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第3話 祓屋やっとるで

「ああ、そういえば自己紹介まだやったね。俺は桐生(きりゅう)イセ。藤と祓屋やっとるで」

「私は三上藤(みかみふじ)。同じく祓屋をやっています。祓屋というものを簡単に説明すると、妖怪が視える人間が、害をなす妖怪を退治するというものですね。よろしくお願いします」


 祓屋、……世界にはいろんな職業があるんだなぁ。……すみません、未知との遭遇すぎてちょっとだいぶ分からないです。と、とりあえず僕も自己紹介しよう。うん、そうしよう。


「あのえっと、僕は橘葉鳥(たちばなはとり)です。ここの大学の一年生やってます。妖怪は物心ついた時から視えていて……。よろしくお願いします」


 藤さんもイセさんも笑顔で頷いてくれた。次は、妖狐の自己紹介かな……? ダントツで気になる。どうして助けてくれたのかとか、どうして僕の名前を知っているのか、とか。その辺どうなんですか妖狐さん。


「わしの番かのう?」

「そうやな」

「わしは瑞花(ずいか)。見ての通り狐の妖怪じゃ。こう見えて1000年は生きておるぞ」


 妖狐──瑞花さんは耳と尻尾をぴくぴくと動かしてみせた。すごい、本物だ。疑っていたわけではないけど、改めて見ると謎に感動する。


 さらっと聞こえたけど1000年は生きてる? つまり瑞花さんは軽く1000歳は超えている、と。……ダメだ、考えたら宇宙まで飛んでいくやつだ。


 現実に戻ってこよう、うん、そうしよう。瑞花さんとの関係だよね。今一度記憶を辿ってみても今までの記憶に瑞花さんはいない。ならどこで知り合ったんだろう。


「……これ葉鳥、そんなにわしとの関係が気になるのか?」


 そ、そんなに顔に出てたかな……? まあ気になるのは気になるけど。そんな心を込めて僕は頷いた。


「ふっふっふ、可愛いのう。いつまでも愛でていたくなるわい。わしは葉鳥の父に助けられたことがあったのじゃ。だから葉鳥が生まれる前からの付き合いじゃな」


 付き合い、思ったより長かった。それに父さん、かぁ。妖狐を助けていたなんて聞いたことないよ。……あれ、本当にそうだっけ? 父さんは視える人で、だから僕をかばって……。


「……ぅ」


 がんがんと響くような頭痛がする。目の前がぐにゃぐにゃする。音が、誰かの声が捻じ曲がって……気持ち悪い。──誰か、助けて。


 だ、ダメだ。何考えてるんだ僕。独りでいないと、誰にも助けを求めちゃダメで……。だから瑞花さんたちとも関わったらいけない。……それは少し、いやかなりさみしい、けど。

 でも、ダメだ。こんな僕が、父さんと母さんを殺してしまった僕が幸せになったら、ダメなんだ。




「──あれ、ここは」


 また、あの闇の中にいた。そうだ、逃げないと。が、ぬかるみに足を取られたかのように動くことができない。動けば動こうとするほどはまっていってしまう。


『ハトリ、タイセツナコ』

『アイシテイルヨ、ハトリ。ダカラモウニゲナイデ』


 足を掴んでいる黒い何かは、父さんと母さんの声で話しかけてくる。逃げないから、お願いだからその声で優しいことを言わないで。話しかけないで。


 耳を塞ごうと手を動かすが、黒い何かに押さえつけられてしまう。動けない身体のように、心まで動かなくさせられる。

 この暗くて辛くて苦しいまま、ずっといなければいけないのか。そう考えたら、涙があふれてきた。


『ドウシテナイテイルノ?』

『ツライノ? クルシイノ?』


 そうだよ、辛くて苦しくて、真っ黒だ。でもこれも全部僕のせい。僕が父さんと母さんを殺したせい。だから、この真っ黒な心に囚われたままでいいんだ。


『──ソウダヨ。ゼンブ、オマエノセイ』

『モットツラクナレ、モットクルシメ』


 僕の下半身と腕を掴んでいた黒い何かは、上へ上へと上がってくる。もうどうにもならない。これからはずっと闇の中。ならば一度くらい願ってもいいんじゃないか。願うのはこれで最後にするからさ。


 ──僕を、助けて。


「——あい分かった」

「……え?」


 聞こえたのは瑞花さんの声。「あい分かった」って、え? 助けてくれるってこと、だよね? どうして、というかどうやって。ここは僕の夢の中で、夢の中での出来事から助けてくれるってどういう……?


「葉鳥、光をつかめ」


 顔まで黒い何かが覆っているのに光なんて……。そんなものあるわけが——……あった。目では見えてないはずなのに、確かにそこに見える。これに手を……。

 光に手を伸ばし、つかめたと思ったその瞬間、闇から引っ張り出された——。




「——葉鳥、よくぞ呼んでくれたな」


 目を開けたら瑞花さんの顔が近くにあった。どうやら僕は倒れていたらしい。どうして倒れて……そうだった。悪夢に入り込んでそれで、助けを求めてしまった……? 僕は……どうして、なんで。助けなんて求めちゃダメなのに。求めてしまったら、また……。

 ——また僕のせいで助けてくれた人が死んでしまう。


「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」


 差し出しされた藤さんの手を、思わず払ってしまった。慌てて立ち上がり、3人から離れようとする。ふらふらとする僕を支えようと、イセさんが控えめに手を伸ばす。それをなんとかかわしつつ、大学のキャンパスから出ていった。

 追いかけてきていないかと振り向いたが、あの3人の姿はない。……うん、これでいいんだ。さて、どこに行くべきか。


「どこに行くんじゃ?」

「うわぁっ!? 瑞花さん!?」

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