【144】下着事情アレコレ
「うん、やっぱり、逃げる準備、始めようか」
アルバンがどうして私のことを好きになったのかを教えて貰って、二人で愛し合って、そのあと。
はぁふぅ疲労感に身を委ねつつ、アルバンから事後のイチャイチャと世話焼きをして貰い、腰から脚からマッサージまでされ、軽くシャワーとボディケア。ボディクリーム塗られて化粧水ぺちぺちされて良い匂いのオイルまで塗られて完成。
ああ良い気分。疲れた眠たい……。
なんてベッドでウットリ、寝落ちしそうになってパヤパヤしていたら、アルバンもシャワー済ませて戻ってきて、私の隣に「ただいま〜」なんて戻ってきて、ちょんちょん、と前髪整えてくれたりなどして、更に頬っぺたにキスして、ふー、なんて、アルバンが満足と脱力のため息吐いて、分厚い天蓋を風魔法でそっと降ろして、その直後の発言がそれだった。
一気に眠気が消えた。
逃げる、とは……?
「もうそろそろ雪が降る頃合いだし、仕事こなしても引き留められてばっかりだから、埒が開かないしね。ツェツィーリア、体調はどうかな?」
「ぁ、えぇと、体調は良いです。雪、そうですよね。積もったらベルンシュタインに入れなくなってしまいますよね」
優しくて優秀な乳母とナースメイドに任せていれば、私たちなど居ても居なくても同じとは思うが、心配ではある。あの城は寒いし、子育てチームも子供たちも慣れていないだろうから、何か不自由したりしていないだろうか?
恐らく不便なことがあればゼルマが都度フォローしてくれているとは思うが、心配なものは心配である。まだ文官の皆さんにお礼も言っていないし、騎士団の方々にも改めて、留守を守ってくれてありがとうと言いたいし、グリズリーの被害がどの程度になっているのかも状況を確認したい。
「急激に心配になってきました」
「そうだよね。僕も、まあ、多分大丈夫とは思っているけど、心配は心配。だから、準備が出来たら隙を突いて帰ろうかなって」
「でしたら、どうせですしお土産を買っていきませんか? 美味しいスイーツのお店を教えて貰ったので」
「いいね。明日あたり、デートしようか」
「でも、勝手に逃げる……とか、可能なんですか? この会話、女官に聞かれていると思うのですが」
「大丈夫。風魔法の応用編で、ベッドの外に防音魔法張ってるから」
「ならいけますね。アルバン様、明日は休める状況なんですか?」
「休ませては貰えない感じだけど、そろそろ休ませろってキレぎみの手紙だけ置いてくから」
「あっ、はい。思ったよりアルバン様、ストレスフルなんですね?」
「うん。王宮、人が多過ぎて落ち着かないんだよね……子どもの頃はまだ平気だったけど、十年もフリートホーフで暮らしてるとさ……獣や森の音はしても、人の密度が全然違うし」
「ああ、まあ、そうですよね……私もちょっと、不意打ちのイベントが多くて疲れます。アルバン様ほどではないと思いますが」
「いや、僕はまだ、騒々しい実家に帰るようなものだからさ。でもツェツィーリアは初めてだし、大変だったよね。付き合ってくれてありがとう」
「とんでもないです。そちらはまだ良いのですが、その……王宮のご飯、飽きました」
途中からダルくなって、建前を投げ捨ててしまった。
王宮飯、確かに豪華だし凝ってる。
最初はへぇ、何でも出てくるし食材のレパートリーが豊富だな、なんて思って、美味しい美味しいって食べてはいた。
いたのだけど……。
コレジャナイ感。
その違和感は主に乳製品。特にミルク。なんか、薄くない? 濃度が足りたくない? あとバター。なんか、違くない? もったり感とミルク感とあとコク。違う。これじゃない。チーズも違う。フレッシュなやつだとよく分かるけど、熟成させるタイプのやつもやや物足りなさがある。
野菜関連も違和感が強い。ジャガイモ、不味くないけど香りがしてない。村のおかみさんに貰った茹でた芋美味しかった。カボチャもなんか違う。甘さが足りない。濃さが違う。他にも色々、美味しさが一段階違う。
肉。牛肉は常に違和感。あっちの牛はなんかよく分からんけどこっちより美味しかった。豚もそう。あと、ジビエ肉欲しい。鹿や猪の肉が恋しい。
魚は、海のものも食べられるのは王都の利点だけど、サーモン食べたい。美味しいやつ。脂が乗った柔らかくて新鮮なやつを、シンプルにソテーで。
たまに、あ、これ美味しいなって思って産地を聞いたら、大体それはフリートホーフ産。
こと、キャビア。王宮のゲスト用ご飯のやつでも、不味くはないけどそこそこ。
私は贅沢に慣れ過ぎた。
特にキャビア。
地元民しか食べられない名産品が、結局この世で一番美味しい。お金を積んでも食べられない、そういうものの中に、最高に美味しいものがある。
まあ、その限られたもの、私が何で食べられるかっていうと、アルバンが畏れ敬われる立派な領主だからなんだけども。
帰りたい。もう完全にホームシック。
フリートホーフに居る時には、たまにだけど、ふと実家に帰りたいなぁとか思う瞬間がちょいちょいあったりもしたのだけど、今、王宮という全く知らない場所に来てみたら、今度はフリートホーフに帰りたい。
ここからだと実家の方が近いのに、天邪鬼にも程があるが、私には既に、帰れる家が二つもあるのだ。その時その時で帰りたくなる場所は変わるのだと知る事が出来たのはかなり新鮮な発見だった。
実家も婚家も、私に取っては安心できて快適な場所であるので、大変に幸せなことだなぁと思う。世間では、実家の居心地が悪かったり、婚家で苦労をしたりするものだと聞いてはいるので。
「……じゃあ、王都内にあるうちの屋敷に移ろうか。肖像画も下絵の段階までは来たんだよね? あとはクサヴェリアに任せて、何日か王都観光してから隙を見てトンズラしちゃおうか」
「一度、グリンマーの別荘に寄っても良いですか?」
「良いけど、どうしたの?」
「アルバン様へのお詫びのため、冬場のおやつとしてキープするよう頼んでいた、蓮の実甘納豆を受け取りたいんです」
「手配してくれてたの? ありがとう! お義父さんやお義母さんにも心配を掛けちゃったし、顔を見せておこうか」
「ありがとうございます」
好き。
私の両親に対しても優しい。大切にしてくれるところ、とても素晴らしい。大好き。
くたくたで起き上がりもせず寝っ転がっているだけの私に、ついでにもう一回キスしてラブラブな気持ちを伝えてくれるのも好き。
もう全く、アルバンは私のことが本当に好きだなぁ! なんて良い気分になってしまう。
二人してちょっとだけくっついて、お布団肩まで掛けて、明日のデート楽しみだねとか、私の両親にちょっとしたお菓子買っていこうかとか色々話しつつ就寝。
翌日、二人してご飯食べてからニーナとミトンのコンビと合流。
王都内にあるフリートホーフ邸から馬車呼んで街に繰り出す。今回は主にスイーツ巡り。
シャルロッテさんとディートリンデさんが教えてくれた王都で流行りのスイーツをお土産込みで買い込む。
どこも人気店だったので、そこそこの行列だったのだけど、並ぼうとしたら店員さんの方から商品が入った箱を持って出てきてくれたので、すぐ終わってしまった。辺境伯、しかもドラゴンスレイヤーを並ばせるなんてとんでもない! ということらしいのだが……まあ、なんていうか、カクトゥス元伯爵にした仕打ちがアレだし、私たちは見た目としてもお店のイメージとミスマッチだし、それが故にやたら注目されてしまって混雑が増すし……の三拍子揃ってしまっているために、さっさと買い物済ませて欲しかったんだろうな。
どのお店も軒並みそんな感じだったので、お買い物は予定より早く終わってしまった。
時間が余ったので、ついでにシャルロッテさん御用達という仕立て屋に行き、胸部用のサポーターくださいと注文。アルバンとニーナにも貰った実物取り出して馬車の中で見せるなどした。
「なるほど。女性用の下着だけだと、重さを支えるのに負荷ががかかるのか。肩、確かにツェツィーリアは脱ぐ時、紐が食い込んで赤くなってることがあるよね」
「ツェツィーリアさまが楽になるなら、沢山あった方が良いと思う」
「そうなんです。この見本のものも試してみてラクではあったのですが、やはり自分用のものが何枚か欲しいなと」
「重ね付けするものだし、枚数が多くなるとその分、保温性も上がるだろうから防寒にも良いんじゃないかな? 注文して、仕上がったらフリートホーフに届けるようにしておくと良いかもね」
そんな訳で、高級な仕立て屋行って、個室で採寸して貰った。
珍しいことに、女性用下着専門店というものらしく、普段使い用のドレスに合わせるための楽で可愛い下着を作ってくれるお店らしい。王都でも唯一というお話だったが、これ、今後流行るかも。身分が高いと、フォーマルなドレスは形状の都合もあって下着もフルセットで同じ所に発注するものだが、普段着で、しかも首や肩の露出がないものならどれを合わせても良いのだし。
普段着用の婦人下着はお抱えのお針子とか、お馴染みの仕立て屋とか、或いは雇ってる針仕事も出来るメイドに頼んで作って貰うのがスタンダードであり、クオリティもまちまちだし、どこにどの手段で頼むか悩ましいが、専門店があるならそこに行けば解決出来るよね、ってことで楽でいい。
店員さんも感じが良くて「お胸が大きいお客様も結構いらっしゃいますよ〜」という感じだし、服を着た時にシルエットが綺麗に見えるようにこの工夫をするか、シルエットではなく着心地重視にするか、とか相談に乗ってくれて優しい。助かる。
女性の下着は全てシルエット重視。本来ならコルセットはマスト。しかし私はコルセットをブン投げているし、いって精々がビスチェなのだが、選択肢の中に「着心地」とか「楽さ」を入れてくれるあたりだいぶ有難い。
どっちにせよ普段着用なので、楽さ優先でとお願いして発注。
デザイン案の冊子を、やはり案の定、ニーナが熱心に見ている。
「ニーナはまだ、こういうものは必要ないですか? 欲しいようなら、ついでに頼んでしまいますが」
「ニーナはまだ平気だ。下に肌着があれば充分。何かあったらすぐ相談するから大丈夫だ」
「そうですか。そうでなくても、鎧を着るのに合わせて特別な機能を持った肌着が欲しいとか、そういうのは無いですか?」
「うーん、下着かどうかはわからないけど、ズボンの下に履くスパッツが欲しい……時はたまにある。馬に乗る時にズボンの余った布が擦れたりするから」
「伸縮性のある生地の方が良いですよね。ちょっと相談してみましょうか」
「ん。ありがとうございます。あと……赤とか金とかの刺繍の入った、レース付きの下着はすごく可愛い。このデザインなんか、ツェツィーリアさまに凄く似合うと思う」
「うぅん、ちょっと派手じゃないですか?」
元のデザイン画のもの、花の形のレースとか、凝った模様の刺繍なのだけど、白地に薄緑とかピンクなのに対して、ニーナの提案としては肌に触れる部分やベースは黒曜ツルバミ染めのいつもの布にして、装飾用のレースと刺繍を金やら赤にするのはどうかという話であるらしい。ダークで毒々しい感じになりそうだが、まあ、確かに私の担当だな? それは……?
店員さんとも相談した結果、私にとっては黒以外が冒険であるのだし、とりあえず黒と紫という、全体の印象としてはさほど変わらない感じの所から始めてみることにした。
黒に溶け込むタイプの紫で刺繍入れて貰ったりレース付けて貰ったりするのを二着だけオーダー。完全にビビっているが、私なんてこんなもんである。
以前なら考えられないが、しかし……正直に言うと、アルバンに可愛いと思われたい。そんな打算的な考えがあるのは否定できないし、何より、私も実は黒以外の、色付きの布に憧れはそれなりにある。
赤青緑、それから黄色とブラウンは使っている人が多いし、髪と瞳の色と身分による被り禁止もとい、被り回避マナーとの兼ね合いがあるため、他と絶対被らない私が使っちゃマズイだろうなぁ、なんて思っているし、それらをわざわざ選ぶのはちょっと、心理的に抵抗がある。迷わず黒着ときゃいい奴がなんでわざわざそんな真似すんだよ、という気持ちになってしまうので。いや下着なんだし、誰にも見られやしないのだが、自意識過剰なことに「魔力無しの黒髪のくせに、なに色付き選んでやがんだよ」とか思われないかなとか心配になってしまうのである。我ながら卑屈。
その点、紫なら水と火の二重属性の人しか使わないだろうし、二重属性持ちは珍しいため罪悪感が少ない。フリートホーフには珍しくも、風と水のハインリヒさんと、土と水のヴィッターハーン兄弟という三人が居る訳だが、彼らは相当に珍しい。
更に言うならば、ハインリヒさんは青緑の髪と瞳だが、ヴィッターハーン兄弟に関しては髪はミルクティーのようなごく薄い茶色で、瞳がそれぞれ金と水色という珍しい組み合わせ。このパターンも稀ではあるが、アルバン曰く、同じ二重属性でも、魔法に於いては髪と瞳の色がよく混ざっている人の方が魔力操作に長けていることが多いとのこと。
実際、ヴィッターハーン兄弟に関しては、一応ちょっとした水魔法とちょっとした土魔法が使えます、というぐらいで、仕事に使えるようなものではないらしい。あの二人は叩き上げの文官なので、魔法を使う職業ではないし、生まれも庶民の出だからまあ、水と土両方使えてラッキーだよね、程度であるのだろうが……ハインリヒさんは本物のレアキャラである。アルバン曰く、ハインリヒさんに関しては貴族の中でも魔力保有量が多いし、持っている属性の比率としては水六割風四割ぐらいで、更にはよく属性が混ざっているために息をするように氷が作れるそうだ。
普通、単一の属性しかない二人、例えば水のニーナと風のミトンが協力して氷を作ろうとすると、お互いの水魔法と風魔法のバランスと、魔力を混ぜ込む密度なんかの調整が難しい。これは二重属性の人にとっても本来は同じであるらしく、魔力属性の混ざり方がそれほどでもない人だと、同時に二つの作業をする必要が生じることになるので困難だが、最初から魔力属性が混ざっていると一つの作業をすることになるらしく、それだけにスムーズとのこと。
アルバンによると、白銀は四つ全ての属性が均一に混ざっているから息をするようになんでも使えるし、逆に一つの属性しか使いたくない時には任意で簡単に操作可能なのだという。
曰く「四つの属性を自分の手足のように使えるから、例えるなら右手だけしか使いたくないなら右手以外は使わないようにするだけって感じかな。ただし、白銀だと腕が四本あって、それが全部利き手ってことになるかもね。例えるなら、生まれつきハインリヒは両利きで、しかも同時進行で同じように字が書けるぐらいだけど、ヴィッターハーン兄弟は利き手が片方だけってくらい違うよ」とのこと。
なんのこっちゃ。
普通に振り落とされたので全く理解できない。きっと少しだろうが魔力がある人には分かる説明ではあるのだろうが、私には魔力が皆無なのでわからん。
だが、分からないが故に頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべていたら、アルバンが「ふふ、気にしないで。僕の魔法も魔力も、君のためになら幾らでも使うから、これから先、魔力のことでツェツィーリアが不自由することはまずないよ」と言われた。頼もしい。面倒見たい系かつ魔力エリートの夫で大変助かります。
が、現在、そんな魔力エリートな夫、アルバンは席を外している。
入店直後までは一緒に居たのだが、入ってすぐに、店内の片隅に女性用下着を纏ったトルソーがあるのを見てすぐ、あからさまにギョッとした顔をして首ごと目を逸らし、気まずそうに、ちょっと小さめの声で「僕、終わるまで向かいの店で待ってても良いかな?」と言ってきたのである。
「付添人用の個室もあるようですし、ニーナと一緒にそちらで待っていて下さっても良いかと」
「いや、うん。ニーナは良いけど……なんていうか、僕にとってはここ、自分が居て良い空間じゃないなって感じるんだ。お店のスタッフも女性だけだし、なんていうのかな……僕たちは夫婦だし、ツェツィーリアのを見るのはまあ、プライベートなら別に良いとは思うんだけど、ここのサンプル商品って、用は他所の女性が使ってるかも知れないものってことだろうし……僕が見てしまうのは適切じゃないかなって。心理的に抵抗が大きいんだ。それに」
「それに?」
「ツェツィーリアのドレスを決める時に色々と提案したりするのは楽しいんだけど、僕、油断するとここでも同じことをしちゃいそうで……妻の下着を夫が選ぶのって、なんか変態っぽくない?」
「うぅん、どちらかというと、私は下着、身体構造的に必要な装備品としてしか考えていないので、その感覚、ちょっとよく分からないです。あと、私が下着を見せるのはアルバン様とメイドの皆さんだけですし、ええと、率直に言うとより安定して愛されたいので、アルバン様の好きな系統の下着を発注するのは全く嫌ではないですね」
「えっ、あっ、そ、そう、なの……? えぇ? でも、う〜ん、そこは感覚の違い、かな? 君が僕に対して絶大な信頼を寄せてくれていることは分かったよ。ありがとう。ただ、やっぱり居心地が悪いから、終わるまで向かいの店に行ってるね。終わったら、ニーナと一緒に呼びに来てくれる?」
「わかりました」
人が嫌がっているのに無視して無理やりそれを強要するのはよろしくない。
とりあえず、男性には男性の葛藤があるのだろうなぁと思うし、アルバンは通りを挟んで向かいのお店へ。
そのお店は何ぞやというと、時計専門店である。
主に懐中時計を作って販売しているのだが、中身の細工が見えるようになっていたり、装飾品として宝石が使われていたり、素材がダイレクトに金だったり銀だったりとかする、完全に裕福な貴族向けの
お店である。
なるほど、立地としては絶好なのかも知れない。
きっとアルバンのように、女性用下着専門店に入りたくない男性、待つ間に時計専門店で時間を潰しているパターンが多いのだろうな。男性でも平気な人は平気だし、完全個室となっている待合い室で待っていたりもするのだろうが、この待合い室、どちらかというと子供を連れた貴婦人のためのものなのかも。場合によっては貴婦人がお付きの侍女やメイドと、それから子供を連れて王都で色々と買い物リレーしたりすることもあるのだろうし。
何もせず待っているというのも暇なので、パートナーの男性はあっちの店に居る方が楽しいだろう。買う買わないは別として。
一旦ドレス脱いで、今使ってる下着の上から採寸。あと、下着も脱いですっぽんぽんで採寸。胸なんて諸行無常な存在。ブラの形によってふにゃふにゃ形が変化するし、なんかこう、ふにゃふにゃしつつもしっくりくるとか来ないとか、感覚として色々あるので、お店のお姉さんにサンプル品のカップ当てられて脇の肉とか背中の肉とか色々掻き集められたりして文字通り胸部だけ揉みくちゃにされたりなどした。
こんなに胸の肉揉みくちゃにされること、人生でそうないな?
アルバンだってこんな容赦なく触らない。最中にもこう、丁寧にそっと優しく……ぐらいであるが、下着専門店のプロのお姉さんは容赦がない。見本品のブラのカップの形に私の胸が適合するか確かめるために、二人がかりで息切れしながら掻き集めた肉をカップに押し込んでくれるのである。
お姉さんたちは重労働であるため肩で息をしているが、私の目は最早虚無。触られすぎて何もかも嫌になった犬猫のような目になってしまう。しかも、姿見を確認するに、背後でニーナがキラキラした目でふんふん! と熱心に胸肉の扱い方とかブラの選び方とか使い方を勉強している。まさに店内がカオス。
とりあえず、店員のお姉さんたちの努力の甲斐あって、形とか諸々決まり、サポーターも合わせて何枚か発注。服飾品はいつもアルバン持ちなのだが、この店に居るだけでも落ち着かないくらい繊細なのがアルバン。故に、請求書後で見るとちょっと困っちゃうかもなので、今回は私持ちにした。
先日のやらかし事件の際に、私が持っていた私有財産はほぼ全部使い切ってしまったのだが、しかし、なんと! 私は林檎農園とシードルの蔵元の社長もやらせて貰っているので、そこそこの額のお小遣いが新たに入ってきているのだ! 今年最初に仕込んだものが既に新酒として販売されるタイミングだったので、その売上によって金貨がとりあえず百枚くらい入ってきている。
うーん、やはり夫は賢く優しい男に限るぜ。
何事に於いても備えてくれるし、お金を与えるだけでなく、お金が入ってくるシステムごとくれるのだから素晴らしいことである。抜かりがないぜ。あと、なんだか良く分からないけど、名義だけ私になっている諸々なんだかお金が入ってくるシステムも作ってくれているので、そっちからのお金も口座に供給され続けているらしい。金持ちって凄いぜ。
お陰で心置きなく新しい下着が買える。このお店、質は良いしサービスも良いのだけど、流石に公爵令嬢たるシャルロッテさんが愛用するだけあって凄いお高い。いや、素材とか色々選択肢あるから本来ならピンキリだとは思うんだけど、私は辺境伯夫人なのでそもそもお店からは高いものしか提案して貰えないのだ。身分相応、重い言葉である。お財布にとっても。
「ツェツィーリアさまの普段着用の下着、可愛いのがいっぱい増える。届くのが楽しみだ」
「ええ。ベルンシュタイン城砦に行ったらズボンで過ごしますから、その間はずっと、サポーターも使えます。ニーナのスパッツも発注しましたし、今年は去年より暖かく過ごせそうですね」
達成感を味わいつつ、ニーナと二人して、下着屋さんのスタッフたちにお見送りされて向かいのお店へ……と、思ったら、退店したと同時に、見知った顔の貴婦人とバッタリ。
「イザベラ様……! ごきげんよう」
「……ごきげんよう、フリートホーフ辺境伯夫人」
なんでこんな所にイザベラ様が?
近くに馬車も無さそうだけど、まさかお一人で?
色々気になるが、これ、わざわざフリートホーフ辺境伯夫人なんて立場名で呼ばれているし、イザベラ様はこれ、私に会いたくないタイミングだったんだろうな……!?




