表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある世界の魔王様

作者: 黒魔道士



とある世界のとある国、エドガル王国。

そこには魔王と呼ばれる王様がいた。


魔王。

その名の通り魔を統べる王である。

鬼、竜、死儡、悪魔、リザードなどの人ならざる人『亜人』

その数多の亜人の上に立つ者であり、実力社会の亜人の中でも屈指の強さを持つ者の称号。

それが魔王。


そんな魔王は現在、


「全部却下だ、秘書よ」


「しかし、魔王様。

これで57回目のチェンジですよ。

流石に顔合わせくらいはしてもらわないと。

それに今回は顔すら見てないじゃないですか。

国中からの美女を集めているんですよ?

なにがそんなに気に入らないのですか?」


「なーに、どうせ親父殿がまた何か言っているんだろ?

早く孫の顔見せろ〜だの、なんだの」


「前王様が仰ってるのは…確かに…そうですが!

魔王様のご結婚はエドガル国民の総意なのです。

はやくお世継ぎを残して頂かないと」


「俺は、結婚なんてしたくない!」


駄々をこねていた。


そこにいる赤いマントを身に纏った白髪の青年。

彼こそ亜人の国、エドガルの王国であり。

つまりは、現代の魔王である。

若くして政権を父から譲り受け、実力、才能ともに満ち溢れた亜人の青年。

人生というものを何不自由となく育ち、壁という壁に当たったことがない彼にとうとうある壁が立ち塞がった。


それは、結婚である。


もちろん相手がいないとかそういうわけではない。

何度も言うように彼は魔王。

それはモテる。

モテてモテてモテまくる。

これ以上ないほどにモテる。


では、なぜ魔王は頑なに結婚を拒むのか?

それは、飽きである。

魔王という肩書きだけで蠅のように群がってくる者達。

女だけじゃない権力者や投資家、様々な思惑を持った亜人たちが一同に婚姻を迫ってくるそんな生活に。


「オイ、秘書」


「はい、何でしょうか魔王様」


「ところで、あの件どうなった?」


「あの件?

東地域の水没の件でしょうか?

それとも西地区の火山噴火…」


「いや、違う。人間の件だ」


「人間?」


「平和条約の話だ」


秘書と呼ばれた亜人の女性は手元のノートタブレットをその淡麗な人差し指でスイスイとすすめる。


「そうですね、決別したようです。

人間の王はこちらの提案を却下。

冷戦状態は今のまま変わりませんでしょう」


「ッチ…あの愚王め…。あれほどの好条件をはねるのか。

…そこまでしてこちらの領土が欲しいか」


「それに、どうやらかの王は『勇者』なるものを魔王城までけしかけて来ているようです」


「…勇者?」


聞き慣れない単語に魔王は耳を疑う。


「はい、勇者でございます」


「…なんなんだそれは?」


「勇者とは少数暗殺部隊のリーダーの肩書きですね。

一応、秘密裏の計画ということになってはいるようです。

あちらに送り込んだスパイからの情報です、はい、間違ってはいないかと」


「勇者…。

勇気のある者か…。

ふっ…なんだそのカッコつけた呼び方は。

敵国に孤軍を送り込む…ようは捨て駒じゃないか。

勇者ではなく鉄砲玉の方が合ってるな」


「しかし魔王様、勇者は女神の加護により個人でありながら一国ほどの力を持つとかなんとか」


「なに、女神だかなんだか知らないが、この俺が負けるはずはないだろう?」


「それは、そうですが…。

しかし、人間共が日に日に増長していってることは明確ですし、万が一ということもあります。

な…舐められてるんですよ魔王様は!

ここらで一つ我らが亜人の力を分からせてやらねば!」


「いやいやまてまて、落ち着け秘書よ早まるな。

それはダメだ。そんな事をしたら戦争になる。

戦争は悲劇しか生まん。

泣き飢えるのは罪のない民だ。

爺さんの時代のように争ってばかりの時代は終わった。

これからは知恵と平和と交渉の時代だ」


「魔王様も前王様も甘いのです…。

守備に徹せば、寝首をかかれるだけですよ…」


「なに、俺の寝首ならお前らが守ればいい。

俺の部下は有能揃い。そうだろ?」


「ま、魔王様…」


「フハハハッ」


魔王は少しだけ高笑いをした後に、顔を顰め思案する。


(しかし、勇者とな。

人の身でありながら一国を凌駕する力。

あの王の秘密兵器か…。

…少しばかり気にはなるな)


「秘書よ、その勇者というのはどんなヤツなんだ?」


「どんなヤツですか?」


「…いや、人となりを知っておきたくてな」


「なんのために?」


「俺を暗殺しに来るなら万が一、戦うことがあるやもしれんだろ?」


「確かに…分かりました…そういうことなら。

勇者には追尾ドローンをつけていますので。

魔王様が望むのならば今すぐにでも勇者なる者を映すことができますよ」


「そ、そうか…それは用意がいいな。

有能だとは言ったが、少し有能がすぎるぞ秘書よ。

コホン…まぁ…では頼むぞ」


ポチッと秘書がリモコンのボタンを押すと、鮮明なホログラムが魔王と秘書の前に現れる。


ホログラムが映し出したのは一人の女の姿だった。

長いブロンドの金髪に美しく透き通る碧眼。

腰には一刀の異彩を放つ長剣に小さめのポーチ。

年齢はまだ十代後半ほどであろう、少しの赤さを含んだ頬に柔らかそうなその身体。


その時である。

魔王に雷が落ちた。

それは1000年に一度と見れない空を割る巨大な雷。

魔王城の周りを漂っていた黒雲全てが一同に重なり魔王城の分厚い天井をぶち抜いて、魔王の頭へと雷を落としたのだ。


「ゴホッゴホッ…ま、魔王様!

魔王!!大丈夫ですか!?ご無事ですか!?」


凄まじい衝撃で吹き飛ばされ、二転三転した秘書。

秘書はインテリである。運動は苦手だった。

頭を打ち、膝や肘に打撲を受けながらもすぐさま秘書は起き上がると、大慌てで魔王の安否を確認する。

するのだがその位置から魔王の姿は見えない。舞う砂埃が秘書の目を遮るのだ。

しかし、少しずつ魔王の姿を覆っていた煙が晴れていく。


そこには、服が焼け焦げ。産まれたままの姿。

つまり、まる裸となった魔王が立っていた。


「なぁ、秘書よ」


しかしその魔王の表情には雷に打たれたのにも関わらず、一切の変化はない。

しかし、秘書だけは気づいていた。

幼少の頃より魔王と共に育ち。

そしていついかなる時も彼の横にいた秘書には魔王の表情がおかしなことにすぐに気づいていたのだ。


「俺、この娘と結婚したいと思う」



ーーー



「なりません!!」


「ヤダヤダヤダヤダ、嫌だ!」


魔王はまたも駄々をこねていた。

全裸のまま、落雷によって崩壊した玉座の間で玩具をねだる子供のように。


「尊い亜人の…!それもエドガル王家の血に!!

人間の汚らしい血を混ぜるなど絶対にあってはなりません!!」


「うるせぇ!俺が決めたんだ!

運命みたいなものを感じた!

なんかビビってきたんだよ!」


「それは雷が落ちたからです!魔王様!」


「ああ、そうだな…恋の雷が落ちた」


「しっかりしてください!落ちたのは本物の雷です!」


「なんだよ!

いつもは結婚しろしろってうっさいのに、いざ相手決めたらなりませんって!」


「人間以外なら止めません!」


「だあっー!頭の固い奴だな!

兎に角!俺は決めたから!」


魔王はパチンと指を鳴らす。

すると全裸だったその体は人間にとっては一般的な麻布の服を纏い。頭部の二本の角と背中に生えた漆黒の羽根は消滅し、格好だけならごく普通の人間ともいえるその姿に変容した。


「ま、魔王様…いったい何を?」


「んじゃ、とりあえず行ってくる。

秘書よ!あとのことはよろしく!」


魔王は秘書にそう言い、虚空に手をかざすと黒い輪のような紋様が広がる。

それは空間と空間を繋ぐ魔術で出来た不思議な扉。

その扉をくぐればあっという間に目的地に到着するという魔王御用達の禁魔術。

いわゆるど〇でもドア。


「ま、魔王様!!どこに行く気ですか!?」


「なに、ちょっと未来の妻をナンパしに行ってくるだけだ」


「ナンパって…仕事は!?亜人の王としての責務は!?」


「あ~もうそこらへんは秘書が適当にやっといてよ。

有能ならできるだろ?」


「言っておきますが!

有能って言っとけばなんでも許されるわけじゃありませんからね!」


「俺にはな、そんなことよりも今やるべきことがある。

んじゃ、てことでアデュー!」


「な、なりません!

魔王様!?ちょっと魔王様ぁぁぁ…!!」


薄れゆく秘書の声、魔王は去って行った。


「さてと、ここはどこか…」


その扉から出た魔王はキョロキョロと周りを見渡す。

探し人がいたのだ。

それはもちろん愛しの勇者である。


「勇者の場所は…。

ここら辺のハズなんだがな…」


魔王が現在いる場所は深い深い森の中であった。

周りには辛気臭い木々ばかりで、人の姿などはどこにも見当たらない。


(おかしい…秘書が勇者につけたドローンの魔力を探って移動したから、場所が間違っているハズはない)


魔王がそう首をかしげた矢先、


「きゃああああぁぁぁ!!!」


怪鳥のように甲高い悲鳴が魔王の耳に届いた。

魔王様、猛ダッシュである。

彼のその走った先に見えたのは、つい先程ホログラムで見たあの少女。

勇者であった。


勇者は剣を構え一体のスライムと対峙していた。


(あれ…?)


しかしおかしい。

魔王は疑問に思った。

それもそのはず、魔王は秘書から勇者とは一国をも凌駕する力を持つと聞いていたからである。

しかし、目の前の彼女はどうだ?

剣を構える格好はあまりにも不格好。

スライムといったら初級も初級である。

亜人の子供ですら小指で倒せてしまうほどのはっきりと言って雑魚だ。

そんなスライムを前にブルブルと脚を震わす勇者。

とてもではないが話に聞くほどの力を持っているとは思えなかった。もしかしたら武者震いというやつなのかと、少し遠巻きに草陰に隠れ勇者を観察する魔王だが。


「ってい!てやっ!!

…あっ…。

…また避けられちゃった…」


その勇者の様子は明らかに戦い慣れたものではなく、


(か、可愛らしい…)


「じゃなくて!」


子供の玩具のように剣を振るう彼女に魔王はとうとう我慢ができなくなってしまった。


「オイこら!」


茂みの奥から腕を組んで現れる魔王。


「きゃああ!!

え!?あなた誰ですか!?

いつからそこにいたんですか!?」


「ちょっとその剣貸してみろ」


「ええ!?だ、だからあなた誰なんですかって!?」


「いいからつべこべ言わず貸してみろって!」


魔王は驚きできょとんとした勇者から半ば無理やりその剣を奪いあげると。


「いいか?剣っていうのはな!こうやって振るうんだよ!」


一刀両断。

魔王は先程まで勇者が苦戦していたスライムをいとも簡単に切り裂いた。

それもそのはず、魔王にとって剣を振るうことなど幼少の頃から叩き込まれてきた当然のこと、呼吸をするようなものだ。


「す…凄い」


「ほら、向こうにもう一体いるだろ?

今のようにやってみろ」


魔王は勇者にその剣を返すと、茂みの奥にいるもう一体のスライムに指を差す。


「は…はい!

って、ていやっ!!…あっ…外した…」


「剣を振るう際に目を閉じるな。

敵が見えてないから外すんだ、もう一回。

次は目を開いてやってみろ」


「は…はい!!分かりました!」


「とりゃ!」


スパンと一刀両断。

とまではいかないが、その勇者の初々しい剣筋はスライムを見事に絶命させた。


「や…殺った!やりました!

私…初めてスライムを倒せました!」


「そうかそれは、良かったな!」


「はいっ!」


まぶしいまでの勇者の笑顔。

そして魔王の笑顔。

魔王はなんだかどうでもよくなってしまった。


(まぁ…いいじゃないか、勇者が弱くったって。

こんなにも可愛らしいのだから)


大事なことは勇者が強いことではなく、可愛いことだ。

可愛いは正義、世界をも救う。

魔王はそう思った。


「あの…」


「ん?なんだ?」


「ところで…あなたは誰なんでしょうか?

凄い剣の技で、コーチまでしてくれて…」


「ん?あー俺か?

ふっ…よく聞いてくれた。

我が名は第7代魔王、アレクサルドス・フォン・バーンナイト」


「え?魔王?」


「そう…魔王」


「…え?」


「魔王、亜人の王なの、あれ?言葉が通じるか?」


「…え…えっと?」


勇者は再びキョトンと、

何言っているのだこの人といった表情。


「ふむ…言葉は通じているが信じられないといったカンジか。

…ま、信じないなら信じないでそれでいいか」


「は…はぁ…?」


話についていけない勇者。

それを置いて魔王は話を続ける。


「さて勇者よ、頼みがある」


「た、頼みですか?」


「ああ、大事な頼みだ」


「な、なんでしょうか…?」


勇者は首を傾げる。


「俺の子を産んでほしい」


「え?」


「なんだ?聞こえなかったのか?」


「す、すいません…。聞き間違いでしょうか?

…ん?…え…?」


「だから俺の子を孕めと言っている」


「ええっ…!?」


「なんだダメか?」


「えっ…!いやっ…まぁ…。

はい…そうですね…。

ちょっとそれは、ダメかもしれないです」


「そうか…ダメ…か。

では参考までに、なぜダメかを教えてはくれないか?」


「そ、そうですね。

多分そういうところなんじゃないでしょうか?」


「そういうところ…?」


「はい…」


「うむ…そうか、乙女心とは難しいな。

拒否されてしまったのなら仕方がない。では出直そう」


スタスタと森の奥に戻っていく魔王。

冷静を装ってはいるが、魔王の内心は傷ついていた。魔王にとって、誰かに恋をしたことも、そして振られたことも初めての経験だったからだ。



ーーー



「秘書よ」


再び魔王城に戻った魔王。

その姿は悲壮感で溢れていた。

玉座の上で膝を抱え俯く一国の王がそこにはいた。


「はい、魔王様」


「俺はどうやら振られてしまったようだ」


「はい、ドローンを通じて全て見ておりました」


「そうか、なぁ秘書よ。いったい俺のどこが悪かったのだろうか…」


「魔王様。今から少しだけ強い言葉を使いますので、

ご無礼をお許し下さい」


「ああ、いいぞ…。無礼講だ…」


「魔王様は少しばかり距離を詰めすぎています。

それでは相手が困惑してしまうばかりです」


「距離を詰めすぎている?

別にそこまで近づいてはいなかったぞ」


「そうではありません。

距離といってもそれは心の距離です。

本来プロポーズとはもっと地道な段階を踏んでいくもの。

戦闘と同じで微妙な駆け引きがあるもの。

そしてそれを楽しむもの。

魔王様のあれは最低最悪です。

ゴミです。クズです。0点です。

剣で戦わず、いきなり敵地に核爆弾をぶん投げるようなものです」


「そ…そうか…?そんなにも酷かったか…?

じゃあ具体的にどうすればいい、俺のどこが悪かったのだ?」


「そうですね、では。

このわたくしめが魔王様に恋のレクチャーをいたしましょう!」


秘書はどこからかホワイトボードを持ってきて。

レディーススーツを見事に着こなし、支持棒を片手に眼鏡をくいっとあげる。


「まずここに、魔王様が勇者に振られた時のビデオがあります。ただいまからコレを一緒に見ていきましょう」


「おっ…おお…っ!

なんだか頼もしいぞ秘書よ!

しかし、気は進まないな…振られる自分を見るのは」


「つべこべ言わない!!勇者と結婚したいんでしょ!!」


「だ、だけどな…」


「返事は、はい!」


「はい!」


魔王は秘書とともに自分の振られた際の映像を見返す。

映像といってもいつものホログラム。


「魔王様、何か分かりましたか?振られた理由」


「俺の剣筋が悪かったからか?」


「違います」


「なら剣の教え方が悪かったか?」


「まったく違います」


コホンと秘書は大きく咳をつく。


「最初の出会いからから中盤までは良かったです。

流石我らが魔王。

そういわざるを得ないほど見事な恋のホップステップ。

しかし、問題はその後のジャンプ。

『俺の子を産んでほしい』ハイこれです。

高く飛びすぎて大気圏までふっ飛んで行ってしまってます」


「な、何がいけないんだ?そのまんまを伝えたぞ?」


「そのまんまを伝えすぎているのです!

ド直球過ぎなんです!魔王様は少々、いやかなり!欲望に忠実すぎます!先程も言った通り恋とは戦闘なのです!

いきなり自身の手の内を見せてはならないのです!

もっとこう柔らかく、オブラートに包んで…!」


「な、なるほど。

オブラートか、そうか…なんだか難しいな」


秘書は手元の指示棒を手の平に当てパチーンと一つ鳴らす。


「魔王様…。

恋愛とは相手を好きにさせるものなのですよ」


「好きに…させる…?」


「はい…!

魔王様はなぜ勇者と結婚したいとお思いになったのですか?」


「なぜって、それはなんかビビってきたから?」


「そう!それが恋愛の一歩なのです!」


「一歩…」


「魔王様は勇者のことが好きになったから結婚したいと思うようになったのですよね?」


「あ…ああ!

そうだな!確かにそうだ」


「それは相手側にだって同じことがいえるんです。

魔王様も見も知らぬ人間に急に結婚してくれって言われたら戸惑いますよね?拒否しますよね!そういうことなのです!」


「…なるほど…な。分かってきたぞ。

つまり、俺のことを好きにさせればいいんだな?」


「そういうことです!」


「しかしな、そうは言ってもな、秘書よ。

好きにさせるとは言われてもどうすればいい?

どうすれば勇者は俺のことを好きになるのだ?」


「魔王様、それは魅力です」


「魅力…?どういうことだ?詳しく話せ」


「魔王様はなぜ。

勇者のことが好きになったのですか?」


「だから…ビビってきたから…?」


「魔王様、それは魔王様が勇者の見た目に惚れたからです。

魔王様はあの勇者の可愛らしげな見た目という魅力に心惹かれたのです」


「…勇者を惹かれさせるような魅力。

その見た目なり、なんだりを手に入れればいいんだな?」


「はい、しかしそれについてはあまり考える必要はないでしょう。魔王様の魅力はすでに足りています。

高価な身分、そしてその愛くるしいご尊顔に知性。

これ以上ないほどに満ち足りております。

問題はそのアピール方法なのです」


「…アピール方法…?」


「はい。どれだけ良い食材も料理という工程を挟むことで完全になるように、口の中に運んで初めてその役目を全うするように、魔王様の溢れ出る魅力もとうの勇者に伝わらなければなんの意味がないのです」


「あー…えー。

俺の魅力、良いところをもっと勇者に知ってもらえればいいのだな?」


「はい、では魔王様。

少しばかり練習をしましょう。

私のことを勇者だと思ってご自身をアピールをしてみて下さい」


「ふむ、分かった」


魔王は玉座から立ち上がる。

両手を腰に当て、自身気に。


「我は第7代魔王!!

アレクサルドス・フォン…」


「はいストップ!

ストップ!ストップ!ストーーーップッ!!」


「なんだなんだ秘書よ…。

アピールしろって言ったのはお前じゃないか?」


「そうですね…確かにそうは言いましたが。

そうでした、もう一つありました。

魔王様、名前を名乗るのはバツです」


「な…なんだと…」


「正確には、魔王様が魔王様だと勇者にバレてはなりません」


「ちょ、ちょっと待て。

なぜだ秘書よ?正体を隠したまま結婚なんてできないぞ?」


「よく考えてみてください魔王様。

勇者の目的は魔王様の暗殺なのですよ?

そんな標的がいきなり目の前で求婚してきたら恋愛どころではございません。

正体なんぞ惚れさせて後からバラセばいいのです。

先ずは惚れさせる!あ、この人ちょっといいな?

そう思わせる!これが一番何より大事なことなのです!」


「う…うむ…?」


「魔王様、勇者と出会う時の魔王様ではございません!

そうですね…。オウマ君です。うん!これがいいでしょう!

これからはそう名乗ってください」


「お…オウマ…?」


「はい、ではどうぞ、続きから」


「こ…こんにちは、俺はオウマ」


「硬い、もっとカジュアルな感じで笑顔を絶やさない」


「そ、そうは言ってもな…」


「もう一回です、あとその窮屈な言葉遣いもやめましょう」


それから三日間ほどの月日が経った。

そこは落雷による崩壊が完全に修復された魔王城、玉座の間。秘書からみっちりと恋のイロハを叩き込まれた魔王は、


「フハッ!フハハハハハハハハハ!!

行けるッ!今度ばかりは行けるぞ秘書よ!」


自信に満ち溢れていた。

今の自分ならば確実に、いや確実とは言わないまでも8割ほどの確率で勇者を惚れさせることができる。

そんな成長感。以前よりも確実にステップアップしている。

魔王はそれを実感していた。


「ムラムラと燃えてきたぞ!」


「ムラムラせずにメラメラと燃えてください魔王様。

ですが、そうですね…。

魔王様がこの三日間で大きく変わったのは事実です。

もしかしたら、いけるかもしれません」


「うむ…!では、さっそく花嫁を貰いに行くとするか!

俺の雄姿をちゃんと見てろよ!秘書!」


「はい、いってらっしゃい!

頑張ってくださいね、魔王様!」


「おうよ!」



ーーー



「なんだここは…」


魔王が訪れたのは、廃れ切った村だった。

朽ちかけたボロボロの看板を見る魔王。

その看板にはでかでかとナル村と書かれている。


「ナル村…どうやら人の村のようだな。

しかし、それにしてはなんというか。

整備が行き届いていない。

廃村か…?」


魔王は勇者の生命力を辿ってワープしたはずだ。

それなのにそこに勇者はいなく、目の前には廃れた人間の村。でもなぜだろうか、どこか身震いを感じる。

この村には何かがあるとそう感じさせる。


「奥から勇者の微かな力を感じる…。…行ってみるか」


村に脚を踏み入れた魔王はゾッとした。

魔王が村の門をくぐった瞬間、まず初めに感じ取ったのは強烈な腐敗臭であった。卵を腐らせたようなそんな匂い。

そして次に、彼の瞳に映ったものは。


人間達だった。

いや、それを人間と呼ぶのは間違っているのだろう。

ヒトの身でありながらいくつもの瞳を持ち、服を破き飛び出す変形した何本もの腕。

とても人とは呼べない変態したその姿。

彼らには自我と呼べるようなものすらなく、魔王の姿を見るやいなや飢えた獣のように理解不能な謎の言語を発して手を伸ばすのだ。

その身体は柱とともに括りつけられた鎖に今もなお阻まれてはいるが。もし、その鎖がなかったらすぐにでも魔王へと襲い掛かってきたことだろうというのは容易に想像がついた。


魔王が啞然としていると、村の奥のほうから人の言語のようなものが微かに聞こえた。それは目の前のこの狂った人間達とは違い確かな知性を感じさせる。


魔王は走った。息を切らしながら走った。


「あ…」


その後ろ姿には見覚えがあった。

女は魔王が求めていた勇者であった。その勇者の前にいるのはまたも鎖で繋がれた一人の人間。

いや、人間だったはずのナニカな生物。


きっと男だった。元は若くてたくましい男だったのだろう。

だが今はどうだ。姿はいびつに変形し、目の前の勇者に向かってガシガシと今にも襲い掛かるように口を開く。

知性、品性、人としての尊厳全てがむごいほどに瓦解し、哀れみをも感じさせるその姿。

しかし、当の勇者は自前の慈愛に満ちた笑顔でその男を見つめている。


すべてがすべて、狂っている。

魔王はそう感じた。

この場、唯一の正常な思考ではそう感じざるをえなかった。


「お、おい…」


魔王は後ろから勇者に呼びかける。

勇者は振り返ると目を丸くした。


「あっ…!

…貴方はこの前の変な人…。どうしてここに?」


「変な人じゃない、オウマだ」


「オウマさん…あの、どうしてここに?」


「通りすがっただけだ。

それよりもこれは、なんだ…?」


「え…?」


「だからこの村の惨状は何だと聞いている」


「え…あっ…そうですね…。

…その。やっぱり気になりますか?」


「当たり前だろ」


「えーっと、そうですか。

…じゃあちょっとだけ長い話になりますけど聞きますか?」


「あ、ああ…構わない。是非聞かせてくれ」


ーーー



そこはこの村で唯一整備された家の中。

こんなにも夕闇と絶望に覆われているくせに、ランタンが灯す光は悔しいほど明るく暖かった。


「ごめんなさい、オウマさん。

こんな村ですから、もてなす物もなくて」


「いや、構わない。

それよりも…」


「お話ですね」


「ああ」


「この村は。ナル村は私の生まれ育った村なんです。

今はこんなんですけど、昔はすごく活気のあった村だったんですよ?」


「そう…だったようだな」


勇者は机に両腕をつくと、丁寧に話し始める。


「一年ほど前ですかね。

…もうそんなにも前の話になります。

初めは隣の家のおじいちゃんでした。

突然、村の子供の肩に嚙みついたんです。

あれは、大事件でした。

子供の肩は青く腫れちゃって、その噛んだ当人であるおじいちゃんは何やらおかしくなってしまった。

獣のように理性をなくして、ガチガチと奥歯を噛みしめながら人を見つけては襲い掛かるんです。

すぐに村の男が駆けつけて、入口付近の広場に鎖を使っておじいちゃんを括りつけました。

元々は心優しいおじいちゃんだったんですよ?

村のみんなからも愛されていて、尊敬されていて。

そんな彼が突然にも狂ってしまった。

その時は村の人たちは私も含めておじいちゃんのボケが始まったのだろうと、そこまで大事には思っていませんでした」


勇者の話はそれだけでは終わらない。


「次はその嚙まれた子供でした。

朝、丁度スズメが鳴くほどの時刻。

彼女はおじいちゃんを喰っていたんです。

鎖で繋がれ、無抵抗のおじいちゃん。

さぞ食べやすかったでしょう。


そこで、です。

何かがおかしいと。私たちはこの村にはナニカ、得体の知れないナニカが起きていると感じました。


私たちはとりあえず、その奇妙な狂いの現象を狂人病と名付けたんです。

そして、また次の日、村人三人が狂人病を発症しました。

誰にも嚙まれていないのに、死んだおじいちゃんと同じように他の村人を襲い始めたんです。

そして何より驚いたのがそう、昨日とらえたはずの少女です。人肉を喰らった影響でしょうか、首が長く伸び、目玉は蜘蛛のように増殖していました。

ただ事じゃないことは誰の目にも分かること。

すぐに村長さんが大きな会議を開きました。

議題はこれからどうするか、病気を発症した人たちを始末するか否か…」


「始末…」


魔王はゴクリと唾を飲む。

それはそうだ。

人ではなくなってしまった、それが人を襲うなら尚更のこと。


「どんな姿になろうと村の一員、殺すことなどできないという方針で固まりました。

そして、寝るときは皆必ず、手錠や自分自身を拘束し必ず動けない状態で寝ることに決まったのです。

理由はそう、変態した自身が他の人を襲わないように」


「村の人間すべてが狂ってしまうのに一週間もかかりませんでした。

最後、残ったのは私一人。

後は、皆、本当にみーんな狂っちゃったんです」


こんなむごい話をしているのにもかかわらず。

勇者のその顔に曇りは見えない。

それどころかその口角は上がっていた。

魔王は先程からそれが気になって仕方なかった。


「なぜ笑っているんだ?」


「え…?誰がですか?」


「お前だよ。

自分が育った村なのだろう?

こんなになって、なんで笑える?

悲しくはないのか?辛くはないのか?」


「…悲しいです。とても悲しいですよ…?

そんなの当り前じゃないですか」


「だったらなぜ…」


「たぶん悲しすぎるからだと思います」


「悲しすぎる?」


「はい…。

私、これでも結構幸せな女だったんです。

結婚したばかりで、人生これからって時だったのに」


「け…結婚…?もう結婚してたのか?」


「…入り口にいた彼。彼が私の旦那です。

今はあんなですけど、本当は優しい人なんですよ」


「彼…。

ああ…あの。そ…そうか…なんだ。

なんだよ。既に結婚していたのか…」


「はい…?」


「いや、な、何でもない気にしないで続けてくれ」


勇者は戸惑いながらも話を続けた。


「最初は泣きました。

時間がわからなくなるほど泣いて。

なんで自分だけが残されたのだろうと。

こんなにも苦しいのなら、私も狂ってしまいたかった、もういっそ死んでやろうかと。

そう思う毎日を過ごしていたんです。

でもある時ですかね不意に笑ってみたんです。

そしたらはっと気が晴れたんです。

人の体って単純ですよね…。

どんなに辛くても無理に笑えば楽になるんです」


「楽になる…。

そうか…済まなかったな」


「済まなかった?なにがでしょうか?

謝られるようなことはされていませんけど」


「いや、言葉だけ受け取ってくれればいい。

さて今の話で気になることがあった。

聞いていいか?まあ、ダメと言われても聞くんだが。

なぜお前だけは狂わなかったんだ?

お前も村の人間じゃないのか?」


「ああ。それですか。

自分で言うのもなんですけどね…。

私、変な人間なんです」


「変…?別に変ではないぞ。

普通の人間にしか見えないが?」


「私、生まれつき怪我しない人間なんです」


「ケガしない人間?」


「正確には怪我した瞬間に治ってしまうんです。

怪我だけじゃない昔から致死性の毒とかも効かないんです」


「ほう…?」

(不死身の人間か…?)


「王都の方々が言うには神様の加護ってやつらしいんですけどね。

感謝してますよ。

村の人から気持ち悪いと散々に蔑まれたこの力が、そのおかげで私は今立てている。

剣すら握ったことのない私が勇者になれたのだってこの力のおかげですから」


「そうか…では、

お前が勇者になった理由というのは?」


「この村への不干渉です。

私が勇者になることで、魔国の者と戦うことで。

村の人達は誰からも触れられないし触れさせない。

そう王と約束したんです」


「そうか、そうだったのか」


「だから全てが終わるまではこの村に帰ってこないつもりだったんです。

でも…いけないですね…。

気がついたらここにいました。

わたしは…わた…しは…本当にいけない…。

綺麗な…思い出ばかりが私をこの場に惹きつける。

もう…戻らないのに…それでも望んでしまう」


彼女は泣いていた。

涙は流していないけど、その声は確かに泣いていた。

魔王はそんな彼女を見るとそっと席を立つ。


「どこか、行くのですか?」


「…そろそろ行くとする。

俺は旅の…人間だからな」


「そうですか。でも、夜は危ないですよ。

魔物や盗賊だって活発になります。

こんな村ですけど、泊っていってもいいんですよ?」


「なに、人妻の家には泊まらんさ」


魔王はそう家のドアを開いた。



ーーー



「秘書よ、今の話を聞いていたか?」


ぷかぷかと浮ぶドローンに向けて話しかける魔王。

ドローンからは秘書の顔がホログラム状で映し出された。


「はい全て」


「この村の状態は…病気なんかじゃない。

呪いだ。それも人間をここまで強く変えてしまう酷く邪悪な呪い。魔術師の仕業だな。それもかなりの使い手だ」


「おっしゃる通りです、魔王様」


「お前に治せるか?ここの人達を」


「…申しあげにくいのですが。

魔王様の力でもできないのなら…。

私達配下ではどうする事もできないかと」


「そうか…」


「ですが、この呪いには見覚えがあります」


「あるのか!?ホントか秘書よ!?」


「ええ…。

幼いころにですが魔王城の文献で目にした記憶があります。

たしか…元々は100年前。

人魔戦争の折に使用された術だったはずです。

使用者は『マルク・ラインザッツ二世』

絶対術師ラインザッツと呼ばれ人魔共に恐れられた。

我らが亜人族の長い歴史の中でも屈指の術者だったと聞いています」


「ラインザッツ…?

ソイツが今回のこの事件の犯人だということだな?」


「ええ…。

歴代の魔術師の中でもこれほどまでの高度な術を扱えるのはかのアインザッツ卿のみかと。

しかし……」


「しかし、なんだ?秘書よ」


「ラインザッツ卿は、先王。

魔王様のお父様の時代に処刑されているはずなのです。

かの魔術師の腕は確かでしたが性格が醜悪で。

自身の魔術の研究のためならば無関係な人間、亜人、生き物の命を奪うことも厭わず。

いくつもの罪をその身に重ねたと聞いています」


「なら、誰がこの術を起こしたというのだ。

俺の目の前で起こるこの惨状は確かなものだぞ。

誰かが起こさねばこうはなるまい」


「…分かりません。

ただ、この呪いを解く方法があるとするならば…それは」


「術者を殺すか、術者自身に呪いを解かせるか…か」


「はい…」


魔王は顎を撫でる。


「ふむ…なら、そう難しいことでもないな」


魔王は土にそっとその手を乗せた。

秘書は魔王のその姿に少しばかりの不安を覚える。


「魔王様…まさか、

お一人で行く気ではありませんか?」


「当たり前だろう」


魔王には既に術者の居場所が分かっていた。

探知魔術零式。

魔王は自身の持ちうる探知術でも最上の術を扱った。

正体は分からない謎の術者。

だが既に居場所は割れている。

分からないのならば、知らないのならば。

直接この身で確かめに行けばいいだけだろうとそう思っていたのだ。


「なりませんっ!なりませんよ!魔王様!

一人でって、危険です!相手はかなりの使い手かもしれないんです!せめて四天王の一人や二人を連れていくべきです!」


「こんな用事に多忙を極める我が国の四天王を使わせるわけにはいかん」


「魔王様は王なんですよ!?貴方様より優先される事などございません!!少しはご自身の立場というものを…」


魔王はドローンをこぶしで殴り破壊した。

秘書の頭の固さを嫌というほど知っていたからだ。

説得しようものならそれこそ一ヶ月かかる。


「後で…めっちゃ怒られるだろうな…」


魔王はそんなことを考えながらも、羽を広げ宵闇を飛んだ。



ーーー



魔王はとある大地に降り立った。

それはナル村から遥か北西の腐敗した大地。

草木は枯れ、生き物は死に絶え、薄紫の瘴気が漂う死の世界。匂いが強く魔王の鼻孔を掠める。

強く尖った死の匂いだ。

それは、あの村のものと全く同じもの。


彼の前に穴が開いていた。

世界に針を刺した後かのように大地を穿つ巨大な穴。

底を覗くもあるのは深い深い暗闇だけ。

だがしかし、周りの瘴気たちは確かにこの巨大な穴から吹き出ている。


魔王は理解した。


「行くか」


穴の中にその身一つで飛び込む魔王。

覚悟はもう決まっていた。

魔王にだって恐怖心はもちろんある。魔王だって生きているのだ。未知なるものはもちろん怖い、戦いの前には震える。


だだそれよりも許せなかったのだ。

生き物の尊厳を踏みにじり、愛する人を泣かせたあの呪いの正体を。

その心は、暗闇の中を灯すほどに熱く燃えていた。

一筋の真っ赤な光が長き長き暗闇を縦に割いていく。

底に達するまではそう長く時間はかからなかった。


落ちた先、地の通路を進めばそこには扉があった。

それは、重々しく冷たい、鉄の扉。

隙間から、徐々に瘴気が漏れていく。

魔王は勢い良く扉を蹴り開けた。


この先には何かがいるとそう理解していたから。

開いた先は、ただ白い部屋だった。

そうとしか表せないほどに真っ白で何もなく。

たった一人の男が、その中心で座ってただじっとこちらを見つめて待っていた。


「待っていましたよ、七代目」


その男は魔王を知っていた。

だが、


「誰だ?お前」


魔王はその男を知らなかった。


シルクハットに濃い青の式服。

男性にしては高い声色に、透き通るような中性的な肌。

見た目は魔王と同じほどか。

いやそれ以上に若々しく、落ち着いた雰囲気を醸し出す。

しかし魔王には男のその姿は虚構であるものだと気づいていた。

男は魔王に不敵な笑みを一つこぼす。


「これはこれは。

ワタシとしたことが尊大なる魔王陛下にご失礼を。

ワタシの名はラインザッツ。

見ての通りしがない、魔術師でございます」


「ラインザッツ」


名前は秘書から聞いていた。絶対術師ラインザッツ。

話で聞く通り確かな力があるのだろう。

皮膚がひりつき汗が流れる。下腹部はガタガタと揺れ動き、カチカチと奥歯が鳴り身体全ての細胞が目の前の男に敵対を始めた。

ラインザッツはそんな魔王を見ると、


「怯えているのですか?」


そう挑発するように問いかけた。


「まさかな、鏡を見てから言え外道」


魔王も強い言葉で返す。

拳を交えない戦いがそこでは既に始まっていた。

ラインザッツはまたも笑う。今度は吐息を漏らしながら。


「ふふ。今世の魔王は年長者への態度がなってないようだ」


「なぜ生きている?ラインザッツ。

お前は100年前親父殿に処刑されたはずだ」


ラインザッツとは対象的に魔王の声はただ静か、そして乾いたような音だけが部屋に響く。


「おやおや、性急だね、君は。せっかくの人と話す機会なんだ。もっとゆっくり話そうよ」


「だからなぜ生きているかと聞いている。俺は気が短いんだ。質問にだけ答えろ」


「そうですね…。

7代目は不老不死というのをご存知でしょうか?」


「不老不死…?」


「ええ…無限の身体に、無限の時間。

そんな夢のような無限の命。

実にステキだとは思いませんか?」


「なにを言い出すことかと思えば…。くだらんことをグダグダと、そんなことを聞きに俺はこんな偏狭な場所にきたわけではない。

それとも、なんだ?

まさか、お前がその不老不死とでもいうのか?

だから処刑されても死ななかったと?」


「半分正解で半分不正解。

不老不死と…そこまでは言いませんよ。

ただ、今のワタシは限り無くそれに近い存在だということです。それでは、今よりご覧入れましょう」


ラインザッツは自らの腕を使い、自らの首を弾き飛ばした。

鮮血が吹き出し宙を舞うラインザッツの首。

しかしそれも束の間、ラインザッツの身体断面から飛び出たいくつもの触手のような血管が吹き飛んだラインザッツの首を抑え、ズルズルと身体に引き戻す。


それは魔王の目でも一瞬であったと思うことだろう。

今、確かにラインザッツは自らの手で自らの首を刎ねたのだ。

だか、彼は生きている。

刎ねた首は元通りにその場に立っている。


「悪趣味だなラインザッツ」


「これが、今のワタシです。

七代目?どうですか?無限の身体に無限の命。

さぞ羨ましくはありませんか?」


「羨ましいわけないだろうが。

それよりも…なぜ人を呪った?ラインザッツ」


「呪った?」


「心当たりが多すぎて分からないか?

人の村を呪っただろう。

ここから遠く離れた、ナル村という人の村だ」


「ああ、人間の村のことですか…。

そういえば、そうでしたね。

彼らにはちょっとした実験に付き合って貰ったのです。

ワタシの血にはどうやらワタシと同類つまりは眷属とでも言いましょうか、それを増やす力があるようでですね…。

試しに井戸に血を一滴落としただけなのですが。

で、どうなったんですか村の方々は?

成功しましたか?それとも人の形を保っていませんでしたか?ワタシとしたことが実験したことすら忘れていました。

興味深い内容です。今度再び足を運んでみましょうか」


…ラインザッツのその言葉は魔王の逆鱗に触れた。


「なあ、ラインザッツ。

今日は特にいい日だと思わないか?」


「…………いえ?

変わらない日常といっても差し支えのない日ですが」


「いや、いい日だよ。

間違いなく最高の日になる」


魔王が虚空から取り出したのは一刀の漆黒の剣。

剣先をラインザッツへ突きつける。


「だってお前みたいなクズがいなくなるんだから」



ーーー


戦いの火蓋を切ったのは魔王だった。

猪突猛進。

魔王はラインザッツの首へ目掛け剣を走らせる。青白い剣筋がラインザッツの首元を走ると、

ぼとり。

ラインザッツの首はいとも簡単にそれこそふがしを手で引き裂くほど容易く地に落ちた。


だが、


「あの、ワタシは不死身だと言いませんでしたか?」


ラインザッツは生きていた。

先程魔王に見せたように、その落ちた首は元の胴体へと移行する。不死身のラインザッツには魔王の攻撃は通用しない。

もちろん魔王だって今のが意味のない行為なことは分かっていた。だが、不老不死なんてものを信じきれなかったのも事実。何かのトリックである可能性もあった。

だからこそ、今一度自らの手でラインザッツの首を刎ねたのだ。


「…不死身なのは間違いないようだな」


魔王は対処法を考える。不死身の肉体を持つラインザッツ。

ソイツを殺す方法とは一体。


「7代目。確かにあなたはお強いようだ。

長い亜人族の歴史の中でも指折りの強者でしょう。

けれども、貴方は慢心した。兵の1人も連れずに来たことがそうだ。

貴方はその強さに自惚れたのです。

若すぎた、それゆえの無謀。

後悔の念を抱き、ここで命を落とすのです」


いく本もの触手血管が魔王へと伸びる。

膨張した血管。

だが肉だが鋼のように固いそれは易々と魔王の腹を貫いた。


「…ッ」


魔王の口から血が滴る。


「…勝負ありましたか」


ほくそ笑むラインザッツ。それは勝ちを確信した笑顔。

その触手を魔王は剣で断ち切った。

そして、自らに突き刺さったラインザッツの触手を引き抜く。

致命傷だ。

普通ならば。

しかし、魔王は普通ではない。亜人を総べる王たる者。

たかが腹を貫かれたくらいで死ぬほど柔ではなかった。


「…お前だけが不死身だと思うなよ?ラインザッツ」


魔王の空いた傷口は素早く塞がっていく。

そしてラインザッツが瞬きをした次の瞬間にはその傷口は、何もなかったかのように塞がっていた。


「ほう…」


ラインザッツは興味気にその様子を見る。


魔王は、吐息を吐いた。自身の不死身はラインザッツのものとは違う。自らの治癒力で、傷口を治しているだけだ。

だから攻撃を受け過ぎれば、回復が追いつかなくて死ぬ。

不死身とは言っても、そう見せかけただけの偽り。

つまりはただの人なのだ。

それでも、魔王がラインザッツの攻撃をわざと受けたのは、


「どんな気持ちだ?ラインザッツ?

お前が人生を懸けて得た不死身ってやつは、こうも簡単に再現できるぞ?」


それを伝える為だった。不死身なんて大したことはないぞと。そう、子供のようにラインザッツを煽りたかっただけである。


「…」


ラインザッツの笑みが消えた。

魔王の煽りが効いたのである。


「ならば次は試しにその首を切り落としてみましょうか」


ラインザッツは触手を刃物のように変形させ、そして魔王目掛け切り付ける。

さすがの魔王もそれは避けた。

魔王の不死身は首を切断されても生き返れるほどのものではなかったからだ。


「なぜ避けるのです?不死身ではないのですか?7代目?」


「なに、サービスタイムが終わっただけだ。

それとも止まっている敵じゃなきゃ当てられないのか?

ラインザッツ卿?」


「ッ…チ」


ラインザッツの舌打ち。

その様子からペースは明らかにこちらにあると踏む魔王。

ラインザッツの触手は増えた。

いく本も、いく本も増えていき、次第に20を超えた。


だが、それでもラインザッツの攻撃は魔王にかすりもしなかった。魔王はラインザッツの攻撃を交わしながらその白い部屋を出ると、穴の壁を蹴り上上へ上へと逃げていく。

まるでラインザッツをどこかへ誘うように。


ラインザッツは頭に血が登っていた。

切れていた。だから魔王の狙いというものを分かっていなかった。


そこは地上だった。

魔王が降り立った大穴の前。

ラインザッツは巣から引き摺り出された。


「はぁ…はぁ…。

っく、逃げてばかりですか?7代目?」


「…安心しろよ。

もう逃げるのはしまいだ」


魔王は虚空にその手を掲げる。

そこから取り出したのは一刀の剣。

炎に燃える刀身だった。


「わ…ワタシに攻撃は通用しませんよ」


「なに試してみようと思ってな。

この剣は今までと比べて徳が高い。

名はイフリート。

我ら王家に伝わる、13の神器その一振りだ。

ラインザッツ卿よ。

この剣を見れたことに誉に思え」


「…ッ」


ラインザッツの額に汗が滴る。

それは危機感の汗。

恐怖心の汗。


「ああ、そうだ。

攻撃を避けようとは考えない方がいい。

避けれないからな。

この剣は切ったという事象をつくりだす神器。

だから切るという行動はただの後ずけにしか過ぎない。

つまり、俺がこの剣に触れた瞬間にお前は死んでいるんだよ。


…さて、10秒数えようか。

何か最後に言い残すことはあるか?」


「…じ、神器がなんですか。

わ…ワタシは…ワタシは不死身です。

剣なんかでワタシを殺せる筈がない」


「それが最後の言葉か?」


「………」


「なら受けてみるがいい」


魔王は、念じる。


「覚醒せよーーーーーーイフリード」


炎上する剣。

その火柱はまるで地上から伸びた一つの塔のようで。

だかしかし、その根本にはたった一人の男がいた。


「さらばだ、ラインザッツ」


そして魔王は静かにその剣を振り下ろした。


炎上する大地。

あれから1時間も経つというのに、いまだにところどころが燃えていた。


「…不老不死ね」


魔王はラインザッツだった物を見る。

それは先程まで自身を不老不死だと言っていた男の焼け焦げた死体。


「俺も少々やりすぎたか」


魔王も少しだけ期待をしていたところはある。

もしかしたら本当に不老不死なのではないか。

人を超越した存在なのではないかと。

しかし、そうではなかった。

ラインザッツは今、ここで死んだのだ。


「幸運だったのは、ここが人の住まない。

いや、生き物すらいない地域だったことだ」


そう、


「そして不幸だったのは。

山を一つ消してしまった」


そこにはポッカリと何かに穿たれた燃えた山が出来たのであった。




ーーーーー



ナル村。

魔王はその村に戻って来た。

一仕事終えての、様子見というか、元凶であるラインザッツの死後どうなったかを見てみたかった。


「…砂か」


ナル村の手前。

以前に立ち寄った時には、狂った人間がぎゃあぎゃあと出迎えてくれたのだが。

その姿はもうない。いや、彼らはもう解放されたのだ。

不死の輪廻から。今生の迷いから。

彼らだったはずの砂。それだけが示していた。


「お、…オウマさん!!」


…?


声をかけられて魔王は振り返る。

そこには勇者の姿があった。


「ど、どうしましょう!!

みんなが!みんなが突然砂になってしまって!」


「…砂。勇者、それは本当に皆か…?」


「え?いや、アダル…私の夫以外は全員…」


「そうか、お前の夫はまだ呪われているのだな?」


コクリと勇者は頷く。

魔王は、歩き出した。その唯一残された者の元へ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいオウマさん!」


未だに。

魂は解放されたというのに呪れ続けた男がいた。

歯を剥き出し、幾つもの目が魔王を睨む。


「ガアッ!!!ガアッ!!!」


その化け物は今にも魔王に飛びかかろうとするが、腕だったものに取り付けられた鉄の装具がそれを許さない。


「なんだ、貴様、俺を喰いたいのか?」


「ガアッ!!!!ガアッ!!!ガアッ!!!!」


そこに知性なんてものは一つも感じさせない仕草。


「オ、オウマさん!危ないですよ!!」


後ろから勇者が魔王に言うが。

魔王は気にも留めなかった。


「なら、いいだろう。腕の一つくらいならやってやる」


ちょうど男の目の前、噛みやすい位置に腕を置く魔王。


「オウマさん!?」


勇者の驚きの声。

そして、その化け物は喰らいつく。魔王の右腕を容赦なく。

こだまする勇者の悲鳴。飛ぶ血飛沫。

けれども魔王は眉ひとつ動かさなかった。


「その程度か?」


「………」


「もっと本気でやれよ。

その程度じゃ、俺の腕を噛み切るなんてできないぞ」


それは他の誰でもない、化け物に対して問いかける魔王。


「………………」


「演技ならもういいだろう?大事な人が待っている」


「…………」


暫く続く、沈黙。

そして、


「バレていましたか」


その化け物は言った。

そこには先程までの獣のような行動は見られず。

しゃんと意思を持った姿があった。


「え…」


勇者は絶句する。

その勇者を置いて、話を続ける魔王。


「お前が勇者の夫だな?」


「はい。

それよりもまずは謝罪をさせて下さい。

演技のためとはいえ、貴方を傷つけてしまったことを。

そして貴方ほどの高貴な方の血を啜ってしまったことを」


「なに?俺の正体を知っているのか?」


「いえ、この身体になってからです。

人の内に宿る力を感じ取れるようになったのは。

貴方には特別な力がある、だからそう思ったのです」


「そうか、悪いと思っているのなら。

ただの市民で通してくれ。

俺は旅のオウマだ、それだけの存在でいたい」


「分かりました。

貴方がそう言うのならそうしましょう。

…僕はアダル。

しがないこの農村の生まれです」


「そうかアダルか。

では単刀直入に聞こう。

なぜ、狂った演技なんかを続けていた?」


「…妻を。

エリーサを僕から引き離す為です」


「…ほう、興味深いな、続けろ」


「初めは僕も村の他の人同様、意思のない化け物でした。

ですが、そんな僕に妻は自分の血を飲ませていました。

毎日、毎日。僕が治るようにと、元に戻るようにと。

オウマ様も知ってはおられるとは思いますが、妻は特別なのです。だからこそ僕は他の人のように砂にならず、そして自分を保てています」


「俺が聞きたいのは、なぜお前がその事実を最愛の妻に隠していたのかだ」


「…エリーサは。

僕と共にいてはならないと思いました。

見ての通り、僕はもはや化け物です。

意識のない時にはエリーサのことも襲いました。

そんな僕に、エリーサといる資格はあるのでしょうか?

僕は…こんな僕では彼女を幸せになんてしてあげられない。

ならばいっそ、ここで狂ったふりをし続けるのがいいと。

エリーサの新たな出会いをここで待って、そして一人で朽ち果てる定めだと、そう思いました」


「…それを勇者は望んだのか?」


「望んではいないでしょう。

…これはエリーサにだけ幸せになってほしいと願う。

僕のエゴだからです」


「よく分かってるじゃないか…。

ならば、この後にやるべき事も分かるな?」


「はい」


魔王は手刀で鎖を断ち切った。

その化け物を押さえつけていた鎖の栓を解き放つ。

そして化け物は歩く。愛しの妻へと向けて。


「…ツ」


勇者はただ、口元を押さえているだけだった。

そして、化け物は勇者を抱きしめた。

強く、強く。


「ごめん、エリーサ。

騙していてごめん。君に全てを背負わせてしまってごめん。

こんな僕を許してくれなんて事は言わない。

ずっと恨んで貰っても構わない。

だから、これからも側にいてくれるかい?」


「あ…アダル…。

アダル…アダル…アダルう…ぅぅっぅ」


泣きじゃくる勇者。こくりこくりと頷き、大粒の涙を流していた。

魔王は、それを見届けると離れた。

もうあそこは二人だけの世界だ。

自分に関われる余地はない。


「よろしかったのですか?」


声のした方向へ振り向く魔王。

そこには見知った顔、そう。

秘書がいた。


「何がだ?」


「恋敵に塩を送った形になってますよ魔王様」


「…バカか。想い人に花を送ったと言え」


「余計な事をしなければ、勇者は今頃魔王様の手の内にあったかもしれないのに」


「かもしれない。

けど、勇者が心から愛していたのは紛れもなくあの夫だ。

どう足掻いたって俺じゃあ割り込む余地すらない。

俺はな、誰かに劣等感を抱きながら生きるなんていやなんだよ」


「とか言って…ホントは勇者の喜ぶ顔が見たかっただけだったりして?」


「好きな相手の喜ぶ顔を見たいと思うのは、何かおかしいか?」


「いえ、なにもおかしな事はございません」


そう笑う秘書。


「それよりも珍しいな、お前が外に出るところを見るのは」


「魔王様がドローン壊しちゃうからですよ」


「悪いと思ってるよ」


「ならその分仕事をしてください。

政務がたんまり溜まってますからね。

覚悟しといて下さいね」


「ゲッ…」


「あと、ドローンを壊したお説教もです」


「ああ…くそ。帰りたくないな」


そうは言いつつ帰路に向けて歩き出す魔王。


「待ってください!!」


そんな魔王を止める声があった。

秘書は素早く物陰に隠れた。


「…なんだ?勇者よ?」


「…私はもう勇者なんかじゃないです。

エリーサといいます」


「そうかエリーサ。

どうしたんだ?せっかくの旦那との再会の途中だろうに」


「オウマさんは…もう行ってしまわれるのですか?」


「俺は多忙の身だからな」


「私は貴方に何も返せていません。

だって、村の人達を救ってくれたのは貴方…」


「砂にした事を救ったというのかは甚だ疑問だがな」


「そ、それでも、みんなは救われたと思います。

化け物のまま、意識もないまま生きているよりは」


「そうか。それならば、礼を受け取ろうか。

近くに来てくれないか、エリーサ」


エリーサは魔王の側に歩み寄る。


「達者でやれよ」


魔王はそうエリーサの頭を撫でた。

それだけだった。

エリーサが瞬きをすると。

魔王の姿はそのまま霧のように虚空へと消えていった。


ーーー


それは、ある日の魔王城。

赤色の光とウィンウィンとした警報が鳴り響く。

そこは玉座の間。

魔王は退屈で欠伸を噛み殺していた。


「魔王様!!

大変です魔王様!!」


騒がしい物音を立てて秘書が魔王を呼ぶ。


「ふわぁ…なんにゃ。

秘書よ、こんな朝っぱらから鬱陶しいぞ」


「侵入者です!!

4人組の侵入者!!」


「はぁ?4人組の侵入だと?」


「はい!勇者です!

ついに勇者がこの魔王城にやって来ました!!」


「なんだ、勇者ならもう片付いただろ」


「別の勇者です!!」


「勇者が1人とは言っていなかったか。

そうかなるほど、エリーサとはまた別の勇者か。

しかしなぁ、もう勇者はコリゴリだぞ」


「四天王のブルート様もやられて」


「なに?ブルートが!?殺されたのか!?」


「いえ、命はありますが」


「…そっか…。

なに、ブルートは四天王の中でも最弱。

皆には勇者共は放って業務に戻れと伝えろ。

いやブルートだけは叩き起こして勇者一行をここに案内させろ。俺が直々に追い出してやる」


「で、ですが。

まだ他の四天王もいますし、魔王様の登場はまだ早いかと」


「主役が早く登場して何が悪い?」


「ま、まぁ、と、とりあえず!魔王様!

ブルート様と勇者達の戦闘映像があるのでひとまずこれをご覧ください!!」


秘書は手元のリモコンをポチッと押すと、例のホログラムに人が映し出される。

それは女の四人組だった。マジカルなハットを被る小柄な女に、剣と鎧を身につけた背の高い女と、青い髪のシスター。

そして、その中央には勇者がいた。

長いツインテールに結んだ赤色髪。

そしてツンとしたツリ目と背中に背負う不釣り合いな大剣。


その時、魔王に隕石が落ちた。


それは5000年に一度と見れない巨大な流星。

大気圏から謎の飛翔物体が魔王城の分厚い天井をぶち抜いて、魔王の頭へと落撃したのだ。


「ゴホッゴホッ…!ゴホッ…ま、魔王様!

魔王!!!これは一体!!」


秘書は衝撃で二転三転する。

そして起き上がった秘書は少しだけ嫌な予感を感じていた。

デジャヴ。

まさしくこれはデジャヴだった。

少しずつ、魔王の姿を覆っていた煙が晴れていく。


そこには案の定、服が焼け焦げ。

まる裸となった魔王が当たり前のように立っていた。


「なぁ、秘書よ」


しかし魔王の表情には隕石が衝突したのにも関わらず、一切変化はない。

だが、しかし秘書は気づいていた。

陰ながら魔王の事を想い続け、彼の為に宮廷秘書にまで成り上がり、側で彼を支え続けたその秘書には魔王の些細な心情の変化に気づいていたのだ。


「俺、この娘と結婚したいと思う」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ