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第百九十話 リベンジⅠ

 魁世が部屋で襲われたのと同様に武官連の部屋にも武装した襲撃者が現れた。

 だが襲撃者にとって不幸だったのは、相手は赤き驍将、青き魔将の二人で、他方で罪人大隊の悪辣大隊長、帝国一の弓取りを相手せねばならないことだった。


「チッ、こいつら誰の差し金だ」「俺たちは諸国の将軍や貴族のかなりの数を戦場で斬っているからな、いつ誰に命を狙われているかもわからん」


 森明可は年相応の悪態をつき、本多直は余裕そうに足元に転がる襲撃者十名の亡骸を睥睨する。

 他の興壱や武瑠に琥太郎も、似たり寄ったりに襲撃者を撃退していた。


「こいつら各々の装備は良いが統一されていない。まとめて雇われただけの連中だな、だが連携して攻撃してきた強者だった」


「黒幕はまだ分からないわけだが、だからどうこうという訳にもいくまい。とりあえず惟義と魁世に連絡をとろう」


 そうして明可は群蒼会一の魔法使い高坂寧乃お手製の魔法通信機器で通話を図る。


「……駄目だ、全く繋がらない」「どうやらかなり計画されたシロモノな様だ。相当多くの人間が動いているんだろう」


 少し考えて、直は異界召喚以来の愛槍を握り謂った。


「惟義は“ああ”謂っていたが、ここ敵地プラウハでの手際をみるに異世界委員会の、ヨシムラとかいう市民軍総指揮官の仕業だな。奴はここの出身だそうはないか」


 直の結論に、直はおもわず虫を噛んで飲み込んだような表情をする。


「…そうだよな」「どうした、明可」「いや、こうも簡単に和平が崩れるのかと思うと、な。惟義が不憫でならない」


 そう溢した明可に対して直は、珍しく皮肉で包んだ言葉を放つことはなかった。

 彼なりに無意識下で思い遣った末に、話題を現在のっぴきならない事柄に戻す。


「奴らが次に狙う、いや今同時に襲われているのは——」


 そこで直は声が出なくなった。


 朽木たちが危ない


 ここは本拠ナンオウ州では無い。足柄琥太郎の統率し育成した治安維持と警護のスペシャリストである警備部は無いし、明可や直も本当に僅かな供回りしか連れていない、更にいえばこの自由都市は安全地帯ではない、敵地である。


 …


 自分たちへの襲撃者を難なく撃退した明可と直は、急ぎ朽木たち群蒼会の女性陣の宿泊する屋敷へ奔る。他の襲撃者を撃退した群蒼会メンバーもプラウハの路地を疾走する。

 明可は群蒼会の女性メンバーを思い出す。

 文官連の朽木早紀に芹沢伊予や斎藤操、魔法使い高坂寧乃や、本人は研究者を名乗りたいがすっかり技術屋で名の通っている但木翠、なにやら魁世の元で諜報活動をしている八田藍や、美少女から美人へと変貌しつつある桑名鶴夏に平群美美、霧の軍師こと参謀長の宗方透、探検家で調査部の吉川ナル……ナンオウ商会会長、ナンオウ州第四局局長、白色金髪ハイドリヒ天城華子。

 最後の一人や諜報員の八田藍は兎も角、他の面々は戦闘能力を有していない。正確にいえば武官連の明可と直の求める基準に彼女らは達していなかった。


 朽木たちは今回の条約締結とその背後で行われる委員会との和議に出席するために、プラウハにある高層で美麗な屋敷に纏めて宿泊していた。

 名前は都市名そのままにプラウハ城。

 自由都市プラハの中でも高台にあって、壁は白い石造りに金赤色の屋根が麓の平民たちの住宅からもよく映え、城塞で大小の母屋が連結されていて、母屋によっては八階建て、城壁の中には見事な庭園が造成されている。復古再生様式と呼ばれる格式高い建築で“築城”されており、聖櫃帝国開闢期の五百年ほど前に建てられた“古城”であったが、これまで幾度の増改築を繰り返したことで城郭としての防衛機構は失われた。現在では“巨大な屋敷”としてプラウハ市民に都市のシンボル、あるいは景色として親しまれている。

 何十人もの使用人に衣食住をいつでも王侯貴族が滞在できるレベルまで維持され、外側は市議会の雇う衛兵に守られていた。朽木たち女性陣はプラウハ入り初日から人類世界で最上級の料理をフルコースで堪能したり、平和に庭園の花々を鑑賞したりしていた。


 この星幾つのホテルかと云われそうな屋敷、プラウハ城を朽木たちの宿泊場所として用意したのはプラウハが地元のヨシムラではなく、白百合王国の元帥フォーミュラ女伯で、「今後は互いに仲良くするのですから、いらっしゃる客人として格別の配慮をしますよ」といった具合だった。

 なおフォーミュラ女伯が群蒼会を客人といったのは、言葉通りだけでなく異世界委員会の領域に入るのだから客人という意味で、実は屋敷のところどころに異世界委員会が支配する国々の特産物や工芸品が配され、貴族らしい牽制が含まれていたのだが、白色金髪のハイドリヒ以外は全く気づかなかった。


 屋敷プラウハ城にこの夜、コガミが白百合王国の国庫から雇った暗殺者たちが放たれる。既に魁世のところでは戦闘が発生していて、魔法通信は繋がらなくなている。

 ハイドリヒは能力の眷属動物を介して、魁世からの「非常事態発生」と「襲撃者」の情報を得て、他の屋敷プラウハ城の面々に共有した。

 屋敷最奥の大会議室に宿泊していた群蒼会の全員が集合する。


「ええマジですかあ…」そう早紀は、どこかのヘラヘラ顔の保安軍司令官が移ったような溜息をついた後、透に意見を求める。


「透さん、なにか案とかあります?」「……かいせ達を置いてぜんりょくで逃げる、か、ぜんいん、がここに来るのを待つ、いじょう」


 早紀は自身の不甲斐なさに嫌悪した。ここで雨雪なら何かしら決断し実行できたのだろうが、自分にはそこまでの器も能力も無い。

 ここで異世界委員会の思惑や仕業であるか否かなど考えるだけ無駄だと諦観し、それでも生き残って次からはどうにかしないといけないだろう。


「ええと、とりあえずここで他の人たちを…惟義くん達を待つ、これで…どうかな」


 提案口調になった早紀に、意外な人物を助け船を出す。


「いま無策に此処を出て、馴れない土地で鬼ごっこは嫌だし、わたしは早紀の意見に賛成」


 藍に、同居人の美美も同意した。


「そうそう、ちょっと待ってたら魁世とかが来るっしょ」


 他も概ね賛同し、ここに籠って迎撃することになった。時間は無いができるだけの準備をはじめる。衛兵や使用人らには事情を話し、早紀は逃げて構わないと伝えたが衛兵たちはここを固守すると言ってくれて、早紀はそれを信用することにした。

 吉川ナルは美男子的な美しさを纏わせて気焔を吐く。


「籠城か、滾るな」


 いくら屋敷プラウハ城が築城当時よりも防衛能力が落ちたからとはいえ、城門があり砦があり、城の主を最後に守る場所もまだある。

 ここでまだ翠が直接構築した魔法通信ならまだ城内であれば使えるとわかり、連絡で使用する。


「じゃあ、おのおの、ゆだんはたいてき」


 透の作戦指示で群蒼会の女子メンバースは迎撃する。


 …


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