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目を覚ました瞬間、頭に鈍い痛みが走った。ここはどこだ? 目の前には見知らぬ天井と、かすかに漂う異国の香り。布団の感触もなく、硬い床の上に寝転んでいることに気づいた。
「なんだ、この状況は?」
目をこすり、立ち上がろうとする。すると、手に感じた違和感に思わず息を呑んだ。肌の色が変わっている。これまで慣れ親しんだ白い肌ではなく、黒々とした肌だったのだ。
「どういうことだ? 俺は確かに、法学部の准教授、○✗△□だったはず……。」
記憶を手繰り寄せると、昨晩までの出来事がフラッシュバックする。研究室で書きかけの論文を仕上げたあと、疲れ果てて眠りについた。それがなぜ、こんな場所に?
周囲を見渡すと、石造りの壁に囲まれた部屋、そして薄暗い明かりが灯る。その中で、自分の格好に気づく。粗末な衣服を纏い、まるで映画で見たような奴隷の姿だった。
「まさか、これは夢か? いや、リアル過ぎる……。」
その瞬間、前世で書いた歴史小説の知識が脳裏を駆け巡る。信長公に仕えた黒人奴隷、弥助のことが頭をよぎった。もしや、これはその時代……?
「まさか、俺が弥助になったのか?」
驚愕と困惑の中で、しかし一つの確信が芽生えた。歴史を知り尽くした俺なら、この世界でもっとも強く、そして有能な人物になれるはずだ。俺はこの知識を使って、信長公を助け、歴史を変えることができる。
「よし、やってやろうじゃないか。」
腹を決めた俺は、知らぬ異国の地で新たな冒険に踏み出すのだった。