいですね。騎士課でボランティアを募集したら……いえ、情報が漏れたら困りますね」
書記がちょっと考えてから、小さな声で言う。
「いっそ、本人たちにやる予定があるかどうか訊いてしまおうか」
副会長が対策を考える。
「訊いたときに正直に言わなかった人には、当日になって婚約破棄を言わせないようにしたいですね。
その場合に供えて、猿ぐつわと隔離するスペースも用意しましょう」
会計がニヤリと笑う。
「……でも、私たちの努力を愚弄する連中に、意趣返ししたくないですか?」
生徒会長が問う。
「どういうことだい?」
会計が人差し指を立てて、説明する。
「ぶち壊そうとしている連中には内緒で、言われそうな人たちにだけ連絡するんです。
それで、反論に協力してくれそうな人材を確保しましょう。
加害者は、想定外の反論を受けてタジタジになる。いわゆる、断罪返しです」
庶務がそれに賛同する。
「用務員とか警備員とか庭師とか、事情を説明して卒業パーティーに呼んじゃいましょう。第三者の証言ですからね」
生徒会長が鷹揚にうなずいた。
「そうだな。
生徒会顧問に頼んで、学院長に職員を招待していいか相談してもらうか」
副会長が眉尻を下げる。
「今年度、最初で最後の顧問らしい仕事じゃない?
『自主性を重んじる』って、都合良い言葉だよね」
書記がおっとりと付け加える。
「ついでに、職員さんたちにこれから卒業までに怪しげな相談をしている場面に出くわしたら、内容を教えてもらおうよ」
五人はそれぞれの役割を決め、迅速に動き始めた。
ある日、容疑者のひとりである前生徒会長が、ふらりと生徒会室に顔を出した。
計画がばれたのかと、どきどきしたが……。
「僕がいなくて大丈夫かな。君たちだけじゃ心配だけれど、しっかりやりたまえよ」と放言して去って行った。
ぶちこわそうとしている人間に言われたくはない。
「完璧に」素晴らしい卒業パーティーにしてやろうじゃないか。
もう、絶対に!
今までの鬱憤を晴らすチャンスだ。
一丸となって、闘志を燃やしたのは言うまでもない。
さて、当日。
「婚約破棄だ!」とアホが叫ぶ。
待ってました! と会場中が湧いた。
あれだけ労力を割いて準備したのだ。無駄にならなくてよかった。
これから訴えられる被害者も、迎撃準備はばっちりだ。
普段は縁の下の力持ちの職員たちは、ワクワクを隠せない。
自分たちの応援だと勘違いしている浮気者たちは、「正義の鉄槌を!」と鼻息を荒くしている。
罠に自ら嵌まりに行ったと気づくのは、果たして、どの瞬間だろうか。
婚約破棄を叫ぶ人たちに「ぎゃふん」と言ってほしい、今日この頃。