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第二十二話 ドミトリーズ世界政府宇宙艦隊Ⅱ

 近江吾郎少佐と浅野マァーヤ准尉は帝都を走る。


 裏路地を通るために時間はかかるものの、近江達のこの世界から見て奇怪な服装を露呈して面倒ごとになるのは避けたかった。

 帝都にいる殆どの異界人は先程の屋敷で殺した。残りの異界人はは帝都帝城にて帝国の戦勝祝賀会ぬ参加している者と帝都の外で皇女二名を護衛する者だけ

 彼らには何の罪も無い。ただこの世界に連れてこられて、よりにもよってドミトリーズ世界政府の監視網に引っかかってしまった、それだけである

 しかも全員に“覚醒”の兆しありと来てしまったからには絶対に生かしておく訳にはいかない

 それはドミトリーズを潜在的脅威から守るため、将来の敵を取り除くため

 だが今回のきっかけをつくった大元、“特異点使用権限保持者”たる帝国皇帝を殺してはならない。それは万一のドミトリーズの希望たり得る可能性を否定できないから、可能性の種だけは残しておきたいから。

 先方からすれば憤慨ものだろう。自己本位も甚だしいと感じるだろう。だが小隊は仕事であるし、命令を下した上層部は自分達の共同体の保全のためにやっている。仕方ないことなのだ


「もうそろそろです少佐」


 走りながら浅野マァーヤ准尉が話しかけてくる。


「よし再度艦隊司令部へ通信しておけ」


 近江吾郎少佐のここ数日で何度目かの言葉に浅野マァーヤ准尉は躊躇う素振りを見せる。


「失礼ながら申し上げますが、余りにも距離が離れていてドミトリーズとの回線回復は不可能です」


「構わない。それでもやっておいてくれ、ドミトリーズの艦隊司令部のある方角に」


 かしこまりました

 浅野はそれ以上は言わなかった。

 今回の異界人は二十人以上もいる。はじめは多いと感じたが既に半数を屠った。この任務は自分の半生をかけて取り組むことになると思っていたが、案外早く終わりそうだ。


「しかし出席番号とは…」


 ご丁寧に番号を振っているのは僥倖だった、お陰で残りの異界人を把握しやすい。

 だが待てよ?


 彼らはいつ番号で呼び合った?

 監視を始めてから彼ら彼女らが名前を呼び合うことはあった、だが出席番号をどうやって調べた?


 ん…?

 出席?何に出席するんだ?

 そもそも何故二十三人で出席番号が終わることが分かった?


『あらぁ?気づいちゃった?』


 この声は、頭の中…?

 急速にぼんやりと滲みだす視界、帝都の喧騒も鳥の囀りも耳から遠のく。だが次第に別の映像が頭に流れてくる。

 それは今まで見ていた景色とは似て非なるもので、似ているのは場所があの千年城壁に囲われた帝都であること、違うことは開けた建物の屋上であること。


『けどちょっと遅かったですね、ごめんなさいだけどこっちも初めてのことだらけで余裕が無いの』


 近江吾郎はそのあくまで優しげに語りかけてくる声を半ば無視しつつ状況を確認する。武装に異常は見られない、感覚はいつも通り、体は訓練通りに動く、あとは…


「頭ふらふらさせながら歩いて来たのはなかなかコッケーだったぞ。森明可だ」


「青菱隊隊長、本多直。勿論死んでない」


「え?これ自己紹介しなといけないの?…えーっと乃神武瑠です」


 槍が一、長剣が一、短剣が一、此方は一人。

 人数は三対一とはいえ飛び道具を持つこちらが有利だろうか?いや相手は世界から世界を渡る過程で身体能力を強化された異界人であり、その上“覚醒”していれば此方に勝機はあるだろうか


 三人は散開し既に戦闘態勢に入っている。三人とも目線は近江少佐だが意識は近江が肩からさげる鉄包、自動小銃に向いている。恐らく彼ら三人ともソレが武器でありどのような使われ方なのか知っている、或いは本能的に理解したのだろう。今ソレに手をかければ彼ら三人は一斉に攻撃してくる。此方が銃を持ち構え、セーフティを解除し照準を合わせるまでに凡そ一秒半。今の間合いならそれまでに三人の誰かの斬撃なり槍撃が当たるだろう。彼らのあの構え、纏う殺気は戦場で荒削りながらもそこまでのレベルに到達している。


 そもそも彼らに銃が効くかもわからない。銃もしくはそれに類する物の存在を知っていながら無策に目の前に現れるだろうか?既に覚醒して得た力で洗脳までやってのける彼らに銃といった此方の武器の特性を無効化する何かしらの策があってこうして眼前に現れたのではないか?


 それに先程まで脳内を支配していた存在も気がかりだ。この状況下では発動条件を満たしていないのか先程の状態にはなっていない。だが戦闘にかまけてまたいつ洗脳状態になるか分からない。

 しかしいつから脳を侵されていたのだろうか、そんなに長くは無い筈だが騙されていた側がそれを理解するのは困難だろう。


 情報が足りない、ここは此方の情報を与えぬよう自裁すべきか?

 いや死ぬにはまだ早い、他の隊員はまだ何処かで戦っているかもしれない、既に殆どの目標を制圧済みかもしれない、健在な隊員が何処かに潜伏し命令を待ってるかもしれない。そんな簡単に降りる訳にはいかない。

 それに


「それにしても君たちは若いな」


「褒め言葉でいいのかなオッサンいやヘルメット男、さあ戦おう」


 近江の特徴を如実に表すあだ名を吐いたアキヨシと名乗った男の言葉はどの世界でも年長者を敬わない若輩者は存在することを教えてくれた。

 ここは敢えて同じ土俵の方が有利に働くかもしれない。

 近江吾郎少佐は太腿から汎用ナイフを取り出して構えた。


「へぇ、おじさんやるんだね」


 タケルと名乗る男はにやりと笑う。

 吾郎は流れるような動作で明可たちとの間合いを詰める。

 ……

 …

「あっぶなっ!」

 明可は自身の首を掻き切ろうとしたヘルメット男(明可命名)こと近江吾郎少佐のナイフを紙一重に躱わした。その時に思わず背中からバク宙する。咄嗟の行動で自身にバク宙ができたことに驚きつつ、思考を元に戻す。

 ヘルメット男は返す(ナイフ)で背後からにじり寄った武瑠に応戦する。武瑠の攻撃は防がれたかと思われたが、タケルはいつの間にかナイフを持つ方とは別の手に忍ばせていたきらりと光る一寸大の釘の様な針をヘルメット男めがけて腕ごと繰り出した。

 この攻撃はヘルメット男にとって難なく防げるものであった筈であった。

 だがヘルメット男はこの一瞬の攻防の中で槍持ちの男が攻撃して来ないことが頭の隅にあった。

 次くるのではないか?それともここぞのところで繰り出されるのか?

 ヘルメット男にとって“槍持ち”の相手はこれまで相対したことが無かった。訓練の中で棒術を習得したことはあっても実戦、しかも槍となれば話が変わってくる。

 ヘルメット男こと近江吾郎の頭は未知の脅威、槍に意識が向いていた。

 だからこそ、他の長剣や槍と違い大きさの点で目立たない針の存在に気付くのがコンマ数秒遅れた。

 そして元少年兵の過去を持つ武瑠がこの隙を逃すことはなく、

 一寸大の釘の様な針は近江吾郎の横腹に突き刺さり、肋骨の間を通って内臓部まで到達した。

 一旦距離を取る明可と武瑠。

 臓腑の痛みで一瞬よろけてしまったことが運の尽きであった。

 本多直はその刹那を待っていたかの様に槍の先を踏み込みよくヘルメット男の太腿へ突いた。

 槍は直たちの元の世界の日本であれ欧州であれ有効な武器のひとつである。それは接近戦、集団戦において刀や剣よりも特に有効であった。そうした槍の使い方として、安直に頭や胸、腹に突こうとするのは得策ではない。相手もそこが大事だと当然守り避けるからである。

 ではどこを狙うのか、ある程度狙いやすく、相手が軽視しがちで、出血多量を狙うために血管の多く集まった場所。太腿である。

 不幸なのはやはりヘルメット男こと近江吾郎少佐の世界そのものが槍の実戦訓練や槍術の研究を怠ったことだろう。だがそれも仕方ないかもしれない、なんせその世界では槍は前時代の代物なのだから。

 直は突いた槍をすかさず引き抜く、流れ出るてらてらと日に照らされる血液。

 横腹に刺さった針も含めて明らかに弱っている。

 明可も直も『倒せたか』『ああ、勝ったな』と思った。

 乃神武瑠は変わらず相手を注視する。

 窮鼠猫を噛むと古文の授業で習ったではないか、いやこれは武瑠の嫌というほど経験したことから来ているのかもしれない。

 三人とも再び戦闘態勢になったその時、ヘルメット男は徐にナイフを天につき上げる。

 投げナイフか?明可はそんなことを思ったが違った。

 ヘルメット男はナイフをごく自然に自身の首に差し込んだ。


 我々の目的は達成されそうにない、ここからは此方の情報をなるべく渡さないことに主眼をおくべきだろう。

 だがこれで良かったのだろうか、いやよかった

 きっと浅野やウルップ、出雲たちが作戦を遂行してくれる


 ナイフは深く差し込まれ、さっと抜き取られヘルメットの隙間からプシュっと液体が流れ出る。

 がっくりとして動かなくなったヘルメット男を見て明可と直はにじり寄った。

「…死んだんかな」


「死んだだろうな」

 そうして作戦の成功を伝えるために明可と直は魔法通信で連絡を試みる。武瑠はヘルメット男の処理を始める。

 明可と直は魔法に大した興味は無いが、必要上の理由からせめて魔法通信だけ覚えた。だが誰彼まで通信できるほど知識も練習も不足しているためクラス一の魔法使い高坂寧乃を中継して魔法通信を行っている。

 二人同時にやってくるあたり、寧乃の負担が増えることに違いは無い。

 三人の仕事はとりあえず終わった。後は他のクラスメイトの朗報を待つだけである。

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