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前世は宮廷薬師、今世は婚約破棄!? 〜運命の赤い糸に導かれた騎士と薬師の恋〜  作者: 九葉


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第6話 前世の真実と新たな誓い

赤い光が消えた後、私の体から毒の痛みが完全に消え去っていた。代わりに、前世の記憶が鮮明に脳裏に広がっている。まるで昨日のことのように、エリーナ・アールとしての人生が、今の私の記憶と溶け合った。


「覚えているの…全てを」


私の言葉に、カイルも頷いた。彼の瞳には、前世の記憶を取り戻した者特有の複雑な感情が宿っている。


「僕も…全てを思い出した」


二人の間に沈黙が流れる。何から話せばいいのか、言葉が見つからない。あまりにも多くの記憶、あまりにも強い感情が、私たちを圧倒していた。


「二人とも、少し休むべきだ」サイラスが声をかけた。「明日は薬術祭最終日。そして、バルトス王国の使者団が公式に王子を迎えに来る日でもある」


「そうだな」カイルは疲れた表情で頷いた。「エリーナ、少しでも休んでくれ」


「でも、明日のことを話し合わないと…」


「今は休むんだ」彼は優しく私の額に触れた。「僕たちの前には、乗り越えなければならない試練がまだある。エドガーの陰謀、バルトス王国の使者団…そして、君の婚約」


彼の言葉に現実を思い出し、胸が締め付けられた。確かに私たちの問題は解決していない。それどころか、カイルの正体が明らかになったことで、状況はより複雑になっている。


「わかったわ。少し休むわ」


ベッドに横たわり、目を閉じる。しかし、前世の記憶が次々と浮かび、なかなか眠りにつけない。


《ギレアード大戦の最中。私は王立薬学院を首席で卒業し、戦場へと赴いていた。そこで出会ったのが、若き騎士団長カイル・バルトレイ。彼はバルトス王国の第二王子でありながら、自ら前線に立ち、兵を率いていた。


初めは王族と薬師という身分の差から距離を置いていたが、共に戦場を駆け、傷ついた兵士たちを救う日々の中で、私たちは少しずつ近づいていった。


そして、あの運命の日。激戦の末、カイルは深手を負い、私は彼を救うため命がけで特効薬「ブルーミラクル」を調合した。それを届けに行く途中、敵の伏兵に遭遇。そこで私を待ち伏せていたのは、金髪の将校エドガー・フォーレス。


「さすが、死の調合師。貴重な薬を作ったな」彼は冷酷な笑みを浮かべた。「だが、それは我がレイモンド公の手に渡る」


彼の裏切りを知った瞬間、私の背後から剣が突き刺さった。命の薬を握りしめたまま、私は息絶えた。そして、カイルも私の薬が届かぬまま、この世を去ったのだ。》


涙が頬を伝う。前世での無念、そして叶わなかった想い。でも今、私たちは再び出会い、記憶を取り戻した。今度こそ、運命を変えられるのだろうか。


そんな思いと共に、疲れた体が眠りに落ちていった。


***


薬術祭最終日の朝は、凜とした空気に包まれていた。宮殿の広間には各国の要人が集い、特に目立つのはバルトス王国の使者団。彼らの厳かな装いは、単なる交流以上の目的を感じさせる。


私は決勝戦の参加者として壇上に上がった。他の二人の調合師と並び、王の前で最後の試練に臨む。課題は「万能治癒薬」。言葉通り、あらゆる傷や病を癒す伝説の薬だ。


壇上から観客席を見渡すと、最前列にエドガーの姿があった。彼は冷ややかな笑みを浮かべている。彼の隣には父も座っているが、表情は硬く、心配の色が濃い。


そして、審査官席にはカイルの姿はなかった。彼はどこに?


「調合開始」


宣言と共に、私は材料に向き合った。前世の記憶と今世の技術を融合させ、万能治癒薬を作り上げる。手が迷いなく動き、まるで踊るように薬草を混ぜ、丁寧に火加減を調整していく。


すると、広間の扉が勢いよく開かれ、カイルが王国騎士団の正装で入ってきた。彼の後ろには王国軍と、バルトス王国の使者団が続いている。


会場が騒然となる中、カイルは王の前に進み出て、片膝をついた。


「陛下、重大な報告があります」


王は困惑した表情で頷いた。「何事か、ルシエン副団長」


「私の正体についてです」カイルは堂々と宣言した。「私はカイル・バルトレイ、バルトス王国第二王子です。三年前のクーデターから逃れ、この国に亡命していました」


会場がどよめく。特にエドガーの表情が一瞬崩れるのが見えた。


「更に重大な告発があります」カイルは立ち上がり、エドガーを指差した。「フォーレス大公子息エドガー殿は、バルトス王国のクーデターを支援し、現在も不当に王位についたレイモンド公と通じています。そして彼は、アルケミア令嬢に毒を盛り、命を危険に晒した」


その告発にエドガーは立ち上がり、否定しようとしたが、カイルの部下が彼を取り囲み、証拠の書類を王に提出した。それは、エドガーとレイモンド公の密通を示す手紙だった。


王は書類に目を通し、厳しい表情でエドガーを見た。「これは本当か?」


エドガーは白い顔で周囲を見回し、突然、剣を抜いて私に向かって駆け寄った。「お前のせいだ!」


その瞬間、私は本能的に手にしていた調合物をエドガーに向かって投げた。青い液体が彼の顔にかかると、エドガーは悲鳴を上げて床に倒れ込んだ。


「毒だ!」彼は苦しそうに叫んだ。


「違うわ」私は冷静に言った。「それは真実を映す薬。前世でも今世でも、あなたの裏切りを明らかにするための」


エドガーの体が青く光り始め、その姿が透けて見えるようになる。まるで彼の魂の汚れが可視化されたかのよう。その光景に、会場は完全に静まり返った。


王は厳しい表情で兵に命じた。「エドガー・フォーレスを逮捕せよ。そして、この件について徹底的に調査するように」


兵士たちがエドガーを連れ去った後、王はカイルに向き直った。「カイル王子、あなたの身の上とこの告発は、国家間の重大事であり、慎重に対応せねばなりません」


「承知しております」カイルは頭を下げた。「ただ、一つだけお願いがあります」


「何だ?」


「この薬術祭を最後まで続けさせてください。そして、アルケミア令嬢の才能を正当に評価していただきたい」


王は少し考え、頷いた。「それは公正なことだろう。調合を続けなさい」


私は感謝の気持ちでカイルを見つめ、再び調合に集中した。しかし、エドガーの襲撃で一部の材料がこぼれてしまっていた。限られた材料で、どうやって万能治癒薬を完成させるか…。


そのとき、カイルが静かに私の側に歩み寄り、小さな包みを差し出した。


「これを使って」


開けてみると、そこには前世で私が使っていた希少な薬草、「天使の涙」があった。それは万能治癒薬に欠かせない最高級の材料。


「どうやって…?」


「ずっと探していたんだ」彼は優しく微笑んだ。「前世では君に届けられなかったものを、今度こそ」


私は感謝の涙をこらえ、天使の涙を調合に加えた。すると、薬はまばゆいばかりの金色に輝き始めた。会場から驚きの声が上がる。


「完成です」


私が宣言すると、首席審査官が近づき、慎重に薬を検分した。彼の表情が驚きと敬意に満ちていく。


「これは…伝説の黄金霊薬!書物にしか記されていない究極の治癒薬だ!」


審査官たちが集まり、議論する様子に、会場は緊張感に包まれた。やがて首席審査官が王の前に進み出て宣言した。


「アール嬢…いや、アルケミア令嬢の勝利です。彼女こそ、次代の『王の調合師』にふさわしい」


歓声が上がる中、王は私を前に呼び、厳かに宣言した。


「ミーナ・アルケミア、汝を王国の『王の調合師』に任命する。その才能を王国の繁栄と民の健康のために捧げよ」


「光栄です、陛下」


私が頭を下げると、王は続けた。「そして、エドガー・フォーレスとの婚約は、彼の犯罪行為により無効とする」


その言葉に、私の心は喜びで満たされた。ついに、政略結婚の枷から解放される。父も、複雑な表情ながらも、安堵の色を見せていた。


しかし、まだ問題は残っていた。カイルはバルトス王国の王子。彼は自国に戻らなければならないのか?


儀式が終わり、人々が去った後、カイルと私は宮殿の庭園で二人きりになった。夕陽が私たちを優しく照らす中、彼は私の手を取った。


「エリーナ…いや、ミーナ」彼は緊張した様子で言った。「前世では、僕たちは想いを遂げることができなかった。君の調合した薬は僕に届かず、僕も君を守ることができなかった」


「カイル…」


「でも今度は違う」彼の瞳が決意に満ちている。「君が作った薬は確かに僕に届いた。そして僕は、君の命を守ることができた」


彼は深く息を吸い、続けた。


「バルトス王国に戻り、不当な叔父から王位を取り戻す戦いが僕を待っている。王子としての責務を果たさねばならない」


私の心が沈む。やはり彼は去っていくのか。


「しかし」彼は強く私の手を握った。「それは一人では成し遂げられない。バルトス王国には、優れた薬師の知恵が必要だ。そして私には、心から愛し、信頼できるパートナーが必要なんだ」


私の心臓が激しく鼓動する。


「ミーナ・アルケミア」カイルは片膝をつき、ラピスラズリのペンダントを掲げた。「君は僕と共に歩んでくれないか?バルトス王国の未来を、共に築いてくれないか?」


涙があふれ出る。前世では届けられなかった想い、伝えられなかった言葉。それが今、ここで現実になろうとしている。


「ええ、喜んで」私は涙を拭いながら答えた。「前世では届けられなかった薬も、伝えられなかった想いも、今度こそあなたに届けます」


その瞬間、私たちの小指の間に、再び赤い光の糸が浮かび上がった。今度は前回よりも強く、美しく輝いている。周囲の人々も驚いて立ち止まり、その光景を見つめていた。


「運命の赤い糸の顕現…」王の声が響いた。王も側近も庭園に出てきていたようだ。「古い伝承では、これは真の魂の結合を示す神の祝福とされる」


バルトス王国の使者団長も畏敬の念を込めて言った。「我が国にも同じ伝承があります。運命の赤い糸に結ばれた二人は、身分を超えた結婚が許される…それが古法です」


王は深く頷き、宣言した。「カイル・バルトレイ王子とミーナ・アルケミアの結婚を認める。そしてこれをもって、バルトス王国との同盟を結ぶ」


政治的な思惑もあるだろうが、その瞬間は純粋な祝福に包まれていた。カイルは立ち上がり、私を抱きしめた。彼の腕の中で、前世の悲しみも、今世の不安も、全て溶けていくようだった。


「今度こそ、君を守る」彼はそっと私の耳元で囁いた。「そして君の作る薬が、多くの命を救う世界を共に築こう」


「ええ、必ず」


私たちの誓いは、前世からの約束を果たすものであり、未来への希望を紡ぐものだった。運命の赤い糸は、時を超えて私たちを結びつけ、新たな物語の幕を開けたのだ。

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