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記録6:母娘の会話、これからの家族の会話

「で、拾ってきたと」


 現在私はリビングで椅子に座りながらテーブル越しに母と父親に対面している。

 電話でのやり取りばかりで顔を見るのは数年ぶりの両親は、玄関のドアを開けて一緒に入ってきた星に目を見張った。星が美しいというのもあるだろうが、一人で帰省するはずだった私が私よりも小さな子供の姿をした人を連れてきたら驚いてしまうだろう。

 だけど多少の困惑は見せながらも家の中には何も聞かずに入れてくれて、一度リビングに荷物を置いて洗面所で手を洗ったらリビングに戻ってきた。星は手の洗い方が分からないようだったので一から教えたが、汚れが汚れじゃなくなる性質のものに手洗いの行為が必要なのかは謎だ。おそらくは不必要だが何事にも気分という感情が付き纏うから益がなくとも行っておくのは大切だ。


「紫を拾った私が言うべきじゃないが、人を拾うの早めときなさい。幼い子供ならなおさらね」

「本当に母が言えたことじゃないね」

「僕もそう思うよ」

「あの時のことは反省しているので、なしよ」

「ちなみにこの子は人間じゃないよ。ついでに私のような存在でもない」

「なら説明してちょうだい。私は紫と違って感覚が優れているわけじゃないから分からないわ」


 私たちが手を洗っている間に母は父親を呼びに行ってリビングにつれてきていた。私と(さい)が家を出てからはめっきり使わなくなった椅子は、置かれたまま動かすことがなくカーペットにくっきりとした跡を付けている。

 二人揃って身長が小さいからソファーにおいてあるクッションを拝借して椅子の上に敷き、母と父親と会話をする体勢をとる。話す前にリビングの風景を眺めると変わっていないところが多いが、食器置き場やキッチン器具などの小物の配置は変わっているし、観賞植物や小魚が中にいない水槽もある。全体的に華やかさが増えたような感じがする。


「私も詳しくは理解できないけど超自然的存在と言えば良いかな」

(ほし)星の子(ほしのこ)。紫に助けを求めるこの惑星の意思」

「原理はさっぱりだけど星は確かに私たち暮らしている惑星の意思だよ」

「はい、そうですか。とは信じられないな」

「疑問が多すぎるわ。それを答えてから判断しましょう」


 母が一拍手を叩くと場の雰囲気は星の存在を確認するものへと変わり、各々が質問を考え始めて音がしなくなる。家にいたときにもこうした家族会議はそこそこあったし、母が私を拾ったときにもこうして家族会議が開かれたらしい。


「まずは何故紫に助けを求めるのか。星の自然を回復してほしいのなら各国の国家元首を脅したほうが効果的よ」

「紫は優秀で二人目で、時間的に最後の一粒種。紫なら星を救えると判断した」

「気になることはあるけれども次に貴方はどうやって生まれたのか」

「生物が惑星にばら撒いた魔力、特に人間の強い自我と数でこうして顕現できるようになった」

「あぁ、あれに似ているね。でも何だったか思い出すから待っていてくれないか」


 父親はそういうと目をつぶって考え始める。インターネットで検索してもでてくるだろうが、会話の途中で使うのは流れを断ち切るのであまり使わないことにしている。それに魔素の専門家である父親が思い出すほうが、似ていると言ったものを当てずっぽうに検索するよりも早いはずだ。

 それでも少し流れが途切れたから冷蔵庫にお茶を取りに行って、無いことにがっかりした。


「よく飲んでた娘と息子がいなくなったから作らなくなったのよ」

「母たちは温かいお茶ばっかりだったよね」

「冷たくなることが今でも多々あるわ」

「思い出した」


 トルヤ茶が私は一番好きで、(さい)はお茶を飲むけどこだわりはなかったから父親が作って冷蔵庫で冷やしてくれるお茶の種類はいつもトルヤ茶だった。だけど好きだというよりも飲み慣れているから抵抗なくガブガブと飲むことが出来たのだろう。久しぶりとはいえ身体は冷蔵庫の開け方も慣れた手つきが出来るくらいには覚えていて、まだこの家の記憶が朧げないままでいることに嬉しく思う。


「私はここで聞いているから紫はテーブルで凪さんの話を聞いてないさい」

「注文にコーヒーを頼んで良いかな」

「大丈夫よ。その子は...」

「ジュースないの?」

「大槻さんにもらったものが一本」

「それ出して」


 大槻さんはご近所付き合いが一番長い人で、この家の裏手に昔から家を構えて床屋を営んでいる。母と父親の髪切りはいつもそこで切ってもらっていたし、私と紫も暮らしていた頃は髪を切りながら学校での話題を話したりしていた。

 明日になったら挨拶をしようと思っていた人で話しやすい気さくな人だ。当時はかなり常識知らずで迷惑をかけていて、御空学園を卒業して軍に入ると挨拶した時にその話題を出されて恥ずかしかった。自分ではなんともないと思っている話題でも、大槻さんが喋ると何故か小っ恥ずかしいと感じてしまうのは何故なのだろうか。そこも大槻さんを尊敬している一因かもしれない。


「えっとな。死霊術を現代の技術で行う実験のことなんだ」

「死霊術っていうと南部地域で誕生した数ある呪術のうちの一つだね。たしか死者の魂を呪術よって捕獲し使役することが出来る呪術で使役系統の術式に分類されている勢力はあまり強くなかった呪術。仕組みとしては死者の魔力がヘシニラの崩壊によって外部へ拡散する前に、術式で新たにヘシニラの代わりの魔力の膜を作ることによって肉体的には死亡していながらも魔力の維持が可能になった」

「もう良いわ」

「こういう子だったね」


 そんな憐れんだ目で見ないでほしいが魔術と聞くと喋りたくなるのは私の性分なので変えられないし、隣りにいる星も急に文章量を十倍にして喋りだした私に驚いて目を見張っている。研究所にいた頃は魔術とは埋め込まれた立体回路魔道具と奪った知識からしか知らなかったから興味がなかったけど、健康診断渡渉して御空学園にいた時に外出許可が降りた時に図書館に行って回路魔術の知見を深めようとして他の魔術を知ったのがキッカケだ。そこからは母に頼んで魔術に関する書籍を借りてきてもらって健康診断の暇つぶしに読んでいた。


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