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【176】青天の霹靂



 王太子主催にしてはちょっとラフなダンスパーティーの晩餐は、長テーブルではなくラウンドテーブル。なので、同じ卓の人だけでなく、後ろ側とか隣とか近くのテーブルの人ともその気になればお喋りができる。

 そして、たまたま、テーブルは別だが、ベスティア王国からの来賓であるコルミニョ公爵夫人の席はアルバンに近かった。

「聞けば、フリートホーフ辺境伯様は、魔獣の研究に於いても第一人者とお聞きしましたわ」

「ええ、まあ。元から興味のある分野です。学生の頃からの研究対象ではありますが、領主としての業務や義務に於いても有益なものと考えています」

「ご高名はかねがね。アカデミーでは早期入学と飛び級をされたとか」

「私は畏れ多くも、王太子殿下や第二王子殿下と共に王宮で教育を受けていたので。王族でもない身でいつまでも留まるのは適切ではないと思い、若輩ながらも早くに自立すべきだと考えていたのです」

 無難な質問に無難な返し。

 とはいえ、アルバンの対応が塩。

 コルミニョ公爵夫人は王妹でもあるのだが、どっちの側の味方なのかがまだ分からないため、心の壁が分厚め。

 対して、コルミニョ公爵夫人はアルバンに対してニコニコお手本のような笑顔と褒め言葉。なんか狙ってるのは明らかである。

 怖い。

 元々は我が国の王族。しかして、降嫁された、しかも他国の公爵家に、なんてことになると、立場によってはスタンスも変化するもの。仕方ない。それが生存戦略というもの。

 なんか、昼餐の時も思ったのだけど、公爵夫人、やたらアルバンに話し掛けるんだよなぁ。

 アルバンの方も警戒しているため、私は黙って隣でアホのフリに徹する。ボーッとして、政治のこととかなんにも分かりません、私はたまたま玉の輿に乗った元子爵令嬢です、という感じで置き物をやらせて頂く。

「アーヴァンクの件も、辺境伯様ご自身で調査をされたとか」

「……はい。領地で起きたことですから」

 にっこり笑って、いきなりぶっ込んできた。

 これ、この方……かなりの癖者なのでは?

 普通、初対面の辺境伯、しかもアーヴァンクの件で被害を被った側に対してダイレクトに切り出したりなんてしないぞ?

 増してや、私たち夫婦が元カクトゥス伯爵フンベルトに対して求めた刑罰の内容は別に隠していないからコルミニョ公爵夫人も知っている筈。怒っているのは分かっている筈なのに、何故あえてここで自分からその話を出す!?

 国内での別な貴族家だったら百歩譲って分かるものの、明確に他国となればこれは戦争の合図と取られかねないが、何故?

「私、実は辺境伯様の書かれた魔獣の研究論文を拝見しましたの。我がコルミニョ公爵領はダンジョンを擁するものですから、興味深く拝見しましたわ」

 ん?

 笑顔の質が変わった。

「私、フリートホーフ卿は優れた領主であると同時に、優れた研究者であると思っていますの。先日の事件に関しては、闇ギルドとも呼ばれる犯罪組織のせいで起きたものであり、各種調査に関しましても国同士でやり取りを進めておりますが、やはり、卿にとっても詳細が不明というのはご不安かと存じますので」

 あっ、これは。

「一度ぜひ、我がコルミニョ公爵領まで足を運んで頂いて、直接ダンジョンをご覧になってはいかが?」

 ろ、ろ、ろ、労働力の搾取――――!

 つまり要約すると「うちの領地に来てダンジョンの調査やって♡」ということである。

 しまった。そっちか。でも分かる。

 西の国ベスティアは言ってしまえば貧乏国。国が貧乏で政治も統治も経済もうまくいっていない。国庫にお金がないし、各領地に関しても、貴族はそれなりに贅沢な暮らしをしているようではあるが、単純に個人の範囲の贅沢しか出来ないぐらいの懐具合。

 つまり、学問や研究機関に回せる予算がどこにもない。

 そもそもからして、研究というのはいつ成果が出るか分からない金食い虫である。同じ金食い虫でも、軍隊や騎士団は存在するだけで分かりやすく効果が出るので金食い虫としてはまだまだ序の口。絵画や音楽も金食い虫だが、こちらはヒットすればリターンが大きいのでそこまでではない。

 真にお金がかかるもの、それは研究。

 色んなものを研究すればするだけで良い。未来のための投資であるし、たま〜に画期的なものが出てきたりとか世界を変えたりもするが、しかし、成果がいつ出るか分からない上に、そもそも何の成果も出てこなかったりするのが研究。

 そのくせ、地学生物学なんかはただただずっとお金が掛かる。まず調査。即ち人件費。次に資料集めと編纂。即ち保管のための場所とコスト。それに加えて回収したサンプルの分析やら保管やら飼育やらとなると、真夏の氷よりも儚くお金は溶けてゆく……。

 でも、学問とか研究は国力に直結するので、やっておかないといけないんだ。

 賢さとマニアックな知識と最新研究、それは目には見えないブルジョワジー。

 故に私は研究者気質で賢く優秀なアルバンが物凄く好き。だってゴージャスでかっこいいから。

 実際、アルバンは趣味と実益で魔獣の研究を行なっているが、研究で判明して、尚且つアルバン以外がやって再現性のあったものに関しては論文に纏めてアカデミーの院、研究棟に提出しているし、そちらでも国家に貢献している。

 普通、研究棟に籍を置く教授や院生はアカデミーを通じて国から研究予算を貰った上で各種研究に勤しむのが普通であり、不足分は自腹。人によってはパトロン探して融資を募ったり、借金したりとかしてるらしい。シビア。

 が、アルバンは野生の研究者。

 費用に関しては全てが自分のポケットマネー。金を稼ぐだけ稼いで自分の趣味の研究とか本の蒐集に使っているあたり、なんというか……インテリジェンスに極振りしたその生き方、私のツボ過ぎる。好き。

 しかし世間ではアルバン・フリートホーフがかなり優秀な魔獣学者というのはほぼ知られていない。いないが、ちょっと調べたら分かる程度のことではあるし、なんなら自腹で熱心にやっている辺り「筋金入りだな」と断定するには充分だろう。間違ってない。

 ほーほーほー、な、なるほど……?

 確かにコルミニョ公爵領としても、ベスティア王国としても妙案だな?

 今は我が国、クライノート王国は白銀が三人も居る。その時点で武力というか戦力があり過ぎるが為に、どうしたって他国から警戒されてしまう。

 お隣のベスティアからすれば「えっ、うちのこといきなり殴りに来たりしないよね……?」と怯えている訳だ。

 ただ、正味な話「白銀って、でも言うてそこまでじゃないでしょ」という意見もあったのだろうけれど、ここに来てアルバンが火竜を単騎討伐してしまったので「えっ、白銀って……単騎で竜狩れるんすか……?」となってしまった。完全にビビられている。だって客観的に見たら、我が国には竜より強い人間が三人も居るってことになるのだし。

 で、よりにもよって、そんな白銀の辺境伯様が、ベスティアからズンドコやって来たアーヴァンクの件で大激怒してるっぽいとなったら、まあガクブルするしかない。ベスティアの王家も議会もみんな震えてしまったことであろう。これは普通に可哀想。

 しかも噂だと、アルバンは冷酷無慈悲な怪物辺境伯であるため「なんとか我が国にブチギレて報復されないようにしなくちゃ!」となる訳だ。

 そこで登場、コルミニョ公爵夫人。

 出身がクライノート王家の貴婦人が居て助かったぜ、という訳で、人選はそれで決まり。

 そこに来て、色々調べてみたら「なんか、フリートホーフ辺境伯って優秀な魔獣研究の第一人者でもあるみたい」「アーヴァンクも自分で調べてダンジョン産だと突き止めたっぽいよ?」となったのであろう。

 ――これ、フリートホーフ辺境伯呼んで、ダンジョンの調査して貰ったら潔白の証明が出来るし、国際交流にもなるし、研究成果を共有することにすれば、調査費ちょっと浮くし、確実に成果が出るんじゃね?

 そういうことなのだろう。

 隠さずにダンジョンを開放するというのはつまり、ベスティア王国そのものはアーヴァンク件に関しては何も知らなかったんだろうなコレ。

「…………ダンジョン、ですか」

 アルバンが揺れている。

 まずい!

 これ絶対にグラついているやつだ!

 い、嫌だ。私が個人的に嫌だ。アルバンと離れ離れでお留守番のターンになるじゃないか。しかも、そうなると私が辺境伯代理をやる流れ。他国での調査とかになったら何ヶ月にも及ぶだろうし、本気で嫌だ。アルバン自身の幸せのため、ひいては国際交流のため、なんなら人類の発展のためには快く送り出してあげるべきなのだろうが、大変そうだし、会えないの寂しいので嫌だ。

 嫌だけど……これ、アルバンがダンジョンを調査した際に発生する世界のメリットが余りにも大き過ぎるんだよなぁ……。

「興味深いものですが、私も領地がある身です。おいそれとは離れられません。王家と議会に相談して頂ければと」

 興味深くはあるけど領地優先です。だって領主だもん。

 そういう灰色の回答。完璧。ここで「行きます」とか安易に返事をしてはいけない。だってフリートホーフ辺境伯領は国内の超重要地点。魔獣多いけど食糧生産の要。加えて北の謎民族とかの脅威もあるし、ないとは思うけど西と北が実はグルでした、とかなったらうちの領地が終わってしまう。

 いやハインリヒさんが居ればある程度はどうにかなるだろうけれど、長期に渡って不在にしたら、何か起きた時に領地がどうにかなっても、責任を追及されて私たち夫婦が終わる。国中から総スカン間違いなし。

 ここは慎重にいかなくてはならないのである。

 たとえ、アルバンが内心でウズウズしていたとしてもだ!

 コルミニョ公爵夫人は無難な領主としての回答を前に「あらそれは、失礼しました」とスススと引き下がってくれた。脈なし判定を下したっぽいが、私には分かる。

 アルバンはもう、行く気満々であると。

 プロの領主なのでポーカーフェイス。落ち着いてゆっくりしたトーク。無表情に無感情を装ってはいるが、このかったるい社交というイベントにあっても食事を進めつつダルそうな雰囲気が出ていない。つまり、機嫌が良い。

 そこから晩餐が終わり、踊り足りない人々は残って真夜中までコース。

 我が家はさっさと帰りましょうね、という話であったのだが、アルバンから待ったが掛かった。

「帰る前に、ちょっとアレクたちと話していっても良いかな?」

「ええ、勿論です」

「ごめんねツェツィーリア。体調悪くてしんどいのに……手短に済ませるから!」

 これきっと、アレクサンダー殿下に対してベスティアに行かせて欲しいってお願いするんだろうな。

 領内の運営そのものは、私が代理になってサインして、他は優秀な文官の方々に任せておけばそれで済むけれど、防衛に関してはやはりアルバンの代理としては同じ白銀であるアレクサンダー殿下かアロイス殿下でないと不安があるし、そっちのお願いかな〜、なんて思っていたのだが。

「アレク!」

「おお、アルバン!」

 ちょうど晩餐が終わって別室で休憩中だったらしいアレクサンダー殿下とシャルロッテさん、そしてアロイス殿下とディートリンデさんが揃ったところに入室。

 お互いに外向きの態度ではなく、親しい間柄としてのフランクな挨拶と共にアルバンはアレクサンダー殿下に近寄って行き、そして――。

「フンッ!」

「ぉあああぁあっ!」

 流れるような自然さで、アレクサンダー殿下を横向きに、己の肩の上に担ぎ上げた。

「これは……オーバーヘッドバックブリーカー!?」

 (この世界におけるアルゼンチンバックブリーカーです)

 突然炸裂する大技。王太子殿下を担ぎ上げて頭部と腿をホールド。ロイヤルな新郎がアルバンの手によってくの字に折り曲げられている。

「あだだだだだっ!」

「僕に予定伏せやがって! ツェツィーリアの体調が悪い日にぶち当てやがって!」

「すまんすまん! 俺が悪かった!」

 アレクサンダー殿下もこれ、痛がりつつもやや笑いが混ざってるあたり、余裕あるな?

 というか、アルバンが竜の血を浴びたせいで頑丈なのは知っているけど、そもそも白銀には元から体が頑丈疑惑あるな?

「ごめんなさいアルバン。今は私、妊娠しているから遠慮したいのだけど、無事に子供が生まれたら、甘んじてアレクと同じ罰を受けるわ」

「いやいいよ。シャルロッテの分もアレクに償わせるから。一人一分計算で、アレクに二分間これやるから」

 覚悟を固めた表情でシャルロッテさんが自己申告するが、アレクサンダー殿下を担いだまま、アルバン、普通に拒否。

 それはそう。

 妊婦さんどころか、産後の女性にも優しいのがアルバン。そんな真似する訳がないし、なんなら特に差し迫った事情がない限りまず女性に対して肉体的な制裁など与えないだろう。元々苦手なのだし。確認したことはないけれど、私以外の女性との身体的接触、きっと避けたいんだろうな。

「兄さん! いいよ! 輝いてるよ!」

 兄がオーバーヘッドバックブリーカーの刑に処されているのを見て、アロイス殿下、未だかつてない晴れやか爽やかな笑顔で輝きまくっている。隣でディートリンデさんが妖精のようなお顔から微笑みを消してドン引きしているが、大丈夫なんだろうか? 婚約破棄されたりしない?

「はい、次はアロイスだよ。順番だからね」

「えっ、なんで?」

「気分。なんかムカついたから」

「あ痛たたたたたたっ! ぎっ、ぎぃっ……!」

「アロイスお前、体硬すぎ。ストレッチしてる? うちの騎士派遣するから鍛えて貰えば?」

 うわぁ、幼馴染故の情け容赦のない性格の悪さによる煽り。これは悪質。

 いい笑顔なのもまたあの、なんていうか……私や子供たちに対してのみ優しいだけで、この人、元々の性格はやっぱり余り良くないんだなと再認識してしまう。ごめん。でも乱暴だし雑。いやでも、男兄弟だけだとこうなりがちとかあったりするんだろうか? 分からない。私は甘やかされて育った一人娘なので。

 ちょっと引いてしまうが、一方でディートリンデさんはアロイス殿下がヤバい感じの声を漏らすたびにパチパチと優雅かつ可憐に拍手をしていた。

 えっ、あの、ディートリンデさん、それは良いんですか……?

 なんなら、アルバン、アロイスさんに対してはホールドした頭部と腿、掴んだ腕を下に引いて反動付けるまでしているので、もうノリノリである。

 最後は雑にアロイス殿下をポイっと床に捨てて、物凄く晴れやかな笑顔を披露している。

「あー、スッキリした!」

 陰の者とは思えぬ爽快さ漂う素晴らしい笑顔なのだが、理由が理由なので私の目は虚無である。

 最早凪の気持ち。

「じゃ、僕たち帰るね」

「おお! またな!」

 アレクサンダー殿下、これ本気で気にしてないっぽいな? 逆に凄い。大物。これは王の器。

 ご機嫌なアルバンにエスコートされて馬車に乗り込む。

「お疲れ様ツェツィーリア。体調、どうかな?」

「大分よくなってきました。今回は序盤で出血が激しかったので、この後はかなりマシになると思います」

「うんうん。痛みはどうかな?」

「今は薬が効いているので楽ですね」

「そっか。でも、貧血が解消された訳じゃないんだし、栄養をしっかり摂って、あったかくしてしっかり寝ようね」

 言いながら、せっせと私の肩にストール掛けて、更にその上から大判のブランケットで包んでくれるあたり、やっぱり優しい。

 アルバンは子供たちに対しても私に対しても世話好き。

 自分で普通に出来ることを、敢えてやって貰うって、理屈は分からないけどかなり幸せ。

 なので、それをやって、目に見える形や行動として優しさを与え続けてくれるアルバンと離れるのは寂しいけれど、私は妻として、夫のことを快く送り出すべきなんだろうな。

 辺境伯夫人として頑張らねば!

「アルバン様、コルミニョ公爵夫人が言っていたことについてなのですが……どうするつもりなんですか?」

「請けられるなら請けるつもりだよ。いつになるかは分からないし、そもそも、王家と議会が承認して、そっちから話を僕の方に持ってきてくれたら、って感じかな。魔獣や魔植物、動植物について研究してるのは僕だけじゃないからね」

「でも、アルバン様はダンジョン、行きたいのでは?」

「行きたい。でも、要するにコルミニョ公爵夫人の、いや、ベスティアの要求しては、国交のためにダンジョンというベスティア特有の資源に関する情報をこっちにも開示するってことと、それと同時に、ダンジョンの調査と研究に必要な費用を負担して欲しいってことだからね。恐らく、ダンジョンからのみ産出される資源を輸出して、外貨を稼ぎたいって意図もあるんだろうし。単純に、貿易が活性化すると戦争を起こすのはデメリットしかないんだ。平和のためには良いことだけど、お金とフィールドワークが出来る研究者さえ用意すればこと足りる。王家や議会が北方の防衛をどう考えるかに依るだろうね」

「アロイス殿下に代理をお願いする、というのはどうなのでしょうか?」

「アロイスはアロイスで、デスクワークメインだから目立たないけど、あいつは外交メインなんだよ。各国の古語まで読めるし書ける。自分で他国に赴くのはやってないけど、外交文書作成のプロ。ほぼ毎日手紙と書類作成に追われてる。ついでに言うと、アレクのために根回しの手伝いとかもやってるみたいだから、それなりに忙しいよ」

「社交は時間が取られますものね」

「そうそう。アロイスの仕事は人と会うこと。対人の仕事ばっかりだからさ、代理を探すのも手間なんだよね。まあ、その気になれば、書類とファイル抱えてうちに来ちゃえば済むんだけどさ」

「でも、どちらにせよ引き継ぎが大変になってしまいますよね」

「そう。だから議会でも意見が割れるんじゃない? アーヴァンクの件があるし、僕が別に戦争を仕掛けたりとかしない奴だってアピールするのを取るか、これまで通り北方の安定を取るかって所かな」

「難しいですね」

「僕は正直、自分に話が回ってくるなんてことはあんまり期待していないんだ。ベスティアだって、火竜を仕留めたような人間兵器が来ることを嫌がるだろうし」

「残念ですね。アルバン様、ダンジョン、絶対に好きな分野なのに……。」

「ツェツィーリアもダンジョンが気になるの?」

「気になるといえば気になりますが、アルバン様がダンジョンに行けたら良いなと思います」

「えっ、と……それってつまり、僕の趣味に付き合ってくれる、ってこと?」

「はい。好きなので」

「ええ〜? 嬉しいな。ツェツィーリアの興味がある分野じゃないのに、僕に付き合ってくれるんだ。そっかぁ……じゃあ、もしも話が来たら、一緒に西の国に行ってみようか。あっちは治安が余り良くないみたいだけど、ニーナと、それから何人か護衛を選んで連れて行って……健康管理も大変だとは思うけど、薬も持って行こうね。名物料理で美味しいものがあっちにも色々あるみたいだし、ダンジョンに入っていない間は食べ歩きとかもしてみたいね。あっ、現地で料理人を雇うのでも良いかも」

 ……ん?

 あれ?

 なんかこれ、私も行く流れだぞ?

 これは想定外。

 体力ないし、疲れるとすぐ寝込むし、そもそも旅に向いてない。おまけに戦闘能力もサバイバル能力もないし、魔力が皆無なのでちょっとしたお手伝いも出来ないので、完全なるお荷物でしかないのだが、アルバン、それでも良いのか。そうか。

「わ、私も行って、良いんですか……? 確実に足手纏いですが」

「ごめん。正直に言って、長期に渡って君を一人で家に残していくのが本気で嫌。屋敷から出なければ大丈夫だとは思うんだけど、この間のオラシオみたいに、君に目を付けた男が現れたりしたらと思うと……勿論、護衛を付けて何不自由ない安全な生活を約束はするけど、長期に渡って君のことを放っておいた結果、君からの愛を失ったらと思うともう、気が気じゃないんだ」

「半年ぐらいだったら、とても寂しいですが我慢は出来ると思います。でも、確かに……何らかのトラブルが発生して何年も離れ離れということになったら、その時はお互いの気持ちがどう変化するかについては分からないですね」

 あと、何より、年単位で放置されてアルバンが帰国できないとかなったら、フリートホーフ辺境伯領が文字通り終わってしまう。領民が健康で死亡率も失業率も低く、かつ食料自給率と国に対しての納税額な高いのはほぼほぼ全部アルバンの功績。私は一週間そこらなら代理をやれるけれども、同じように出来る訳がないので、その展開になったらストレスで私の心も死ぬと思う。

「僕は変化しない自信があるよ。十年間もツェツィーリアのストーカーだったし。今は僕が求愛して、君がそれを受け入れてくれたから上手くいっているけど、こっちから求愛出来ない状態になったらと思うともう……帰ってきて、君の態度がよそよそしくなっていたりしたら僕はその場で崩れ落ちて号泣する自信がある!」

「わぁ」

 愛が重い。

 というか、アルバンは私の態度がちょっとよそよそしくなっただけで泣いてしまうのかそうか。胸張って堂々と言い切ってしまうあたり潔いし、なんなら逆にかっこいい。

 でも、良い気分。

 私も離れ離れの後に再会したアルバンが、私のことを好きじゃなくなっていたらきっと泣く。

 そして、お互いに好き同士の状態を維持したいと考えてくれているのが嬉しい。

「私も、アルバン様と離れ離れになるのは寂しいです。なので、もし、ベスティアに行けることになったら……頑張って体力作りをしますね」

「ありがとう。でも、無理はしないでね?」

 馬車の中でお互いの手を両手できゅむ、と握ってなんとなく二人とも笑顔。

 私たちのコミュニケーション、ほぼほぼ幼児。

 でもまあ、他の人に見られる訳ではないから良いのだ。

 そんな感じで話が纏まって、帰宅したらクタクタのままもう一回お風呂入って寝巻きに着替えて即就寝。

 一日に三回も風呂入ったので、顔も体も髪も油分が抜けてパサパサなので、全身保湿。私もアルバンもオイル塗ってテッカテカな状態でバタンキュー。

 出血量が落ち着いてきたとはいえ貧血と疲労はしっかり残っているため、昼間で寝るぜと、もうそこまで寒くはないが夜明け後の遮光のために天蓋降ろしてグースカピー。

 ああ、お布団、最高――!

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