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群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第三章 龍公討伐

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第六十二話 本多直

 南奧州軍青菱隊の駐屯地はスルガ王国との国境付近にある。戦災で廃棄されることとなった村を丸々兵舎として活用し、周囲を堀で囲い、四方に砦が築かれていた。

 三年で兵力を三倍にするという南奧軍の方針によって、古参の下士官に率いられた新兵の初任務が国境警備ではなく自分たちの兵舎建設であることが常態化するほどには順調にかつ急速に兵士の数は増えていった。


 だが兵士の増加は食糧といった物資の備蓄に不安を発生させ、魁世の軍務局による州都からの補給が兵数に対して足りなくなってきた。そこで隊長の本多直は廃村によって放棄されていた農園を使って自給自足を食料の生産を命じ、また荒地の開拓を始めていた。屯田兵のような側面を青菱隊は持ち始めていた。

 これは兵力増強で軍務局の補給能力も強化しつづけていたが、想定以上の志願兵の多さによって補給能力の強化よりも兵力増加が勝ってしまったことが主な理由だった。それでも魁世の努力によって必要最低限の補給を滞りなく行っていたのだが、直の魁世の力に依存したくないという心情が自給自足を推進させていった。


 副官の女性士官は直に収穫された根野菜を籠いっぱいに入れ、抱えたまま報告する。


「初の収穫でしたが、かなりの豊作です。来季の収穫はホンダ隊長も参加されてはどうです?」


 いつもは線の細そうな副官だったが、今回ばかりは笑みを溢す。


「久しぶりの“戦果”か。今日の報告はそれで終わりか?」


 直の問いに副官は居住まいを正し敬礼して何か言おうとする。だがその拍子に持っていた籠を床に落とし、盛大に中のとれたての野菜をぶちまける。両手で持っていた籠を急に片手で持ったのだから当然である。

 慌てて副官が落ちた野菜を拾い集めるが、今度は落ちた根野菜を踏んで転んでしまう。

 直は短く溜息をついて机のむこうの副官のもとに寄り、拾うのを手伝う。


「うぅ、すみません」


「このまま聞くが今日の俺の予定は何だ」


 それを聞いて副官はポケットから手帳を取り出す。だが床でモノを拾う不安定な体勢で取り出したために今度は尻餅をついてしまう。

 副官は短く悲鳴を上げる。直はまた溜息をつく。

 そんな時、隊長室の扉が開く。

 現れたのは森明可、明可と同じく一つの部隊の隊長を任されており、直に用があってここへ来ていた。



「ここへ来る途中で農園を見たが、いいな、自給自足。我々の隊でもやってみようかな」


「是非やってみろ。農園の規模は自給自足にはまだ程遠いが、やる価値はある」


 直と明可は笑う。


「用はあれか。“北”の件か」


「方角は北だが“その件”では無い」


 “北”とは南奧州からみて北にあるドラクル公国と国主ドラクル、そして帝国貴族でありながら他国のドラクル公と内通している可能性高い北方辺境伯の事案を指す。

 副官が飲み物を持ってくる。


「ここから北北東の国、ウル・ハム国を攻めることになった。正確には帝国軍が主体となり、俺たちも属領南奧州軍として出兵し麾下に加わるよう下知が下った」


 明可は懐から簡易的な地図を取り出して卓上に広げる。


「帝都があるだろ。ここから真っ直ぐ北へ進むと存在するのがウル・ハム国だ。宮廷上層部は領土を欲しているようだ。しかも凄いぞ、(くだん)のドラクル公国との共同戦線だ」


「…何だと?」


「本当のところはどうなのかは俺も分からん。だから子細を惟義(ボス)が帝都まで伺いに行っている。どうやら近年の衰退著しいウル・ハム国を公国と折半しようと公国から打診があったようだ」


 直の前で明可はやれやれと言いたげに首を振る。


「さしずめ俺たちは皇帝陛下の使い走りというわけだ」


 直は意味ありげな微笑を浮かべる。決して美麗では無いが笑みであることに違いは無い。


「ほお、明可も一丁前に皮肉をのたまうようになったか」


「あまり好きでは無いがな。ちなみに用事はもう一つある」


「黒耳長人から援軍要請があった。隣の鬼人という種族が領域侵犯してきたらしい」


「ダークエルフ、我々に一個中隊規模を送ってきた同盟国、いや同盟種族のことか。一応秘密にされた同盟ではあるが、何があった」


「残念ながらこれも詳しいことは分からない。ただ彼女ら黒耳長人が言っていたことを鑑みるに、単なる定期的な領土紛争では無いらしい」


 直は訝しんだ。


「ほお、どういうことだ」


「この表現が正しいのかも分からないが人間以外のヒト型の種族の多くは定期的に糾合し、定期的に分裂して小競り合いを繰り返してきた歴史がある。要するにヒト以外の種族同士の戦いは、お互い“やり過ぎない”ようにしてきたってことだ。だが今回の小競り合いは妙に気合いが入っているらしい」

 明可は地図の二つの地点を指す。


「兎に角、今俺たちは北への帝国からの出兵命令と東の黒耳長人からの援軍要請という二つの課題をクリアしなければならない」


 明可は続ける。


「そこでだ。北と東、どちらかに俺と直お前が軍を率いて向かう」


 さてどっちがいいか?


「そうだな……帝国貴族の下につくのは御免だから俺が東に行く」


 こうして配置は決まった。

 ……

 …

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