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群蒼列伝~高校生二十三名は召喚された異世界で征服戦争を開始した~  作者: 大ミシマ
第二章 征途洋々

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第五十七話 魁星と龍公Ⅰ

 打毬の会が開催されていたほぼ同時刻、スルガ王国は帝国もとい南奧州との戦争で敗戦したことで帝国に払わなければならない賠償金、箱いっぱいに詰め込まれた金貨を運んでいた。

 物々しい護衛に守られた馬車はスルガから帝国の国境を越える前に一旦休憩に入る。

 そうして護送団は再び出発する。

 その一団を木々の奥から眺める影が三つ。


「案外アッサリだったね。もっと獲った方が良かったかな」


「あれ以上盗ったら重くて持ち帰れなくなるし、このくらいじゃない?」


「ふう~ん」


 三人は周囲に溶け込みやすい暗褐色の装束を身に着けていた。それはまるで創作で登場する(しのび)、忍者のような恰好だった。

 いや、三人の性別としては“くノ一”と呼ぶのが正しい。


「ポケットいっぱいに金貨を詰めるなんて初めてです!」


 ポケットから金貨を手の平いっぱいに持つのは桑名鶴夏。周囲からは小柄でよく可愛がられ、その理由のひとつである艶やかな長髪は暗めの服を着ていてもよく映えている。


「わたしはもっと獲ったよ。ほら」


 平群美美(へぐりめいめい)は懐から金塊を取り出す。彼女は暗めの装束を着ていてもその陽気は隠し切れていない。前の世界やっていた髪を染めることができないために所謂プリン頭になったことが、それさえもお洒落に見えるのは彼女の才能だった。


「あんまり出さないで。みっともないでしょ」


 そう言って(たしな)めるのは先ほども更に金を取ろうとした美美(めいめい)を窘めた八田藍。魁世から“こわい方の女子高生”と心の奥で呼ばれる女子である。

 数日前、藍たち三人は商務部のハイドリヒ天城華子にスルガ王国の賠償金護送の一団からできるだけ金品を盗んで持って帰ってくることを依頼された。

 報酬は手に入れた金品の半分、破格であった。

 だが特に鶴夏と美美の二人は単なる暇つぶしと好奇心に突き動かされことが理由であり、藍が最近得たもしくは気付いた“能力”で乗り切れると踏んで依頼を承諾したのだった。

 肝心な藍の能力だが、“気配を消す効果、またその効果を他人に付与する効果”である。色々と条件、特に付与する相手が多ければ多いほど気配が出てしまうといった点はあるが、今のところ勘づいた人物のいない強力な能力である。

 方法としては三人で気配を消して、護送の一団が止まるたびに僅かな時間で盗みに入るという聞く人によっては無鉄砲だと非難されるやり方であった。


「じゃあ帰ろっか」


 魁世はこのことを事後報告としてハイドリヒ華子から聞かされた。そして雨雪にはこのことを報告しなかった。じつは魁世が打毬の会に行く直前、魁世と藍たちの住む古屋敷の玄関で珍しく見送ってきた藍から「ちょっと遠出してくる」といったニュアンスでさらりと言われていた。

 後になって魁世は「そんな危ないことしただなんて分かるわけが無いじゃん」と口を滑らせたが、藍は「は?魁世は帝都での天才くんの行いに比べたらかわいいものでしょ?」と一番利く台詞を言い放った。むろん魁世がこの世界に来たばかりの時に藍たちを半ば拉致し、利用したことを指す。

 当然、魁世は言い返せなかった。

 …

 ……

 打毬の会の後、魅世はその足で帝都にある料理屋を訪れた。

 惟義たちは打毬の会の夜に予定された夕食会を断ってまで早急に本拠地の南奥州に帰還している。帝国に深く浸透していたドラクル公の魔の手への対策を講じるためだった。また打毬の会が終了して間もなくで会場の付近にいるだろうドラクル公との遭遇戦を避けるためであった。もっとも魁世としては“こんなこと”をしでかすドラクル公が遭遇戦を仕掛けてくるのかは甚だ疑問だったが。

 店名は“まんめん亭”、食べると満面の笑みになるほど美味しい料理とサービスを提供することをコンセプトにしている。

 じつは商務部のハイドリヒ華子が実験的に開店させた店らしく、いずれは全国展開を目指すのだという。


 華子に事前に言ったらオーナーの華子の間接的な上司の僕に気合いの入りすぎた料理を提供してくるだろうし、多忙な華子はおそらく無理して同行しようとするだろう。負担を掛けるわけにもいかないし、なにより平時の商品を食べてみたかったんだよね


「閉店ギリギリにすみません。一番人気を注文したいんだけど…」


「ああ、でしたらこのワフー・ハンバーグのことでしょうね。こちらになさいますか?」


「じゃあそれを」


 接客の女性の教育がよく行き届いていると感じた。壁や調度の色彩も暖色系で統一され、雰囲気も落ち着いている。それでいて外から客を呼び寄せる不思議な魅力が店内にはあり、打毬の会から急いで来た為に既に閉店間近の筈だが、まだ人がいた。

 そしてなによりも特徴的なのは女性店員の来ているユニフォームである。

 暖色系とは正反対の黒と白を基調とし、それでいて店の雰囲気とよくマッチしたシンプルながらも目を引く服装だった。

 コンセプトカフェ、メイド喫茶というよりも下町の少し前時代的な喫茶店を思わせるこの空間に、ここまでのレベルにまで店員を教育したところから店の準備や経営まで考えると魁世は改めて華子の商才を感じた。

 そんな魁世の目の前に黒い影が下りる。

 黒い影の主は魁世に話しかけてきた。


「相席よいか?」


「ちょっと、あの、お客様、他の方のご迷惑に——」


「いいや、このひとは僕の知人でして。問題ないですよ」


 すると女性店員は少し混乱しつつもその場を後にした。


「ええと、ドラクル公殿下?大公?なんとお呼びしたらいいですか」


「ドラクルでかまわん。きみの名前を伺おう」


 五大強国の一角、ドラクル公国を率いる大公そのひと。ドラクル・ヴァルト・ノヴァーナは、静かに、そして威厳豊かに対面の席へ腰を下ろした。

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