【174】貴族はつらいよ
結婚式、儀式自体が時間がかかる。
大聖堂には予め新郎新婦以外の参列者が整列した状態で後から王太子殿下と王太子妃殿下となられるキャロラインさんのご入場。
まあもちろん単なる王子様ではなく、次の王様になる王太子殿下のご結婚ということで「領地で魔獣が……!」とか「領地で崖崩れが……!」とかそういう急を要する事態が起きているところの領主以外は全員参加。領主自身が「風邪ひいて高熱です」とかで来れなくても、代理を立てる。名代としてベターなのは跡継ぎ長男あたり。
そんなんだから参列者の多いこと。
数百人単位で参列者が居るので、勿論、詰めねば入らない。
なので、参列者全員に立ち位置が決められている。事前にダレソレはココで……なんて綿密に話し合って、一人も漏れたりしないよう、王宮スタッフと大神殿のスタッフが協力して、気の狂いそうな多重チェックの末に当日を迎えるのである。本当にお疲れ様です。地道で果てしない作業、頭が下がります。
なので、私たちが並ぶ際にも、それ専用の係の人が「あなたはここです」と立ち位置を教えてくれる。
本当なら全員分の名前を書いたメモ紙を床に貼ってバミっておきたいぐらいだが、そうもいかないので、案内係の人は大変である。
が、そこはそれ、歴史ある大聖堂は床そのものにちょっとした工夫がされている。
床は大理石なのだが、その大理石にはちょいちょいお花のレリーフ。中央の祭壇までの道の左右の所に、さりげなく、バラだったり百合だったり雛菊だったり、被らないようにそれぞれモチーフが刻まれていて、目印になっているのである。
「偶然だけど、僕たちは百合のモチーフの上だって」
「わかりやすい位置でよかったです」
「僕の体が大きいから、広めに場所を取ってくれたみたいだね。ツェツィーリア、体調はどう?」
「良くはないです」
痛み止め飲んだけど、冷えてきたらもうお腹が痛い。
痛さに気を取られて返事がそっけなくなってしまう。アルバン、ごめん。でも痛くて無理。
「……じゃあ、腰をホールドしても良い? 夫婦なら許されるし、くっついていた方がちょっとはあったかいだろうし。寄り掛かったら少しは楽なんじゃない? 体重かけちゃって良いよ。しっかり支えるからねっ!」
「あ、ありがとうございます……!」
私が素っ気なくても、アルバンはニコニコ動じない。というか、これは優しいので、私が愛想なくても変な空気になったり拗れたりしないように事前に手を打って気を遣ってくれているだけだな。
今度、今度何かで埋め合わせしなくてはっ……!
「火魔法使ってちょっとあっためるね〜」
「えっ、好き……。」
さりげなく、私の腰をホールドしたでっかい手を火魔法の応用であっためてくれてカイロ状態に。ホカホカである。助かる。
「やあ、アルバン。久しぶり〜!」
「ディートリンデ、久しぶり」
「お久しぶりですアルバン卿」
おぉう、アルバン、華麗に第二王子殿下をスルーしている。
完全に敢えての無視。
「えぇ、酷いなぁ。アルバン、無視はやめてよ。不敬罪で訴えちゃうよ?」
「黙れこの腹黒。お前は知ってた筈だろ。アレクは後で締めるけど、お前もお前で事前にこっそり手紙くらい送れたんじゃないのか? こっちは仕事が詰まってんだよ」
「すみません。私やシャルロッテさんはこっそり手紙を送ろうとしたのですが、途中でブロックされてしまったようで……。」
「ピルツ議長あたりの指示じゃない? 知ったら逃げるって分かってるから手を打ったってこと。つまりまあ、アルバンの身から出た錆だよ」
「……身から出た錆って現象がお前の身に起きることを僕は心から祈っている!」
濃厚な幼馴染トークが展開されているが、私は入っていけないし、軽くディートリンデさんと会釈するに留める。本当なら第二王子殿下にもカーテシーでご挨拶すべきなのだけれど、先にアルバンとアロイス殿下が家族の距離感で会話しちゃってるのでこれはスルーしてOKなパターン。
「あれ、ツェツィーリアさん、もしかして体調が悪いんですか?」
「はい。実は立ちくらみが」
フォーマルな場面における女性の口から出る「立ちくらみが」というのはつまりそういうことなので、すぐに察して頂ける。
アロイス殿下もディートリンデさんも「あ〜」みたいな顔をしているし、王族及び準王族ポジの女性で本日この最悪な生理現象に大当たりしてるの、私だけなんだろうな。
と、いっても、王妃殿下と今日の主役のシャルロッテさんとディートリンデさんと私だけなのだけれども。
「向かいの列には諸外国からの来賓がってことだけど、ベスティアからはコルミニョ公爵夫人がご参加されるって話だけど……僕のことって知っていらっしゃるのかな?」
「確認したけど、コルミニョ公爵夫人はフリートホーフ辺境伯のこともよくご存知みたいだ」
心臓に悪い。
ロイヤルな会話、ポンポン当たり前のように重要情報が飛び出してくる。調子が悪い時に聞きたくない。気絶しようかな?
今のこの会話のヤバいポイントは大きく二つ。
まず西の国ベスティア王国のコルミニョ公爵夫人というのは、我が国クライノート王国の王女であった方なのである。国交のための国際結婚をして下さった、現在の国王陛下の王妹にあたる方であり、ご結婚されてからの帰国は今回が初となる。
他国の貴族に降嫁されたとはいえ、ベスティア王国において最も歴史がある公爵家がコルミニョ家であり、その影響力は計り知れない。
ベスティアとは国同士の距離感が微妙なのもあって、王家同士での結婚はちょっと難しい。だって、王妹とかになってしまうと、我が国の王族の方々に何かあった際に「じゃあ血筋としては王妹の産んだ子に継承権あるね」とかも無理くりやればあり得る線になってしまうためだ。
なので、ベスティア王家との縁組は避けたいけど、国交のために持参金たっぷりで有力なお家にお嫁入りお願いします、で嫁いで頂いたという背景がある。
身分が高くて持参金もたっぷりで、扱いはきっと悪くされようがないけれど、実質有事の際には人質にならざるを得ない立場に立たされるし、国交のために貢献しなくてはならないし……でかなり大変な立場。まさに国と国との架け橋をやって下さってる最上級に偉い女性である。
アルバンの本当の父親は王弟なので、その出自のことを知っているのかという意味で「僕のことを知ってるのかな?」という質問であり、アロイス殿下は「よく知ってる」と回答した。つまり、コルミニョ公爵夫人はアルバンが王弟の息子であり、血筋としては自らの甥っ子、王家の血を引く者であると知っているということだ。
と、なると、割と話が読めてくる。
ベスティア王国においてはコルミニョ公爵領は割と栄えている。何故ならダンジョンがあるから。
そして、主犯があの元カクトゥス伯爵であったフンベルトだったとはいえ、アーヴァンクの密輸入の事件がある。密輸入されたということは密輸出したということでもあり、被害を被ったのは主にラヴェンデル領とはいえ、メインターゲットはフリートホーフ領。
更に言えば、我がフリートホーフ辺境伯領の領主はアルバン。白銀で、ドラゴンスレイヤーで、実は王家の血を引いていて、更に国内で最も重要な領地の一つとされるフリートホーフ領の領主で、となると、西の国も慎重になる。
そのため、クライノート王国に対して敵対する意思はないです誠意を見せますとなると、人選としてコルミニョ公爵夫人は適任なのである。
国王陛下の妹君を使者として王太子の結婚式に参加、となったらまあ当たり前に身内だし、外交はとてもスムーズに進む。アルバンが機嫌を損ねていたとしても、とりあえず会話のテーブルにはどうあっても着けるため、あちらは持てる最強のカードを切ったのであろう。
まあ、何かあった時のことを考えて、コルミニョ公爵夫人の息子、現在の公爵家当主はお留守番ということらしいが。こちらも無難な判断と言えよう。公爵夫人の身柄がこちらに奪われても、実際に領地を統治している公爵家当主が残っていればいざという時も、少なくとも公爵領がどうにかなっちゃうとかは無い訳だし。
その情報を当日ここで、アルバンとアロイス殿下がサラッとやり取りしてるあたり本当になんか、うん……ライブ感がありすぎるんだよなこのロイヤル達は。
まあ確かに、アルバンにとっては微妙なところだったんだろうな。王妹殿下があちらに嫁がれたのはアルバンが生まれる前のことだったろうし。国外に出ておられたのなら知る由もないとは思うが、これ……下手すると、あっちもあっちでベスティアの中枢、王家とか議会のごく一部が最近になってアルバンの出自を掴んだとかありそうだな?
いやなんも分からんけど。
とりあえず、人選からしてうちの国に対してベスティアは「お、怒ってる……?」とやや怯えつつ確認しているぐらいの塩梅と思われるため、普通に挨拶して普通に会話するぐらいでいこう。そうしよう。私はマジで何も知らんので。
確認が取れたためか、アルバンとアロイス殿下はもっと詳しい情報を詰めていくことにしたようで、口を使っての会話が途切れる。
これきっと、密談魔法で喋りまくってんだろうな〜、と思うが、私の腰をあっためるための魔法も途切れずそのまま据え置きなので、つくづく私の夫は器用な人である。
向かいの列に他国からの来賓が身分の高い順に並ぶとのことなので、さりげなくコルミニョ公爵夫人をチラ見。なるほど、顔立ちは国王陛下とはまた違った系統の美女だが、髪色が全く同じ。深い青である。これは間違いなく兄妹。識別しやすい方で助かった。これなら遠目からでもすぐ分かるし間違えない。
他にも、東の国からはダイトクという政務における一番偉い冠位を持つ方が来ているし、南に関しては複数の小さな国の集合体といった感じなのだが、そこからも王子がご参加されている。
急なのに遠く離れている筈の国の方々がしっかりバッチリ来ているあたり……これ本気で我が家、というかアルバンに対する連絡、最後の最後にされたんだな……バックレ防止が本気。ピルツ議長の判断らしいが、やはり議会の方々は政治に関して有能である。
うっ、まずい……眠い。貧血の余りに眠い。というか、そろそろ待機というか、全員の整列待ちだけで四十分が経過しようとしているため、早くも足がむくみ始めている気配がする。血液が足に溜まっていっているせいか、ちょっと気が遠くなってきたので、こっそりバレないようにアルバンに寄り掛かる。
ら、ラク――!
もう寝そう。まずい、起きてるフリしなくっちゃ。
そんなこんなで、ゾロゾロ整列したところで最後に国王陛下と王妃殿下も所定の位置に就き、荘厳な音楽が流れ出す。結婚式スタートである。
な、長かった……!
でもまだまだここからが長い。
音楽の演奏が始まっても、新郎新婦の入場があるのだ。王族の場合はお二人で揃ってご入場されるのだが、大聖堂は正規のルートだと、聖堂に入るまでの廊下や階段が長いのである。
歩いての移動となるし、新婦であるキャロラインさんのウエディングドレス、王太子妃仕様のために裾が何メートル単位だろうから、それはもう移動に時間がかかる。専属の裾持ちは居るだろうが、結婚式だし、ヒールだし、何より妊娠中だしで慎重に歩かなくてはならないので、早く進むのは不可能。
たっぷり間があってから、アレクサンダー殿下とキャロラインさん……いや、キャロライン殿下がご入場。
おお、朴念仁の私にさえ分かるぐらい、ドレスが素敵。綺麗。ゴージャスかつ清楚な感じ。首と肩とを出すデザインだが、胸下切り替えのスカート部分には幾重にも重なるシフォン生地が使われており、優美でありながら可愛らしい印象。シャルロッテ殿下は華のある顔立ちで、ともすると気が強く見えがちなのでこのかわいいデザインで大正解。バランス取れてる。いつもは赤いドレスがトレードマークではあるが、今日ばかりは全身白。赤い髪に白いヴェールがよく映える。手には白い薔薇のブーケ。
お、お、お姫様だぁ……!
余りにも綺麗なのでアホの感想が飛び出してしまった。
なんというか、幸せそうで、見た目にも美しくて、全てが完璧だったので、感動してしまった。
シャルロッテ様、よかったね、の気持ちである。
新郎新婦が祭壇の前に進んだところで、一旦音楽がストップ。
ここからがまた長い。
端的に言うと、神様を讃える、この二人を結婚させて良いか神様にお伺いを立てる、神様を讃える、神様に祝福して下さいとお願いをする、神様を讃える、国の繁栄をお願いする、神様を讃える、神様に感謝をする……というのを、長々丁寧にゴニョゴニョゴニョ。
その間も私は出血ザブザブ。
アルバンがあっためてくれているのと、痛み止め飲んだお陰で気絶するほど痛くもないが、ここで問題が発生。
あっつい。
床が冷たいので足から冷える。なので腰をあっためてくれるの、とても助かる。効果的。大正解。しかし、アルバンが魔法であっため続けてくれるこの温度、作りたての湯たんぽぐらいの温度をキープしているために、腰回りはもうホッカホカ。俄かに腰から太腿にかけて発汗。
汗だか血だかもう区別が付かん。
わかんねぇ。
とりあえず巻いた布にジャバジャバに染み込んでいることはわかる。わかるけれども、ズボンの方に染み込んでるのが汗なのかそれとも血が貫通してるのかわからん。両方かも知れないけど。
もうちょっとぬるめて下さいと要求したいが、当然ながら喋れない。
しかして、アルバンは優しさから私のことをせっせとあっためてくれているし、確かにこの温度、生理痛の人間に対しては適温。大正解。ただ、これ……自宅のベッドで丸まってる人用の温度なんだ。脂汗かいて唸ってる、寝巻き着用で、幾ら汗かいてても許される人用の温度。
荘厳な儀式の最中に自分のことばっかり考えていて申し訳ないが、真剣にピンチなので勘弁してほしい。
ハラハラしていたら、アレクサンダー殿下とキャロライン殿下が誓いのキス。
や、やっと終わった……!
ここまで立ちっぱなしで三時間。足が攣りそう。ここのところずっとサボっていたのでヒールがつらい。
これからロイヤルな新郎新婦はオープン式の馬車に乗って大聖堂から王城までの道をゆっくりじっくりパレード。
私たちはバタバタしつつ、馬車に乗り込んで別ルートから王城へ移動。遅れてはいけない身分の高い人から順番にスタッフの指示のもと出発。
後が詰まっているため、忘れ物などのないよう気をつけつつもスピーディーに移動しなくてはならない。全体進行を遅らせる訳にはいかない。
「お疲れ様ツェツィーリア! 大丈夫? ニーナは忘れ物ないかチェックしろ! ツェツィーリアは先に乗って!」
「ありがとうございます」
ヨロヨロ馬車に乗り込み座席にだらしなく倒れ込む。うっ、頭につけたお花が取れた。ごめんニーナ、後でまた直して。
バタバタしつつも、ニーナとアルバンが迅速に物を回収して馬車に。移動中、私の有り様を見たアルバンが足から靴引っこ抜いて自分の膝の上に乗せてマッサージ。汗かいたし蒸れてて臭いかも知れない本当にごめん。でも助かる。もう帰りたい。
「ツェツィーリアさま、お花を今交換しても良い?」
「どうぞ」
本当なら王城に着いてから交換したい所だが、布の交換は着いてからしか出来ないし、時間的に両方いけるか微妙なところであるために、先に馬車の中でやっておく。ニーナにお任せ。
ぐったり。
朝五時に起きて準備して三時間立ってるだけでこの有り様である。
王城に着いたら着いたでまた移動。
男性陣は、今度は軍服に着替えなくてはならない。今はまだ軍制が廃止前なので、式典の際には軍服を着る必要があるのだ。なので、今回は着替えるために部屋が各人に割り振られており、私たちは身分が高いので、それなりに広い部屋がご用意されている。
アルバンの軍服は事前に王宮の方に届けていたので、きちんと全部勲章やら何やら揃っているかをニーナがチェック。新たに貰った竜撃勲章なるドラゴンスレイヤーの証の勲章を着けて確認。ヨシ。そんなことやってる二人と別れて、私はトイレに。
女官の方々に手伝って頂き、布を交換。結論としてはギリギリズボンに血は沁みていなかったが、ちょっと危なくはあった。
だ、男性陣のお着替えタイムが設けられていなかったら、終わってたな……?
本日の社交はまだまだ続く。
今度は謁見の間に入って王宮スタッフの指示のもと整列。とはいっても、王宮スタッフの方が手慣れているため、普通に歩いて行けばジャストぐらいに案内してくれる。
国王陛下から、王太子殿下と王太子妃殿下へのお祝いのお言葉。
普通は結構長めに取ったりするものなのだけれど、国王陛下は今回は簡潔に纏められていた。お優しい方なので、参列者がもう疲れてるだろうからというご配慮であろう。優しい。
私は国王陛下も好き。正確には敬愛している。何故なら愛するアルバンの溢れ出る父性とおっとりした優しさ、ほぼ確実に国王陛下の影響を受けているので……優しさの再生産が行われており、それを享受している身としては感謝しかない。
続いて、王妃殿下からも手短にお祝いのお言葉。それに対して王太子殿下と王太子妃殿下のお言葉。次に第二王子殿下のお祝いのお言葉。ディートリンデさんはまだ婚約者の立場なので、アロイス殿下の隣に居るがコメントはなし。
で、次。アルバン。
「王太子殿下、王太子妃殿下、この慶ばしい日に拝謁を賜りました僥倖に心より感謝を申し上げます」
私とアルバンがセットで、アレクサンダー殿下とシャルロッテ殿下の前に出て跪き、アルバンの口からつらつらつら。最高にフォーマルな場面用の「結婚おめでとうございます」を今回は臣下バージョンでお送りする。
こ、こ、声がいい〜!
目を伏せているしかないから横向いて見れないけど、これ確実にアルバンがバシッと決めててカッコいいやつ〜!
「顔を上げろ。俺とお前の仲だ。兄弟同然と思っている。昔のように接してくれ」
「いえ。そのような訳には。私は王家にお仕えする臣下の一人にすぎません」
すっっっっっげぇ茶番だな?
いやあの、必要なことではあるんだけど、この二人の普段の会話とテンションを知っていたら本当に「茶番〜〜!」という感想しか出てこない。なんならアルバンは遠慮なくアレクサンダー殿下にもアロイス殿下にも鉄拳制裁。もちろん手加減はきちんとしているが、軽く頭叩いたり、アイアンクローかましたりしているようなので、それを知っている私は無表情を作りつつ心の中で「ンンッ」となってしまう。
チラッとシャルロッテさんの様子を伺ったが、キュ、と唇を真横に引き結んで微笑にアレンジしつつ誤魔化していたので、きっと私と同じ気持ちだったのだろう。
そんな訳で、アレクサンダー殿下とアルバンの「僕たちとっても仲良し!」アピールを一通り終えて元のポジションに戻る。
扱いは準王族だが、あくまで我が家はいち貴族家。故に、私は喋らなくて良いので楽チンである。
まあ、跪いてからの退散する前のカーテシーによって、出血がドプドプきており、早くもピンチな訳だがひとまず一番大事なターンは終わったのでヨシ!
最早諦めの心境である。
そこからは公爵家から順番に王太子殿下と王太子妃殿下に向けての挨拶。
流石にこのコーナーとなると、シャルロッテ殿下のご実家、バイルシュミット公爵家ご当主からの挨拶が長い。新婦の父親でもあるため、ここはつい長くなってしまっても許される場面だし、実際感動的ではあるのだが……まあ長い。わかっちゃいたが長い。
じわじわ染み込む血液。
ここで切れだす痛み止めの効果。
奥歯を噛み締め耐え忍ぶ。
……耐え忍ぶ!
うええええ、お腹痛いよぉ。
月経、すごく痛い時もあれば、なんかお腹に違和感あるなぁ、ぐらいの時もあるのだが、今回に関しては世界を呪いたくなるぐらい痛いのに当たっている。運がない。ギリギリ密かに歯軋り。イメージとしては瞳の中がぐーるぐる。こりゃダメだ。一刻も早く追加のお薬が飲みたい。
貴族家の代表がそれぞれご挨拶するのを眺めるだけの本来なら簡単なお仕事だが、立っているのがキツい体調であるためまあしんどい。す、座りてぇ。座れない。座れるわけもない。
あっ、なんか、私の異変を察知してか、アルバンがこっそりひっそり、風魔法使って背後の空気を壁状にしてくれてるな? 寄りかかったら結構ラク。
ただ、立つための力を抜いたところで「これ私、残りの体力もうヤバいな?」という事実にも気が付いてしまった。なんとか貴族たちからのお祝いのご挨拶が終わった頃には午後一時。
ここから更に、ロイヤルな昼餐が始まっちゃうんだ……。
というか、社交に関してはここからが本番。
やっと座れはするけれど、近くに座った身分の高い人とはお喋りしなくちゃいけないんだ。
席順としては第二王子殿下とディートリンデさんのお隣は変わらないのだけど、同じテーブルに件のコルミニョ公爵夫人。こいつァ回避不可能案件だぜ終わったぜ。隙を見てこっそり痛み止め飲むのも難しいぜ。死。気持ちとしては死。
「初めまして。コルミニョ公爵夫人。アルバン・フリートホーフです。こちらは妻のツェツィーリア」
「お初にお目もじ致します。ツェツィーリア・フリートホーフと申します。賢夫人と名高いコルミニョ公爵夫人にお会い出来て光栄です」
「こちらこそ、ドラゴンスレイヤーと同席できるなんて光栄だわ」
「コルミニョ夫人、このようなお祝いの席です。叔母上とお呼びしてもよろしいですか? ドラゴンスレイヤーだけでなく、甥っ子にも構って頂ければと」
あっ、ハイ。これ、アロイス殿下はやっぱり、三人の中では外交担当なんだな? 態度も雰囲気も顔立ちも一番研がないし、確かに一番向いている。アルバンとアレクサンダー殿下は子供の頃、血を見るぐらい激しい喧嘩をしていたとも聞くし、要するに二人とも我が強いから……茶化しているというか面白がりではあるものの、アロイス殿下は末っ子ポジションでバランサーやる能力はあるんだなきっと。
というか、コミュニケーション能力が、高いな……?
末っ子パワーでなんか、なんかよく分からんけど、ヌルッとコルミニョ公爵夫人の心を開いて懐に入り込んだぞ?
なんか、私、喋らなくても大丈夫そうだな?
アルバンは自覚あるコミュ障なので、この場はアロイス殿下の援護に回ることにしたらしい。主にアロイス殿下とコルミニョ公爵夫人が会話を回し、ちょいちょい回ってくるパスを受けるぐらいで済ませている。
どうやらコルミニョ公爵夫人はアルバンと仲良くなって、マジに怒っていないかとか、火竜を単騎討伐っめマジ? とかの探りを入れたいらしいのだけど、第二王子殿下に話し掛けられたらそっちを優先せざるを得ないため、ちょっとヤキモキしている気配。
けどまあ、とりあえず私は単なる添え物と化しているため、手袋の中にこっそり隠し持っていた痛み止めを取り出して飲ませて頂く。早く効きますように。もうね、ほんとね、お腹空いてるはずなのに、空腹どころじゃなく腹痛。なんなら痛すぎて気持ち悪い。飲み物飲んでちょこっと料理食べるぐらいが精一杯。
「大丈夫ですか? お義姉さま。顔色が……。」
「ええ、ちょっと、眩暈がして」
救いとしては、お隣がガブリエラさんであること。ガブリエラさんは公爵令嬢だし、現在はベスティアに留学中の身。あちらの文化にも触れている上、調和を保つ社交に才能があるタイプの令嬢なので、この配置は最高。素晴らしい。ありがとう。
そっと手を握ってくれる。優しい。
この場合の「眩暈がして」も「生理です」の意なので、ガブリエラさんも分かってくれる。既にガブリエラさんはベスティアでコルミニョ公爵夫人とも交流していたそうなので、私があんまり喋らなくても良いように回してくれた。
ガブリエラさん……会話回しが上手いな?
しかし、よくよく考えてみれば、あの癖が強いというか激しめなツンデレのお義母さまが問題を起こさないように立ち回って社交をやっていた実績があるため、ガブリエラさんにとっては「特定の味方の一人に余り喋らせないようにしつつ場を回す」という防御特化の話術は得意分野なのかも知れない。助かった。本当にありがとうございます。今度一緒にお芝居見に行こうね……!
心の中で感謝しつつも、痛みと戦っていたところ、豪華でロングなテーブルの上をトコトコ歩いてミトンがやってきた。
案の定、この大舞台でも「うふ」というとびきり可愛い顔をしており、徐にコルミニョ公爵夫人の真ん前でコロンと腹出し。微妙にクイッ、クイッとお腹をアピールして撫でを要求。余りの可愛さにコルミニョ夫人、敗北。
「噂のケットシーね! かわいいわぁ……!」
ミトンのふわふわのお腹を撫でさせられるコルミニョ夫人。そこに、新郎新婦が席を立ってご挨拶にやって来た。アレクサンダー殿下とシャルロッテ殿下がケットシーを話題として長閑な会話の滑り出し。
ふと、もしやと思って長いテーブルの反対側方面を見てみたら、兜まで被って護衛モードとなったニーナがグッ! と親指を突き立ててやってやったぜアピールをしていた。
この会場内でしてはいけませんよ、と本来なら後で注意するところだが、ファインプレー過ぎるため叱る気になれない。ありがとうニーナ。
そんな感じで昼餐が始まって終わったらもう午後三時。
ここでやっと一旦解放される。
王城から馬車で出発。一旦、都内の自宅に戻ってこれからまたもう一回風呂入ってメイクとヘアメイクして夜にまた王城で夜会なんだ。
狂ってるぜこのスケジュール。




