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群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第二章 征途洋々

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第六十話 蒙昧

「——という事があったんだ」


 魁世は昨夜あったことを雨雪に話していた。

 店でばったりと出会ったドラクル公とのやり取りを雨雪は黙って聞いていたが、話が終わってから口を開く。


「まずは打毬の会のことを聞いておきたかったのだけれど、今の話のせいでその事が吹き飛んでしまったわ」


 執権の執務室にいるのは雨雪と魁世の二人だけ。雨雪は問う。


「このことは他の誰かは知っているの?」


「いいや、誰にも話してしない」


「つまり誰かが盗み聞きしている可能性は否めない。そういうことね」


 そうは言ったところで後の祭りだと、雨雪は冷めた頭で思った。ここでの話に留めて秘密にするのも手だが、後日のことを考えると賢明とは思えない。群蒼会がなんの為にできたのか、それを思えば当然だった。


「ともあれ早めに話せてよかった」


「どういうこと?」


「そりゃあ、僕が殺されるないし消失した時のことを考えての事だ」


 雨雪は自分でも顔が険しくなるのがわかった。


「言わないで、そういう事」


 彼女の言葉の端から情念の揺らぎを察知したものの、結局のところ魁世はどことなく官僚らしい、軍務局長という役職に適うような、答弁を読み上げる。


「僕は言霊を信じていない。万が一に備えておくためには言わざるを得ない」


「皆の為みたいなこと言わないでくれる?あなた結局は自分が一番なのに」


 そこまで言って返してくるとは予想しなかった魁世は、おもわず鼻白む。


「自分が一番ねぇ……もし僕がそうならこんな事はしていない。さっとどこかに消えているよ」


 雨雪は、彼女が黒曜石の瞳と謂われる由来となった、眼の鋭利さをより強くして、彼女らしくなく思ったことをそのまま口にしてしまった。


「そう、もし消えるなら早めにね。不確定要素は排除しておきたいから」


 雨雪はそこまで言ったところで沈黙した。

 魁世も黙る他ない。

 無音が執権執務室を支配する。時間としては数秒だったが、両者はそれぞれ時間が何万倍にも引き延ばされたように感じた。


「ごめん悪かった。変なこと言った。忘れて欲しい」


 こうして二人の会話は終了する。


 後日、群蒼会の全員に情報は共有された。

 異世界合同委員会という組織に服属しようという話は出ず、だが最終的な関係はどうしていくのかという事も結論が出なかった。

 かの組織に正面切って戦うには勝算は低い。だが相手に妥協することも彼らにはできなかった。

 本格的な対処は合同委員会が正式に接触してきてから始める。今は最悪(戦争)を想定して各々行動する。最終判断はまた後日ということになった。

 だが惟義をはじめとする武官連、男子たちは既に戦争を前提に準備行動を開始していた。

 そうして、彼らの行動は最悪にも実を結ぶことになる——。

 …

 これより少し前、群蒼会の内では異世界委員会という存在への対応を話し合う中で、魁世は表情一つ変えず、一切の躊躇なさそうに言った。


「確かに委員会は憂慮すべき諸問題を抱えて近づいてきた厄介な存在、とはいえ交渉の余地は残しておくべきと思うんだ。向こうはこの世界における“先輩”で、教えを請いにいく(てい)で行けばけっして不可能じゃない。現に僕はドラクルの先輩と面識を得た」


 これにいの一番に反応したのは武官連のひとり、本多直だった。


「魁世貴様どういう事だ。向こうは圧倒的に強い、生命の担保でさえままならない状況で交渉だと?ぬけぬけと何だ」


 武瑠と興壱もとくに考えず脳内で浮かんだ言葉を垂れ流しにヤジを飛ばす。


「そーだそーだ!」「腰抜けー!謀略屋ー!魁世ー!」


 ついには明可や吉川ナルが魁世の体調を心配しだす。それほどまでに魁世が和平を言い出すのは、群蒼会のメンバー達にとって有り得なかかった。


「魁世、どうしたんだ急に。腹を痛めたのか」「単純だ。どうせ変な草を食べたんだろ。それは良くない、こんど一緒においしい山菜を取りに行こう」


 その後も議論は続いたが結局、魁世は群蒼会を非戦の方向に持っていくことはできなかった。

 どうして彼があのような事を云いだしたのかといえば、魁世が非戦を望んでいたのではなく、群蒼会で穏健な方にいるメンバー達の為だった。

 話し合いが終わり、軍務局の職場に戻ろうとする魁世を呼び止めたのは文官連の女子ふたり。

 

 「魁世くん、その…」

  

 「ありがとう、って言って良いのかわかんないんだけどさ——」


 斎藤操と芹沢伊予はそうおずおずと謝意を伝えてきた。

 群蒼会で異世界合同委員会に対しとりあえず一戦交えて一定の安全と地位を確立しようという考えを、もちろん全員が同じくソレを思い至ったわけでは無い。文官連の彼女たちはその代表格だった。

 彼女たちははっきり言えば、元の世界からの性格からして、血気盛んな明可たちに反対の意見を確固たる理由と根拠をもって謂うことはできない。

 先ほどの魁世は、それを分かった上であえて彼女たちの意見を、自分なりに論を構築して代弁したのだった。


 「いやいや、僕は本心から交渉の余地は残しておいた方がいいと思っている。だからああ云ったんだ」


 そう笑ったところで、魁世は二人と少し距離を詰めまた声量を抑えて、今用意している事について述べた。


 「それと、これは重要な事でできればこの場の人以外には伝えないで欲しいんだが、僕は異世界委員会との戦いはここから一定以上の遠方の土地で戦うつもりだ。だからもし敗戦の報が伝わってきた時にはまだ逃げる猶予がある。雨雪たち後方にいる組を連れて、ささっと同盟種族の黒耳長人のところに逃げてくれ。いまその緊急マニュアルも作成している」


 魁世はそう言うだけ言って、風のように去っていった。彼女たちは顔を見合わせる。


「魁世くんは自分の大義と正解に疑問がないタイプだし…」「その彼があそこまで考慮するってことは、さっき言ってたドラクル公て、相当強いよね」


 であれば私たちは逃げることも臆することなく、今はただ職務に全うしようと決心する。

 戦場で血を流して戦ってくれている人がいて、銃後——後方にいる人がいる。命のやり取りをしないとしても、せめて後ろに立っている者として誠実であろうと思った。


 彼女たちの決意の有無や可否に関わらず、魁世や惟義、明可や直は、たとえ後方の伊予たちから戦場で人を殺める自分たちのことを非難、あるいは妨害してきたとしても、彼女ら銃後を必ず守る気であったが。

 執権本庁の廊下をやや早歩きしながら、魁世は独りでに呟いた。


「停滞させることで自己の安寧を図る、なんてかわいそうな先輩方だ。……異世界合同委員会、しっかり滅ぼしてあげよう」


 魁世には確信があった。一見論理性があるように見えて単なる傲慢で主観に過ぎるソレは、この世界を大きくかき回していく。

 第二章終わりです。続きます

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