【136】恐ろしい怪物辺境伯
それから、議会は大変紛糾した。
余罪の方が人道的にエグかったため、フンベルトを処刑する派・処刑しない派でまず別れ、更には処刑するならどのような手法で、どこで執行するのか、並びに処刑しないのならどのような刑が相応しいのかで細かくいろいろな意見が出たのである。
この場合、フンベルトの刑を決めるのは大変難しい。
罪の重さを鑑みると、ただ嫌悪感に任せてしまえば処刑一択。これは恐らく、この場に居る全員に共通した考えであろう。
が、しかし、今回はその罪人がカクトゥス伯爵家当主だった人間なのである。
国民から嫌悪されるのは間違いなく、更にはカクトゥス領の領民の恨みは凄まじいものがあるだろう。
処刑するにしても「ではサクッと処刑します」となっても、高位貴族でも簡単に処刑出来ます、というのが露呈するのは、国家としては余りよろしくないのだ。
フンベルトほどではないにしろ、領民に優しくない貴族はそこそこ居るし、領民のために働く真面目な貴族だったとしても、領民から人気がなかったりよく知らないなとか感じ悪いなとか思われていたら「貴族なんて大嫌いだ! 殺しちまえ!」という流れが出来てしまいかねない。
もしも国民の不満が噴出して、貴族が居るから良くないんだ、全員殺してしまえばきっと国が良くなるに違いない! とか言い出す誰かが現れたら、各地で暴動が起き、治安が最悪になり、その鎮圧のために血が流れ生産力と国力は低下し……と地獄へ向かってヨーイドン! が始まる可能性もなくはない。
と、いうか、フンベルトが余りにもやらかし過ぎているので、国民が暴動を起こさない程度に処罰するにはどうすればいいかな〜? という点で大変難しいのだ。
例えば、劇的に王都の広場で断頭台の露と消えて貰うか、それとも刑務所で死ぬまで一人で監禁するか、という二択だったとするならば、その刑が発表された直後に国民の反応はそれぞれ異なるだろう。
つまり、これこれこういう刑を執行したら、何が起きると思う? という話なのである。
キツめの刑を執行したいが、容赦なくキツくしたら反乱とか革命とか起きちゃうかも知れないので、どの種類のキツさにしとく? というのが主題。私が刑を決める訳ではないが、頭が痛いぜ。
……なんか、この場面になっても無限に面倒臭いな、カクトゥス伯爵?
議会の優秀なジェントルマンたちも、喧々轟々、議論しているのだが、高位貴族を処刑したら各地で乱が起きるから慎重になった方が良い派であっても、それとなく「処刑したいのは山々だが」を滲ませているので、大変つらい状況である。
国家規模での後始末って、大変なんだなぁ……!
うーん、なんだか、これ、私的には、やっぱりやっていたことが下衆過ぎるから、なるたけキツイ刑に処したい。殺してスッキリ一安心、というのは確かに、カクトゥス領から反乱が始まりかねないから排除するとして……だけれども、生かすにしても、ただただ刑務所で死ぬまで閉じめておく、とかは余りにも安楽過ぎる。反乱は起きないが領民がやさぐれてしまいそう。
あっ、そうだ!
「……アルバン様」
「どうしたの?」
「これ、フリートホーフ式は駄目なんでしょうか?」
「えっ……? フリートホーフ式……ああ、うん。それが出来たら早いだろうけど、あれはウチだけの慣習だし、僕がカクトゥス伯爵領のことに干渉はできないよ。他領だからね」
「そうでしょうか?」
小声で話して、目を合わせると、アルバンは三秒間くらい考え込んで「あ」と言った。
それから、もう一度私の顔をまじまじと見てきた。
なんだか可愛かったので、ぶりっ子して、ちょっと小首を傾げるなどしてみる。
「怪物辺境伯として、また名を馳せることが出来ますよ?」
言ってみたら、アルバンは頷いて、それから、前を向いて、立ち上がった。
「提案があります」
元カクトゥス伯爵、フンベルトの悪行とその処分が決定ーー。
王都でその見出しにて配られた号外を、数多の民が目にするこことなった。
元カクトゥス伯爵であるフンベルト・カクトゥスが行った所業。国外からダンジョン産のアーヴァンクを密輸入し、結果としてラヴェンデル領の領民二名が死亡。橋が落ちたことによる大きな経済的損失を被った。アーヴァンクは上流にあたるフリートホーフ領にて、騎士爵を持つ女騎士ニーナ・ハーゲルとそのお供であるケットシーにより討伐された。ニーナ・ハーゲル卿は先日、父であるハインリヒ卿と共に国王陛下直々に爵位を賜った優れた女騎士である。ラヴェンデル領の領主コンラート・ラヴェンデル卿は深い謝辞を述べた。並びに、ラヴェンデル卿はアーヴァンクによって齎された被害を以前から王宮に申告しており、この度、フンベルトの犯行が明らかになったことに伴い、賠償金にて橋の再建費用を得ることが決まった。
王宮の調査官が家宅捜査をしたところ、フンベルトは七年前から無実の領民を犯罪奴隷に仕立て上げ、人身売買のような非道な行いをしていたことも明らかとなった。被害者は数百人に及ぶと見られている。現在、被害者はその全てが犯罪奴隷としての身分を解消され、元の身分へと戻っている。だが、失われた歳月と苦痛は筆舌に尽くし難いものがあるだろう。
先日、火竜を討伐したドラゴンスレイヤー、フリートホーフ辺境伯であるアルバン・フリートホーフ卿が国王陛下に直接、フンベルトの処罰に対する意見を奏上。未だドラゴンスレイヤーに対する褒章が決まっていなかったこともあり、この要望を褒章の一部として受諾することを国王陛下と議会が可決した。フリートホーフ領は約十年に渡りフンベルトから迷惑行為の被害を被っており、以前から王宮に対して相談を繰り返していたという。
フリートホーフ卿の要望としては、フンベルトを犯罪奴隷として、カクトゥス領内での強制労働に処すこと。
後日、フンベルトの身柄の輸送日と刑の執行日や場所が発表される予定だというーー。
「ひでぇ話だ。こんなクズが領主だなんて、領民はたまったもんじゃねぇな」
「知ってるか? なんでも、カクトゥス領じゃ犯罪奴隷に対しては何をしたって良いってことになってるらしいぜ?」
「それだって、この腐った豚野郎が考えたことだろ? おぞましい……!」
「フリートホーフ卿は何を考えてんだ?」
「いや、それがな……フリートホーフ領じゃ、殺人や強盗や連続婦女暴行は死刑だろ? そうじゃなかった場合、手足を切り落として、ってのも嘘じゃないらしい」
「この記事にある通りなんだろ? フリートホーフは田舎だが、平和な良い所らしいが」
「殺人はフリートホーフじゃ即死刑。でもな、穴があるんだ。婦女暴行、初犯だと、犯人は片手を切り落とされてそのまんま放り出されるんだ。だが、刑を執行する刑務所は領境近くの山ん中で、敷地から出ちまえば人目もない。事前に犯人が出てくる日時は発表されているから……被害者本人やその家族が……ってことらしいんだよ」
「捕まらねぇのか?」
「何故か、刑を執行された犯人の方が山の中で行方不明になった、ってことになるらしい」
「なるほどな。この糞野郎に関しても、同じって訳か。怖い怖い。ドラゴンスレイヤーって言っても、やっぱり怪物だな」
「フリートホーフ卿が残酷で冷酷だって話、嘘じゃないらしいな。まあ、このフンベルトって奴は自業自得だろうが」
「あら、でも、フリートホーフ卿と夫人が、カクトゥス領の近くに修道院を建てるって話よ?」
「修道院? またなんで?」
「そのフンベルトって貴族に、犯罪奴隷にされてた人って、女の人が多かったんですって。酷い目に遭った人たちだし、帰るところのない人も多いから……身を寄せるための施設が必要だってことで、新しく作ることにしたんですってよ。確かに恐ろしい人かも知れないけど、悪い人ではないと思うわ」
「へぇ、そうなのか」
「ねぇねぇ、なら、これは知ってる? ちょっと前に、ケットシー付きの少女騎士が貴婦人をならず者から守ったって話があったじゃない?」
「ああ、そういや、あったなぁ」
「あれはやっぱり、少女騎士ってニーナ様で間違いないみたい。ラヴェンデル卿がカクトゥスと犬猿の仲ってことは知られていたし、やり合っていたのは聞いたことがあるでしょ? 辺境伯夫人のツェツィーリア様を襲ったそのならず者、カクトゥスが雇った奴らだったらしいのよ」
「あー、だからラヴェンデルが噂を広めるのに協力してたのか」
「ツェツィーリア様、って……あの竜の首の上に乗ってた、真っ黒い服の?」
「魔女みたいだったな。辺境伯といい……復讐はきっちりやり遂げるってことか」
「このフンベルトって奴も、虐げてきた領地で刑を受けってことなら、地獄を見るだろうよ」
「分かっててやってるって事だよな?」
「どうも、フリートホーフ卿はものすごい愛妻家らしいのよ。だから、護衛に少女騎士を付けてるんですって」
「奥さんが竜殺しにとっては逆鱗ってことか」
「怖い怖い。大貴族になんて逆らうもんじゃねぇな」
この沙汰を知った国民は、正しくその意味を理解した。
「謙虚で無欲で忠誠心の高いドラゴンスレイヤーと、そんな夫の危機に竜の首を持って駆け付ける辺境伯夫人、という肩書きを放棄するためには、手っ取り早く、恐怖で相殺するのが良いと思ったんです」
「素晴らしいアイデアだ。僕はまだ褒章を賜っていない。こちらからリクエストするぐらいの権利はあるし、この処罰は僕の希望で行ったということにすれば、議会も国王陛下も非難されない。かつ、王宮側から僕に支払うべき褒賞金の額がかなり減額出来ることになる。一手で幾つもの問題をクリアする事が出来た。とても合理的な提案だよ。ツェツィーリア、本当にありがとう」
「いえ、とんでもないです。ふと思い付いてしまったので」
「これで、僕の上がり過ぎていた評判は無事に下り坂。残酷で性格の悪い辺境伯ってことが周知されたから、玉座に就けるには難があると見做して貰える。アレクの立場にも影響は皆無。社交も減らせるだろうし、これでかなり楽になるだろうね」
部屋に戻ってからというもの、アルバンは浮かれている。
もうスキップしそうな勢いであり、時々、私を抱き上げてはその場でクルクル回ったりキスしたりしてくるし、柄にもなく私の手を取ってステップ踏んだりしている。
どうでもいいけどアルバン、普通にダンスも上手いな……?
生まれてこのかた、貴族令嬢にも拘らず、両親以外の誰とも踊ったことのない私が普通に踊れてしまっているため、これはかなりの腕前。
くそっ、ダンスパーティーなんて絶対やらない、断固拒否。ダンスホールは図書室に改築だぜ、なんてやっていたというのに、アルバン、凄く踊れるんじゃないか! 軽く裏切りに遭った気分である。いやアルバンは何も悪くないのだけれど。
「アルバン様の評判が落ちてしまいますが、嫌ではないですか?」
「全然。処女の生き血を啜ってるとか、ロリコンの嫌疑を掛けられるより何倍もマシ。どころか、僕のことを怖がって、有象無象が近寄って来なくなるなら好都合。ツェツィーリアに手を出した奴がどうなるかってこともアピール出来たし、僕としては理想的な形だよ」
「なら良かったです」
「ツェツィーリア、君と結婚して貰えて本当に良かった。君ほど聡明な女性は居ないよ。僕は幸せ者だ」
「うぅん、過大評価が過ぎると思いますが、とりあえずアルバン様が満足したなら良かったです」
チュッチュッ! とアルバンに頬やら首やらにキスされてしまう。
フンベルトの処分が決まってから、二人で使わせて貰っている部屋に戻った瞬間にコレである。るんたった、という感じでアルバンはご機嫌過ぎて、後ろから付いてきているニーナとミトンの存在すらも忘れて私とイチャついている訳だが……ニーナの前でこのような場面を見せることに対して、私は目が虚無である。
一方、ニーナはというと、特に気にした様子もなく、床にばったり倒れて腹出しになっているミトンのお腹を捏ね回している。ごめんねニーナ。
ミトンがウニャウニャしているが、どうも議会が開かれている間にニーナの気配を察知して合流したらしい。仲良しさんたちめ。いつ見てもかわいいな?
「ですが、コンラートさんがショックを受けていた様子でしたが……大丈夫ですか?」
そう、アルバンがフンベルトを犯罪奴隷の身分に落として、領民に殺されないように監視を付けた状態で労役を課しましょう、と提案した時に、コンラートさんは明らかにショックを受けた顔でアルバンのことを見ていた。明らかにドン引きしていた。うん、当然。前提として、カクトゥス領では犯罪奴隷には何をしても良いってことだし、アルバンのその発言、要するに「生かさず殺さずでリンチに遭わせよう」ということなので。正義感が強く善良なコンラートさんには衝撃的なだったらしい。
まあそうですよね!?
すみません発案者は私です。
今回に関しては、残酷なのも冷酷なのもアルバンではなく本当は私。
夫に汚名を着せる悪女となってしまった。
当の夫がその汚名を「ちょうどいいや」と喜んで着るタイプなので割れ鍋に閉じ蓋ではあるが、折角仲良くなったのに、コンラートさんとアルバンの友情が壊れてしまったらどうしよう……!
「ああ、コンラートのこと? 確かにショックを受けていたみたいだけど、平気じゃないかな? 正義感が強いし人に対して甘いところはあるけど、きちんと合理的な判断力があるから、あれが最良の手段だと理解したら、受け入れると思うよ?」
「そうでしょうか……?」
「平気平気。そうでなきゃ、何もなかったラヴェンデル領をあそこまで盛り立てることなんて出来ないよ。元々の性格がお人好しでも、単なる善人ってだけじゃお金儲けなんて出来っこないんだし」
それはそうかも。
コンラートさんは社交でシレッと「カクトゥスにはうちの生ハムは卸さない」とか公言するくらいには良い性格をしているため、杞憂かも知れない。
うん……なんていうか、アルバンもコンラートさんも頭が良いし、切り替えが速いんだろうから、落ち込んだり凹んだりしても、原因とか理由を理解したらすぐ次の行動に移っていそうな気がする。
「でもまあ、慣れない王宮での生活はストレスだろうし、明日また会いに行ってくるよ」
「それが良いと思います。アルバン様は、今日はもう、お仕事は終わりですか?」
「うん。この後はオフだね。ツェツィーリアは何か、したいことある?」
「元々、ニーナに王宮観光をさせてあげたかったんです。でも、外には私たちにお近付きになりたい方々が沢山居て……断念しました。イザベラ様……トゥルペ伯爵夫人と偶然お会いして、助けて貰ったのでどうにかなりましたが」
かくかくしかじか。
イザベラ様に助けて貰った経緯と、私とイザベラ様の関係と、私から見たイザベラ様の認識などを軽く説明した。
アルバンは丁寧に相槌を打ちながら聞いてくれた。好き。
「イザベラ・トゥルペ伯爵夫人か。僕は関わりがないけど、トゥルペ伯爵家は厳格で誇り高い家柄だっていうことは聞いているよ。でも、三回結婚して三回離婚っていうのは……結構凄いね?」
今の言い方、よくない!
愛するアルバンであったとしても、そういう風に、何も悪いことをしていない人をやや小馬鹿にしたように言うの、あんまり好きじゃない。
というか、私が嫌。イザベラ様のことを悪く言って欲しくない。
「どうして? 結婚というのは籤引きのようなものでしょう? 私とアルバン様はたまたま、こうして仲良くなれましたけれど……女性の場合、結婚相手を選べないというのも珍しくありませんし、婚約者だった時には上手くいっていても、嫁いで家に入った途端に上手くいかなくなることもあるようですし、結婚してみないと分からない、ということでは? まして、イザベラ様のことですから……お相手の方に非があったのだと思います。理由としても、トゥルペ伯爵家に相応しくない人格だったから、ということでしたし」
ついつい、ムキになって反論してしまったが、アルバンはストンと、私と手を取り合った状態でベッドに腰を下ろして、それから、ジッと私の顔を見て「うん」と呟いた。
「そっか。女性には選択権がない場合も結構あるもんね。厳格な家だと、結婚は家長が決めるし、その場合、家長に意見できるのは後継になる長男だけっていうのも珍しくない。そういう家に生まれた女性は、自分の意思で相手を選べないもんね。それに……確かに、相手を選べたとしても、結婚して上手くいくかどうかは分からないっていうのも、そうだよね。僕たちは奇跡的に上手くいっていたから、つい忘れてしまうけれど……ツェツィーリア、君には選択の余地がなかった。分かっていたから、君は最初から僕に対して友好的だったけど……みんながみんな、そういう風に上手くやれる訳じゃないだろうし」
「そうです。私はたまたま、結婚相手がアルバン様だったので、最初からとても優しくして頂きましたが、世の中の男性全てがアルバン様のように完璧ではないので」
「いや、僕は完璧でもなんでもないんだけど……ツェツィーリアはそう思ってくれてるっていうことだよね? 良かった。ありがとう」
うむうむ。分かって貰えたようで良かった。
アルバンは私に激甘だし、お金持ちだし気前が良いし、物凄く優しい。
言ってしまえばアタリの夫。
アルバンにさえ付いて行けば一生安泰贅沢三昧。衣食住全てに困らぬ、私にとっては圧倒的な玉の輿。でもこんな優良物件、他に居る訳がないし、好き同士で縁談が纏まらなかった場合、貴族令嬢は家のために結婚することになる訳で……その相手が性格が悪かったり相性が悪かったり無能だったりする可能性もかなりある。
そう結婚はギャンブル。完全に籤引き。
私だって、実家がお金に困っていたからという理由でアルバンに嫁いだのだし。
両親を路頭に迷わせるのは気が咎めるし、嫁ぎ先で死ぬまで虐められることも覚悟していたくらいだ。
まあ、結果的に大勝利してしまった訳だが。
私はあの、本当にラッキー過ぎる。
世間の普通とは大きな乖離があるし、私たち夫婦は貴族の中でも珍しい相思相愛。結婚してからしっかりガッツリ色恋をやっており、それも現在進行形という奇跡が出力されているので、これが普通だと思ってはいけない。
「でも、三回の結婚と離婚は大変だよね。婿を取る立場なら、結婚相手をまた探さないといけないんだろうけど……僕らの世代だと、もう良い人材は全部決まっちゃってるだろうし」
「そうですよね。トゥルペ伯爵家は大きな家ですし、格式のあるお家柄ですから、それもあってお相手探しが難航しているのだと思います」
「条件だけなら志願者は引も切らないだろうけど……人柄が重視されるのなら、女性側が相手を募るのは難しいよね」
「ええ。アルバン様、どなたかお知り合いで、良い方は居ませんか?」
「ツェツィーリアは……トゥルペ伯爵夫人とは仲が良いの?」
「いいえ。お茶会で少し会話したことがあるくらいですが……私が個人的に、なんというか、尊敬していますし、イザベラ様が幸せになれないなんて、この世が間違っているのではないかと思ってしまうので」
「お、思ったより好き、なんだね……?」
「はい」
アルバンに指摘されて気が付いたが、私、自分で思っている以上にイザベラ様のことが好きだな……?
考えてみたら、私はアルバンの好奇心旺盛で素直で慈悲深いところが好きなので、男女に関係なく、徳が高い人の善性に惹かれるのかも。
あと、アルバンとイザベラ様の共通点として、真面目で勤勉なところも、私にはない要素なので尊敬しているというのもかなりある。
「でも、僕には友達、コンラートしか居ないし……アレクとアロイスの周りの貴族も軒並み結婚しているだろうから、紹介できる心当たりがないや……ごめんね」
「すみません。忘れていました。私たち、どちらも友達が居ませんでしたね……。」
しょんぼり。
コネクションがものを言う場面はある。
アルバンは有能さにものを言わせて、フリートホーフ辺境伯領を全力でブン回して、単騎で稼ぎまくっている。コネなど不要と言わんばかりの辣腕振りでこれまでやってきた訳だが……思わぬところで必要になるもの、それがコネ。
イザベラ様に紹介できる独身男性が、居ない……!
しかし、よくよく考えてみたら、あの誇り高いイザベラ様に「この人どうですか?」なんて烏滸がましいことかも。嫌がられるかも。叱られるのは別にいいけれど、イザベラ様にゴミを見るような目で見られたらしばらく立ち直れそうにない。
「……とりあえず、トゥルペ伯爵家のことについて、それとなく聞いてみることにするよ。あそこは東部における物流や交通の中継地点だからね。安定してくれないと困る」
「お願いします」
と、雑談が長くなってしまったが、ひとまず一旦終了。
「待たせてしまってごめんなさいニー……長いっ!」
ニーナ、と呼ぼうとしたのだけれど、ニーナによって揉まれているミトンが未だ嘗て見たこともないぐらい細長くなっており、ついつい「長い!」と単なる感想を叫んでしまった。
ね、猫って、長くなっているのはよく見ていたけど、あんな、あそこまで長くなれるんだ……?
「最高記録だ。ツェツィーリアさま、見て。ミトンは腕と足と尻尾を伸ばすと、すごく大きい」
「本当ですね」
「凄いなこれ……ちょっと測ろう。女官に頼んで巻き尺持ってきて貰うから、ニーナ、そのままミトンをキープで」
「わかった」
ゴロゴロゴロゴロ……と気持ちよくて堪りません、という感じで長くなっているミトンを巻き尺で測ってみたところ、伸ばした前足の先から尻尾の先まで、150センチもあった。
猫、広がりを見せたり丸くなったり、細長くなったり、謎が深い。




