第五十五話 打毬の会Ⅴ
小休憩は終わり二ゲーム目が始まる。
「じゃあ攻めて攻めまくるぞ!!」
武瑠は一目散に駆け出した。攻勢はほどほどにしようと言ったそばからこれである。
「あー行っちゃった。仕方ないからオレも突ってくるわ」
琥太郎は一体なにが仕方ないのか分からず、止めに行こうとしたが既にフィールド中央ではボールの取り合いが始まってしまっていた。
武瑠はボールを取ろうとするが、直がスティックをボールにではなく武瑠の持つスティックにあてがってきたことで阻まれてしまう。
それを数回繰り返されては武瑠も黙っていられない。
「邪魔ばっかりしやがってよぉぉ」
直は口元に嘲笑をたたえて無視を決め込む。挑発である。
武瑠が直のスティックごとボールを取ろうかと思ったとき、直は唐突に横方向へボールを打つ。
「へへーん、さては手元が狂ったな!妨害ばっかしやってるから…あれ?」
関係の無い方向に打たれたかに見えたボールは明可の方へ向かっていく。
フォローに来ていた興壱は急ぎ明可の方向へ向かう。
武瑠も強引に手綱を引いてボールを追う。
それを待っていたかのように明可はボールを今度は魁世の元へ打つ。
苛立つ武瑠と不満顔の興壱はまたも方向を変える。
だがここで二人は互いの馬を激突させてしまう。なんとか落馬は避けられたものの、武瑠は蓄積していた怒りをここで小爆発させてしまう。
「おい興壱!邪魔だ!」
興壱は理不尽な武瑠の小爆発を「すまん」の一言で済ませようとする。今は試合中だったこともそうだが、まともに相手すべきでは無いと感じたための応対だった。
魁世はボールを保持して昌斗側のゴールに向かう。
昌斗も琥太郎もこれに相対するために進む。
魁世を昌斗たち四人が包囲せんとしたその時、魁世は急に馬を止める。
そしてスティックを前から振り上げた。するとスティックに当たったボールは魁世の後ろへ向かう。
そのボールは興壱と武瑠の間をすり抜け、惟義の前方あたりに届く。
惟義はそれを待っていたかのようにスティックを大きく振り上げる。惟義はゴールの前にいた、当然ゴール正面の延長線上には昌斗たちのゴールがある。
勢いよく後ろから振り下ろされたスティックはボールに衝突する。勢いを得たボールは速球となって真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ進む。
そうしてボールはゴールに吸い込まれるように入っていった。
その後、小爆発を繰り返す武瑠とそれに曝される興壱が本来の状態でないことは誰の目にも明らかだった。
こうして昌斗たちは得点を取られ続け、四対ゼロで二ゲーム目を終えた。
「何か言うことはある?」
皇女フラーレンに昌斗は何も言い返さなかった。言い訳をして火に油を注ぐことになることを避けるためではない。昌斗にとって言い分は無かったからである。
「あの二人がギクシャクしていたのは見れば分かるでしょ。なんで試合中に戻そうとしなかったの」
話を聞くとは思えない。仮にあの場で聞いても、二人の行動が良化するとは思えん
「まあこんな言っても詮方ないわね。次はどうするの?」
「攻勢をしかけます」
「ふーん、単純ね。」
武瑠はゲームが終わって我に返ったのか、琥太郎を通して興壱に謝った。
もしも武瑠に犬耳がついていたら今は垂れ下がっているのかな?興壱はそう感じた。
「ごめんなさい」
「まさか武瑠にごめんなさいって言われるなんてなあ。別に気にしてねーよ」
興壱はそう言って笑った。
三ゲーム目が始まる。
ゲーム中に興壱は宣言する。
「惟義は長距離でシュートさせた。じゃあクラス一の弓取りのオレができないわけ無いよなあぁ!!」
そうして興壱はフィールドの端からボールを投射する。すると美しい曲線を描いてゴールに入った。
ゲームは進み、昌斗側のゴールへ向けて明可が勢いよくボールを打った。
だが琥太郎に阻まれてしまった。
「や、やった…!」
琥太郎からパスされた昌斗はそのままボールを保持しつつゴール前に躍り出る。
そして通常と変わらない動作でボールを打つ。そしてあっさりとゴールの中を通過していった。
賓客用の観客席から見ていた皇女フラーレンはしたり顔になる。
「やるじゃない」
「フラーレンは元気ねー」
フラーレンの姉、第一皇女のメーリアは楽しそうな妹を見て微笑んだ。
三ゲーム目は三対二で皇女チームもとい昌斗たちに軍配が上がった。
明可は休んでいる魁世に話しかける。
「次で四ゲーム目、つまりこれで決まるな」
惟義もつづけて言った。
「初めは引き分け、次はこちらが勝って、その次は武瑠たちが勝った。次が試合全体の勝負と見ているのは武瑠たちも同じだろう」
水を飲んで一息ついてから魁世は口を開く。
「別に個々のゲーム結果に固執する必要は無いさ。ゲームルールとしては四ゲームの合計得点で勝敗が変わるんだから。な、直」
今までを合計すれば、惟義チーム七点、昌斗たちの皇女チームは四点である。
「貴様、まさか最後は相手に得点させず、かといって攻めもしない全く面白くない試合にするつもりでは無いだろうな」
魁世は直ならその意図が分かると思って呼んだつもりだったが、直は理解した上で否定してきたため、魁世としては三人に意思に沿うしかない。
「じゃあ最後もしっかり勝つか」
最後のゲームがスタートする。
七分間、ここで少なくとも三点は取らなければ負けてしまう昌斗たちだが、昌斗はいつもの能面で臨む。
先にボールを取ったのは武瑠だった。いつの間にか彼が先制点を獲る役目が試合の中で定着していた。
最後のゲームになって武瑠は駆る馬を自分の比較的小柄な体に合わせて小型の馬にした。
そういった調整は試合前にやっておくべきだったが、琥太郎のような場合は兎も角、騎手が小柄だからと言って安易に馬も大きさを合わせて良いのか最後まで分からず、前の世界から馬術にも精通している興壱が“結局はその馬と人の気分次第”と言ってのけたこと、軍の一指揮官として馬を操る明可たちと違い、その辺りの知見が昌斗たち四人には足りていなかったところも大きかった。
そうして論評する昌斗は今も半信半疑だった。
だが実践は雄弁だった。
「ふははっは!そんなにボクとお馬さんのお尻が好きなの?魁世!」
魁世は武瑠を追いかけるが並行することもできていなかった。
惟義たちも追い駆けるものの、なかなか捕まらない。
そのまま魁世たちを背にしてゴール目前に到達する。武瑠はスティックを振るった。
「一点先制!」
体格に合わせたのが良かったのか、はたまた興壱が言うところの騎手と馬の個々の相性が良かったのかは分からなかったが、興壱が絶好調であることは誰の目にも明らかだった。
このまま勢いで三点先制できれば。琥太郎の脳裏にそんな甘言が浮かんだ時、魁世は惟義たち三人に目で合図をしたように見えた。
武瑠が再度の攻勢に出るその時だった。
明可と直は先ほどと同じく武瑠に対峙する。だが様相は違った。
直は武瑠の後背に近づくが、当然並行になるには至らない。だが武瑠の横にいつの間にかピタリと明可がいた。
明可たちにとっては自チームのゴール防御となり、移動する距離は短くなる。対して武瑠は自馬に他との圧倒的性能差があるわけでは無いため追い駆ける相手を“まく”必要があり、必然的に走る距離は伸びてしまう。
その距離の差が明可たちに思考のできる時間を与えてしまう。つまり武瑠の行動を予想されてしまうことになる。
予想すればあとはどうするか?追い立てる直と予想経路の横合いから並行してくる明可の連携でフィールドから追い出すことができるようになる。
この打毬の会ではルールとしてフィールドから出てしまえば一旦止まらなければならなかった。まさに狼が羊を追い込んで狩る様に武瑠はその強みである俊足と身軽さを封殺されてしまった。
昌斗は自分たち皇女チームも同じことができるか思案するが一瞬でかぶりを振る。
それには事前の情報共有、即座の正確な判断力と思慮、十分な馬術、そして全員に全体を見る力が必要である。つまり四人全員に指揮官級の能力が必要だった。
惟義は属領軍管区司令官にして紫電隊隊長、明可は百足隊、直は青菱隊、魁世は軍務局と第三行政局をそれぞれ率いていた。
「最初から決していたか」
昌斗は右頬を歪めた。




