第八十一話 誤算Ⅰ
惟義と明可の部隊は事前で決めた通りにドラクル公軍の持つ、あるいは持っていた銃と弾を回収する。その数およそ二百丁、それらは惟義たちの南奧州への帰還後につつがなく工業部のあるケイヒン村や但木翠の技術部に送られた。もちろん銃の量産と運用が目的ではあるのだが、独占も目論んでいた。
魁世の思惑とは別に惟義率いる南奧州軍は決して略奪を認めず、軍内で民間人暴行等の行為を卑劣で下劣と断じ部隊長自ら処罰するようになっていた。それ故に、また死者への冒涜を嫌った惟義が最初は銃の回収を渋る。だが今後の戦いを有利にかつ早期に決着させることができるのならと思い、回収を急がせることとなった。
……
…
帝国本軍がドラクル公国首都に迫る日の前夜、昌斗と武瑠は公国首都のドラクル公国の居城に侵入していた。
昌斗は以前にも帝都の宮殿に侵入し最後まで姿を曝すことなく帰還している。だが魁世はその経験から昌斗に任せたのではない。単に潜入する術を会得しているだけでなく、不測の事態に対応でき、なおかつ群蒼会の今後を考えた最善手をとれるのは彼だと昌斗を信用しているからであった。
「昌斗ってさ、なんで群蒼会にいるの?」
昌斗に同行する武瑠は道すがら話しかける。
「別に気になるって程じゃないんだけどさあ、昌斗だったら単独でもこの世界で生きていけそうじゃん。どうしてかなーって」
「…。」
昌斗はいつもと変わらず無表情で黙ったままだが武瑠は関係ないように続ける。
「あーもしかしてクラスに好きな人がいるとか?けどそれは流石に…いや、ありえるかも。どう?この考察」
「……。」
「けどそうなると一体誰なのかってコト、うーん誰かなあ~」
武瑠は楽しそうであったが、おもむろに昌斗が口を開く。
「俺は弱い。だから群蒼会という互助会の中でしか生きられない。意思も弱く、誰かが導いてくれないと行動できない。それが理由だ」
「なんかさあ…まあいいや。ふーん」
会話がひと段落したところでドラクル公の居城に到着する。
ゴジョカイって何だろう……
……
…
昌斗は魁世からの頼みでドラクル公の残しているかもしれない異世界合同委員会に関する何かを探しに来ている。
もしかすると情報流出を恐れて委員会の手が伸びるかもしれない。戦うことも想定して欲しいと魁世は言っていた。
昌斗たちは居城への侵入に成功する。
「すごく広い城だなー。どこから探す?」
武瑠はひそひそと話しかける。
「…ドラクル公の執務室へ向かう」
居城は美麗さよりも機能性を重視した造りになっており、応接間といった儀礼的な部分は極力小さく、兵舎といった軍事的な部分にスペースを大きくとってあった。
「そこだけ?こんなに広いお城なのに?」
武瑠は普段の声量で話してしまう。
「まー魁世もダメ元でボクらを向かわせたんだからテキトーに探して帰るのもアリだね」
ドラクル公が率いていた国がどういった性質をもった国だったのか、それが視覚的に分かる城の中を昌斗たちは進む。
昌斗たちは城の奥、一つの塔として独立しているドラクル公執務室に扉を開けて入る。
「失礼しまぁーす」
武瑠は挨拶をしながら部屋の棚や引き出しを片端から開けては中身を出し始めた。
昌斗はそれを一つ一つ関係あるものなのか確認し元の場所に丁寧かつ迅速に戻していく。
「うーん、無い!それっぽい物が何も無いっ!」
武瑠は昌斗と違ってこの世界の言語を習得していない。当然、書物の文字が読めない。
「昌斗ーなんか見つけた?」
能面は答えない。
手詰まりに思われたが部屋に変化が起きる。昌斗たちが入ってきた扉とは別の扉が開かれる。
そこに立っていたのは寝間着の少女。
「お父様?帰ってきたのですか?」
昌斗はこの城に来るまでに調べたことを思い出す。ドラクル公が正妻との間にできた子供は一人であり娘であると。
「ん…?だれですか…」
宵であっても目の前の二人が父親では無いことは分かったようである。
「おにいさん達は、いいひと?わるいひと?」
まだドラクル公が戦死したことは伝わっていないのか。昌斗はそんなことを思った。
「えっとね、おにいさんはお父さんに頼まれてココに来たんだ」
武瑠はのたまう。
「え⁈それってわたしの遊び相手になってくれるってことですねっ!」
少女は武瑠の予想以上の食いつきと答えをみせる。
「そうそう。そうなんだよー」
武瑠はそのままに昌斗は探すのを再開した。
「わたしの名前はユーイと申します。おにいちゃんは?」
「ボク?ボクは武瑠だよ」
ユーイは板のような何かを持ってくる。
「人生ゲームってゲームをしましょう?お父様がつくってくれたの。お父様はお忙しくて一緒に遊んだことは無くて、ルールもよく分からないけれど」
「知ってる知ってる。ボクがルール知ってるから一緒に遊ぼう!」
賽を投げては駒を進めて小一時間経ち、武瑠は後ろで作業を続ける昌斗を振り返って見る。
「昌斗―。そろそろ帰る?」
「…。」
返事もしない昌斗に若干の不満を覚えつつも武瑠は再び賽を投げようとする。だが正面のユーイの向こうから妙齢の女性が現れて投げるのを止める。武瑠と昌斗はその女性とユーイの顔と見比べてその女性が母親でありドラクル公の妻であることが分かった。
「あなた方はこの国の者ではありませんね。名を名乗りなさい」
昌斗は答える。
「帝国軍の新田昌斗。ドラクル公の重要な何かを探しに来た、教えて頂けるとありがたい」
するとユーイが割り込んで言った。
「お母様、この二人はわるい人ではありません。だから“あれ”を見せてあげてもいいと思います」
ユーイからお母様と呼ばれた女性、公妃は柔和な笑みを浮かべる。
「そうですか、あなた達は娘の遊び相手になってくれたのですね。いいでしょう、こちらに来て下さい」
公妃は歩き出す。昌斗と武瑠、そしてニーナは後に続く。
「公は…夫は死んだのですね」
武瑠がなんと言って切り抜けるか考えていたが昌斗が即答した。
「われわれ帝国軍との戦いでこちらの総大将と主任参謀との戦闘によって戦死しました」
公妃は一度歩みを止め、また歩きだした。




