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群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第三章 龍公討伐

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第六十四話 ランカの戦いⅡ

 魁世と直の軍は鬼人の領域に侵入する。


「はーっはっはっはぁ!悪逆非道な人間の軍がやって来たぞぉ!」


「なにを叫んでいる貴様」


「簡単な話さ、脅威を煽れば煽るほど気を引くだろ」


「先日は関係に支障が出るなどと抜かしていた貴様の言葉とは思えんな」


 青菱隊二千と保安隊一千は一路、鬼人の本拠地へ向かう。進路も基本は帝都から続く一本道を進むだけであり、途中で鬼人の集落に度々遭遇したが「我々は本拠地を攻めるつもりだから安心してくれ」とわざわざ言い、片手に武器を持って食糧等の“借用”と水の補給を求めた。

 こうして進んでいると、鬼人の本拠地にして実質的な首都であるランカという都市が目前に迫る。

 また青菱隊の長距離偵察隊より、鬼人の軍がランカの地に集結しつつあると情報が入る。だが反転したのは侵攻軍のおよそ半分、五千の兵であり、未だ黒耳長人への攻撃は止んでいないことも興壱から連絡が入っていた。


「これで目標の半分は達成されたと言っていい。けれどこのまま帰ったら後ろから攻撃されかねない。だからここは一戦して黒耳長人への攻撃能力を奪うくらいには勝利する必要がある」


「それに関しては貴様の言う通りだが、攻撃能力を奪うだけでは不十分にも程がある」


 直は群蒼会の中でも明確に変わった人物の一人である。部活の主将をやっていた時の直はもういない。もしかすると今の直は昔から深層心理の中にいたのかもしれない。魁世には知りようがなく知る気も無かったが。


「じゃあ折角だし直の戦術、見せてくれよ」


 …


 ランカの地は歴代の鬼人の総氏族長の住まう歴史的な場所だったが、帝都ほどの発展はせず、あくまでも政治的な中心地という程度の都市規模であった。それは鬼人が歴史的に商業を奨励せず、種族全体があくまで農牧業で生計をたててきた歴史が元となる。

 ランカの地に大急ぎで帰還した鬼人の将軍は、現在の状況に苛立ちを覚えていた。

 元々の方針は黒耳長人を自分たちに完全屈服させることであり、それは異種族連合の盟主の立場を失いつつある白耳長人に代わり自分たち鬼人が盟主種族になるための大きな布石となる予定だった。

 苛立つ理由は予定の大幅変更を余儀なくされたことだけでは無い。人間の軍が小規模な攻撃をしては、すぐに反撃する前に引いていくという“腹の立つ”行為を繰り返しているからである。


 …


 直が青菱隊から選りすぐった騎馬隊を率いてランカに侵入、駐屯している鬼人の軍が現れれば即座に即行で撤退、これをいくつかの地点で続ける。


「明日は貴様の部隊にも参加してもらう。脱走兵に気を付けることだな」


「えぇ…そんなに激しい戦いになるのか」


 否定形を口にしながらも、魁世には余裕が纏っていた。


「そうでもない。貴様らはただ物陰に隠れて、相手が現れれば訓練通りに攻撃すればいい」


 直の考えた戦法は、敵軍を挑発して相手が出てくればすぐに退却を繰り返し、敵が業を煮やして出てきたところで奥に誘い込み、伏兵で討つという文章にすると至って単純な戦術である。

 だがこれには挑発し、タイミングよく撤退することのでき、尚且つ犠牲を顧みない囮部隊とそれを指揮できる者が不可欠である。また絶好の伏兵ポイントも必要であった。


 鬼人の将軍は連日の人間の軍による嫌がらせのような小規模戦闘に歯ぎしりが止まらなかった。その将軍は就任したばかりであり、今回が初陣である。

 何故そんな者がランカの地の防衛の軍の指揮官に任されたと言えば、その将軍は現在黒耳長人の領域への攻勢を指揮する総氏族長の子供であり、魁世の囲魏救趙の計、つまり単に注意を引かせたいだけという意図をなんとなく見抜いていた総氏族長がランカの地防衛は易いと判断し、その任に子を就かせることで易く経験を積ませたいからであった。

 そんな若き将軍であったが、唐突に歯ぎしりを止めて天啓を得たような顔になる。


「そうだ!ここは敢えて人間共の誘いに乗ろう。挑発という姑息な手を使ってくるということは人間の軍は大軍では無いという証であり、きっと我ら鬼人の疲労を狙っていたのだろう、防衛側が攻めてくることを想定していないに違いない。だがそうはさせん!本気になって打って出れば、奴ら人間共の出鼻を挫くことができよう。全軍でこれに当たれば必ず勝てる!」


 そう宣言した矢先にまた人間の軍が少数で攻めてきたと伝令が届く。


「全軍!(つの)も生やせない人間に鬼人の鉄槌を下してやるぞ!我に続けえ!」


 若き鬼人の将は感情のままに号令を出した。


 青菱の騎馬隊に釣られた鬼人の軍が魁世たち保安隊の伏せている地点にまで誘い込まれる。

 直はランカ周辺での幾度の小規模戦闘の中で兵を隠すのに最適な地点を探し出しており、その地点に魁世は保安隊を率いて直の残りの青菱隊と挟撃できる形で配されていた。

 魁世は分かりやすく土煙を上げてこちらに駆けてくる直とその部下たち、彼らを追いかける鬼人の軍を肉眼で確認する。


「直もなかなかやるな。僕らも負けていられない」


 ここまでは事前に直の言っていた通りに事が進んでおり、魁世はここまで上手くいくのかと驚嘆した。だが直ならこのくらいはやるだろうと納得もした。


「これが僕ら保安隊最初の戦いだ。一人の勇者より、千の凡人の組織が勝ることを世界に知らしめよう」


 鬼人の軍は直を追ってきたところで突如現れた保安隊の伏兵に遭う。

 この戦いで鬼人の若き将軍はランカの地防衛の五千の兵を率いていた。これは魁世と直の三千に勝っており、人間の軍が少ないであろうという推測は正しかった。だが少数の兵で挟撃しようという直たちの思考までは思いつかなかった。直の騎馬隊を急ぎ追いかけていたことで斥候を出すこともできずに敵の情報が不足していた。

 こうして若き将軍と以下五千の鬼人は、人間は自分たちよりも多数の兵でやってきていて、まんまとおびき出された自分たちは今にもその大兵力にすり潰されつつあると判断してしまった。


 鬼人の軍は半ば自然に本拠地ランカの地への敗走を開始する。

 だがここにきて一旦引き上げていた筈の直が騎馬隊を率いて敗走する鬼人の軍に追撃を仕掛けてきた。今度は鬼人が追われる側となったのである。

 戦闘隊長としての直は、戦力の損耗は戦闘中よりも撤退中が最も大きいことを経験で理解していた。そこに彼の性格も相まって追撃は苛烈を極める。

 軍隊には殿軍(しんがり)という最後尾で撤退する味方を守るという非常に危険な任務を帯びる役割が存在する。ところが、急いで追い駆け、現在逆に追いかけ回されている鬼人の軍にはそれさえも無かった。

 だがそれでも鬼人の若き将軍は責任を取るためか、罪滅ぼしか、はたまた支配者としての義務感か自主的に敗走する自軍の最後尾になって直の追撃を受け止めようとする。

 だが時すでに遅く最早しんがりに足る兵も残ってはいなかった。疲労で落馬した若き将軍は青菱隊によって捕らえられる。

 

 縄にかけられ座らされている鬼人を前にして魁世は直に耳打ちした。


「まさか女性の将軍とは知らなかったよ。捕まえた直に権利はあるけれど、どうする?」


 直は武器も取られて抵抗不可能になっても闘争本能剥きだしの鬼人の女将軍、シィーリン・オガノルの活かし方を考えていた。

 とりあえず直は手でシィーリンの両頬あたりを掴んで「うぐっ…!」とシィーリンが呻いたのを尻目に言い放つ。


「先に言っておくと俺たちは貴様ら自体に興味があって攻めてきたわけでは無い。今貴様らの種族が行っている黒耳長人への侵攻をやめさせるためだ」


 シィーリンは驚いているように見えた。総氏族長が魁世の囲魏救趙の計をなんとなく気付いてはいたものの、娘には憶測を話すわけにはいかないと伝えていなかったのである。直はおかまい無しに続ける。


「なんでそんなことをするのか気になるか?それは貴様らにこれ以上拡大されては困るからだ。だから逆に黒耳長人が貴様らの領域に攻めてくれば俺たちは黒耳長人の領域へ侵入し、拡大を防ぐ」


 魁世は直が群蒼会と黒耳長人の秘密同盟を知られたくないための嘘をついているのが分かった。とはいえそれは一見筋が通っているように見えて無理な話ではないかと思えたが、一々訂正はしない。


「そこでだ。貴様には黒耳長人の領域への侵攻をやめてもらうための交渉材料になってもらう」


 直は突然、背後、魁世の方からキュピーン!という効果音が聞こえたような気がした。


「そうだ!シィーリンさん、だったかな、一筆書いて欲しいものがあるんだ。いいかな?」


 魁世は我が意を得たような顔で言う。直は今度の魁世はどんな悪巧みをしでかす気なのかと訝しんだ。


 直はシィーリンを交渉材料と言ったものの特になにもせず、生きていることと少しの間預かると拠地ランカの鬼人に伝えた。

 すると、戦いの顛末と娘の状態を知った鬼人の軍はランカの地へ急ぎ帰還してくる。鬼人の軍が帰還する、すなわち黒耳長人の領域から撤退するのが分かると、魁世と直は余りにもあっさりとシィーリンを解放し、軍と一緒に南奧州に戻っていった。

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