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群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第三章 龍公討伐

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第八十五話 誤算Ⅲ

 魁世はケイヒン村の館に千鳥足で帰ってきた。

 館には第三行政局庶務部の八田藍、平群美美、桑名鶴夏の三人の女子が住んでいる。

 魁世は朱色の頬で気持ちよさそうにうめき声を出す。


「うおーい、今帰ったぞ~」


 だが返事がなかった。いつもなら鶴夏がペタペタと歩いてきて出迎えたり、エプソン姿の藍が台所から顔だけ出してきたりするのだが、今夜は無音でリビングからの光もなかった。


「あれら、なんで誰も返事してくれないんだ。さみしいな~」


 すると二階から階段で降りてくる影を見つける。なんとなく藍だと分かった。


「藍さーん、僕は敵大将を討ち取って——」


 魁世はその瞬間、片頬に熱を感じる。それが痛みだと分かるのに数秒要した。

 そしてもう片方の頬にも激烈で強烈な痛みが走る。

 気持ちよく朦朧としていた意識が冷水を浴びせられたように明瞭になった。

 魁世はそこでようやく藍の全貌を視認する。

 藍の目が充血し、頬に両筋の涙の跡が見えた。


「…いままで何してたの」


「え、いや、戦いに勝ったから——」


「いままで何してたの」


 魁世はここでようやく藍から頬を叩かれ、現在詰問されていることが分かった。


「襲撃があったの。武装した男二人が現れてこの館に侵入してきた。一人はあたしが殺したわ。最悪の感覚だったけれど。もう一人は鶴夏が椅子をつかって脳漿ぶちまけさせた」


 藍は唇を嚙むように話し始める。


「ねえ、帰りたい。元の世界に帰りたい」


 魁世は言葉を精いっぱい選んで答える。


「それは難しい。皇帝によって召喚された以上、おそらく戻るにも皇帝の力が必要だ。それがどんな条件が必要なのかはわからない」


 条件反射のように返す。


「なら魁世が皇帝になればいいの?はやくなってよ、早く」


 そう言われても。そう言いかけた魁世だったが慎重に別のことばで返した。


「物語で云うなら、転生とかで元の世界に戻れるかもしれない」


 魁世は自分の頭にアルコールが回っていて支離滅裂なことを言っていると言い終わってから気づいた。


「じゃあ死んだら元の世界に転生できるの?答えてよ」


 何故このような事態となったのか、それはひとえに属領南奧州と群蒼会は決してイコールでは無いことに起因している。警備部長の足柄琥太郎は警備を配置したのは属領南奧州において重要な施設や人員に対してであり、群蒼会にとって重要な施設や個人は守らなかった。

 琥太郎は群蒼会の秘匿性から警備を配さなかった。後になって事の次第が群蒼会内で共有された際、琥太郎は藍たちへの謝罪をその足で向かい、群蒼会の非戦闘員を守る専門の組織をつくることになる。

 すっかり酔いが醒めてしまった魁世の胸倉を藍は掴む。数日前から整えずに乱れている藍の蓬髪(ほうはつ)だがその薫香が魁世の鼻孔を包む。もっとも魁世にはそれを堪能する暇も思考も持ち合わせていなかった。


「それじゃあ魁世が、魁世が私を殺してよ。だって私を、鶴夏と美美を強引に引っ張り出して利用したせいで今があって、そうでしょ」


 その言は支離滅裂には違いないが、聞かされた方はそれを特に指摘せずに言葉を返した。


「それは嫌だ。ここにいて欲しい」


 藍は言葉に嗚咽が混じり、手は掴む場所を魁世の襟から胸部全体に変わっていた。


「床にへたり込んで鶴夏はずっと泣いていて、美美は、あの美美が茫然としてずっと喋ってくれないの。これからも口がきけなくなったらどうするの⁈」


 魁世は三人に何があったのか今夜はじめて知り、藍は様々に折り重なった出来事に感情の堤防が決壊しつつあった。


「鶴夏が、そうなのか。今はどうしている、美美と一緒に寝ているのか?」


 いつもは魁世への皮肉を利かせる筈の藍は魁世の胸元で無言で頷き、そして縋るような、それでいて責めるような口調で言った。


「魁世が何とかしてよ、天才くんなんでしょ、慰めてよ。全部魁世のせいなんだから」


 何度目かになる涙を堪える藍は心身を揺する。


「どうせ局長?主任参謀?隊長?で忙しかったって云うんでしょ。それで明日になったら置き手紙で謝ってそれで済んだ気になるんでしょ」


 どうすればいいのだろう。そう魁世は本気で悩んだ。だが機転を利かせた何かは逆効果だとは分かっていた。



 魁世はこうした場合の対処はどうするべきか、脳裏に浮かんだのは実の父親だった。

 親父は何十畳もある広間に息子魁世を呼び出して謂った。


 “いいか、我が息子。我が一族は他者への不思議な引力を持ち、それで家門を栄達させてきた。何が謂いたいかというとな。袖をつかんできた女の腕は決して振り解くな、受け入れてやれ。それが我が家のどうしようも無い性なのだ。

 だからまあ、息子よ。母親が出て行ったのは半ば不可抗力のようなもので、我が一族の常識と今の世間の常識が嚙み合っていないだけだ”


 魁世は考える。ここで藍の背に腕を回すのが正解なのかと。


 いやダメだろ


 魁世は藍の肩を自然と、そしてしっかりと掴んで自分から離す。

 そして絞り出すように返した。


「今日はもう寝よう。今後のことはこれからゆっくり対処していけばいい」


 藍は赤らんだ目元で魁世をみつめて言った。


「ほんと、そういうところが本当(ほんっとう)に嫌い」


 魁世は無言で藍を見つめつつ、自室に戻ろうとした。藍は魁世の背中に声をかける。


「魁世」


「ん?」


「約束。魁世が皇帝でも何でもいいから、元の世界に私たちを戻して」


 魁世は振り返った。


「あぁ、約束する」


 藍は一切笑うことなく、それでいて声音は笑っているように言った。


「期待してる」

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