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第4話 どうしてお姫様抱っこなんですか

「どこに行くんじゃ?」

「うわぁっ!? 瑞花さん!?」


 前を向いたら瑞花さんがいた。あっぶな、ぶつかるかと思った。というかどうしてここにいるんだろう? さっき振り向く前は影もなかったはずなのに。それに、え、空中に浮いてない? 妖怪だから? あ、そうか。妖怪だから不思議なことでもできる、のか……?


「うむ、わしじゃよ。どこに行くんじゃ、葉鳥?」

「えっと、決めてないです……」

「そうか。お主、このままだとあの夢から抜け出せなくなるぞ。良いのか?」


 突然真剣な表情になった瑞花さんが伝えたのは、そんな事実だった。じゃあさっき助けてもらったのは、抜け出せたのはどういうこと? でも確かにあの時は闇の中から引っ張り出された感じだった。


「どういうことだと言いたげな顔じゃな」

「そう、ですね……」

「とりあえず葉鳥。こっちに来い」


 返事をする間もなく瑞花さんに抱き上げられた。抱き上げられるまでは百歩譲って分かる。分かるよ。だけどさ、どうしてお姫様抱っこなんですか。しかもなんか空飛んでるし。……え、ちょ、高度そんなに上げる必要ある? もう10階建ての建物超えてるよね?


「……あの、どこに向かってるんですか?」

「ああ言っていなかったか。ちょっと遠くの公園じゃ。歩いたら10分はかかるところじゃな。飛んだら1分くらいで着くからのう」

「そ、そうなんです……かぁぁあぁ!?」


 スピード上げすぎ……! 風……はなぜか感じないけど、周りの景色がびゅんびゅん過ぎてってるから。怖いから……!




「……はぁ、やっと、やっと着いた」

「大丈夫かー?」

「大丈夫じゃないですこれが大丈夫に見えますか!?」


 見えんなー、とイセさんは笑った。笑い事じゃないんですよ。あの速さであの高さを生身で飛ぶなんて……もう絶対したくない。


「ふっふっふ。葉鳥にはちょいと刺激が強かったかのう。早速じゃが本題に入るぞ」


 瑞花さんの言葉に僕たちは頷いた。


「時に葉鳥、妖怪に憑かれておる自覚はあるか?」


 ……()れているではないよね、()かれている方だよね。自覚、自覚かぁ。悪夢を視るようになったくらいしか思いつかないけど、もしかしなくてもそれのことだろう。


「言われてみれば……。あの悪夢のこと、ですよね?」

「そうじゃ。何よりの証拠として、お主が倒れうなされている時に、身代わりのふだが効力を発揮した」


 身代わりのふだ? あ、もしかして悪夢に出てきた光って、それのことだったり……?

 イセさんが懐から取り出したおふだは黒く焦げていた。そのおふだからはとても嫌な感じがした。黒いもやのようなものが見えるし、何より、あの夢の黒い何かと同じものだと直感的に分かった。


「瑞花さんの言うた通り、これは身代わりのふだいうものや。このふだは一度だけ人の身代わりになってくれはる。妖怪に危害を加えられた時限定やけどな。それが効果を発揮しよった、それは葉鳥くんの身代わりになったっちゅうこと。そういうわけで、葉鳥くん、君、妖怪に憑かれとるなぁ」


 イセさんは焦げたおふだをひらひらとさせる。もしもあのおふだがなければ、僕がああなっていた……? 身代わりになるということはそういうことだろう。ぞくっと全身に寒気が走った。


「大丈夫ですよ。きちんと対処すればああなりはしません」


 もしも対処してなかったらああなっていたんだ……。さらっと怖いことを認めましたね藤さん。……いや、でも、きちんと対処すれば大丈夫ってことだよね。ま、前向きに行こう。


「そ、そうですよね、対処すれば大丈夫ですよね」

「はい、対処すれば大丈夫です。私たちはそのために来たようなものですから」

「……え? それは、どういうことですか?」


 確かに、今まで祓屋なんていう職業の人とは会ったことがなかった。きっと珍しい存在なんだろうから。そんな人たちがどうしてうちの大学のキャンパス内にいたのか、考えてみれば不思議だな……。


「そういえば話してませんでしたね。私たちはとある鬼を追ってこの地域まで来たんですよ。偶然葉鳥くんが通っているキャンパスの方からその鬼の気配がして、行ってみたら葉鳥くんと会った、というわけです」

「な、なるほど……」


 とある鬼……、それってもしかして悪夢を視せるような鬼だったりは、いやいや、さすがにないですよねぇ。そんな、追わないといけないような鬼が僕に憑いたりするわけ、……ないよね?


「その鬼、暗鬼(あんき)の気配が君からぷんぷん漂っとるんよなぁ」

「……イセさん、それって本当ですか? え、僕に鬼が憑いてる?」

「残念ながらほんとやなぁ。ああ瑞花さん、人払いの結界はできとるで」

「おおそうか、準備はできたか。そういうわけで葉鳥、鬼を出すぞ」


 どういうわけですか。準備ってなんですか。鬼を出すってなんですか。なんだろう、瑞花さんのどこか仄暗い笑顔が怖い。すごーく嫌な予感がする。

 一歩、また一歩と近づいてくる瑞花さんに対し、僕は一歩、また一歩と後ろに下がる。気づいたら背中に木が当たっていた。もうこれ以上は逃げられない。


「えーっと、瑞花さん……?」

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