第五十話 貴種の務め
当たり前の話だが、今回の魁世たちが帝都を訪れた大元の目的は惟義の宮廷出仕の付き添いである。
惟義は今回の戦功によって少将から中将に昇進。それに陛下から今後も精励するようにとお褒めの言葉もいただいた。
彼本人は、お褒めの言葉は兎も角、昇進は評価されている証拠だと打算無しに喜んだ。
少将の惟義に準じて明可、直、魁世は少佐から中佐に、参謀長の透は中佐から大佐に昇進した。
宮廷で儀礼を終えた惟義はさっと帰ろうとするが、呼び止められた。
「シマヅ男爵、少しお時間よろしいかな?」
惟義を引き留めたのは第五次帝都包囲戦において多くの貴族が逃亡を図る中、公爵位の中で唯一帝都に留まり続けた人物。最終的に帝国に残っている公爵が彼だけになったことで現在では“公爵”と一般名詞のみで尊称される男である。
「……うむ!ではなくて、失礼、公爵様であらせられますか。どのような要件でしょうか」
惟義は自分の礼儀の無さを反省した。後悔は全くなかったが。
「近々、余と親しい貴族とその舎弟で各一族対抗の打毬の会を催そうと思っている。ささやかな会だが、皇帝陛下もいらっしゃる予定だ。男爵もどうか?」
惟義は脊髄反射的に返答した。
「はい!是非!あ、これは失礼、とにかく誘っていただきありがとうございます」
……
…
―属領南奧州軍司令本部―
惟義「ダキュウって何だ?」
明可「ダキュウって何だ」
直「野球のことではない事は確かだな」
興壱「ダキュウってなんだろな」
武瑠「しーらね」
琥太郎「ダキュウが何なのか調べてから返答するべきだったね…」
黙って事の顛末を聞いていた昌斗からすれば、惟義が打毬とは何なのかも知らずに参加を即答したことは確かに問題だが、宮廷から即行で帰ろうとした方が問題であった。貴族同士が親睦を深めることは“やるべきこと”であり、それが上流階級しか触れられない情報の収集や、無用の争いを避けることに繋がるからである。
魁世「打毬はポロと同じだよ」
惟義「——ポロって何だ?」
昌斗は惟義の素直に聞く姿勢は、知らないとこを隠すよりも余程マシと思ったが、今後のためにも貴族の作法は覚えてもらおうと思った。
「四人二チームに分かれて、馬に乗った状態でマレットっていうスティックで地面のボールを打つ。それが相手チームのゴールに入ったら得点が貰える。
要は馬に乗ってやるサッカーだ」
明可は聞いてみた。
「よく知っているな。もしかしてやったことがあるのか?」
「まあ、うん、少しな」
歯切れが悪そうだったが、惟義にとっては関係なかった。
「うむ、では男子全員で魁世を先生として今日から一週間、打毬の特訓だ!」
魁世は思わず聞き返す
「ちょっと待ってくれ、色々と言いたいことはあるが、まさか打毬の会は一週間後にあるのか⁈」
「うむ、そうだぞ。悪いな魁世、趣味の釣りはおあずけだ」
「んん、べつに僕は釣りがすごく好きとかそういうわけじゃないからな…特訓な、特訓。貴種の務めに付き添うよ」
こういうのもしないといけない。立場が立場であるのだから。嘆いても仕方がないので必要な道具を集め、魁世は自身の記憶だけを頼りに惟義たちに打毬を教える。
なお南奧州に滞在中の吸血姫エルジェベートも打毬の特訓に協力してくれた。どうやら彼女も打毬にはそれなりの経験があるようだった。姫、とつくだけのことはあるのだろう。
明可はエルジェベートの過去が益々気になったが、聞かないことにした。
……
…
一週間後、公爵の広大な庭地で打毬の会が開催される。
惟義たちは招かれたわけだが、貴族だけでなく庭園の外では民衆も見に来ていて見物客でごった返していた。敷地の外には出店もあり、さながら祭りの様相を呈していた。
「おい聞いてないぞ、なんで観客がいるんだ」
明可の愚痴に隣の直はフォローにもならないことを言った。
「“パンとサーカス”でいうところのサーカスの方なのだろうな。諦めて試合に専念しようじゃないか」
一週間の特訓の末、参加するのは惟義、明可、直、魁世の四人となった。ほかの男子も万が一の補欠そして庭園にいる。
今回はいわゆるトーナメント形式らしく、魁世の思惑としては出来れば一回戦は勝って、二回戦以降は負けることにしていた。特に公爵一族チームに当たったらたとえ一回戦でも即行敗北し、波風を立てないように考えた。
だがチームメンバーは群蒼会、その中の武官連中である。
そんな簡単にはいかなかった。




